【続 ねむっていた ちから が めざめた】

前回までのあらすじ

ごくごく平凡な高校生であった坂本八尋はある日から急に人並み外れた身体能力を発揮するようになった。
原因不明の身体の変化に戸惑う八尋であったが、その変化を感じ取った母より自分にはかつて異世界からやってきた鬼の血が流れていることを知らされる。
八尋の身体能力の上昇はその鬼の血が目覚めた事によるものであった。
急な変化によりその力を制御できないでいる彼のもとにやってくる一人のクラスメート「庄森葉子」。
彼女はかつて師事した異世界の住人が探す刀と八尋の急な変化に何か関連があるのではと考えて彼に会いに来たのだという。
しかし八尋の体の変化は刀によるものではなかった。
落胆する葉子であったがならばと八尋に対して「同じ異世界に接点を持つ者同士」として協力を要請する。
葉子の師匠の話ではこちらの世界の日本にその刀のうち1本は来ている可能性が高いらしい。
こうして鬼の変体刀を探し出すべくひそかにタッグが組まれたのであった!





「こう書くとなんか王道現代ファンタジーっぽいよね」

幼馴染のハルコはそういってなにやら戯言の書かれた紙を俺に見せてきた。
ちなみに学校でのコイツの席は俺の前であり、前の席から見せられると俺はその紙を見ざるを得ない。
ついでにこいつは何事にも食い気味にくるので俺の机に半ば身を乗り出している。

「間違ってはねぇけどなんかちげぇよ・・・」

身を乗り出してくるハルコを避けるべくのけぞりながらも俺は冷静に返す。
あまりにも寄ってくるものだからハルコのやたら長い黒髪が俺の机に広がる。

「あんたたちホント距離近いわよね」

そう言って俺の後ろから声をかけてきたのは庄森葉子だ。
元々親しくはなかったのだがある日突然俺の家に乗り込んできて「刀をよこせ!」とか言ってきたイタイ奴。
なんでも俺の急激な身体能力の上昇を自分の探している変体刀とやらによるものと勘違いしたとか。
実際のところ、俺の急な変化は成長期になったがゆえにご先祖様にいたらしい鬼かなんかの特徴が出てきたってだけだったのだけども。
なんというか、行動力はすさまじいが考えなしすぎる。
こいつは成績はよかったような印象があるから頭は悪くないと思うんだが・・・

「あっようこちゃーん!」
「あんたはいっつも元気ね」

軽く言葉を交わしつつ葉子はハルコが何やら紙を持っていることに気付いたようだ。

「何それ?」
「前回のあらすじ!」
「はぁ?」

ハルコほどではないものの長めの髪をまとめたポニーテールを揺らしながら庄森は「前回のあらすじ」を読み始める。
さぁこの間違ってはないけど突っ込みどころは多い反応に困るあらすじを読んでどんなリアクションをとるよ?

「完璧ね」
「おいおい」

どう考えてもいろいろと端折られてるだろ。
主にかっこ悪く見えそうな部分が意図的に省かれている。
戦時中のプロパガンダか。
「でもこのあらすじには大きな問題点があるわ」
紙をハルコに返しながらそういう葉子。
問題点しかねーと思うんだけどな俺は。

「問題点?何それ」
「これ、あなたが登場してないじゃない」

言われてみたら確かにそうである。
このあらすじにはハルコが存在していない。

「たしかにそうだな。ほらそのあらすじに自分で自分のことを重要人物っぽく書き加えろよ」

それはさすがに少し恥ずかしいよと若干顔を赤くするハルコは結構かわいい。
前に一度こいつの親父さんが冗談めかして「成人したらハルコをもらってくれよ」なんて言ってきたときに、
「はい。もちろんです」と割と本気で答えてしまったくらいにはハルコは美人だ。
ちなみにそれ以降親父さんは同じことを言ってくるどころか口もきいてくれない。

「そうよ。あなたもポジション的には幼馴染というヒロインポジションなんだから」
「そっそうかな?ヒロインかな?でも幼馴染ってあんまりうまくいくイメージないんだけど大丈夫かな?」
「最近は割とうまくいってる作品も多い気がするから大丈夫よ。大事なのは誰よりも近い位置にいるけどウザくならないように描くことよ」
「うっうん!あたし頑張るよ!本筋には出しゃばり過ぎないけど確かに主人公の心の中心にはいる系幼馴染を作り出すよ!」

なんかこれ今まであったことのまとめじゃなくて普通に小説書こうとしてない?大丈夫?



