秋も深まった校舎に三つの雄叫びが木霊する。
「サイノカワラ=バスター!」
「弩羅魂覇血棄!」
「元原十文字キーック!」
ごっしゃぁ、と派手な音をあげて吹っ飛ぶ三人の狐人。
「く…!これで勝ったと…」
「思うな…」
「よぉ…!」
息のあった捨て台詞を残し、これまた息ぴったりにぶっ倒れる。
磊令兄弟、限りなき挑戦はまたも敗北で終わったのである。
翌日の学食で梁・鈞・慶の三人は頭を突き合わせ、真剣に悩んでいた。
「何故我らはアイツらに勝てんのだ…」
「わからん…!俺たちの武が届かねえってのは癪だ!」
口火を切った長兄の梁に同調して末弟の慶が怒りを露わにする。
「慶の憤りも然り。だが一番解せないのはあの元原だ。人間の癖に私たちと対等に渡りあっている」
次兄、鈞の疑問に梁と慶が頷く。
「そうとも!たかだか人間ごときに…!」
「いや、そうではないのかもしれんな」
「どういうことだ梁兄?」
「奴のあの強さ、よもや改造人間かもしれん」
「……なあ鈞兄よカイゾウニンゲンとは何だ」
「読んで字の如く改造された人間だ。こちらの子供向けテレビでよくやっているだろう」
「ああ!あの朝のタイツ野郎たちのことか!なら納とっ…いや、梁兄に鈞兄」
「「急にどうした」」
「元原は…ベルトもブレスもしてねえぞ?」
「…それは」
「…確かに」
議論が止まる。
「そうだな。元原は改造人間ではない。昨日の喧嘩の時も派手に流血していた」
思い出したように鈞が口を開いた。
「詳しく話せ」
「投げ曲刀を掠った時に一度、なお間合いを詰めてきたので放った鎖分銅が顔面に直撃し二度…」
「おお!」
「続けろ、鈞」
「そして大槌を受け止められた時に三度、さらにそこから手斧の横薙を歯で白刃取りをされて口の端から四度」
「うぬぅ…相変わらず」
「しぶてぇ野郎だ!で、その後どうなったんだ鈞兄!」
「…知っての通りだ。そのまま有無を言わさず奇っ怪な足技を……!」
次第に語気が荒くなり、わなわなと肩を震わせる。
よほど悔しかったのだろう。
「ともかく、その証拠に未だに血がついている」
懐、背中、袖、上着の裾、出るわ出るわ鈞お得意のエモノがテーブルにこれでもかと並べられていく。
「と、なれば…奴はまごうことなき人間、ということか」
「ならあの野郎の強さは一体…」
「「……」」
再び議論が止まる。
「そう言えば」
再び思い出したように鈞が口を開く。
「こんなことを口にしていた。『シチュウニカツアリ』と」
「しちゅうにかつあり?し、支柱?海胆?且つ蟻?どういう意味だ梁兄?」
「……」
「梁兄?」
「…わからん。我の知識知恵知謀を以てしても」
「聞き取れたのはそれだけ。私も知らぬ言葉だ」
「市中日活?シチュー2カツ?」
「うぬぬ」
「「「………」」」
三度議論は止まる。
だがなぜだか慶だけは涎を垂らしていた。
「どうした、はしたないぞ」
「すまねえ鈞兄。でもよカツカレーみたいなもんだと思ったらよぉう……」
ガタリッ!
「そうか!そういうことか!でかしたぞ慶!」
「どうしたんだ梁兄!?」
「どこへ行くのですか!?」
急に立ち上がった梁は弟たちの静止をよそに学食の券売機の行列に消えていった。
数十分後。
三兄弟のテーブルには所狭しと料理が並べられていく。
シチューのカツ添え、シチューカツライス、カツ定食シチューかけ、シチューうどんのカツオプション
カツ丼withシチュー、シチュー風味練蓮のカツはさみ、シチューソースカツ丼
大都焼きカツ増しシチューかけ、あんかけカツシチュー、シーフードヌードルカツ
スパゲティスラヴィアータverシチュー&カツ、クラムカツチャウダー…etcetc。
「兄者、これは一体?」
「知も武も体も劣る人間、特に元原ごときが何故我らに勝ちうるか…答えはこれだ」
「うーん?どういうことだ?」
「まだわからぬか、奴にあって我らにない物、それは…」
「「それは!?」」
「こちらの食、命の源だ。即ちシチュウニカツアリとは…!」
ハッとした鈞と慶が顔をあげる。
「シチューに…!」
「カツあり!そういうことか?!」
「その通り!これが奴の力の正体であり、奴そのもの!」
「なるほど…確かに旨そうだ」
「ではこの力を手に入れればあのクソ野郎に勝てるんだな!」
梁の力強い頷きに鈞も慶も目の色を変える。
「これだけではない。シチューとカツと名の付くもの全てのメニューを買い占めた!こうなれば奴もひとたまりもあるまい!」
配膳口から『給』と『仕』の躍字で構成された人文字?文字人?が列を成し、次々にシチューでカツな料理を運んでくる。
「さすが兄者!」
「太っ腹だぜ!」
「うむ。鈞よ、慶よ、大いに食らい尽くすのだ!奴から力を奪い、我ら磊令の物とせよ!」
「「応!!」」
「それでは手をあわせて!」
「「「いただきます!」」」
厳かに手をあわせて、勢いよく皿をかき込む三人はまさに有頂天。
「これで我らと貴様は五分と五分!だが我々は磊令家!」
「誇りと家名のある限り、負けることなどありはしない!」
「その首洗って待っていろ!明日こそ貴様の命日だ!」
さて翌日。
腹拵えも万端にまたも喧嘩を挑んだ三人だったのだが……
「ナムアミダブツ=ドライバー!」
「弩羅魂武隷洲!」
「元原能勢電パンチ!」
どがっしゃあ、と一昨日よりも豪快な音をあげて吹っ飛ばされて…
「今日はこの辺に…!」
「しておいて…!」
「やるぜぇ……!!」
息ぴったりの捨て台詞にとともにまたもぶっ倒れる。
……ああ、なんたるデジャヴ。
結果が変わらなかったのは、言うまでもない。
- 彼らの学園生活が卒業後にどう活きてくるのかわくわく半分大丈夫か半分 -- (名無しさん) 2015-09-20 20:53:49
- 実際遊びにいく感覚の学生はいると思う。そしてRAKUDAIやHOSYUUなどへ -- (名無しさん) 2015-09-20 22:26:13
最終更新:2016年02月14日 18:40