俺の名前は坂本八尋
どこにでもいる高校生だ
そのはずだった
というのも最近体の調子がおかしい
おかしい、と言っても別に体調が悪いというわけではない
むしろ良い
良すぎる
つい先日までどこにでもいるごく普通の高校生であったはずの俺だが
ここ最近やたらと筋力が強くなったように思う
100m走では11秒をやすやすと切り
腕立て伏せは軽々100回をこなし
体育の授業でバスケをすればやすやすとダンクシュートを決めてしまった
ちなみに俺の身長は高くも低くもないほぼ平均値
体力も筋力も大したことはなかった
大体インドア派で運動なんて全然してなかったんだ
しかし突然のこの変化である
周りの連中も大騒ぎだ
しかし「お前いつの間に鍛えてたんだよー」とか言われても心当たりは全くない
これがうわさに聞く成長期という奴なのかとも思ったが、周りに聞くところによると成長期でこんな劇的に変わることはないそうだ
まぁ確かに成長期というだけでこんなに身体能力が上がるってのもおかしな話か
なぜ俺の体にこんなことが起こったのかはさっぱりではあるものの、別に身体能力が上がるのは悪いことではないため
特に病院などにはまだ行っていないがこんな急激な変化では骨かなにかに負担がかかっていてもおかしくないし
一度くらいは診察を受けるべきではないかと思わなくもない
周りからも心配されたり、逆に避けられたりしているわけだし
理由もなく唐突に高校生離れした筋力を発揮し出したクラスメートはそりゃあ不気味だろう
そんなわけで最近絶賛気味悪がられ中の俺は今日も数少ない友人であり、幼馴染でもある長谷部ハルコと一緒に下校している
俺とコイツは学校が同じで家も近いため毎日一緒に登下校している
俺の歩く少し後ろが幼いころからのこいつの定位置だ
クラスでも上位と言っていい外見のハルコが長い黒髪を揺らしながらひょこひょこついてくるのはなかなか可愛らしく
俺としてもこいつが黙っている間は悪い気分ではないわけだが
しかしこいつには一つ重大な欠点があった
それは
「ねぇねぇねぇねぇやっぱりさヒロちゃんの突然のパワーアップは何か重大な意味があると思うんだよね!きっとはるか昔にヒロちゃんのご先祖様によって
封印された邪悪な邪神が1000年の時を経て復活したにちがいないんだよ!財宝を狙った人間によって墓を暴かれて昔かけられた封印が解けちゃって今頃周辺
の村の人間の生気を吸って全盛期の力を取り戻そうとしてるに違いないよ!きっともう村は人っ子一人居ない廃村状態になってしまっていて、でもまだその
村の情報がないのは封印を守っていた一族の末裔が残っていてこれ以上被害が広がらないように情報を規制しているんだよ!そして今まさに封印を一緒に施
した仲間の子孫であるヒロちゃんをさがしているよ!でもでも邪神を封印していた遺跡は外国にあったりして日本にいるヒロちゃんを見つけられてないんだ
よ!これからヒロちゃんは蘇った邪神の放ってきた刺客の相手に目覚め始めたばかりの力をつかって闘っっていかなきゃならないんだ!そして戦いの日々の
中で出会った仲間や外国から助けを求めてきたご先祖様の仲間の一族の末裔と一緒に戦ったり時々ラブコメしたりヒロインの一人の窮地を救ったりしつつ仲
良くなっちゃたりして関係が深まっちゃったりそれに対して嫉妬した別のヒロインとの間で心揺れ動いたり仲間の一人が邪神によって操られて何とか呪縛か
ら解き放とうとしたり時にはヒロインたちといい雰囲気になっちゃったり最終的にはえっえっえっちなこととか!しちゃったりするんだよ!」
俺の背中にしがみついたハルコの口から俺の耳に向って長々とした電波が垂れ流される
そう、こいつはこじらせている
とってもとってもこじらせているのだ
漫画やアニメが好きな奴なら誰しも小学校や中学校に通っているときは一度くらい
「自分にはすごい力があってその力を使って大活躍する」
なんて妄想を脳内で繰り広げたことがあるのではないか
かく言うおれもないわけではない
しかしコイツはいまだにそんな妄想を毎日毎日四六時中脳内で繰り広げてやがるのだ
とはいえ、高校生にもなって多少落ち着いてはいたのだ
少し前までは、な