そんなこんなで放課後。
今日の授業は俺の筋力が人外じみているせいで体育でハブられた以外は特に何もなく終了した。
最近は体育は見学ばっかりになってんだけどコレ誰よりも体力あるのに成績は1とかいうわけわかんない状態になったりしないよな?

「ヒロちゃんヒロちゃん」
「どうしたハルコ」
「ようこちゃんと話したんだけどさー、ヒロちゃんのおじいちゃんと会えないかな?」
「はぁ?」

突拍子のない言葉に思わず間抜けな声が漏れてしまった。
なんでまた祖父さんに会おうなんてことになるのか。

「刀のことで心当たりがないか尋ねたいのよ」

いつの何かすぐそばに来ていた庄森が答えた。
その表情はいたって真面目だ。

「私の師匠は私が幼いころにこのあたりに変体刀が持ち込まれた可能性があるという話を聞いてやってきたの」

そういいながら庄森は俺の席の隣にある机に軽く腰掛る。

「まぁ師匠はしばらく調査したあとまた別の所へ行ったんだけど、それでもまだ調べきれてないところがあるかもしれないから私も一人で調べてたのよ。
 師匠も一通り調べたはずだしもしかしたらもう訪ねたことがあるかもしれないけど、
 変体刀の情報があった所にいた鬼の先祖を持つ一族なら変体刀は持ってないにしても何か情報を持ってる可能性はあると思うの」

「なるほど。たしかにな」

とかなんとか言いながらも心当たりありまくりな俺は心中穏やかでない。
俺の家の押し入れで子供服に埋もれている怪しすぎる刀が庄森の探している変体刀とやらの本物だなんて都合のいい話はないだろうが、
しかしこの二人があんないわくありげな異世界のアイテムを目にしてしまったら大騒ぎするのは確定だ。

まぁそんな大騒ぎも別に嫌というわけではない。
ただ俺としては3人の卒業間際に「いろいろ探してみたけど結局何も見つからなかったね」みたいな感じでしんみりした時にさらっと
「実は祖父さんの家の蔵からこんなのが出てきたんだけど」みたいな感じで宝の地図的なものを見せて、3人で協力してそこらの山でも上って発見するという
最後の思い出作り的なイベントをひそかに計画していたのだ。

その時の事を考えてはワクワクしながら計画を練っていたというのにこんなにあっさりと計画を破綻させられるわけにはいかない。
とはいえこれといった理由もなく反対するわけにもいかない。
結局俺は週末に二人を連れてわざわざバスで1時間以上かけて祖父さんの家まで行くことになってしまったのだった。




「結構大きい家なのね」

そういって庄森が目を向けるのは田んぼと畑に囲まれた祖父さんの家だ。
古い日本家屋であり、一階建てで広めの庭と蔵がついている。
祖父さんはこの家に一人で住んでいる。

「この時間なら多分家にいるはずだけど」

などと言っていればその家から本人が現れた。
背が高くガタイがいい。
短く刈った白髪交じりの髪もあって見るからに「力仕事してます!」といった風貌。
しかし最大の特徴は、

「誰、あの人?叔父さんか何か?」
「祖父です」
「・・・・・・どう見ても40代かそこらなんだけど」

ウチの家系は外見の若い人が多い。
母さんも祖父さんも実年齢からは考えられないほどに若い。
これまではあまり気にしてなかったけどこれも先祖に鬼がいた影響なのだろう。
確かによくよく考えてみれば70近いはずの祖父さんが40代に見えるっておかしいよな。
なぜ俺はこれまで何も疑問に思っていなかったんだ・・・・・・

「じいちゃん久しぶり」
「おじーちゃーん!来たよー!」

ハルコうるさい。
幼馴染であり家も近いハルコは以前にも何度か一緒に祖父さんの所に遊びに来たことがある。
たしか小さいころに俺が祖父さんの家に泊まった時のことをハルコに自慢して「一緒に行きたい!」と言われたのがきっかけだった気がする。
それでまぁハルコはこんなんであり大人に好かれる子であったこともあり、今ではすっかり2人は仲良しである。

