吐く息は白く染まり、たとえ真夏であっても分厚い防寒着がなければ凍えてしまう冷気の中、頭上に手を伸ばせば空の星々がその手に掴めるのではないか、そんな感覚を覚えるほどに空の境界までの距離が近い場所、世界でもっとも天上の星々に近い都市、それが天上観測都市パンラクルである。
ラスティールの東端、険しい峰の合間に張り付くように作られた険しい山道の果てにあるこの場所は、
イストモスで最も標高の高い場所にあり、東部神星教会厳観学派が観測拠点を置く都市である。
パンラクルはラスティール東端に暮らす少数部族パン族が多く暮らす都市で、ラクルとはパン族の言葉で『広い家』という意味を持つ。
パン族は二脚種族であるものの、その下半身は
ケンタウロスの脚部のようであり、またその頭部には山羊のような角をもつ獣人種である。
彼らはその強靭な足腰で険しい山間を飛び回るように移動し、山肌にわずかにある土地を長い時間をかけて耕作地や放牧地としたり、高地でしか採取できない薬草などを交易商品とするなどして生活しているが、近年ではパンラクルへの物資や人の運搬を担うシェルパのような仕事に従事する者も多い。
パンラクルに東部神星教会でも異端とされていた厳観派が観測拠点を置くために最初にやってきたのは今より300年ほど昔のこと、厳観派の開祖である大アポルスは自身の提唱した観測法を実践するため、老体に鞭打ち数人の弟子を連れてこの地を訪れ、この地に観測拠点を置いた大アポルスは亡くなるまで山から下りることなくパンラクルで天上観測を続け、その亡骸は今もパンラクル近郊のパン族の洞窟墓地に丁重に弔われている。
厳観学派とは大アポルスが提唱した『低き土地ではいかに塔を築いても天の意思を理解することはできない』という考えに基づき、険しい高地で天上観測を行うことでより制度の高い予知を可能にしようとする学派であり、大アポルスがその考えを発表した当時は多くの学派から批判や圧力を受けた。
しかし、厳観学派はこのパンラクルでの観測を300年続ける中で低地観測では観測できなかった様々な星の揺らめきを観測することに成功し、今では神星教会の中での厳観学派は復権し『天の囁きを知りたければパンラクルに赴け』と言われるほどである。
しかし、パンラクルへの道のりは険しく、パン族の助けがあっても志半ばで下山を余儀なくされる者は後を絶たない。
心身ともに強靭な星見だけがこの天に最も近い街で星の声を知るための研究をすることができるのである。
この街へと赴くのはよほどの登山経験者でなければお勧めはできない、しかし、もしこの都市へ赴くことができたなら、天上の星々の美しさは一生涯あたなの心と記憶に焼きつくことだろう。
- アルピニスト!行くに険しい地だからこそ見えるものがあるんだろうか。星教会の事情と過酷な土地に生きるパン族のたくましさがよかった -- (名無しさん) 2014-09-02 23:34:06
- 語感と内容のマッチが素晴らしいな目に浮かぶ -- (名無しさん) 2015-04-13 23:18:58
最終更新:2014年09月06日 22:58