【髑髏王からのお願い】

「嗚呼、今年も良い年になりそうだわ」
南極基地側に建てられたかまくらにて開催された年賀会から、髑髏門を開いてレシエ卿がスラヴィアへと戻ってくる。
「レシエ卿、ちょっとよろしいかな?」
洞を跳ね返り響く様な声が頭上、背後から呼び止める。
「何か?ヴェルルギュリウス伯爵。私は一刻も早く屋敷に戻ってサミュラ様より賜わったお年玉を額に保管して愛でたいのだけども?」
特に何の変哲もないお年玉袋に紅潮した頬を擦り合わせているのを余所にヴェルルギュリウス伯爵の言葉は進む。
「卿が剣技を教えたアデーレ伯なのだが」
「彼女に何か?」
一考した伯爵は骨指を打ち鳴らし骨馬車を呼び寄せ、車中へ卿を誘う。
「実物を見て話を聞いてもらうのが最も分かり易かろう。手間を取らせて申し訳ないが、共に来られよ」
「はぁ、伯爵がそう言うのであれば仕方がないわね。動き易い軽装服で来てて良かったわ」
レシエ卿は控える白銀のリビングメイルにそっとお年玉袋を渡し段を踏み車中へと入る。
「では参ろうか」
カタカタと骨馬であるも力強い駆け足で馬車は北の伯爵領へと向かった。

数多の素材を用いてスラヴィアンを創造する髑髏王ことヴェルルギュリウス伯爵の領地はその保管のためもあって寒風が吹き続ける。
「それで、話とは何かしら?」
「まずはこれを見てもらいたい」
髑髏王が案内した先、素材保管庫の奥の奥の扉を開くと一段強い白冷気が溢れ出てくる。
冷気に満たされた部屋の中央には仰々しく1メトル四方の灰色の塊が座す。
「ちょっと伯爵、これ薄っすら感じるのは神気じゃないの?」
「地球の協力機関にて超高密度特殊ベークライトにて固めてあるが、神気を封じる研究はまだまだ改良の余地が残るな。と、これは次なるスラヴィアンのために用意した素材でな」
「はぁ。用意するのは自由でしょうけど、この気配は…風神ハピカトルのものではなくて?今は持ってる様だけども、この先に何が起こるか分からない、危険ではなくて?」
指摘に対し額を抑えて悩む体を見せて髑髏王が続ける。
「実は、この素材を使って造るスラヴィアンを提供することをアデーレ伯とその伴である優衣と約束してな。まぁ創造プランはほぼ出来上がっているので後は伯らの答えを待っている状態なのだが…」
「答え?」
「そう、新たなスラヴィアンを男とするか女とするかという。何度か飛骨で催促の文を送ってはいるのだが、もう少し待って欲しいとしか返ってこずでな」
「…そう言えばクリスマスパーティーでアデーレの屋敷に行った時も何か二人で揉めてたわね」
「師である卿が伺えば伯も答えを出してくれるだろう、とな。引き受けてはもらえないだろうか?」
異世界の神々の中でも特に異質であるハピカトルの神力を持つものがそこにあるという不明瞭な危険を察してか、レシエ卿は頷く。
「どうやら貴方でも難しい理由がありそうですし、明日にでも行ってみるわ」

帰路の車中で揺れながらレシエ卿は考える。
「見ていられないくらい仲睦まじいあの二人が答えを決められないって、何をそんなに悩んでいるのかしら」
その後、とんでもない喧騒に巻き込まれてしまうことを、レシエ卿は想像してもいなかった。


九周年企画は…まだ続く

  • 新たなスラヴィアンga -- (名無しさん) 2021-01-27 23:33:19
  • ハピカトル関連のブツは未知数すぎて何が起こるか分からんよなぁ -- (名無しさん) 2021-01-28 01:47:46
  • ゆいあで決断できるんだろうか?子供ができるまでが新婚の楽しい時期とも言いますし -- (名無しさん) 2021-02-19 02:46:27
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最終更新:2021年01月27日 22:41