主な登場人物
赤石ヒィ→猫人留学生。好きなスイーツは全部
銀城鋼助→筋肉応援団員。好きな和菓子はおばあちゃんのおはぎ
「いいかぁ鋼助くん、異世界に行けるやつなんて一握りだ。しかも大冒険をして物語の主役になれるのなんて特別なやつだけだ。キミもそんな夢を抱いてるのならとっとと捨てなさい、いいねぇ?」
親類の披露宴に呼ばれたかと思ったら、いつのまにか酔っ払いの相手をさせられていた。
相手は父の従兄弟…らしい。遠方にいて数年に一度会う程度だったので名前までは覚えていない。
相当に酒が回っているらしく、千鳥足の父の従兄弟は半ば妬みとも取られかねない愚痴を俺に語り続ける。
「だいたいねぇ、そんな連中は世間からすれば少数派なんだよぉ。いつか淘汰されなきゃいいけどねぇ…」
門の向こうの亜人が花嫁の宴席でよくそんなことを言えるもんだよ、ったく。
周囲を見ればどうにも触りたがらない空気が感じられた。それを良いことにか彼の言葉は続いている。
正直な事を言えば、腹に一発入れてやりたいがそこはめでたい席なので我慢した。
何より応援団員は紳士でなくてはいけない。力業に出るのはあくまで相手が実力行使に出た時だけだ。
宥めすかして酔いつぶれさせた頃、披露宴が終わって二次会へと流れたのであとの世話を彼の家族に任せて俺は帰ることにした。
『元気ないね、コースケ』
「別に」
『またまたー強がっちゃってー』
なんとなくヒィに電話をしてしまった帰り道。
「そんなことありませんそろそろバイトの休憩終わるでしょ切るぞ」
『あ、待って待って 』
「何だよ」
『……』
電話口の向こうで話す声が聞こえるが内容まではわからない。
「おーい」
『あのね、今日は暇だから早上がりでいいって!』
「本当かよ」
『本当だよ。でねでね!近くの神社でお祭りやってるんだって!一緒に行こうよ!』
「ん…」
『ダメ?』
「あ、いや…ダメじゃないな」
『じゃあ八幡司馬右衛門狸の鳥居の前で待ち合わせね!』
「時間は?」
『三十分後でどうかな』
「わかった。んじゃ」
『うん!』
切れてしまった。ヒィの思いつきは慣れっこだ。
まぁ待ち合わせ場所に行くか。
しかしこの時期にお祭りか…何かあったっけ。
「なんだよお祭りって酉の市か」
参道に並ぶ出店に混じっておかめと熊手があしらわれた看板が見える。
「トリノイチ?ペットショップのお祭り?」
「違う違う、これは…何の祭りだっけ」
「コースケも知らないんじゃん」
「ごめん」
「にゅふふ、謝るなんてコースケらしくないよ?」
「…っ」
「どしたの?」
「……何でもない」
「?」
調子が狂う。披露宴でのことが引っ張っているのだろうか。
「コースケお店いっぱい!すごいすごーい!」
「そりゃお祭りだからな」
テンション上げすぎだ、落ち着けヒィ。
「ねーあれ何?クルクル回って雲みたいのが出てくるよ!」
「あれは綿菓子だよ」
タライのような機械から糸が吐き出される様子に目を奪われている。
「ね!ね!あれはあれは?!」
次に興味を引いたのは…
「えーっと…論争が起こるぞ」
「ドユコト?」
丸くて中にあんこの入っている焼き菓子だ。
「そ、そんなことよりあっちの方が」
「にゅ?」
「ホラただの丸いのより魚の形だぞおいしそうだろヒィも魚好きだよな!」
「もー鯛焼きぐらい知ってるよコースケー」
それ知ってて綿菓子と…アレを知らんのか。
ヒィらしいっちゃらしいかもしれないが。
参道を抜けた境内では熊手を売る出店が所狭しと並んでいる。
異世界と地球が交わってもこういう風景は変わらないんだなー、中には亜人が売り子をしてる店もあるけど。
「ねーコースケ、これ何売ってるの?」
「縁起物の熊手だよ。一年限定の御守りみたいなもん」
「ふーん。コースケも買うの?」
「ま、ここまで来たらな」
「じゃ私も!」
「お前買う必要ないじゃん、ほとんど俺の部屋に居着いてるし」
「にゅふ、認めたねコースケ?」
「んな!?カマかけたのかよ不意打ちとか卑怯だぞ何が狙いだ!?」
「別にー」
自分でもこの狼狽具合はおかしいくらいだ。
むしろ俺はこんなに取り乱せるんだと冷静にわかる自分もいて、混乱しているのがわかった。
「ね、コースケ」
「こここ今度は何だよ」
「元気でた?」
「…」
「どうかな?」
「ん…まぁ、な」
「そっか!良かったー、電話してる時から何だか暗いんだもん」
いつもはただ脳天気なのにこういうとこは聡いんだよなコイツ。
適当に「家内安全」と「無病息災」の札をつけた熊手を買って下宿へ帰る道すがら、いつの間にか雪が降っていた。
ヒィは猫なのに舞う雪にじゃれついていて、その仕草が無邪気で可愛らしい。
猫なら炬燵と相場が決まっているにも関わらず……まぁヒィらしいっちゃらしいな。
そんな彼女に癒やされて、数時間前の嫌な思いもどこ吹く風。
俺も実に簡単な人間だ。
冬来たりなば春遠からじ。
多分俺はヒィがいないと駄目なのかもしれない。
俺はヒィが好きなんだ、当たり前のことを自覚したそんな冬の家路の話。
お題
- 繁殖するですか? 来年の10月になったら家族増えるですか? -- (名無しさん) 2013-12-12 15:41:17
- 沁みる。無邪気ながら察しのいいヒィが本当にいいキャラ。人間の異種族観とお祭りがとても等身大のイレヴンズゲートでした -- (名無しさん) 2013-12-12 23:07:36
- 野生児でキャピキャピしている子だと思っていただけに落ち着いて聡明なヒィちゃんに驚き -- (名無しさん) 2013-12-13 23:00:00
- 「元気でた?」がクリティカルすぎてもーだめですダメダメ。最初に鋼助から電話をかけているというのもポイントだと思うこのカップル自然体 -- (名無しさん) 2017-01-14 18:47:10
- 世界同士の交流が進んで世間一般はどうなった?という雰囲気が伝わりました。種族が違っても純粋な気持ちで向かい合う人と人というのは良いものですね -- (名無しさん) 2018-10-07 19:13:19
最終更新:2013年12月12日 03:01