しかし俺の突然の身体能力の上昇という出来事がこいつにとってはかつての熱を再燃させる燃料となってしまったようだ
最近のこいつのテンションの高さと言ったら慣れてるはずの俺でさえうんざりしてしまうほどである
「ああヒロインはいったいどんな子なんだろうね!やっぱり美人なのは絶対条件だよね!最近は守られるだけのヒロインは乙女ゲーでも少なくなってきたし
やっぱり多少は戦えたりするのかな!ラスボス相手に主人公とヒロインの合体技をぶちかますとかアツいよね!あっそう考えると同じクラスの庄森さんとか
ヒロインの可能性ありそうだよね!確かあの子の家は結構大きなお屋敷ですぐそばに神社もあったはずだしなんか術とか使えるかもしれないよ!巫女さんだ
よ巫女さん!そうなると武器は弓かな?あっでも神社に祀られている凄い刀とかもワンチャンあるよね!どうにもならない強敵の前に屈してしまいそうにな
ってるヒロちゃんのところに自分の危険も顧みずに刀をもってやってくるとか!いい!すごくいいね!そしてその刀をつかって強敵をやっつけたヒロちゃん
だったけど血を引かない人間が家宝を使ったことにより副作用が発生するんだよ!それに責任を感じた庄森さんは自分と霊的なつながりを作ることで副作用
を抑えるとかなんとか言いながら頬を赤らめてヒロちゃんに口づけてそしてあああああああ!えっちすぎるよう!こんな昼間っからする話じゃないよう!」
ほんとにこんな時間からそれも道端でする話じゃないな
ばかじゃねーのこいつ
クラスメートを勝手にヒロインにするんじゃない
このムッツリスケベめ
「ていうかそれってお前がドハマリしてるPCゲームの話だろ」
「なんで知ってるの!?」
「お前は友達少なくてほとんど俺のそばにいるんだからそりゃあな」
「えっちなシーンのあるゲームの話はしないように気をつけてるのに」
俺にしがみついたまま顔を赤くしてつぶやくハルコ
お前はばれないようにしてるつもりなんだろうがバレバレだ
というか多分こいつのことに関しては俺は知らないことの方が少ない自信がある
とかなんとか騒ぎつつ家まで帰宅する
俺の家のはずなのになぜかハルコもくっついたままだが、まぁいつものことなので気にしないことにする
「ただいまー」
と言いつつドアノブを捻り
バキャッっと
大きく響いた音は、明らかに回らないところまで捻られているドアノブからのもので
「えっ?」
後に続いて俺の口から出た音は実にまぬけなものだった
「いやーまさかドアを開けるつもりがドアノブを壊してしまうとは」
どうやら俺の謎のパワーアップはまだ続いていたようだ
まさか制御できないほどになるとは想像もしていなかったが正直かなりヤバいレベルになって来た気がする
どう考えても人間の筋力ではない
「だっ大丈夫?ヒロちゃん?痛くない?」
普段お気楽なハルコでさえ心配しているありさまだ
ちなみに自分の部屋につくまではドアはすべてハルコに開けてもらった
「どっか痛かったりとかはないんだけど体に違和感しか感じないな」
普通に階段上がったつもりが凄い音たててしまっていたしな
床が抜けたりしなくてよかった
しかしこれは流石に生活に支障をきたしてしまう
いい加減病院にでも行くべきかと考えていると
「もーどうしたのよーでっかい音たてて階段上がってきてー」
今更反抗期なの?と続けながら俺の部屋に入ってくる人物がいた
俺の母親である
見た目はやけに若くて「お姉さん?」なんて聞かれることもあるけれど
ちなみに父親は俺が小さいころに亡くなったらしい
「おかーさま!」
ハルコはなぜか俺の母さんを「おかーさま」と呼ぶ
別にハルコの育ちが良くてお嬢様的な育て方をされたわけではない
理由とかどうでもいいけどいい加減やめさせたいことの一つだ
「あーえっと」
実は俺は母さんに今回の急な身体能力アップを教えていない
不調とか痛みとかはないわけだし教えなくて問題ないかなとも思ったし
たった一人の親に心配をかけたくないというのもあった
だが流石にこれだけ派手な変化があった以上は隠しておくこともできないだろう
というか誰かの手助けなく日常生活を送れるか怪しくなってきたし
そんなわけで俺は観念して母さんにここ最近の俺の体に起こったことについて話したのだった
