“実際に目の当たりにする”というのは人の意識を大きく変える切っ掛けである。
頭の中の想像から一つ世界を越えた場所に進むための架け橋にもなる。
第二次世界大戦末期よりアメリカにて“絵空事”から“現実の御伽噺”となった一つの国家機密プロジェクト
─── 超人兵計画(スーパーウォーズ)───
、それも一つのフィルムが切っ掛けであった。
第二次世界大戦末期にてアメリカ軍の敢行した沖縄上陸作戦。
それは何の滞りもなく進み、首都東京にまで至るはずだった。
弱体化著しい日本軍を歯牙にもかけず、実際反抗も全くなかったためにすぐさま第一陣が上陸を果たす。
そして、それらは一夜にして壊滅的打撃を受け、翌日艦へと退却する。
“キャンプの真っ只中に敵兵が降下”
“同士討ちを回避するために白兵戦を仕掛けるも次々と倒される”
“全滅を回避するために同士討ち已む無しと射撃を行うも、敵兵は海へと消える”
“確認された数は、1”
敵兵は銃火器を使用した痕跡は一切なく、味方の銃創は全て同士討ちによるものだった。
本国から離れ敵国本土上陸から一夜にしての損害。
当時の指揮官はこの被害をすぐには報告せず、迅速に対処し首都侵攻により決着を取ろうとした。
血気と手柄に逸る上陸部隊は、その翌日に部隊を再編成し朝から無差別にも等しい掃討攻撃による進行を開始した。
やがて上陸軍は撃ち倒す切り倒すのも難しい森林に入る。
もし、沖縄を無視して東京へと海路を取っていたならば、何もかもが違っていただろう。
しかしアメリカ軍には戦後起こるであろう国際戦略の布石として、どうしても沖縄を押さえておく必要があった。
“森林に入り山坂を登る頃に動物の鳴き声一つしていないのに、先遣隊が気づく”
“まだ日中で陽の差し込む森林は薄暗いほどで隠れるにも不利。襲撃は無いものと判断されていた”
“午後の休憩を待たず先遣隊が行動不能にまで撃破される”
“敵兵が武器を使用した形跡は無し”
“その数、1”
可及的速やかに事の全容が本国本部へと連絡されることになる。
大戦末期において勝利は確実視される中で、アメリカが重要視したのは大戦後のパワーバランスと
二次大戦で得た数々の結果から、“次なる大戦”でのより効率的な勝利への模索であった。
そのため、本部が下した命令は“脅威となる敵兵を捕縛せよ”というものであった。
命令が届いてから艦で作戦会議が行われ、捕縛のための編成と装備が組み終わったのが上陸部隊が山に入って二日目の朝。
連絡もなしに上陸部隊が戻ってきたのと鉢合わせになる。
森林に入り先遣隊が壊滅したその晩、本隊が襲撃され装備のほとんどが破壊され、連絡も取れず部隊も壊滅し帰還した。
戦争において、本部とそこから離れた前線との意見思考が違ってくるのはあって然りであり、
上陸部隊指揮官が第一としていたのは首都侵攻であり、状況から判断し下した命令は“脅威の殲滅による速やかな占領と侵攻”であった。
上陸部隊は首都制圧のために準備していた兵装を惜しみなく投入し、島を焼き崩す勢いで侵攻する。
小機関銃、火炎放射器、対人投擲弾…森は焼け山は砕かれ立つ者逃げる者構わず薙ぎ払い進んだ。
既に二度の部隊壊滅を知らされていた侵攻部隊も、この装備の前では“脅威”も現れないであろうと踏んでいた。
瞬く間に広がる焦土、焼け落ちる何もかも。
そして“彼”は現れた。
炎を隔てる川にかかる橋を砕き水中より飛び出した人影。
天を背に、飛沫は虹を、広げる両腕は大翼。
凄惨極める島の戦況に、蹂躙する側の兵ですら恐慌を覚える中で圧倒的不利に降り立つその姿は、
かつて幼心に彼らが憧れを抱いた英雄(ヒーロー)そのものであった。
身を隠す場所は無く、炎と銃弾から真っ向と立ち向かい無数の銃持つ兵士の中に飛び込んでは肉体の全てを駆使し倒し、
再び飛んで降下を繰り返す。
「捕縛は無理でも記録だけは」と多くを随伴させた撮影班が捕らえたのは、
“急降下は獲物を狩る鷹”
“脚力は大地を駆ける駝鳥”
“水中に飛び込んでは飛び出す様は翡翠”
“力強き旋拳は羽ばたく大鷲”
“翼を持たないが羽毛湛える鳥に似た姿”
“鳥人”
部隊と武装が半壊したあたりには、脅威も満身創痍となり、一斉放火を回避するため川に飛び込んだ後に再び飛び出してくることはなかった。
その後、一層の警戒と武装の建て直しを強いられた上陸部隊は東京に至らずに終戦を迎えることになった。
「ではこの映像は作り物ではないと仰るのですか?」
「流石に予算欲しさに、この様な手の込んだ映像は作らんよ」
消費の上に成り立った兵器群からの脱却。 兵士一人一人の強化計画。
生体生物学を主軸に立ち上げられた兵器開発局とは別の機関。
それが“超人兵計画”機関であった。
「兵士の中には沖縄で伝えられる神の化身と噂する者も多いと聞きますが。まさか上官もそれを信じると?」
招聘された研究者の多くはまずそう言った。
確かに映像の中で鳥人が兵を倒してはいるが、どれもはっきりとは捉えておらず霞の向こうを見ているようなのである。
「ではこれを見てもらおうか」
零下の空気に満たされた硝子槽で直立するのは亀。亀ではあるが人と同じ四肢のバランスを持つ大人大の亀。
「先日NYの下水道で発見したものだよ。残念ながら発見した時には既に息絶えていたがね。
直に欧州からも狼男が届く手はずだ」
「ジーザス…」
「人が変異したのか、元々そうであったのかはそう重要ではない。
我々は目の前の“事実”を元に生物学的観点から最高の兵士を生み出せば良いのだよ」
─── 201X年
「これが“紳士(カノッサ)”から送られてきた… 有機物と無機物でしょうか?」
「ふむ。しかしこの小さな細胞片と金属片から溢れ出る力はどうだね?
電磁波も放射線も不安定極まりないが人智を超える領域を示している」
戦後、研究を続けた機関は少なからず結果を出してきた。
だが、冷戦も終結し仮想敵国も失せた中、平和的示威の方向へ成果を求められた機関は難を極めていた。
しかし、異世界と繋がったことで状況は再び変化し、現代武装の輸出が困難な状況で
“超人兵計画”が見直されることとなった。
新たなる世界、新たなる戦場、新たなる協力者。
「機関長、異世界から映像が届いています」
映し出されたのは砂埃舞う荒野。倒れる無数の異種族。その骸の中で対峙する二つの影。向かい合う銃口。
「勿論我々の“戦士”が勝利したのだろうね?」
「当然でしょう。今現在成し得る最高の技術を投入した最高傑作ですので」
「…オリジナル…」
「はい?」
「私は日に日に募るのだよ。“オリジナル”をこの手で開きたい、研究したいという思いがね!」
計画は続く。
新たなる“映像”が送られてくる度にその胎動を強め、新たなる戦場を征する兵士を創造するために。
作中に出てくる計画やミュータントは想像であり、公式とは離れているかも知れません。御注意を
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最終更新:2014年05月22日 01:09