【ヤヌスの2つの顔】

悠久の時を経た洞窟にコツコツと靴の音が響く。
音の主は足音を響かせながら洞窟を進みそして…

「やあ、お久しぶりですね」
「…ああ、久しぶりだな」
水晶の壁面で地上からの陽光が入る広大な広間で二人の人物が会する。
一人は気楽に、もう一人は苦々しい顔で久方ぶりの再会の言葉を放つ。
「ネコの王、ディエル=アマン=ヘサー !」
「外法者(アウトロー)、シャーリー・ベル…」


「そこをどいてくれないか?」
ディエルが一歩、歩を進める。
「どうしてですか?」
それに対してシャーリーが彼の前に立ち塞がるかの様に一歩前に出る。
「アンタの後ろにある門の先にいる奴らに用がある」
険しい顔でそう返す。
「おやおや…それは困りましたね。彼らには誰も通すなと言われてますので」
ニコニコ笑いながらシャーリーはそう返す。
ディエルは両手の太陽牙と獅子牙を顕現させ、それらの陽光の如き輝きで広間を照らす。
彼の肩に乗っている毛玉は低く唸り声を上げている。
「悪いが、こちとら馬鹿神が山のように寄越す試練のせいでアンタの冗談に付き合ってる暇は無いんでね。
どかないのなら…俺がどかすまでだ」
それを見てクスクスと笑いシャーリーは
「元気がいいですねTomcat!
そう!Jerryが欲しいならまず僕をどかしてからにして下さいね」
そう言い、軽くスタンスを広げて構える。


静かな一瞬、互いに出方を伺い紙一重の幸運を得るために策をめぐらし、少しの優位の為にジリジリと自分の間合いを確保し相手の間合いを侵略する。
焼け付くようなひりつくような永遠の刹那…

カラリ…

場の雰囲気に小石が耐えかね落ちる音が響く。
その瞬間!

神速でガンマンの左側に跳ぶディエル!
それを迎え撃つ一発の銃声!

一瞬前までディエルがいた床に穿たれる弾痕。
勝敗は決したかに見えた。

…が

とっさに防御した獅子牙ごと吹き飛ばされたのは神速で移動していたはずのディエルだった…

「な!?」
壁面まで吹き飛ばされ半ば砕かれた獅子牙を見てディエルが驚きの声を上げる。
「何を驚いてるんですか?」
優雅に銃のエジェクターロッドで排莢と装填をしながらガンマンはそう言う。
再装填された弾丸の数は3発…
「…はは!スゲェなアンタ!一発しか銃声が聞こえなかったよ」
「お褒めに預かり光栄ですよ。
ただ、前の体だとその一発で貴方の頭に風穴が空いていたでしょうが…」
やはり反応が悪いと愚痴をこぼすガンマン。
そのセリフに歓喜にも似た震えが来るディエル。
「いいねぇ…バトルジャンキーの脳筋神じゃないがゾクっと来るよ。
でも、こちとら世界の命運背負って来てるんだ。今回は確実に勝たせてもらうよ!!」
肩の毛玉が吼えて跳ぶ!!!
それは一瞬で山のような巨獣の姿になり、その強大な氷の爪をまだディエルの方を向いたままのガンマンに叩きこ…

バラララララララララララッ!

轟音と共に横っ腹に強烈な衝撃を加えられた恐獣がたたらを踏む。
「あっはっはっは!!ししょー!貸しイチっすよ?」
黒いキャトルマンを被り、漆黒のロングコートを着たカウボーイがそこに立っていた。
手には大型のミニガンが握られている。

「チッ!伏兵かよ…」
ディエルは獅子牙を再顕現させながら立ち上がって舌打ちする。
「ええ、真面目な君は決闘を続けるより僕を倒すことを最優先させるだろうと思いましたので」
にこやかにそう返すガンマン。
「それにしたってえらく準備がいいと思うがな…」
「…そうでしょうか?」
ディエルの問いにすっとぼけたような言葉を返す。

「まあ、いいさ…どちらにしろ小細工は効かないってことだな。
じゃあ、これからは本気で行かせてもらう。
手加減できねえからそのつもりでな!!」
そう言い左目を開くネコの王。
辺りが眩い陽光で満たされる。
「Of course!!」
その言葉に口を耳の所まで裂いて凶暴に笑って返すガンマン。

次の瞬間、銃声と床を踏み割り駆ける音が轟く。
放たれた銃弾は尽く床を穿ち光のごとく駆けるディエルは銃を構えて撃ち続けるガンマンの喉に太陽牙を伸ばす!

