「お前を必ず家に送り返してやろう」
突然見ず知らずの場所に放り込まれ、絶望と孤独に押しつぶされそうだった幼かった頃の僕を救ってくれたのは彼女のその言葉だった。
「・・・本当に?」
「あぁ、本当だ約束しよう」
そう言って彼女は骨だけの手を差し出す?
「・・・・?」
僕はそれが何かわからずどうしていいのかわからなかった。
「なんだ?約束の仕方も知らんのか?」
彼女は呆れたようにそう言った。
「・・・・ごめんなさい」
僕は俯いて怒られるのが怖くて謝った。このおかしな世界に来てから彼女に出会うまでの僕の口からは謝る言葉しか出てこなかった記憶がある。
「仕方が無い・・・約束とはこうするんだ」
そう言って彼女は細く真っ白くゴツゴツとした手で僕の手を取って小指と小指を絡ませる
「これが約束のやり方だ、覚えておくんだぞ?」
「・・・うん」
そこで初めて僕は彼女の顔をまともに見た。
彼女の顔は・・・・どうしても思い出せない・・・
美しかった気がする・・・優しそうだった気がする・・・だけどいくら思い出そうとしても思い出せない真っ白に塗りつぶされた彼女の顔・・・
それから彼女は僕との約束通り両親の待つ家に帰る場所を探し、僕をそこへと送り届けてくれた。
「達者で暮らせ、私もお前が無事親元に帰れることを我が神に祈っておこう」
「うん・・・ありがとう・・・」
月夜の別れ、波打ち際の岸に波が打ち付ける音に僕の涙声は打ち消された
「早く行け、この期を逃すとまたしばらく戻れなくなるぞ?」
彼女と別れるのはとても悲しかった。彼女は僕に自分は冷たい人間だから信用するなとよく口にしていた、見返りのない親切はありえないと。
だけどそういう彼女は言葉でお礼を言うだけしかできない僕をここまでつれて来てくれた、だから僕は彼女が冷たい人間だなんて全然思えなかった。
「・・・ピア・・・ありがとう・・・」
「あぁ、お別れだ」
そして僕は意を決してその穴に飛び込んだ、そして気がつくと僕は山の中に立っていた・・・
ピンポーン
深夜のコンビニに来店客を告げる電子音が鳴る。
「・・・あれ?新人さん?」
「え・・はい・・・」
「あ、そう・・・フーーーーン・・・」
来店客は警邏中の若い男性警官、コンビニの前の駐車場にはパトカーが一台とまっている。
「・・・どうかしました?」
「いや、新しいバイトなんて雇ったんだって思ってさ、いつもこの時間帯にバイトしてる子は?」
「大隈さんは休みです」
「あ、そうなんだ・・・サエちゃん休みなんだ・・・」
彼はそんなことを一人呟くと弁当コーナーへ歩いていく。
それを見送ってレジの青年は人知れず息を吐く。
「あのさー?いつも弁当取り置き頼んでるんだけどさ、ある?」
「え!?そうなんですか?」
「あれ?聞いてない?まいったな・・・じゃあコレとコレでいいか・・・」
そう言って彼は弁当コーナーに残っていたおにぎりと弁当を適当に選んでレジへと持ってくると、レジ横のホットスタンドから暖かい緑茶のペットボトルを2本取り出し、それもレジへと置く。
「まぁ無いならいいや・・・俺、内田って言っていつもこの時間にスタミナ弁当買いにくるから覚えといて、あとマイセン二箱」
「はい、わかりました」
レジの後ろから言われた銘柄のタバコ二箱を取り出し、それを他の商品と合わせてスキャナーで読み取っていく。
「お弁当とおにぎりは暖められますか?」
「弁当二つはお願い、おにぎりはいいや」
「はい、ありがとうございます」
弁当二つを電子レンジに入れてタイマーをセットして過熱をスタートさせ、加熱されている間に他の商品のバーコードを読み取っていく。
「店員さん、いつからここでバイトしてんの?」
ピッ
「あ、一週間くらい前からです・・・」
ピッ
「あ、そう。深夜シフトは今日から?」
ピッ
「はい、今日からです」
ピッ
「じゃあコンビニ強盗とか気をつけないとな、神戸のほうだと最近多いらしいからさ」
「そう・・・ですね・・・」
チーーーン
二人の何気ない会話を打ち切らせるように弁当を加熱していた電子レンジのタイマーが鳴り、暖かくなった弁当二つを袋に入れる。
「別々の袋にされますか?」
「いや、全部一緒でいいよ」
「合計2480円になります」
「はい、じゃあ2500円」
財布から千円札2枚と500円玉一枚を取り出してレジ台の上に置く
「それでは20円のおつりになります」
レジから10円玉二枚を取り出しレシートの上に乗せて手渡す。
「それじゃまた。今度からはスタミナ弁当の取り置きお願いね」
レシートを財布に入れ、20円をレジ横の募金箱へと入れて内田の名乗った若い警察官は立ち去っていく
「はい、ありがとうございましたー」
自動ドアが閉まり、しばらくして外の駐車場からパトカーが出て行くのを確認して彼は深く深く息を吐いた。
「はぁ・・・・どうしてこうなった・・・・」
[一人での対応、お疲れ様でした~]
その背後から陽気な女性の声が聞こえてくる。
「新人にまかせてベテラン店員が休憩するとかアリなのか?」
「エ~~~~~~~?たまには私だって楽したい時があるんですけど?」
「なんかさっきのお客さんあなたがいなくて残念そうだったけど?」
「いやぁ・・・私あの人なんだか苦手で・・・」
「え?そうなの?」
人当たりがよく誰にでもフランクな彼女の予想外の言葉に驚く青年
「お弁当買いに来る度いろいろ聞いてくるんですよね・・・出身どこ?とかその腕どうしたの?とか」
「アーーーー・・・」
この一週間短いなりに彼女について知ることとなった彼は、たしかにそれはいろいろ苦手だなと思わず同意する。
「悪い人じゃないんですけどねー・・・」
そんな会話についつい夢中になっている二人は、「駐車場に一台車が入ってくることに気がつかない。
ピンポーン
再び店内に来店客を知らせる電子音が鳴り響き、会話に集中していた二人の意識が入り口へと向く。
「「いらっs・・・!?」」
「月刊アトランティス買い忘れた・・・・ってサエちゃん居るじゃねーーーーか!」
「「バレた!?」」
その後、内田裕也巡査23歳とはコンビニ深夜シフトの二人は微妙な距離感になったりするのだが、それはまた別のお話。
- 題名が前出のSSとそっくりだったのでダブったのかな?と思ったけどそうじゃなかった。パトカーは基本二人組みという点も弁当の数で抑えてたり(多分)して細かい。しかし大隈サエの由来が気になる -- (としあき) 2012-04-07 00:26:44
- 時系列考えるとあれこれ仮説立てちゃうね~これ -- (名無しさん) 2012-04-07 01:26:07
- ものすごくありふれた日常の一コマですが種族の垣根が低くなってお互いの中身を見合うようになっているにも感じました -- (名無しさん) 2014-04-13 17:55:37
最終更新:2012年04月06日 23:04