【とりとおひさま】

気の遠くなるほど昔の話です。
大きな大きな、翼を広げれば島を覆えるほどに大きな鳥が飛んでいました。
この鳥は神でした。世界を飛び回り魂々を巡らせる役を担っていました。


鳥の神は天を見上げます。天には雲と星と月と太陽とがありました。
鳥の神には一つ気に入らないものがありました。
それは天に輝く太陽のことです。
あんなに高いところであんなにも輝いてるところが、偉そうで気に入りません。
世界に分け隔てなく暖かみを与えるところも、偉そうで気に入りません。
話しかけても何も応えないことが、偉そうで気に入りません。
鳥の神は太陽の奴を嘴で突いてやろうと思いました。しかし天への行き方を鳥の神は知りませんでした。
そこで物知りの星の神に尋ねることにしました。

『星の神、星の神、天への行き方を教えておくれ』

『むずかしいことはない。きみのつばさを強く羽ばたかせさえすればいいだけだよ』

『なるほど。それなら今すぐにでも』

鳥の神は天を目指してぐんぐん飛んでいきます。
しかし星の神が咎めます。

『まって』

『どうした、星の神』

『そっちじゃないよ。そっちは日の神のいるところ。きっときみは焼かれてしまう』

『それでよろしい。ちょうど日の神を突いてやろうとしているのだ』

『…………あぶないよ』

『構わぬ』

鳥の神は天高く日の神のところ目指して飛んでいきました。
ぐんぐん高みへと昇っていき雲もなにも突き抜けて
天にあってもなお高くへと飛んでいきます。
そして日の神が視界を埋め尽くすほどに近づきましたが、それでも遠いのでした。
もう鳥の神は眩しさに耐えられず、自らの目を消してしまいました。
真っ暗闇です。なにも見えません。
それでも鳥の神は飛びました。感じる熱を道しるべにして飛んでいきました。
自分が真っ直ぐに進んでいると信じていました。


鳥の神の疲れと熱が極限に達したころのことです。
嘴を何かが焦がしました。
鳥の神はいよいよ届くと確信しました。
最後の力を振り絞って羽ばたき食らい付きました。
そして力尽き、落ちていきました。
しかし嘴は確かに届いていました。鳥の神の口の中には日の神の欠片が燃えていました。
鳥の神は笑います。
日の欠片は燃え盛ります。
嘴から吹き出した炎は鳥の神をすっかり包んでしまいました。
鳥の神は炭となりました。炭はそのまま地上に落ちました。


大きな炭が一つあります。それは大きな鳥の形をしていて、ひびがたくさんありました。
あるとき、ひびが爆発的に増えました。砕けました。
炭の中から一回り小さくなった鳥の神が出てきました。

『はてはて?冷静になってみれば馬鹿なことをしたもんだのう』

うはは、と鳥の神は笑ってどこかへと飛んでいきました。





時を少し巻き戻します。
天には変わらず日の神が輝いていました。少し離れた月の姉妹神も輝いています。
三姉妹は鳥の神の昇っていくさまを見ていました。
鳥の神はフラフラと今にも落ちてしまいそうで、三姉妹は不安そうに点滅していました。

『無様ね』『醜いわ』『本当に嫌になる』
『『『同じく焦がれる私たちも、きっと同じように無様なのね』』』

鳥の神が届こうとします。三姉妹は喜色満面に光りました。
しかし鳥の神は落ちてしまいました。三姉妹は悲しそうな色を灯しました。

『駄目ね』『無様だわ』『下らないわね』

『……否。あの姿は素晴らしいものであった』

日の神が三姉妹の言を否定しました。日の神が意志を出すことは随分と久しぶりでした。
三姉妹は嬉しそうに輝きました。

『それはそれは』『鳥の神も』『報われますわね』

日の神は構わず独り言を続けます。

『……我は強く大きいがゆえに、あまねく全てを慈しみ、ひとしく全てを温めてきた。
 しかし地上を見るたびに、ある思いが産まれ、疑念は産まれ、増えるばかりであった。
 そしていま、確信を得た』

日の神は一層強く輝きました。
そして、輝きの強き力で三姉妹を天の遠くへと弾き飛ばしました。
三姉妹は悲鳴をあげるように点滅しました。

『やめて!』『どうして!?』『こんな試練を!?』

『……試練? ……試練か。そうだ、試練である。これも試練、あれも試練、それも試練、試練、試練、試練である』

日の神はすべてを等しく照らすことを止めてしまいました。


こうして世界には夜と昼とが産まれました。
冬と夏とが産まれました。極寒の地と灼熱の地とが産まれました。
その分だけ蛇神が悲鳴をあげました。


こうして月の神は日の神と共に上ることを禁じられ、月の神は夜にのみ昇るようになりました。
冬に月が眩しいのは、日の神に照らされない地の民を三姉妹が相哀れんでいるからだそうです。


  • 地上の何よりも力の強さが全てを決める神のちょっと怖い昔話みたいな -- (名無しさん) 2013-10-10 23:52:04
  • とても神秘的でした。 -- (名無しさん) 2013-10-20 17:19:46
  • 鳥の神のその後は穏やかに世界の空に融けたような気がします。月と太陽の馴れ初め(?)も説得力がありました -- (名無しさん) 2013-10-20 17:21:02
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最終更新:2013年10月10日 23:50