ドカッ!!

鉄柱で肉を打ったような鈍い打撃音が響き『ディエル』が真横に吹き飛ばされる。
「がっ!?はっ!!!!」
『蹴り』飛ばされたディエルが衝撃で肺の空気を吐き出させられて喘ぐ。
「太陽神のパワーを使っての速攻ですか?
確かに一番シンプルで高い威力があり、僕の弾より速く斬りかかれるでしょうが…舐めすぎです。貴方は『一人』の人間を相手にしているのではない。…地球の東洋風に言うのなら『一騎当千』の戦士を相手にしているのだと認識しなさい」
最初の位置で銃を構えたままのガンマンは壁際で喘ぐ彼を見ながらにこりと優しく嘲笑ってそう言う。

その顔を見て数多の修羅場を潜ったディエルの直感が危険を告げる。

即座に後ろに跳ね飛ぶディエル。
一瞬遅れて今までいた場所が砕かれる…どこからか現れた硬いブーツを履いた足によって……
「ネコの王…貴方の光のような速さに反応の遅くなった僕は敵わないでしょうし、貴方のたった一度の攻撃で寄せ集めのヒトである僕は脆いガラス細工の様に砕け散るでしょう。
しかし、そんな僕でも知恵を使い業を使い、強大な神の御子である貴方を地に這わせること位は出来るのですよ…」
肩で息をする猫族の少年に諭すようにそう語るヒト。
「……それが、レギオンの力か…」
壁に手を付き立ち上がりながらガンマンを睨んでそう言うディエル。
「神様の力?とんでもない!
ただの臆病な寄木ニンゲンが持っている死なないための知恵みたいなもんですよ」
それに対して彼女は誰かに似た自嘲気味なセリフを吐く。

「まあ、それでも貴方を倒すこと位はサニーサイドアップを作るより軽いでしょうけどね」
「……料理できないのか?」
「ほっといて下さい。いいでしょ?卵料理はボイルドかスクランブルエッグでも…」
ガンマンは銃を上げ銃口で帽子を目深にかぶり直しながらそう返した。
「俺はハードボイルドかターンオーバーが好きっすよーー!」
向こうで氷獣の相手をしていたリンゴがそう叫ぶ。
手にしていたミニガンは弾が尽きたのか少し前にハリム の顔面に叩きつけられてひしゃげていた。
今は、大砲のような音のする超大型リボルバーで巨大なハリムを釘付けにしている。
「あの兄ちゃんもアンタと同じか?」
「いいえ。でも、彼すごいでしょ?
アクション映画みたいにミニガンを振り回して、象撃ち用のライフル弾を使うリボルバーでガンアクション…でも彼は完全な人間なんですよ。」
「ふん…あの兄ちゃんはアンタらの世界の英雄ってわけか」
「英雄は言いすぎですね。多分…彼の事は『ギフテッド』とでも言うんでしょうかね?」
「キッドって呼んでくださいよししょー!」
何も言わずに臨悟に向かって一発ぶっ放すシャーリー。
(ギャー!俺の大事なキャトルマンに穴がーーー!ってずるいぞ毛駄物!!タイム!ちょっと襲うのタイム!!!)

騒がしい向こうを気にせずガンマンはネコの王に向き直る。
「さて、こちらも色々やることがあるので、そろそろ終わりにしたいのですがお祈りと覚悟は済ませましたか?」
ゆっくりと余裕の表情で問いかける。
「ハッ!祈ったってあのクズ神なら手を使わずに戦闘に勝つ縛りプレイか?としか言わないだろうよ!覚悟は…アンタを殺してでもどかす覚悟ならできたさ!!」
不敵な笑みを浮かべてそう吐き捨てる。
「いいですね。やっとヤル気が出ましたか?早くしないと貴方と別行動をしているお仲間が僕の友人達に凍らされて砕かれたり、耳を齧られて丸坊主にされますよ?」
「…テメェ!!」
「その威勢のいい言葉に見合った行動をなさい……僕を失望させないで下さいよ」
ディエルは見た。その瞳孔が一瞬ヤギのように横長に細められるのを…
ガンマンはクスリと笑い指をパチリと鳴らす。