そして俺の話を聞いた結果
「うん、成長期ね」
「まじか」
予想外の結論に達しました
「いやいや母さん、成長期にしても流石に限度があるでしょう」
ハルコでさえポカンとしているのですが
大体クラスの連中だってこんなに急激に身体能力が上がる成長期があるかよって否定してたし
そんな俺の否定をきいて母さんは
「あれ?言ってなかったけ?ウチってなんか異世界の鬼っぽい種族の血が混じってるのよ?」
「、、、は?」
何でも俺の爺さんの爺さんくらいが異世界から迷い込んだ鬼っぽいやつだったらしい
そんな家系であるため時々普通の人間とはちょっと違う子供が生まれてきてしまうことがあるそうだ
そりゃあ異世界ってものがあることは知ってはいたけれど、まさか自分が異世界人の血を引いているとは思ってもみなかった
そんな話を母さんから聞かされたわけだけれど
この部屋にいるのは俺と母さんだけだったわけではないわけで
「ほんとぉですか?!!!!」
当然のようにこの話を聞いたハルコのテンションは一瞬でマックスに達した
「ほんとーよ?私の若さの秘密も多分そのせいだと思うし」
「おおおおお!!!」
言われてみれば確かにうちの母方の家系は見た目若い人が多い気がする
あとハルコうるさい
「ヒロはこれまで普通の子と変わらない感じだったから血も薄まったのかなーなんて思ってたんだけど」
成長期になった途端一気に出てきたのねー
なんて母さんは言っているが
いくらなんでもちょっと一気にきすぎです
というかこれもう先祖返りとかそういうレベルなんじゃないっすかね
「長い時を超えて古き血が目覚めたんだね!これはやっぱり封印から目覚めた邪神との壮大な戦いもワンチャンあるよ!」
「お前その話次にしたらお前の親にお前がこれまで成人向けゲームにつぎ込んできた金額を教えるからな」
「勘弁してぇ!ていうかなんでしってるのぉ!?」
部屋に何度行ったと思ってるんだこいつは
「まぁそんなわけでお医者さんに行っても意味ないだろうし慣れるまで待つしかないと思うわー」
ということで俺はしばらく学校を休むこととなった
我が家のドアノブならまだしも学校の備品を壊しかねない以上仕方ないだろう
今まで真面目に出席していて助かった
学校には家庭の事情で休むと伝えてある
今の身体能力に慣れるまでいつまでかかるかわからないので「風邪をひきました」というわけにもいかないだろうししょうがない
そのためクラスの奴らも疑問に思ったとしても家に来たりすることはないはずなのだが
「お見舞いに来ました」
「お、おう」
なぜかお見舞いが来てしまった
「なぁハルコ」
「なに?ヒロちゃん」
「なぜ俺は病気ということになってるわけでもないのに、同じクラスだけどこれまでほとんどしゃべったこともないはずの庄森さんがお見舞いに来ているんだい?」
「庄森さんにヒロちゃんはどうして休んだの?って訊かれて
鬼の力を制御するための修行中だからって答えたら
見に来てもいいかな?ってなって」
それで連れてきたのというハルコ
お前そんなこと言いふらしたのかよ勘弁しろよ
お前がそういうこと言っちゃう奴なのはみんな知ってるしあんまり気にする奴もいないだろうけどさ
いや、いたよ、ていうか来てたよここに
「修行、って感じじゃなさそうだけど」
そう言いながらソファでくつろぐ俺を見る庄森葉子はいわゆる優等生というヤツで
成績優秀で、しかも学校でもかなり上位にはいる容姿もあり学校では注目の的だ
ハルコはまた別の意味で注目の的だが
同じ注目の的でも彼女とハルコは同じクラスというだけで仲がいいわけではない
当然俺も同じだ
つまりたとえ俺が本当に病気だったとしても見舞いになんて来るはずないのだが
「ふっふっふ
何もしていないように見えてヒロちゃんは今この瞬間も鬼の力を体に封じ込め制御しようとしている真っ最中なのだよ!」
ドヤ顔で宣言するハルコ
いや、間違ってねぇけどさぁ
はたから見てるとやっぱお前おかしい子になっちゃってるから
あんま親しくない人の前では自重しなさい
なんてたしなめようとしたとき
「なるほどね、やはり私の予想は正しかったようね」
そういって庄森は鞄と一緒にもってきていた竹刀袋から竹刀を取り出す
ん?
