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【聖夜前にブーケは飛んで】

  2013年 12月 22日  日本 ポートアイランド内 大型集合店舗マックスGARYU

 日曜日の店内は、もうじきクリスマスということもあってか賑わいも一層である。
 その中でも一際人を集めている場所があった。 一階中央ホールから二階三階へと昇る大階段だ。
 段の大きさが数段階に別れている階段が並び、水の流れる坂、そしてまた階段が並ぶ。
 様々な種族がストレスなく昇降できる造りになっているそれは、異世界交流を主題とした経営方針の表れでもある。

「正午の開式まで、各持ち場の最終確認をお願いします」
二階へ昇る中腹の段。少し体より大きいタキシードを着た少年が、一階階段下の広間でテーブルメイクをしている中に指示を出している。
忙しく右往左往する者達もそれなりの正装をしてはいるが、そのほとんどが学生である。
「須磨、椅子とテーブルの配置、終わったぞ」
「飾りつけも出来上がったよ」
筋肉で今にもはち切れんばかりの礼服、少年が見上げても顎しか見えぬであろう巨漢が配置図を見せて確認を求める。
その後ろから顔を出した婦人服を自然に着こなす白鬼が続く。
「ありがとうございます。会場でゆっくりして下さい。 それにしてもお似合いですね、お二人とも」
「須磨…ここは突っ込むところだろう…」
「またそんなこと言って兄さん。皆も“似合ってる”って言ってるのに」
階段を下り広間の席に着くまで、巨漢にこれでもかと寄り添う白鬼。
『あーあー、ただ今マイクのテスト中ーテスト中ー』
『ユージ声大きーい。私にも喋らせてよね』
『ちょっ!やめっ!』
『君達、遊ぶなら他でやってくれないか? 調整が滞るじゃないか』
突如広間に響くお茶羅家問答に、店内を行く客が微笑を起こす。
「全くあのアパートに住む面々はいつも騒がしいな。
ところで須磨君、私のスピーチの内容だが…確認しておくかね?」
「いえ、楽しみにしています火乃先生」
須磨 眞潮、十四歳。屋上へと伸びる吹き抜けを見上げて深く深呼吸する。

『本日は僕達の結婚式にお集まり頂き、ありがとう御座います。
手作りだらけの式ですが、どうかお付き合い下さい』
新郎の挨拶と共に響き出す吹奏楽部の演奏。それに合わせて語られる仲人の祝辞。
「おい!長いぞ!長すぎる! 次の料理が出てこれないだろう!坊ちゃんの皿が空になっているんだぞ!」
スコーンと火乃が飛ばしたフォークが見事に龍鱗に突き立つ。
「次を待ちきれずに僕の皿の料理を食べたのはドランだけどね」
『それでは~?新婦の登場です! 司会進行は私こと、海之前校放送部ワンナ・シャリーでお送りします~』
三階踊り場が激しく飛沫くと、黒と白の織り成す巨体が尾先から二階の踊り場に降り立つ。
予算の都合か布が不足したのか、上半身に着るウエディングドレスからははち切れんばかりの躯がはみ出している。
「眞潮!」
大小差激しい新郎新婦が並び、見つめ合うのもすぐに新郎を肩に担ぎ上げる新婦。
『それでは新郎である須磨 眞潮君から馴れ初めなどを~』
進行の振りでマイクが回ってくる。
『馴れ初めも語りだすと長くなりますが、はっきりと短く述べておきます。
僕はクミさんを好きで、ずっと一緒にいたいと思っていました。
そして、それはクミさんも同じだと言う事を告げられ、僕は結婚を決め、求婚しました。
まだ法が認めない内なので形式だけではありますが、僕達にはそれだけで十二分で必要な事です』
不思議とそれまで賑やかだった広間は声無く、じっとそれを聞いていた。隣り合う者を見たりなどして。
『僕からは…初めてだね…』
肩に乗ったまま、筋太い首から新婦の頬へと手を差し、そっと口づけた。
『クミさん、ずっと一緒にいましょう』
『眞潮!あたい…あたいは嬉しいよ!』
新郎の笑顔に向けて止め処なく大粒の涙が溢れ流れる。
『ありがとうございます~! 新郎新婦、須磨 眞潮君と白黒波さんでした~!!』
弾けるように拍手喝采が飛び出すと、階段を流れる水坂から虹が架かる。
階下にゆっくりと降りて来た新郎新婦を大勢が取り囲む。
次々と運ばれる料理は参加者以外にも、通る誰にでも振舞われた。