一瞬でディエルの周りを4体の泥人間が囲む!
各々の手にはシャーリーと同型で幾分か小振りな銃が握られ引き金を引き始めている。
回避する猶予は……無い。

「ああ!回避できないなら!こうすればいいんだよ!!!!!」
ディエルはそう叫ぶと太陽牙と獅子牙をかち合わせる。
一瞬でディエルの周りを業火が包み込み、周りごと発射された銃弾と泥人間を焼き払う!
「強引ですね。でもさっきからのヤル気のない戦法よりマシですが」
毛皮を少し焦がしたディエルを見て呆れた顔でそう言うガンマン。
「ほっとけ!…そんな余裕がいつまでも続くと思うなよ?」
「そうでしょうかね…僕は君と違ってまだ無傷ですよ?」
「はん!言ってろ!」
ディエルはそう言うとボロボロの体を引きずり、ゆっくりとガンマンに向かって歩を進めた…
「おや?速攻が潰されたからってゆっくり来ても同じ事ですよ?」
もう終わりですか?と不満そうにそう言い、軽く構えてディエルに向けて発砲する。
放たれた弾丸はあやまたずディエルの眉間に吸い込まれ…そして彼の後ろの壁を粉砕した。
「……?」
「どうした?ガンマン。
…顔色が悪いぜ?」
ガンマンは彼の煽りを気にせずもう一発撃つ、今度は心の臓に向けて…
しかし、ドンッ!という銃声の後に聞こえるのは水晶の壁が砕ける硬質な音だけだ。
「…これは……!?」
からくりに気づいたガンマンが横っ飛びにそれを回避する。

が……

ぞぶり…と彼女の体にソレが突き立てられる。
「ちょっと気づくのが遅かったな…」
ボロボロになったディエルが横っ飛びに飛んだ彼女の真正面でソレを構えて立っていたのだ。

「なるほど…ミスディレクション。
僕が見ていた方は君のミラージュだったわけですね」
足元からサラサラと土に還りながらガンマンがそう言う。
「土壇場で思いついたにしてはいいアイディアだろ?アンタは一筋縄じゃいかないからな…」
苦々しい顔をしてディエルがそう答える。
「ええ、C+といったところでしょうか?」
「言ってろ…」

後ろで強烈な閃光と轟音が聞こえる。
ディエルが振り返ると光と音を直に食らったハリムが目を回していた。
戦っていたはずの臨悟の姿はそこにない。

「逃げられたか…」
「スタングレネード…何でも持ってますね彼は…まあ、彼はどこへ行ってもやっていけるでしょう。
君はどうしますか?ディエル君」
「…世界を救うさ」
刃をゆっくりと抜きガンマンを床に寝かせる。
「門の先にいる穴蔵に押し込められた哀れな彼らを殺してですか?」
土に還りながら彼女は彼の目を見ながらそう問いかける。
「……やらなければ俺の好きな世界が滅ぼされるからな」
門に手をかけるディエル。
「門を開けますか…ご随意に…『試練』に打ち勝ったのは君です。
しかし…」
門を開くディエルがソレを見て驚き、崩れさるシャーリーの方を振り返る。

「詰めが甘い」

彼の前にあったのは石壁だった。
ディエルは目を回すハリムに駆け寄ると蹴り飛ばして起こす。
「行くぞハリム!ここはハズレだ!
奴ら事前に感づいて移動してやがった」
ディエルはハリムの背に飛び乗るとハリムを駆って疾風のように洞窟を出ていった。

「慌てものですね彼は…ここに情報をもっていそうなのがいるのに。
まあ、またいつか…」
崩れ残ったガンマンの頭部がそうつぶやき土に還っていく。
そしてその洞窟には誰もいなくなった。















蛇足
よくキャラクター等を勝手に使わせて頂いている未来王シリーズ作者様と領域シリーズ作者様に感謝を
いつもに増して独自色が強い物となっていますので基本、劇中劇扱いでマズイ場合はお手数ですがページごと削除をお願いします。
またギミックに気づいてもなるだけご内密に…


  • まずシャーリー一人称“僕”に驚いた。格闘多めで銃も使うので二十代後半と思っていただけに。 かなりアクションが板についてるディエル君だけど、毛玉が全部持っていきました。 そして“美味しいとこはかっさらわれ続けるオーラ”に溢れるカウボーイ -- (名無しさん) 2012-04-06 01:08:02
  • ふと思う。ディエルは目的のための手段にのめり込みすぎて目的を忘れてしまうタイプなんじゃないかと -- (名無しさん) 2014-02-09 18:11:15
  • 作品ごとでシャーリーの喋り方に変化がある?意外と人生楽しそう -- (名無しさん) 2014-02-25 23:09:43
  • 未踏破は何でもありがいける領域だよね -- (名無しさん) 2017-04-05 13:53:34
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

c
+ タグ編集
  • タグ:
  • c
最終更新:2012年03月30日 22:52