【モグタイ外郭会場:選手入場】

「闇布テントからで申し訳ありません。日中ですので御容赦を、どうも司会を務めさせていただきますキエムです。 そしてお隣のゲストは ──
「どうもマリアンヌです。よろしくお願いします」
草原より吹いてくる風の心地良いラタ城塞都市外郭東門付近。モグタイ競技場が設置された周りは、大勢の観客の声がまた別の風を起こすほど昂っている。
「大ゲート祭の中で何度か開催される各種競技種目ですが、その一つ“モグタイ”がこの場で行われるのには何か理由があるんでしょうか?」
「はい、私から説明します。 過去に東西の間で幾度となく争奪戦が繰り広げられたここラタですが、その戦いにて東軍が占拠した後に西軍が囲み籠城戦が起こりました。
草原での戦いに長じ攻城戦もお手の物の東軍でしたが、こと一か所に留まっての籠城戦は不得意でした」
「成程。予め籠城に備えて物資を運び込んでいれば持ち堪えることも可能でしょうが、何度も繰り返される争奪戦の最中ではそれも難しいでしょうね」
「はい。苦手な戦況と枯渇する物資、砦よりの退却を塞ぐ包囲と東軍には敗北の空気が漂い始めていました。そして遂に大将が砦を出て総力戦を決心したその時 ──
「その時?」
「その時、西軍が包囲しているはずの外郭の外側から書簡が投げ込まれたのです。その書簡は確かに東軍の特別誂えのもので、中には“救援来る 暫し待て 時を見計らい 生き延びよ”と書かれていました」
「なんとそれは西軍の包囲を抜けて東軍が書簡を投げ入れた、ということでしょうか?」
キエムは物を投げ入れるには余りにも高すぎる外郭を見上げて感嘆の息を漏らす。
「西軍の当時の記録によると、夜の闇に乗じて狗人が単騎で西軍の包囲網に潜入したとあります。闇と陰に紛れ、または兵や剣矢の間隙を抜け遂に壁まで辿り着いた狗人はその脚力の勢いと全力を持って書簡を内側に投げ入れたのでした。
狗人のその後は記録にありませんが、その文により東軍は救援が来るまで気力を振り絞り耐えて合流の後に退却を果たしたのでした」
「劇的な展開ですね! その逸話に習い今回のモグタイは特別ルールが設けられています。皆様、壁をご覧ください!」
キエムが指し示した壁には、頂点・中腹・下方と三つのゴールリングが取り付けられている。下方のものでも地面より8メトルほどあり、頂点のものは小さく視認できるだけである。
「本来ですと鉄球を旗に投げるなどするのですが、今回は鉄球の代わりに“書簡”をゴールリングに投げ入れてもらいます。 逸話にあった様に壁をも越える頂点のリングに入れば5点、中腹は2点、下方は1点が入ります」
「一度投げた書簡は再使用はできません。なので次の投擲を行うには“ガルパオ”を完食しないといけません」
「マリアンヌ様、少し口の端に…」
言われたマリアンヌは、はっとしてハンカチで涎を拭う。
「それでは皆様お待たせしました、選手の入場です!」
立ち上がったキエムが東の草原街道、西の東門に両手を伸ばすと歓声に押され選手達が登場する。
「西より登場しますはエリスタリアから食を制する豊穣のエルフ女性“ナテア”! それに続き登場しますは只今嫁探し旅真っ最中のオーク青年“タンホイザ”!
ドニー・ドニーのデジマから店の名をシャツとマントに背負って現れましたフタバ亭の小さなアドバイザーノーム“ラニ”! そして同じくフタバ亭シャツを着ますは変幻自在の戦法で名を馳せる蜥蜴人傭兵“カナヘビ”!」
「ちょっとカナヘビさん、渡したマントはどうしたんですか?」
「流石にあれはちょっと恥ずかしきつ…いや、体の動きを阻害するので遠慮させてもらったんだ」
「うーん、宣伝効果は下がりますが勝てなければ本末転倒ですし仕方がないですね」
(上手く誤魔化せたぞ)
「帰る時にはマントも羽織って下さいね」
(うひぃ)
見た目も多彩な四人が西側に並ぶと、次いで東の人垣が割れる。
「では東からの登場です!イストモス生まれ現在日本に留学中、勝利の凱旋となるか?ケンタウロス“牧場健太”! そして一緒に日本からやってきました少女の体に潜在能力未知数の人間“双鏡陽光”!
東にフタバ亭あれば西にもフタバ亭!新天地ニシューネン市の本店よりやってきた給仕少女の鬼人“シィ”! 同じく本店よりスラヴィアンの身を陽射しから闇傘で守るというハンデを持ってどの様に立ち回るのか?猫か豹人かスラヴィアン“ブレンダ”!」
「まさかこんな所で仕合うことになるなんてな!どれだけ成長したか見せてやるぞラニ!」
【同じフタバ亭を背負う者ですが手加減はしませんよ】
シィが元気に声を張り上げる横でホワイトボードにて意気込みを伝えるブレンダ。 その後ろには会場の熱気にはしゃいでいる双鏡の横で狼狽えている牧場。

「さぁ選手が揃いました!ガルパオ台では既に何個か並び待ち構えています!」
「とても美味しそうな匂いが解説席まで届いています。私にも一つ欲しいです」
「そこはぐっと堪えてもらいまして…さぁ!マリアンヌ様の号令によりモグタイ開始です!」
「それでは皆さん健闘を祈ります。 …モグタイ~はじめっっ!!」

青天にマリアンヌの声が昇るのと同じくして選手が一斉にフィールドへ躍り出る。
誰が食し誰が投げるのか?!制限時間いっぱいまで駆け引きはは繰り広げられる!果たして勝利は東西のどちらが冠することになるのか~~ッッ!!

モグタイ外郭競技場、選手登場まで

  • 西の圧倒的食いパワーに対して東がどれだけ食うのかが勝負の分かれ目になるんかな? -- (名無しさん) 2018-06-24 03:02:31
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最終更新:2018年06月23日 04:45