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【山中小話】

●やまびこ

山の頂上は開けて、やあ、随分と気分がいいところじゃないか。
こりゃあ山彦を試すのに絶好の場所だ。なにがなくとも山彦したくなってくる。
よっしゃと気合い入れに入れて、叫ぶは当然あの台詞。

「やっほー!」

《やっほーー!!》

うむ。中々良い山彦だ。
自分の声とは思えないほどに透明感がある。
よし、もう一度。

「やっほー!」

《やっほーー!!》

うむ。うむ。
ちゃんと返ってくるもんだなあ。
よし、こんどは本番だ。

「東京特許許可局局長ー!」

《トウキョウトッキ…?ん?ん?なにこれー!?》

うむ。うむ。うむ。
あの町のヒトたちが言っていたことは本当だったんだなあ。
山彦の神がケガして休んでるなんて、にわかには信じがたいことだったが。
実際に聞いてしまえば信じるしかあるまいに。
代わりに山彦を勤めている精霊さんたちも大変だ。
おっと、待てよ。
これってボランティアに働いてるのをおちょくった格好にならないか?
うむ、なるな。
おお、罪悪感がうにうに湧いてきた。
よし、謝るか。

「正直すまんかったー!」

《いいってことよー!!》

寛大な…!
優しさが目に沁みてくらあ。

「ありがとうー!」

《次は本気出すから、もう一回こーい!》

おお…。
なんたる向上心だ。
ならば、こちらも本気をだそう!
本気の山彦には本気の自分を、そう思って、深く深く息を吸った。


●かぶとむし

木々の間から光るものが見えて、はてなと近寄ってみれば、カブトムシだ。
ただのカブトムシじゃあない。赤色と青色の、イカした奴らだ。
角突きあい戦いを繰り広げている。

「運がいい。こんな昼間に見れるなんて」

そう呟く間に、戦いは白熱していく。
攻撃の勢いは増し続け、
いつのまにかにガィンガィンと金属音が響きようになり、火花なすら散っている。
って明らかに変だ!ありえない!

まさか!と耳を澄ませば、楽しげな笑い声が天の上から。
やばい!この戦いは、戦神に目を付けられている!
三十六計逃げるにしかず、と慌ててその場を走り去る。
落ち着いたのは、大分距離を離してから。
冷静になると、正直ビビリすぎで逃げすぎだ。
ここまで必死になることはなかったな、と自分の臆病さに呆れて軽く笑う。
すると遠くから、ジャキイン!との斬撃音、ズズンと木々の倒れる音。
…………………………。
ビバ臆病!


●まほう

よーし、野営の準備は大体おっけー。
後は火を起こすだけだ。

地面に木の枝でガリガリと魔法円を描き、その上にいいかんじに木の枝を組む。
姿勢を正して深呼吸。
手指を複雑に動かし、印を次々に組み替える。
そして、叫ぶ。

「南無八幡大菩薩!」

瞬間!ごうごうと風が吹く。
魔法円が輝き、空中にも輝く魔法円が浮かび、
双の魔法円のはざまに闇が渦巻き、音が消え、
一瞬の静寂の後、轟と火炎立ち上がり、周囲を赤々と照らしたのだった。

うむ。
打ち合わせ通り。いや、それ以上だ。
明らかに火の精だけでは無理なんだが、どこから連れてきたんだろうか。
まったくこの芸の細かさには恐れ入るな。


●とり

切り株に座り、パンをかじっていると、小鳥がこちらに寄ってきた。
鳴き声美しく可愛く思い、パンの欠片をやると、手ずから食う。
まあそれだけなら、ただの人懐っこい鳥なんだが、なんとこいつ喋るのである。

『うまいのう!』

「…!……精霊か?」

『とんでもねえ、儂は神様だよ』

「マジか」

『マジじゃ。鳥の神じゃ』

「鳥の神様というと、ハピカトル様?」

『違う、違う。そいつは、ほら、あれじゃ。あれは…。ふむ…?なんだったかのう?』

「こちらに聞かれても……」

『うーむ。すまんのう。昔と違って頭がまわらなくてのう』

「はあ……」

『儂はのう、昔はすごかったんじゃよ。いやあ、随分と暴れ回ったもんじゃわい』

「そうですか」

『そうじゃな。あれは二十万年くらい前のことじゃった―――――』

鳥は神話を語りはじめた。概ね武勇伝であり、荒唐無稽であり、
は、空も海も自由に舞い、雷をも食い荒らす、大鳥が主人公であった。
様々な話が語られていく、
そして、大鳥と大熊の戦いの話が語られる。
大熊は遙かに強かった、とても敵わないほどに。
しかし、大鳥は機転と勇気と空飛ぶ力を生かし段々と追い詰めていくのだった。

『でな!奴も儂も満身創痍!次が最後の一撃じゃと悟ったんじゃ!』

「ほう」

『この次で決めてみせると意気込んだものじゃった』

「…ほう」

『うむ。あのころは良かったのう……』

「……続きを」

『あー。そのなんじゃ。たまたま大狐が通りがかっての。ほれ、儂ら満身創痍で抵抗出来なくてな』

「…………」

『がぶりがぶりと食まれてな。それで、歯の隙間からやっとこ逃れられた欠片が、この儂というわけじゃ』

「……うわあ」

『いやー、いつ思い起こしてもムカつくもんじゃのう……』

「神様も大変なんですねぇ」

『そうなんじゃよぅ』

「そういえば、山彦の神様もケガをして休んでるみたいですねえ」

小鳥はそれを聞いて首を傾げた。

『はて? 儂は、怪我なぞ負ってはおらんが』

「……鳥の神様なのでは」

『昔、暴れ回った頃に、その権能をついばんだみたいでな』

「なるほど」

『今となっては、まあ、これ以外は大体奪われてしまってのう。ほとんど、山彦の神様じゃわい。ふっはっはっ』

「いやあ、大変ですねえ。……ところで、どうして山彦が休止状態に?」

『はてな?…なんとなく気まぐれに?』

「そんなこったろうと思ってましたよ……」


  • 地球と似たものでも異世界では一風変わったものになるというのが面白く表現されていました。会話がきっかけであり大切なことというのが伝わってきました -- (名無しさん) 2013-08-30 18:09:02
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最終更新:2014年07月25日 22:21