「おお、来るとは聞いていたがまさか本当だとはな、なんだ?結婚の報告か?」
「そそそそんなわけないじゃん!!!ヒッヒロちゃんには大事な使命があるんだよ!」
「はっはっは!そうだな!就職くらいはしないとな!」

確かに就職は大事な使命といえるかもしれないが・・・・・・
照れてるハルコとそれをいじる祖父さんを見ているのは嫌いじゃないが今日は大事なお客さんがいるのだし、さっさと話を進めたい。
隣の庄森に目線をやれば彼女は少し前に出てきた。

「祖父さん、今日は祖父さんに聞きたいことがあるって人を連れてきたんだ」
「聞きたい事?」
「あの、初めまして、私、庄森葉子って言います。ええと・・・」
「ふむ、とりあえず家に入りなさい」



そんなこんなで祖父さんの家の中に移動し、庄森もてきとうに自己紹介をして話は本題へ。
まぁ俺は「あぁこれで密かに計画していたサプライズもおじゃんかー」なんて考えてちょっと残念に思っていた。
高校生活最後の思い出作りになると思ってたのになー

「私の師匠と言える方はとある刀を探しておりまして、その刀は遥か昔に異世界より持ち込まれた鬼の刀だそうなのです」
「ほほう、鬼の・・・・・・なるほど、それならば儂に訊きに来るのも理解できる」
「はい、それで何か心当たりがないかと」

納得がいったと頷く祖父さんと真剣な様子の庄森。
ついでにやたらとワクワクした様子のハルコ。
だがまぁ俺はこの後の展開に想像がついているわけで、特に緊張も期待もありはしない。

「心当たりはある」

祖父さんの一言に「おお!」とテンションの上がる二人。
はい、ウチの押し入れに子供服と一緒に眠ってるやつですよね。わかってます。

「うちには先祖より伝わる刀があってな。それがお前さんの師匠の探しているものかはわからんが」
「本当ですか!私ではそれが探しているものかはわかりませんが、師匠の連絡先は聞いてあるのでぜひ見せてあげたいのですが!」
「まぁまってくれ。確かに先祖より伝わる刀はあるが、少し問題もあってな」

興奮した様子の庄森であったが祖父さんにストップされてしまった。
問題?ウチに連れていくだけじゃダメなのか?
このまさかの展開には今まで余裕のあった俺も戸惑いを隠せない。

「実はな、確かに刀はあったんだがどうしてか今は見つからないのだ」
「えっ行方不明ってこと!?」
「うむ、情けないが一体どこへやってしまったのか・・・・・・」

母さん・・・・・・無断で持って行ってたのかよ。
なんでまた刀なんか勝手に持っていく必要があったんだ。
俺の知らない間に何かと戦っていたとでもいうのか。

「だから、まぁ師匠さんを呼ぶならそれを見つけてからだな」
「むむ!つまりは宝さがしだね!楽しそう!」
「はぁ、まぁ悪くはないかしらね」

ガタ落ちになった庄森のテンションもハルコのおかげですこし持ち直したようだ。
だがまぁ悪くはないのは俺にとっても一緒だ。
何せ俺のやろうとしていたことの前倒しなわけだし。
できればしばらくは引っ張りたいところではあるが祖父さんを安心させるためにも長引かせすぎるわけにもいかないか。
と、何だかんだ和やかな雰囲気になった所で祖父さんがシメの言葉をかけた。

「うむ、では我が家に伝わる2本の鬼の刀の捜索を頼むぞ!」



ん?


今2本って言った?


  • つながってなさそうで話が次に続いてる!どこまでも押せ押せじゃなくて恥じらいの残る幼馴染イイ… -- (名無しさん) 2016-05-17 22:23:45
  • 母さん!何してんのと思ったけど何か裏がありそうで単純に次回が待ち遠しい -- (名無しさん) 2016-05-18 02:44:35
  • ハルコの含みありそうでなさそうな行動がちょっと深読みしちゃうけどほんとのとこは坂本のことをどう思っているんだい!? -- (名無しさん) 2016-05-22 20:30:19
  • これは日本で捜索するのか異世界へ捜索しにいくのか展開が気になるぞ -- (名無しさん) 2016-05-28 00:35:22
  • ポートアイランドは異世界絡みのサプライズいっぱい起こりそうだけどそこで生活していると妄想想像もレベルが高いものになってくんだろうか -- (名無しさん) 2016-12-20 17:53:16
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最終更新:2016年05月17日 22:22