【折れた剣、無用の鍵】

《気張れ気張れ肉の者よ、目的地はまだ遥けき彼方ぞ》
背中で勝手なことばっかり言いやがって…どうせなら喋るより自分で動いてくれ魔法物。
《これは異なことを。自分で歩く鍵などおらぬわ》
貴様のような鍵がいるか! バス停か道路標識みたいなナリしやがって、どこの鍵だどこの。巨人の家か。
《うむ、肉の者にしては勘がいいな。われこそはかの神鉄の巨人の寝所を守りし大扉の鍵。御神セダル・ヌダの下賜されし鍛冶神の炉にて鍛えられた魔鍵なるぞ》
はーそーですか。たかがベッドルームの鍵のくせにえらそーに。
《その寝間の鍵ごときにたびたび命を救われておるぬしもいい面の皮だの》
うるせーこのっ! クソックソッ、全部あのふざけた試練の精が悪いんだ!
《己の矮小さを責めるでない。そも、わしとて最初から魔鍵として生まれたわけではないのだ》
へ? じゃ、元はなんだったんだ。
《我が主たちの懐刀とするため鍛造されし魔鋼の大剣よ。かつては主たちとともに輝かしき戦場を駆け巡ったものよ…》
ふーん…で、それが何故鍵に?
《折れたのだ》
…は?
《だから折れたのだ。ぽっきりと、真っ二つに。我が主であった槌王は、その化身たる大槌を振るわせれば三界無双であったが、剣の扱いにかけては殊の外へたくそでのう》
うわあ…。
《しかも折れたのは亜龍どもとの乱戦の最中、にっくき亜龍の横腹に突き刺さったままわしは主と離れ離れとなったわけじゃ。主の許に帰還せねばという一心で突き刺さった亜龍を操り、深手が元で亜龍が息絶えれば次は通りがかった肉の者を操ってようやく帰還を果たした時には実に五十年の月日が経っておった。が、帰ってみれば既に主の剣は別の鉄を接いで直された後であったわ》
うわ、せつねえ。
《ぬしらの感情で言えば、決死の戦場を生き延びて我が家に帰ってみれば、夫は亡きものと思った妻が既に新しい夫と結ばれ子をなしておったというところか。いや、あの時は我ながら荒れたぞ、うむ》
やめてーもっとせつないたとえやめてー。
《まあ、ともかくだ。そのままでは不憫と思った鍛冶師が、当時建設を進めておった地下の寝所の鍵としてわしを打ち直してくれたというわけよ》
波乱万丈だな。で、そのベッドルームの鍵がなんでラムールに転がってたわけ?
《帝国崩壊のどさくさに盗まれたのだ、火事場泥棒というやつよ。無論、わしが守るべき扉も寝所もいまや地の底ゆえ、どこにおっても無用の長物であったがな》
は? じゃあ俺たち今どこに向かってんだよ。
《察しの悪いやつよのう、また打ち直してもらうために鍛冶神の炉に向かっておるに決まっておろうが》
あれ、風の噂だとぶっ壊れたって話だぞ。
《ぬなっ!?》

俺たちのゴールはどっちだ。



おまけ

「おやおや、珍しい神器をお持ちですね」
え、こいつ神器なの?
《不敬な、神より賜りし炉で鍛えたわしが神器以外の何だとぬかすか》
喋る粗大ごみ。
《ぬし、正直も過ぎると身を滅ぼすぞ。今度けだものに囲まれてもわしは一切助けぬからそのつもりでおれ》
すみません調子こいてましたごめんなさい。
「ははは、仲がよろしいのですね。破邪、解封、忘却…実に様々な要素が複雑に組み合わさったあなたであれば、或いは…。少し、お願いしてもよろしいでしょうか?」
なんだ、また試練のはじまりかこれ。

神様が引きこもりって、なんかどっかで聞いたような話だなあ。
「つい最近大失恋されたそうで、寝所に篭ったきりどうにも手に負えないのです。どうか土地神様を連れ出していただけませんか」
《ほう、寝所であるか。ならばたしかにわしに適任の仕事であるな》
お前ちょっと黙ってろ。一応聞いておくんだけど、あそこで禍々しい気配発してる大扉がそれ?
「左様でございます」
なんかでかいレリーフがすげえ殺気はなってるんだけど。
「誰も近寄るなと神力を注ぎ込まれたので…」
………。
《よし、往くか》
逝きたくなーいっ!
《覚悟を決めよ、それ行進(マーチ)!行進(マーチ)!》
さび付いちまえ粗大ごみーっ!


  • 鍛冶神に由来ある道具はそれそのものがいち個人になっていても不思議じゃないですよね。ただ持っておくには騒がしそうですけど -- (名無しさん) 2014-01-01 17:58:42
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最終更新:2014年01月01日 17:56