【鳥籠の記憶】

お客との甘くとろける時間を終えての休憩時間、フルルは浴場で身を清めていた。
水面に映る自分の姿を見つめる。胸こそ未だ貧相だが、昔に比べれば随分肉がついたものだとフルルは思う。
太ったというより、それは「健康体になった」という実感であった。

幼少期のフルルの環境は、有体に言ってひどいものであった。
物心もつくかつかないかのうちに貴人の家に奉公に出された彼女は、そこで端女扱いながらもそれなりの生活を送っていた。
が、十を過ぎて未成熟ながら健康的な美しさの蕾をつけたところを目敏く見つけた毒虫がいたことが、彼女の不幸のはじまりだっただろう。
毒虫は、奉公先の悪趣味な次男坊だった。
既に妻帯者でありながら、毒虫は屋敷ではたらくフルルにねばついた視線を注ぎ、ある時彼女の一瞬の油断をついて巣に引きずり込んだ。
惨い手段で純潔を奪った男はそれのみでは飽き足らず、妻のあずかり知らぬ秘密の離れに彼女を連れ込み、そこで囲いものにした。逃げようとしたり、行為を拒否すればひどい折檻と兵糧責めが襲った。最低限の生存のため、諦念のままに肉体を貪られる生活は三年に及んだ。

結果的に、彼女を救ったのは夫の不貞を嗅ぎつけた毒虫の奥方だった。

こそこそと定期的にいずこかへ姿を消す夫の様子を訝り、密かに侍従に後をつけさせてフルルの監禁場所を突き止めた奥方は、もはや三年前とは別人のようにやつれ果てたフルルを憐れむより先に、嫉妬に燃え上がったのである。
まるで夫の遊び道具を理解なく打ち捨てるかのように、奥方は座敷牢より引きずり出したフルルをあらかじめ呼び寄せた人買いに二束三文で売り払った。それは夫へのあてつけであり、夫の寵愛(という名の性的虐待)を受け続けたフルルへの逆恨みじみた報復であった。
だが、フルルは奥方を恨んではいない。彼女の嫉妬にかられての暴挙は、結果的にはフルルを地獄から掬い上げ、今こうしてディセト・カリマの地で未来を考える自由を得た発端を作ったのだから。


  • テンプレ鉄板な弄ばれ境遇でも自害を考えなかったフルルに強さを感じた -- (名無しさん) 2014-01-30 22:58:25
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最終更新:2014年01月30日 22:54