【ニシューネン市で仕事探し】

「南西区のニッツーに押し込み強盗だって?!」「陽も沈みきってない夕暮れってぇのに物騒な話だぜ!」「何でも鳥人の運送屋に持ち込まれた荷の中にヤバいモノが混ざってたらしい」
人の噂は自警団の現場到着よりも早くニシューネン市を駆け巡る。 風精通報を受けた自警団が現場に到着すると、そこは暴漢共が散乱し呻き声を上げていた。
ある者は髪を哀れ全て焼かれ、ある者は顔の真ん中を真っ赤に焦がされ、ある者は身ぐるみ全て炭と化され素っ裸。
「評判通りの腕前じゃないか。店も無事で何よりだ」「どうも」「このままウチの護衛を続けてもらってもいいんだぜ?」「まぁ、ギルドの契約は今月内ってことなので、その後の話はまたその時に」
持ち込み人不明の“真紅の結晶”、どこぞの職人が預けていった“白い玉鋼”、宛先を告げる前に客が消えた“種が埋まった琥珀の塊”。
「怪しい荷ってぇとこれくらいなんだが、なぁあんたはどれが奴らの目当てだったと思う?」「どれもヤバい空気しかしないんで、役所に引き取ってもらった方がいいのでは」

 何でもない一時にふと思うことがある。
 「殴ったり殴られたりする生活って不毛なんじゃないか?」


木曽路 芳中(きそじ よしなか)
隊を壊滅させた仲間の仇、“二丁拳銃(デッドリボルバー)”を討つべく得た力、失った右腕の代わりにリビングメイルのトモエ、派手な戦い好きのはぐれ炎精霊クリカを伴い新天地を捜索する日々。
情報収集のために始めた賞金稼ぎと傭兵稼業も板につき、“鉄焼き(バーナー)”“火印押し(ファイアペイン)”だのと二ツ名も呼ばれるようになっていた。
「南の砂漠地帯を根城にしている“商隊漁り(ジャッカルズ)”の討伐に参加ってのがあるよ」
「いや、戦闘が無いのを紹介して欲しい」
「港までの道に出没する蠍百足の群れを掃討する隊が今募集中だぞ」
「人以外とも戦闘は無しの方向で、どうか」
「北東の開拓集落が凶暴獣からの防衛隊を募っているよ」
「ちょっと待って」
 [諦めなさいヨシナカ。貴方から力を取ってしまうと只の大木になってしまいます]
 『バトルでいいじゃんヨッシー』
「右腕と炎の嬢ちゃんの言う通りじゃないか。あんたにぴったりの仕事って言うと拳骨しかないだろう?」
「駄目だ駄目だ。これだといつもと同じだ。ちょっと待って」
遂に“秘密兵器”を使う時が来たって訳だ。成人式以来…えぇと結び方は…
「うん?どうしたんだヨシナカ」
 [おや?何か雰囲気が急に変わりましたね?]
 『なんだか賢そうに見えるヨッシー』
「ネ・ク・タ・イの効果は抜群だ! さぁ!仕事を選んでもらおうか!」
「お、おう。…そう言えばニンゲンは“翻訳加護”が付いているんだっけか。どんな言葉でも分かる、というか会話ができる」
「イエスアイアム」
「港で空と海の連中の間で言葉が通じなくて倉庫番や卸しが困っていてね、地方訛りが独特な上に発声も特徴的で公用語も浸透しづらくてな。丁度通訳を募集していたところだったんだ、どうだい?」
「任せてもらおう!」


── ニシューネン市から近い港
【おいおい!何だこいつぁよぉ!もっとまともなモノを出せってんだ!】
「他に程度の良い品を用意されているのではありませんか?」
《ちっ、空の連中は目だけじゃなくて鼻も利きやがる。仕方ねぇ》
「流石御目が高い。今用意します」
【やっぱりあるじゃねぇか。最初からそいつを出せってんだごうつく張りが。…これならここまでしか出せねぇな】
「中々良い品ですね。この額で私共の評価とさせて頂きます。どうでしょうか?」
《体だけじゃなく財布も軽いのか?そんなんじゃ荷袋一つも海に沈みやしねぇ。…が、これ以上長引いても面倒だ、よしとするか》
「素晴らしい評価をありがとうございます。それで商談成立とさせてもらいます」
空と海の商人の間で荷と金、また荷と金が行き交う。任務達成である。

「…」
 [中々のお手並みではありませんか。少しだけ見直しましたよヨシナカ]
 『いつもと違うヨッシー、なんだかキモーイ』
「…駄目だ、胃が痛い、穴があく」


二日後、北東行きのハイエス獣車の荷台で強面連中と一緒に揺られる芳中の姿があった。

異世界に転職したい願望

  • 自分に合った仕事を探すか仕事に合わせて自分を変えるか、それが問題だが自分にできる仕事があるうちはまだしゃーわせだよ -- (名無しさん) 2018-07-29 20:01:29
  • 異世界にもハロワがあるなら俺も生きていけそうな気がする -- (名無しさん) 2018-08-07 22:15:21
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最終更新:2018年07月28日 00:53