「何の苦労もナシで物もらっても変な癖がついちまうだけじゃねぇか?」
「それはそうですけども…年に一回くらいは良いのではないのでしょうか?」
「地球で色々と見聞したけどよ、しっかり後を考えて手は差し出さないとえらいことになっちまうぜ?」
「それは重々承知していますけども…」
赤白の帽子を被った白黒の寸胴獣は大きな袋を背負ったままでくびれの無い首を少し屈める。
「まっ、言っても年一くらいは何も考えずに楽しい日があってもいいわな!そっちはオマエに任せるわ。どうせ俺が言っても試練だ試練だと騒がれるだけだしな」
「は、はいっ! ところでディエル様はどちらへ?」
「俺ぁちょっと部屋の掃除でもするわ。試練土産が積み重なって寝る場所もねぇからなー」
「では行ってきます!」
力強い跳躍で、王宮の窓から夜空へと颯爽と飛び出すパン・ダー。
「さぁて、おい毛玉!ちょっと手伝え!」
『ニヤス?』
王都マカダキの夜
「今年一年良い子にしてた君にサン・ターからの贈り物だ。薬の作り方の本だ。勉強してお母さんの病気をやっつけるんだ」
「ありがとうパン・ダー!ぼく頑張るよ!」「こんな隅街のあばら家まで来て下さって…なんとお礼をすればいいか」
「民こそ国の宝、気にしなくても良い!今日くらいは空から幸せが降って来ても良いだろう!ではっ!」
巨体に似合わぬ素早い挙動で窓から出ていくパン・ダー。
「これで外区は周り終わりました。次は平街ですね。 あら?」
屋根塀を跳躍する途中で光の粒が舞い降りて来るのに気付く。
夜空の黒を踊る様に舞っては消えてまた降り落ちて来る煌めき。温かかったり冷たかったり爽やかだったり、それは微小な精霊群であった。
「よっしゃ、次行くぞ!」
『ニャス!』
風精霊に押されながら夜空天高く駆ける氷精霊獣の背で自身と同じくらいの虹色結晶を砕く。
外殻が割れた精霊力の塊はあっという間に霧散し大気へと拡がっていく。
純度の高い力に引き寄せられて無数の精霊が集まってくる。王都の夜空を彩る光を民は見上げ隣人と朗らかに言葉を交わす。
「おらおら!町が買えるだ貴重な物だとか関係ねぇぜ!試練の思い出お一緒に砕けて散れぇ!」
『ニャ?ニャニャ?』
持ってきた結晶全て砕いて王宮へ戻ろうと翻ったディエルと氷獣を光の柱が包み込む。
「今日一日くらいはゆっくりさせてくれよー!」
『ウニャス!』
柱の消失と共に消え去るディエルの行先は誰も知らない。そして年内に戻ってこれるかも分からない。
これも王としての務め、試練なのだ。
今年のマスは帰れまテンでした
最終更新:2020年12月27日 20:44