「おめデとウ。しかシ、盛況でアるな」
「来てくれたんですね、ありがとう御座いますヴさん」
手荒い祝いの儀式で揉みくちゃにされる眞潮の前に、店内禁煙だからか煙草の入っていない煙管を咥えた鮫人が歩み寄る。
「こウ規模が大きイと費用も嵩んダろう? 若イ身空で見事ナもノだ」
「いえ、実はそんなにお金はかけていないんですよ。 僕とクミさんの貯金もそう大した額では無かったので。
式をネットで放映することで宣伝、広報になると交渉して料理や小物などはマックスGARYU内の店舗から出してもらいました。
人員は食べ放題とイベントの参加権を条件にして知り合いなどに来てもらったので人権費と運営費もほとんどかかっていないんです」
見渡せば、道化師人形や蟲人などが器用に撮影機材を操っている。
「そのうちヤマラジも映像込みでやってみたいわー」
リアルタイムで更新される画面を監督指揮する鱗人は、己が野望に顔を高揚させている。
「こノ場所ヲ使う事ニ関しテは? 祭りノ舞台とシては素晴ラしい立地ナだケに高くツクだろウ?」
もっともな問いに、眞潮は笑みで応える
「明日明後日なら場所を借りるのは到底無理でした。
イベント前ということというのもありますが、マックスGARYUの先代が“世界間交流”を強く推していたのが一番大きい手助けになったと思います」
「成程ナ」
「僕も来年から水産業の面で世界間交流を進める準備が整いましたので、もし縁があればお手柔らかにお願いします」
「コれはこレは… 我々モうかウかしてイルと住み水ノ色を染めらレてシまウな」
並び立つ鋭歯が大口の笑みを彩った。

『え~、宴も酣になりましたところ、最後のイベントに入りたいと思います~』
その放送が流れるや否や、凄まじい視線の熱量が再び二階踊り場に立った新郎新婦に集束する。
『花嫁のブーケ投げです~!!』
「クミさん、幸せにします、なりましょう」
「これ以上の幸せなんて想像できないさね」
笑顔を向かい合わせてすぐ、豪腕がブーケを吹き抜け高く天井へ向けて放り投げられた。
「右!右!左!左!コースケもっと早く早く」
「そんなに早くこの人ごみの中で動けるか! 人の肩の上というのを忘れるなよ」
「ちょっ、トガリさん!その槍どうしたんですか!?」
「む、刺し貫き取るに決まってるだろう」
「立派な銃刀法違反よ、ソレ」
「えらく落ち着いてまね先輩」
「ふん。ダークエルフの脚力を見せてやろう。 射程に入ったらすぐに跳ぶぞ(ソワソワソワソワ」
「ヒウマくん、わたしをもちあげてください」
「えっ?えー… 善処する…」
「晶くん、見ておきたまえよ!見事にキャッチしてみせよう!」
「晶、絶対にわたしが掴み取るので見ていて欲しい」
「う、うーん…」
「二人ともパンチ禁止で。ブーケが吹き飛ぶよ」
「蝦蛄は禁止で当然」
「鬼人は禁止が妥当」
「柳宮、応援してくれよな!」
「勇牙王さん、歌唱強化のズルはダメですよ~。普通に応援しますね」
ありったけ高く放り上がったブーケが落下し始めると、いよいよ以って広間は熱気が爆発する。
四階、三階、二階… そして ───

 「えいっ」
人と人とがぶつかり合う阿鼻叫喚の中で、すっと自然に伸びた細い腕がブーケを受け取った。
「「「ええーーーーーっっ!?」」」
湧き上がる驚嘆の声。そして ──
「「「あ~~……」」」」
何とも言えない空気が漂ってくる。
『ブーケを見事受け取った貴女! きっと幸せになれますよ~!』
「だってさ♪ 幸せになろっ、メノー」
「うっ…うわぁーーーーーっっ!!」



クリスマスですがクリスマス前々日の結婚式をば
何は無くとも子作りへの大義名分を得た新婦と、それを受けるであろう新郎の運命や如何に

  • 何気にハイスペックだね須磨君。種族を越えて協力し楽しむ結婚式いいね -- (とっしー) 2013-12-26 22:29:38
  • ちょっと感動してしまった結婚。では幸せになってもらいましょうか瑪瑙君 -- (名無しさん) 2014-01-08 00:15:07
  • ポートアイランドでは年々異種族間結婚や家族が増加している?好き合うっていいよな -- (名無しさん) 2014-08-08 23:54:07
  • 異世界交流後のクリスマス風景はどんな風になっているのか見てみたい -- (名無しさん) 2014-12-06 16:32:02
  • キャラいっぱいでにぎやか楽しい。しかし14歳で異種族結婚など法が許さないし俺も許さん! -- (名無しさん) 2016-12-24 09:35:25
  • 人と地域が全力で交流を応援する風景は良いものですね。ただ豪勢にというわけではなく皆が手を取り合って催す結婚式は感動もひとしおでした。賑やかに出てくるキャラ達も怒涛の勢いでした -- (名無しさん) 2019-04-07 18:37:09
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最終更新:2013年12月26日 04:21