【魔女先生と花の島】

一人の少女が島岸に流れ着く
誰も彼もおらず、唯時折鳥の囀りが聞こえるのみ
少女はとてもひどく傷ついており、微かながらに息をしていることさえ奇跡と言うほどに
だがしかし、少女はより大きな奇跡によってこの島へと流れ着いたのだ   ─── 世界の境界を飛び越えて
少しづつ身を捩りながら地に体を引き揚げたものの、少女はそこで力尽くす
この島、この地、この世界には少女を癒すだいじなものがなかったからだ
やがて意識を保てず気失い眠る少女
その髪の隙間より一粒の種が零れ落ちる   ─── 樹人の命核
それは彼の地で少女を護った樹の騎士の魂か、少女に仕えた花の従者の命なのか
一個の種となったそれは少女の袂にて少し割れ、根を地の底へと伸ばしていった
陽は登り沈み風が吹いてはやみ雨が降りあがる
気がつけば少女は彼の地の草花に包まれていた
島の地から海底まで到達した根は地殻をも小規模に変動させ、潮流、海抜、果ては地磁気までも変革する
やがてその島は陸地からは波で隠れ見えず、船が近寄る気さえ起こらぬ流れの中心にあり、空を不可思議な磁場が覆うに至る
僅かな鳥が訪れるだけの、唯一人の少女のために樹の種が作り上げた癒しの揺り籠   ─── 花の島
しかし、幾年月が流れたある日にその偶然は起こった
漁の最中に海難し荒波に流され風に吹かれた一隻の漁船
その一隻が島に人の若者を運んできたのだった
ここは天国かと島を進む若者の眼前に現れるは、花に抱かれ眠る少女
耳は長く髪は陽光に照らされ亜麻色
薄桃色の唇より微かに聞こえる寝息は甘い香りさえあると思わせる程に
若者は半ば無意識のままに花へと歩み寄る
太陽を遮る若者による影が少女の顔に差し掛かる時、目覚めの刻が訪れたのだった
花弁がゆっくりと優しく少女の上体を起こし留まる
頷く様に頭が零れ落ちそうになるのを若者がはっと抱き止める
長い睫が生え揃う目は閉じたまま、少女の手がゆるりと動き若者の腕を掴んだ
余りの突然の出来事に全身の血を頭に上らせた硬直する若者を気付けるように膝元の蕾が軽い音を立てて割れ、中から琥珀色の蜜液を溢れさせた
若者はそれをすくい少女の口元へと差し出すと、それはゆっくりと飲まれた
それから若者は茎や蔓や流木などを集め、粗末ながらも屋根を作り少女の介抱を続けた
最初こそ理解の範疇を越える聞いたこともない言葉を発する少女であったが、若者が続けた語りかけにより何かを学び取ったのであろうか
数週間の後には互いの言葉を理解し会話するようにまでなっていた
若者が島に漂着してから一月が経った頃だろうか、介抱により体こそ動き歩けるようになったものの以前として目を開けぬ少女に若者は意を決して問うた
この島を出て私の故郷に来ないかと
若者は知る限り思いつく限りの村の様子、生活の模様、自然の風景、己の夢を語る
三日三晩の語らいの後、小さく少女が頷くと島中の花が一斉に咲き開いたのだ
岸につないであった漁船はいつの間にか根が張り巡り亀裂などを塞いでおり、大きな葉が破れた帆に張り付いている
若者は少女の手を取り船に誘うと、無事であった対の櫂によって海へと漕ぎ出したのだった
その時だけ、海は穏やかに風が島より吹いて船を押し進めたのである
若者が花の島より連れ出したるは未だ光を見れぬ閉じた瞳の長い髪の乙女
若者はこの先に待ち受ける少女の運命など何一つ知る由もなく、しかし確かに始まったのであった

 魔女先生による世界最速伝説の始まりが ───


「いやいや先生、何を挟み込んでいるのですか。今までの雰囲気が台無しですよ。 ───を付ければ何を書いても良いという訳ではありませんよ」
「あら?私の最速伝説が嘘とでも言うのですか?」
(急に自叙伝を書くと仰られたから様子を見てましたが…飽いて一気に時を飛ばしましたな)
「いやいや先生、この後に戦火に見舞われたり魔女狩りから逃れたり助け助けられで大陸をあちらこちらへと行かれるのでしょう?」
「そう言われればそういうこともありましたね(遠い目」
「それから先生と同じく地球に飛ばされた異種族と邂逅し彼らを安寧の地へと導いたのでしょう?
“兄弟の暗がり”(ブラザーフォレスト)とか“地の国”(インダカ)とか“森の楽園”(マーヤー)とか沢山お話になっていたではないですか」
「あらあら、世界有数の財閥の長になっても冒険心は変わらないのですね」
「先生の教え子は皆そうだと思いますよ。世界を変革する挑戦者達なのですから」
「はいはい。仕方ありませんね、もう少し順を追って書いていきましょうか」
「ここにおりましたか先生。今しがた港に大島造船より三胴艇が届きました」
「あらまぁ!完成したのですね!」
「先生、自叙伝はどうなされるのですか?!」
「ふふふ。島に戻ってから花に囲まれながらゆっくり書きましょう。貴方達も一緒に乗りませんか?地中海をあっという間に渡って島までいけちゃいますよ♪」
「ますよ♪ではないでしょうに、仕方御座いませんね」
「衛星の方へは私が融通を利かせておこう。同行は任せるぞ」
「いや待て。私は明日に会議があるのであまり酔ったりできないのだが…」
「うぅむ、先生のお隣で昔話を聞かせてもらえるとは何たる僥倖か。ありがたくこの機会をお受けしておけ」
「ほらほら早く仕度をなさい。シフトレバーが私を呼んでいるわ♪」


かつては地中海の秘所と言われた花の島も今では…?
そんな魔女先生の地球の生家である花の島を想像しました

  • 飽きたから飛ばすフイタ。そんなところでもマッハ先生 -- (名無しさん) 2016-06-11 16:07:20
  • 先生の組織の全容と過去はスケールがでかくて想像しきれんなー -- (名無しさん) 2016-06-18 00:58:46
  • 大ゲート開放前の地球における異世界勢力は魔女先生関係者と後に十津那学園を設立した勢力がいるみたいだけど他にも大小いろいろあったかもね -- (名無しさん) 2016-06-18 21:59:29
  • 魔女先生の能力はパッシブチャームとカリスマなのではなかろうか正に魔女 -- (名無しさん) 2016-06-21 03:16:37
  • 激動の人生の中でついに厨二に目覚めてしまったとかじゃないだろうか先生 -- (名無しさん) 2016-06-21 13:08:01
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最終更新:2016年06月11日 05:15