日が暮れた森の中、焚き火を囲むのは一組の男女だ。
否、それは一人と一頭、或いは一人と一柱と呼んだほうがいいのかもしれない。
伝説の存在。生命の原点。進化の果て。祖にして末なるもの。
”ドラゴン”
それは神に等しき存在と言っても過言ではなかった。
だがそこに居るのは――
「んでこれからどうすんの?」
青年が焚き火の反対に座る少女に問う。
「ごめんなさい・・・」
少女は項垂れながら小さく応える。
「大体お前があんな安い挑発に乗るからだよ。なーにが『ドラゴン馬鹿にしないでよ! そんなに言うだったら私の力見せてあげるんだから!』だ。
それで酒場の屋根を山ごとふっとばすとかお前馬鹿? 住民の皆さんドン引きどころか集落から散会して瞬時に廃村になっちゃったしょ?
頭悪いの? ドラゴンの叡智(笑)ってやつどこいったの? ねぇ、古代魔法唱えてよ? それで暖かいご飯とベッドが出てくるんでしょ?
大体十日ぶりの人里だったの覚えてるでしょ? またトカゲと食べれる草を探す仕事に戻りたいの?ねぇ? 聞いてる?」
青年は息継ぐまもなく少女を攻め立てる。
「だって、あいつら私のこと・・・ヒック・・・ドラゴンのこと馬鹿にするから・・・」
「そりゃ頭に角がちょっと生えた小娘がドラゴンとか言って信じて貰えるかってぇの。
あいつらだってちょっと小生意気な娘みたいな年の子を可愛がってやりたくてからかっただけなのにお前はすぐマジになってああいう・・・」
「うぅぅ・・・うぇええぇえん! だってだって!」
少女が大粒の涙を流しながら泣きじゃくり始める。
それを見て青年がやっと攻めるような視線を止めため息をつく。
聞こえてくるのは少女の嗚咽と焚き火の爆ぜる音、そして風の声。
数分ほどの沈黙の後、青年が口を開く。
「まーこれで分かったろ? 普通はあんなもんなんだよ
お前のとーちゃんは人間だったけど、そりゃよっぽどな変わり者だぜ?
お前のかーちゃんにプロポーズしたと聞いたときはそりゃもうびっくりしたもんだったよ」
「・・・そうなの?」
泣き止むのをやめた少女が青年の話に耳を傾ける。その眼は涙で腫れていたがそれ以上に輝いて見えた。
「だってよ、人間がドラゴンにだぞ? 種族超えたとかそんなんじゃねーよ。異世界から迷い込んできた人間がどうしたらドラゴンと結婚すんだよ。
そもそもあいつ、お前のかーちゃんが大暴れしたの見てんだぜ?」
「でも素敵だよ」
「体格差とか考えてみろよ」
「おかーさまの方が10倍くらい大きい?」
「いや、すまん、愛は偉大だよ。お前が正しい」
意図しない言葉の意味に自分で気が付いた青年は少女を肯定する。
「まあそんな例外もあるけど、普通はドラゴンなんて過ぎた力で奇異か畏怖でしか見られないんだからさ、
お前もやりたいこととか色々あるんだろうけどもっと世界のことを理解しないと駄目だぜ?」
「それは・・・今回のでちゃんと分かったよ」
視線をそらしつつ少女は応える。
「おい、今まで何度山ふっとばした。俺の眼を見て言え」
「6・・・5回?」
「河を氾濫させたのは?」
「・・・3回?」
「空を裂いたのは?」
「・・・1回?」
「全部合わせて12回だボケ!!」
「ひっ・・・」
青年の怒号に少女が身を竦める。
「お前は数も数え・・・っ・・・いや、今日はいいやもう・・・ゆっくり寝て明日は一気に町を目指そう・・・」
「う、うん・・・」
怒りつかれたのか青年は肩を落としそのままぐったりと横になる。そして少女が焚き火を消すと闇が視界を覆いつくした。
聞こえてくるのは風の声。少女もまた横になり、満天の星を臨みながら、少女はふと思う。
青年はどれほどの強大な力を見ても自分を恐怖しなかった。
それどころか面と向かって対等に話をしてくれたのは青年だけだった。
家族も誰も居なくなった自分の手を引いてくれたのも青年だけだった。
ならば青年もまた父と同じ”例外”なのだろうか? それどんな”例外”なのだろうか?
まだ知らないその感情を胸に少女は眠りの世界へと落ちていった。
- 珍しい人型ドラゴンの話。色々と参考にさせて頂きます。 -- (名無しさん) 2012-05-06 07:14:51
- 異世界でどんどん色んなキャラや種族が出てくるのでつい忘れてしまっていたドラゴン。異世界の中でのドラゴンの地位みたいなものがどんな風になっているのかは気になりますね -- (名無しさん) 2013-04-17 19:28:58
- いつだってどんな世界だって人をころりと変えてしまうのは恋! -- (としあき) 2013-07-05 23:19:03
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最終更新:2013年08月08日 22:44