【人を呪わば穴二つ:】

 私が異世界に仕事で行ったときのことである。
異世界での仕事を終え、とある酒場で酒をあおっていた際に、ギラギラとした目をもつ少女と知り合いになった。
なんでも少女は『死神』なのだという。
…少女の異名かなにかだろうか。ここは酒場だし、少女はあきらかにザルだった。目を惹く見た目であるし、彼女に挑み破れていった男たちが死神という異名をつけて呼んだとしても不思議はないと思った。
少女のペースに合わせて飲んだせいか、年甲斐もなく酒がまわってしまった。ひどい酔いかたをしたようで、普段見ず知らずの他人に話したりはしない仕事の愚痴などを、ついつい話してしまった。
「あの糞上司がチーム全体の手柄を自分のものにしてるせいで、俺の会社での評価が不当なものになってる!・・・あの糞上司さえ死んでいなくなれば、俺は会社でもっと上りつめることができるってのによぉ!」
すると、少女の口角がぐにゃりと吊り上って
「・・・それじゃあ、その糞上司さんとやらを、僕が殺してあげるよ」
「ホントか!そりゃいいや!俺が依頼したってばれないようにサクっと殺ってくれるなら、ぜひお願いしたいもんだ」
「ばれる心配なんてないよ。幸い僕は『死』を司る神だ。僕が殺した生物はどうあがいても寿命で死ぬしかないからね」
少女が死神だという荒唐無稽な話を信じてたわけではないが、酔いが回っている私は正常な判断を下すことができず、結局少女に上司殺害の依頼をしたのだった。

 翌朝、ひどい頭痛で目を覚ました。
二日酔をするほど飲んだのはいつぶりだろう。
重たい頭を抱えながら、日本へ帰るため、ホテルのチャックアウトをしようとすると電報が届いていた。
糞上司が急逝したため、代わりに私が異世界に残り、仕事の指揮をとるように、とのことだった。
「うそ・・・だろ・・・?」
昨日の酒場で出会った少女。彼女は本当に死神だったのか・・・?

 それからの私はというと、異世界での仕事を順調にこなし、会社での評価を上げ、ついに異世界支部の支部長に上りつめた。異世界の死神さまさまだ。
死神なんて不吉なものでしかないと思っていたが、私にとっては幸福の神でしかないと思った。

働きすぎで、体を壊したのは、支部長に上りつめてすぐのころだった。
私はそのまま、異世界で娶った妻と子供に看取られて、死んだのだった。まぁそれなりに良き人生だった。


死の間際に、以前酒場で酒を交わした少女と出会った。
「ありがとう。君のおかげで、なかなかに充実した人生だったよ」
「お礼なんていいよ。僕はこれから楽しませてもらうからさ」
「これから?そうはいっても俺はもう死ぬんだが・・・」
「死んで終わりなるほど、こっちの世界は甘くはないのさ」
どういう意味かはわからなかったが、ほどなく私の意識は暗黒にまぎれ、死の世界へと引き摺りこまれていった。

■■■

「・・・あれ?生きてる?」
「いーや、死んでる。お前はスラヴィアンとして動く屍となったんだ」
目の前にいたのは、糞上司だった。
糞上司の肌は青ざめており、血が通っていないような顔をしているが、間違いない。
癇に障る声、厭味ったらしい口調を私が忘れるわけがなかった。
「お前、俺の死を願ったらしいじぇねぇか。お前が願ってくれたおかげで、俺はスラヴィアンとして生まれ変われたわけだが、、、。それでも殺された恨みを忘れたわけじゃねぇ。お前には『死ぬほど』働いてもらうぜぇ。まぁもう死んでるけどなぁ!」







「ギャハハハハ。終わらない死生のなかで、糞上司に散々こき使われるなんて、けっさくー。ひぃーひぃー、笑い死ぬー」

  • 人を呪わばナントカで記憶もそのままというサービス!身勝手な願いには身勝手な対価が… しかしスラヴィアンになってどんな仕事をするんだろう? -- (名無しさん) 2014-06-27 21:43:17
  • インガオホーなんだろうな。これが契約相手が死神じゃなくてもそれ相応のしっぺ返しがあったんじゃないか? -- (名無しさん) 2014-06-27 23:23:45
  • モルテが相手だから万が一つの気まぐれとかじゃない限りはBADな結末がcome on!だよこれ -- (名無しさん) 2014-06-28 20:24:16
  • 思うんだけどモルテが地球でその猛威を揮ったら人類は知らず知らずに滅亡の道を歩まされそう -- (名無しさん) 2014-07-01 23:02:23
  • まさに題名通りの結末に諺のような説得力がありました。やはりスラヴィアンの性質に関してはモルテの差配の内ということでしょうか -- (名無しさん) 2017-11-12 16:08:55
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最終更新:2014年06月27日 20:13