【永遠野多々羅の留学】

 ─── 異世界交流特区ポートアイランド
 大ゲート出現より異世界交流に意欲的前向きである日本が世界に先駆けて設置した交流特区である。
 日本政府以外からの資金援助もあってか思い切った都市開発と留学と移住への補助を行い、ランド内の人口比率でも年々異種族の割合が高まっている。
 そんなランドにある幼年~大学相当までを幅広く受け入れる教育機関である十津那学園、その中等部に一人の異世界留学生がやってきた。

「クルスベルグのヴォルクスワ山中町から来ました永遠野 多々羅(とわの たたら)っス!日本には色んな技術を学びに来ました!よろしくお願いしまっス!」
身長140cmほどの丸っこい体に大きめの制服。それに収まりきらず溢れ出る元気。そんな彼女がドワーフであるというのは顔の横でぴょんぴょん跳ねる三対六本のヒゲが証明している。
「うん元気でよろしい。じゃあ永遠野さんの席はあそこの空いている同じドワーフの山田(さんた)君の隣にしようか」
先生の指した空席の隣に座っているのは同じく小柄で丸太い男子生徒なのだが…
「よろしくっス!あれ?山田君はドワーフなのにヒゲが生えてないの?…っとよく見ると短いヒゲが」
「剃ってんだっての。ヒゲぼーぼーだとモテないしジャニーズ事務所に入れないからな」
「それはまた無駄な抵抗を。ドワーフである以上はヒゲからは一生逃れないのだ」
「分かってらぁ!でも分かりたくない!」
「モテるモテないはヒゲが原因じゃないよきっと。プククっ」
二人の後ろの席、無数の針が目立つ河豚人女子生徒が山田を後ろから突いた。
「やめろよぉ千華(せんか)ぁ。最近俺もヒゲ剃る毎日に揺らぎ始めてるんだからよぉ」
「毎日どころか朝と昼剃ってるよね?プククっ」
着席早々に賑やかな応酬にすっかり溶け込んだ多々羅であった。

「うーん、地球の勉強って結構難しいっス。クルスベルグでは余り習わなかったことがいっぱい。割と勉強はしてた方だったんだけどなー」
「へっへっへー、難しいだろぉ?でもそれができなきゃこの世界じゃやっていけないんだぜ。特にあれだ数学と英語!」
「やっと二年生の計算に追いついてちょっと前までローマ字までしか分からなかった山田がえらそーに言う。プククっ」
休み時間の楽しい会話も始業のチャイムで終了。 次はグラウンドに移動しての体育である。
「永遠野は運動どうなんだ?日本の空気はちょっと匂うけどクルスよりは薄くないから動きやすいけど」
「うーん。勉強と鍛冶練習ばかりやってたからちょっと。走るのが特に苦手っス」
「俺達ドワーフは元々体は重いが手足はそんな長くないから仕方あるめぇ」

「どらっしゃぁぁああーーっっ!!」
短いと言えども太いドワーフの腕が全力で振り抜けば、バスケットボールも弾丸のように飛ぶ。
「ってぇえっ!ちょっと加減しろ山田。しかしナイスパスだ!」
器用に衝撃を吸収し即座にジャンプショットでフープを球が潜り抜ける。
「ほら戻るぜ。相手のボールだ」
身長150cmない山田と並んで走ると余計に目立つ170cm。これでもかというくらいに爽やかな汗と笑顔の人間の男子生徒 ───
「ッキャーーっ!ミナト君素敵ーー!抱いてぇーー!」
川羽 湊(かわはね みなと)にドス黄色い声援を飛ばす。見た目は美少女碧髪蒼い目のエルフなのだが余りにも直球すぎる求愛行動に男子生徒も若干引いているシンリ=コーエン。
「ちょっとシンリさん、私達はバレーなんだからちゃんと前見て下さい。ほら、ボール来ますよボール」
黒ブチ眼鏡をくいっと直し冷淡な表情で諭すてらっとした鱗人の女子生徒。
「あっ、永遠野さん!ボールっ!」
「へぶしっ!」
永遠野の見事な顔面トス上げしたボールをしなやかな跳躍力でネット上余裕までジャンプし強烈なスパイクを見舞った鱗人、委員長を務める三木森 衣里子(みきもり いりこ)
大丈夫?とおでこをさするも大丈夫大丈夫と返す丈夫なドワーフ。
「イヤーーーっ!ミナト君ー私にもシュートしてぇーー!」
「いいから前見なさい!」

「ところで何で日本にやってきたんだ?クルスベルグだったらドイツがすぐそばだろ?」
「ドイツでお世話になった人がベンツ社のセールスマンで日本人だったんだけど、長期滞在するなら何かと先立つものが入用になるから、それなら補助が色々出る日本の十津那学園がいいんじゃないかって紹介してくれたっス」
「なるほどなぁ。確かにここだから貧乏工房の両親も苦労せず送り出せたって言ってたもんなぁ」
「プククっ。ところで永遠野ちゃんはどこか行ってみたいところとかある?休日とか案内するよん」
「ホント?!あのねっあのねっ、大橋の対岸に見える造船所に行ってみたいっス!」
「特区外かぁ。じゃあこの後職員室に行って休日出区のお願いしないとな」
「プククっ。ホームルーム終わったら皆で行こう」
「そうだ永遠野、造船所の後に川崎重工の工場見学のハシゴとかどうよ。でっけぇ工場の中を列車が走ってるんだぜ?」
「何それ何それ!行きたいっス!」

こうして賑やかに始まったドワーフ留学生の永遠野の中学生活は、最初の休日を工場見学で満喫するという充実したスタートを切ったのであった。


スレネタの中学二年生ドワーフ娘。ステータスは体力:知力:勇気:技能:運が4:4:8:1:10でした。

  • これがイレゲ版中学生日記…! -- (名無しさん) 2017-07-17 23:48:53
  • 翻訳加護あるから語学いらないじゃん?と思ったけど文字までは読めないんだっけか -- (名無しさん) 2017-07-18 15:24:28
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最終更新:2017年07月17日 23:14