「あー、そろそろ時間が」
昇り切った太陽を見て、鷹の鳥人は呟いた。
足に持った串焼きから肉を一気に抜き食い、串を投げ捨て羽ばたいた。
この島の東の端に一際高い塔がある。鷹はその最上階の窓に音もなく舞い降りた。
中を覗けば相も変わらず雑然とした室内、加えて三人の鳥人。どうやら鷹には気付いていないようだ。
梟の物見は窓の外を見ながらてきとうな歌を歌っている。
鳩の伝令は羽ペンを回したり放ったりして遊んでいる。
鵡の灯り番は光と闇の精と戯れていた。
鷹はそっと梟の後ろに近づき、翼で肩を叩いた。
梟は一瞬羽毛を逆立たせ、首だけを180度回し、息を吐く。
鷹が梟に声をかけた。
「ようよう、交代だ」
「なんだあ…、驚かせないで下さいよ。
あと、遅いです。羽がくっついちゃいそうでした」
「あっはっは。悪い悪い。いつか奢るから許せ」
「はあ…。いつもこれです。“いつか”はいつ来るんでしょうか?」
「さてな?俺じゃなくて“いつか”に聞いといてくれ」
「はいはい、じゃあ私はこれで。ああそうだ、連絡事項は特にありません」
「おう、羽をのばしてこいよ」
鷹の声を後ろに梟は西側の窓から飛び出していった。
鷹は空いた席に座り、東の窓の外を見つめる。
地球人の目には米粒よりも小さい何かがあるとしか分からないが、
鷹の目にはそれが島だということも、上に塔が建っていることも、塔に窓があることも、容易に見て取れた。
さて、一時間ほど立ったころだろうか。
向こうの塔の最上階の窓が強く輝き点滅した。
鷹は声を張り上げた。
「来た!書き取り用意!」
鳩はペンを持直す。
鷹は目を見開き、見逃さぬように向こうを見つめる。
向こうの窓に光と闇の精によって、いくつかの単純なパターンが次々に映し出された。
鷹は読み取り、声を上げる。
「開始!オ!旋!バ!南!十!五!終了!
再開!オ!旋!バ!南!十!五!再終!
伝令、読み上げだ」
鳩が書き取ったものを読み上げる。
「オ、旋、バ、南、十、五」
「よし、塔長に伝令だ」
「あいよっ」
鳩は窓を飛び降り、階下の塔長室へ。
鷹は続けて鵡に言った。
「灯り番、確認完了の合図を頼む」
「了解」
鵡は何事かを光と闇の精に伝えると踊りを始める。
すると闇が窓の鷹が覗く部分以外を覆い、
そして光が黒いキャンパスに図を描きだした。
鳩は塔長室に飛び込んだ。室内は整然としている。
伝令の鳥人が三人ほど壁際に待機しており、中央では烏の室長が羽ペンを足で持ち書類を作っていた。
烏が静かに嘴を開く。
「何事だ」
「おうさっ、通信だよう。
バルト島の南15キロに大風だってえさ」
烏は頷き、壁際に並ぶ伝令たちに命令した。
「南と北の通信島に伝令、バルト島の南15キロに大風発生、復唱」
二人の伝令が復唱し、飛び出した。
「鳩、風見に今日の風を尋ねてくれ」
鳩は、あいよっと応え飛んでいった。
「君は他の伝令に集合を」
伝令は頷き、飛び出していく。
塔長室は烏だけになり、そして間もなく羽音が集まっていった。
数分後、鳩が風見の予測を携えて帰還。烏は嵐の直撃を確信し、大風警報を発令した。
伝令が島中に飛ぶ。
風車は畳まれ、家々の窓はかたく閉ざされた。
外にあった小物はほとんどしまわれ、町を飛ぶ鳥人はわずか。
そして、島中が静寂に包まれること約二時間。
大風が島を揺らした。
様々な損害が出たが、大風の規模と比べると軽微といえた。
- 何てことはない伝令の一幕でしたが緊張感と臨場感が溢れていました。生活を守るために研鑽された術を見ました -- (名無しさん) 2013-10-19 17:48:35
最終更新:2012年10月07日 20:23