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【トリファ染めの店にて】

「どうだい?綺麗だろ?」

 そう言って声をかけて来た店の主人の腕にはいくつもの色鮮やかな布や紐が掛けられている。

「こっちのやつも見てくれよ、これはうちで一番腕のいい職人が染めたもんでな、レシエ様にも献上したことのある品さ、そんでこっちはその息子の―――」

 まいった、止まらない。少し気になって足を踏み入れた直接販売もしているらしきトリファ染めの工房、私はそこで主人らしき壮年のオークから次々に商品説明を受けることになってしまった。

「とまぁ、まだまだ経験が足りないのはたしかなんだが、今の若い連中にはこういう図案が好まれるみたいでな、今じゃ親父のより注文の数が多いんだが、あんたはこいつをどう思うね?」
「いやぁ、私もこういうのには詳しくないもので……」

 異世界の流行はまだまだ調査中、下手なことを言って墓穴を掘りたくない。
 そもそも私の頼りない知識ではトリファ染めとはバーバルディア侯女領の西にあるパルファンドゥール領、そこでは牧畜と紡績が主産業であり、パルファンドゥール領から持ち込まれた毛糸や生地をパラの花弁から作った染料で染め上げたのがトリファ染めと呼ばれているという程度しか知らないのだから。

「あぁ、でも、この街で見かけた若い女性はこんな絵柄の服を着てましたね」

 トリファに滞在して二日、初日は着いて早々にトリファ鍋をはじめとしたこの辺りの郷土料理と地酒に舌鼓を打ってしまったが、今日は早朝から起きだして散策をし、街中を歩く人々が皆色鮮やかな染物で作った衣服を身に着けていることは確認している。

「そうなんだよ。若いのにはこういうのがいいみたいでな―――」

 また主人の語りが始まってしまった。私は主人の話に耳を傾けてるフリをしながら、それほど広いというわけでもない店の中に視線を巡らせる。

「あ、あの……あれは?」

 店の奥、ちょうど工房との仕切りになっているらしい戸口の上に掲げるように吊るされた、グラデーションのように何色もの鮮やかな色合いが染めつけられた一枚の布が目に留まり、私はそれを指さす。
「んん?あぁ、あれか!お客さんお目が高いね!あれはうちの職人が今までに作り出した色の見本さ、綺麗だろ?」
「えぇ、綺麗です。綺麗ですけど、紅色以外の色もありますよね?あれもパラで染めたんですか?」
「あぁ、そうだ。パラはそれだけだと紅い色にしか染められないがね、そこにリリムの藁を燃やした灰や鉱石を砕いたものを混ぜるといろんな色になるのさ、細かい塩梅はそれぞれの工房の秘密なんだが―――」

 話題を変えて店主の話を終わらせようとしたつもりが藪蛇だった。そこからまた店主のトリファ染めについての語りがはじまってしまった。

「まぁ、そういうのは結局職人の腕試しみたいなもんで、やっぱりトリファ染めといえばこの鮮やかな紅色、この色が出せなきゃ職人としては話にならねぇな」
「はぁ、なるほど……」

 ようやく店主の話が一区切りついたのはそれからたっぷり一時間ほど経った頃、私の腹の虫がにわかに騒がしくなってきた頃だった。




  • 染物の材料や流行の図柄とか異世界のファッションは興味がある -- (名無しさん) 2014-09-13 23:50:22
  • 異世界の服飾が取り上げられることってあまりないので新鮮。高級染料はやはり見た目も違う? -- (名無しさん) 2014-09-20 01:08:01
  • 色なのか模様なのか何が異世界で受けるのだろうか -- (名無しさん) 2014-09-27 00:21:12
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最終更新:2014年09月13日 23:47