「坂本八尋、あなたのここ最近の急激な身体能力の上昇、そして鬼の力
あなたこそが異世界から流れ着いたというダイダラの十二変体刀のうち一振りの持ち主に間違いないようね!
我が師が探し求めたその刀、弟子の私が回収させてもらうわ!」
は?
「鬼神を元にして作られた十二の刀
持ち主に強大な力をもたらすと言われるそれを手にしたのならばあなたの突然の身体能力の上昇も説明がつく!
さぁおとなしく刀を渡すのだ!あれは人間が持っていていいものではないわ!」
口上を終えて竹刀を構える庄森
それを見た俺とハルコの反応は
「ヒロちゃん。あたしこれからはちょっと自重しようと思う
あたしってはたから見るとあんな感じなんだよね」
「ああ、気を付けろよ」
実に冷ややかだった
「へっ?いや、まって!私は別にそういう中学2年生的なアレではなくてね!」
「うわぁ」
「だから違うのよ!そりゃあそういう漫画とかアニメとかに憧れはなくもなかったけどね!?
ホントに私の剣の師匠は異世界の人でね!?それでそのっホントにそういう刀を探してたのよ!」
長く美しい黒髪を振り乱して叫ぶ庄森
もう顔も真っ赤である
「あー異世界の人が実際に近くにいたのかーそりゃー影響されてもしかたないよねー」
「だからちがうってぇ!?ああもう!」
叫びとともに庄森は竹刀を振りかぶり
「とにかく!どうあってもしらを切るのなら仕方ないわ!実力行使よ!」
「別に殴りかかってきてもいいが俺は今急に筋力が上がったせいで手加減できないから比喩でなく骨とか折りかねないぞ」
「今日のところは見逃してあげるわ!」
俺の軽い脅しを聞くや否や
振り上げた腕もそのままに踵を返してダッシュで逃げて行ったのだった
「なんだったんだアイツ」
「ヒロちゃん」
「ん?」
不意に話しかけてきたハルコ
「私ちょっと庄森さんと仲良くなれそう」
そうつぶやくハルコの表情は楽しそうだった
その後
1週間ほどでやっとある程度今の力を制御できるようになった俺はまた学校に通うようになったわけだが
「ほんとーに刀は持ってないんでしょうね?」
「だからないって」
「ようこちゃん!昨日貸してもらったマンガ続きないの!?」
「声でっかいわよ!あとその漫画は隔月雑誌に連載してるから次の巻は大分先よ」
なんかいつの間にか俺の周りはずいぶんと賑やかになってしまった
どうやらこの二人はやはりというか、結構趣味が合うらしい
あの騒動の後も何度か俺の家に来るうちにすっかり打ち解けてしまった
そうそう、庄森の話を聞いて母さんに尋ねてみたんだ
「なんかすごい刀が異世界にあったって聞いたんだけど」って
そしたら
「それかどうかはわかんないけどウチの押入れにもご先祖さまが持って来たっていう刀があるわよー」
と返されたんだ
興味を惹かれた俺は押入れの中を漁りって未だにとってあった俺の小さいころの服とかの下に押し込まれていた刀を見つけたわけだが
それは実に年期のはいってそうな代物で
鞘の上から何やら怪しげなお札がこれでもかと貼ってあった
俺はそのいわくありげすぎる刀をそっと子供服で覆い隠してこう誓ったんだ
あの二人には教えないようにしよう
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- ハルコの妄想暴走がすごいがそりゃ目の前に厨二が具現化したらそうなるか。家系の中に異種族がこっそり混ざっているとかは世代を越えた遺伝が出るとか大いにありそう -- (名無しさん) 2016-04-03 13:15:55
最終更新:2015年05月15日 23:26