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【ヤマカさんと初詣】

原則的な話をしよう。
僕は眠れるときは、寝ていたい男だ。
そしてそれが邪魔されるのが、とても辛いのだ。
例えば。いや、ほぼ常に、か。
「やほーテンちゃん。遊びに来たよ。
 あとオバサン呼んでたよ。起こしてきてねってお願いされちゃった」
ヤマカの襲撃である。

「やっと起きてきたかこのバカ息子。
 あんまり時間無いから端的に話すわね。
 さっきハニーから連絡が入って、<向こう>で新発見があったようなの。
 で、私は今から<向こう>に行くから、アンタは死なない程度にご飯食べてなさい。
 おせち料理は準備していません。年越し蕎麦もありません。
 お年玉も高校生なんだから不要よね?じゃあ後はヨロシク」
矢継ぎ早にそう告げると、母は疾風のように出発していった。
何がハニーだババァ。
白髪頭のガンコ親父じゃねーか。
心の中でそう叫んだ直後に、ケータイにメールが入った。
『何がババァよこのバカ息子。
 ヤマカちゃんにあんまり迷惑かけるんじゃないわよ』
ニュータイプか何かなのか。
化け物め。
「お義母さん、いつもパワフルよねー。
 テンちゃんも少しは見習った方がいいと思うよ」
「無責任なだけだろうがよ・・・メシどーすんだよ。
 つーかお母さん言うな」
「そだ。テンちゃんどーせ放っておいたら袋ラーメンしか食べないんだし、
 今夜からウチでご飯にしなよ。ママに連絡しておくね」
即座にヤマカがメールを打ち始める。
いや、コンビニ弁当でも何でもありますよ?ヤマカさん。
まあでも、オバチャンの飯の方が美味いか。
若干苦手な人でもあるけど、御相伴にあずかりますかね。

その後は、ヤマカの作った昼飯を食べて、もう一眠りしようと思ったところを
ヤマカに何度となく止められては、何だか主旨のよくわからんおしゃべりに付き合わされて、
何度かゲーム対戦を強いられてはコテンパンに打ちのめされて(何だこの女)、
気がつけば夕方になっていた。
「あー・・・大晦日と正月しか休みが無かったのに・・・」
「まあまあ。テンちゃん。
 イヴも大晦日もお正月も、ヤマカちゃんとすごせる幸せをだね」
「ここんトコ毎年じゃないか。
 んで、今年は初詣どーすんだ?」
「どうするの意図がわからないよ。
 行く神社を変更する話?出発時間の話?」
行くのは決定なのか。
ここ数年、年を越してすぐにヤマカと一緒に近所にある『八幡司馬衛門狸神社』に
初詣に行くのが恒例行事になってしまっている。
ちなみにこの司馬衛門狸は言い伝えによれば、ヒンズー教のシヴァの化身の一つで、
シヴァ同様に浅黒い、あるいは青い肌の色をしていて、変化の術に長けていたのだとか。
また、柴の葉を使って人を化かして、腹から何でも取り出して見せたとか。
そんなのを御神体にしてどーすんだよとも思うが、神社ってのはそんなモンなんだろう。
「まあ、いつも通りでいいや」

思えば久々に隣の家に入る。
小さい頃はしょっちゅう遊びに来ていたというか、親父もお袋も研究で忙しかったから、
今日のようにご飯を作ってもらっていたものだ。
感慨深く玄関口を眺めていると、ヤマカはさっさと中に入っていく。
まあ、アイツにとっちゃ自宅みたいなモンだからな。
「おじゃーしゃーす」
何気なくあがろうとしたその時、台所の方から咆哮が上がった。
「こるぁー!テン!なんだいその挨拶はぁー!
 礼儀知らずに食わせるメシはウチには米粒ひとつありゃあしないよ!」
<向こう>の鬼人もかくやと思わせるその怒号は、久々に僕のトラウマを呼び起こした。
そうだ、何故忘れていた。ここのオバサンは・・・
ズシズシと廊下を鳴らして、オバサンがやってきた。
身長2m10cm。年齢42歳。筋骨隆々。容貌凶悪。精神鉄血。思慕温情。家事完璧。要するに無敵の主婦だ。
そして種族は・・・ヒューマン。そう、ヒューマンなのだ。
彼女、鬼笠子かがねは。
「母が遠出しましたので、久々にご厄介になります。
 歳末の何かと忙しい中ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
僕の精神の奥底に眠る恐怖感が、自然と言葉を発していた。
オバサンはそれを聞くと破顔して人懐っこい笑顔となり、僕の背中をバンバンと叩く。殺される。
「いやー!テンもすっかり大人になっちゃって!
 何よその挨拶!んもーオバサン感激したわー
 今夜は腕によりかけて美味しいもの作ってるからね。
 もうしばらく居間でTVでも見てなさいな。
 あ、先にお風呂でもいいわよ」
オバサンは親指をビッと立てて風呂場の方を指した。
いやオバサン、場所は覚えてます。
「そんじゃ、風呂に入ってからご飯をいただく流れで」
「あがる頃にはご飯を食べられるようにしておくからね」

脱衣室兼洗面所はキレイに整頓されていた。
脱衣カゴに女性下着が無造作に突っ込まれているのが見え・・・見てない!ちょっとだけだ。
だいたいこういうのはヤマカのだと思ったらオバサンのだってのがオチだ。
でも多分、あの派手な刺繍入りの黒のはヤマカのだ。見たことある。
お尻のところにシッポ通しの穴が開いてるからわかる。
とりあえずここに長居するのは色々と危険と判断し、僕はそそくさと脱衣した。
もうちゃっちゃと風呂に入ってメシを食おう。
と、風呂の戸をガラリと開けると、湯船に先客がいた。
ヤマカだ。

何で?
向こうも向こうでリアクションが取れずにポカンとしている。
チャポンと湯音を立てて立ち上がり、棚においてあるメガネをかけてこっちを見た。
あ、チンコ隠してねぇ。
「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
自分自身も何が起こったのか理解できず、まず戸を閉めて落ち着くまで深呼吸した。
何だこれ何だこれ。昔のラブコメみたいな状況だぞ。
「何を騒いでいるんだい。まったく・・・」
ドスドスと凶悪な足音を立てて、オバサンがやってくる。
「テン・・・アンタなんだって素っ裸で転がってるんだい。
 さっさと風呂に入っちまいなよ」
「いや、中にヤマカがいて」
「?」
「だから」
「一緒に入ればいいじゃないかね。
 アンタらもうパッコンパッコンやってんだろう?
 今更なんだって一緒に風呂ごとき遠慮するのかい。
 アタシが若い頃なんてもう、毎晩ダーリンと一緒にお風呂に入ったものよ。
 ドゥフフフフ」
何がダーリンだババァ。ほほ染めんな。
「ママ!あたし達まだそこまでの関係じゃない!」
さすがのヤマカも風呂の中から抗議の声をあげる。
「何だ。まだだったのかい。
 随分とノンビリしてるもんだねぇまったく。
 まあまあ、二人でゆっくり入ってなさいな」
そう言うと、再びドスドスと足音を立てて台所に戻っていく。
いや、そういうワケにもいかないだろう。
「あのさ、ヤマカ。
 ゆっくり入ってろよ。ちょっと席外すからさ」
風呂なんて自分ン家のシャワーで十分なんだよな。
「うん・・・テンちゃんゴメン」

自分の家でシャワーをあびて隣の居間に戻ると、ヤマカも風呂から上がっていた。
お風呂上りの女子は、可愛いさ5割増しに思えるのは自分だけだろうか。
さすがにあんな事の後では、僕もあまりマジマジと顔を見られない。
ヤマカも視線を外している。
「さあさ、ウチは御節なんて作らないからね。
 皆で食べるんなら海鮮鍋さ。芯から温まるからね。
 テンも遠慮しないでドンドン食べなよ」
オバサンはそういいつつ、とんでもないサイズの土鍋を持ってあらわれた。
いくらドンドン食べろといわれても、この量はムリだ。
とりあえず食べはじめてしばらくした時、ケータイにメールが入った。
あけおめメールには早いなと思いつつ中身を見ると、浮田からだった。
奥山さんが初詣に行きたがっているのか・・・
とりあえず自分は八幡司馬衛門狸神社に24時丁度に到着するように
行く予定だとメールを送ると、23時半にここで集合の返事がきた。
「なに?」
ヤマカがケータイを覗き込んでくる。
あ、ようやく距離感を元に戻せそうだ。
「浮田と奥山さんも一緒に行きたいみたい。
 奥山さんが来るって事は、犬塚も来るだろーな」
そう言いつつ、ヤマカにケータイを渡した。
ヤマカの表情が一瞬曇ったようにも見えたけれど、その後ニヘラと笑って、
「皆で行った方が楽しいしね」と言ったので安心した。

浮田が何を思ったか、やたらと早い時刻に来ていたけれど、奥山さんと犬塚が遅れていた。
奥山さんが時間丁度の23時半に、犬塚はさらに10分遅れの40分に到着。
浮田は胸を強調させるようなセーターを着こんで来ていたけれども、それで奥山さんには勝てない。
今日はなんだかモコモコした服装ながらも、爆という単語が間違いなくつくソレは圧巻だ。
まあ、ウチの控えめ姫もスラリとした服装で、十分魅力的ではある。
両腕両足をヒートテックで重武装しているのが、いかにもヤマカっぽい。
見とれていたのがバレたのか、ヤマカが耳打ちしてきた。
「テンちゃん・・・見すぎ」
「ゴメン。本能というか、何というか」
「テンちゃん、さっきはゴメンね。気持ち悪いもの見せちゃったね」
「何が?」
「あたしの肌、ウロコまみれで気持ち悪かったでしょ」
「お前のウロコ、キレイじゃん。
 おっぱい見たことの方を怒ってんのかと思ってた」
「それもちょっと怒ってるけど。
 アレみちゃったからアイコだね」
「粗末なもので申し訳ない」
「あれで粗末なの?ウソでしょ」
「いやいや」
そんなやり取りをさえぎるかのように、浮田が仕切って出発の時間となった。

毎年恒例の道を歩いていくと、目的地の八幡司馬衛門狸神社に到着した。
丁度良いタイミングと言えよう。神社の境内から「あけましておめでとー!」の絶叫が響いていた。
浮田も負けじと「こっちもあけましておめでとー!だ!」と絶叫すると、
それを皮切りに新年の挨拶合戦が始まった。
「テンちゃん、あけましておめでと」
「今年もよろしく・・・ちょっと白々しいよな。この挨拶。
 まあいいか。今年もよろしくな、ヤマカ」
「川津くん、あけましておめでとー!今年もよろしくね!」
「かわずくん、おめでとうです」
「川津、あけましておめでとう」
僕らはガヤガヤと騒ぎながら、鳥居をくぐって境内に入る。
中はもう凄い人だかりで、おみくじやお守り、御札、絵馬を求める行列や、
振る舞い物だろうか、甘酒や御神酒を配っている様子も見える。
「あ、テンちゃん。あそこであたし、明日は巫女さんの格好でバイトするんだよ」
ヤマカの指差す方を見ると、確かに巫女さんがおみくじだのを売り捌いている。
なんぼほど稼ぐもんなんだろうなぁ。
「来年はもう、巫女さん出来ないかもしれないよね、あたし」
ヤマカがニヤニヤしながら話しかけてくる。
ようやく普段通りって感じかな。

ヤマカと一緒におみくじを買い、中身の見せ合いをしていると、
(ちなみに僕が末吉で、ヤマカは大吉だ)
浮田が紙コップをいくつか持ってこっちにやってきた。
「これいいよー
 マジで体があったまるから飲んでみー」
ああ、甘酒か。せっかくだからもらおうかな。
喉もちょっと乾いていたせいもあり、あまり考えずに一気飲みした。
あれ?
「浮田、これもしかしてお神酒?」
どう考えてもこれはアルコールだ。
「んー?甘酒だってば。
 間違いないよぅ」
あ、こいつ既に酔ってやがる。
「ヤマカ、これ飲まない方がいいぞ・・・間に合わなかった」
僕が振り向いた時、ヤマカはその場にあった紙コップの中身を全部飲み干していた。
「美味しいねこれ」

「犬塚ぁ、いいかお前、今年は絶対に俺ら二人でレギュラー取るぞ。
 お前は余裕かもしれねーから、俺が取る。少なくとも一般団体は取る。
 それで全国大会行くぞ!聞いてるか犬塚!」
酔っている自覚はあるのにこの態度。
どうせ後で自己嫌悪するだけだ。
もうどんどんカマしてやんよ!
なぁに奥山さんとイチャイチャしてんだこの犬塚ヤロウ!リア充め!
「そーーだぞぉ犬塚ー!全国制覇だよー!」
浮田もかよ。
元はと言えば、お前がこんなものをだな・・・
つーか何でヤマカは平気なんだ。
ウワバミっていうのは、酒を飲んでも飲まれないことを言うが・・・しかし・・・

その後の事はよく覚えていない。
気づいたら自分の部屋のベッドの中だった。
浮田を家まで送った記憶は何となくある。
犬塚と奥山さんはどうしたんだっけ。
とりあえず寒い・・・いや、そうでもない。
ベッドの中に、生暖かい感触がある。
丁度いい心地よさだ。
とりあえず引き寄せて、それが何かを理解した。
「おはよ。テンちゃん」
ヤマカだ。
パジャマ代わりだろう、上下ラフなスウェットを着たヤマカがいた。
「えーと・・・」
「一応まだ今日の巫女さんのバイトは出来るような夜だったよ。テンちゃん」
「一応という事は」
「ンフフフフ。ヒミツ。
 とりあえずあたしはバイトに言ってくるから、テンちゃんもたまには早起きしなよ。
 明日からまた部活はじまるんだから」
昨日の夜に何があったんだ!
気になる・・・が、思い出すのは困難だろう。
ヤマカから聞き出すしかないかぁ。
「ヤマカ」
「何?」
「今年もよろしくな」
ヤマカはいつも通りにニヤリと笑って言った。
「こちらこそ。ダーリン」
ダーリン言うな。


  • 面白い狸神社の後に規格外お母さんは吹いてしまいました。近すぎてもう恋人以上夫婦未満な仲だと思っていましたが意外やいざとなったら出てくる恥じらいというのに悶々とさせられました -- (名無しさん) 2013-10-13 19:22:04
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最終更新:2014年08月31日 01:37