アットウィキロゴ

【とあるどこかとどこかとチュパカブラ】

「良太君、1年間どこに居たの?」
「お父さんとお母さんに会えて今どんな気持ちかな?」
僕に向けられるたくさんの大人の手に握られたマイクとカメラのフラッシュを今でもよく覚えている。
僕はあのおかしな世界から彼女のおかげで帰ってくることができた。

『昨年8月に淡路島海水浴場で行方不明となっていた水瀬良太君が昨日無事保護されたニュースの続報です』

カーテンを締め切った薄暗い部屋の中で僕はテレビをジッと見ていた。
窓の外はすごく騒がしい。

彼女と別れて穴に飛び込んだ僕は、気が付くと山の中にいた。
僕はとりあえず山を降りようと決心し、途中夜になって真っ暗になったけど、あのおかしな世界で感じた孤独や絶望に比べればどうってことないと夜が明けるまで夜露を凌げる木の下で過ごした。
人に会ったのは翌日、僕と同じ正真正銘の人に出会って日本語で話してようやく僕は帰ってきたと実感し、そのままその場にへたり込んで動けなくなってしまった。
保護されて報せを聞いて駆けつけた両親に再会できた時は本当に嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった。
またいつもと変わりない、だからこそ幸せな時間が戻ってくるんだと僕は笑いながら泣いて、両親も僕と同じように泣きながら笑った。

「水瀬さん、いるんでしょ?良太君にどうしてインタビューさせてくれないんですか!」
「お願いです!私たちはやっと子供が戻ってきたんです!そっとしておいてください!」
「ちょっとまってくださいよ!それじゃ私たちが悪者みたいじゃないですか!私たちは報道に携わる者としての義務を果たしたいだけなんです!良太君に少しだけインタビューさせてくださいよ!」
「お引取りください!良太は今とても不安定なんです!お願いですから!」

でも、世の中は当時の僕が思ってるほど簡単じゃなくて、僕が発見されて両親と再開したことは世間的にはかなりの大ニュースになったらしく、実家には毎日のようにいろんなところの記者がやってきて僕を取材させてほしいと両親に迫った。
両親はただ無事戻ってきた僕と一年前と同じように平凡な日常を送りたかっただけなんだ、だから幼い僕がこれ以上ショックを受けないように必死に守ろうとしてくれた。
だけど世間がそれを許してくれなかった。
僕の家の前にはいろんなテレビ局や新聞社の記者が詰め掛けて中には勝手に庭にまで入って、開いてる窓を見つけて家の中の様子を撮影するなんて信じられないこともされた。
「ちょっと水瀬さん、あなたの家の前の騒ぎなんとかしてくださいよ。はっきり言って近所迷惑なんです」
「すみません・・・でも、あの人たちは勝手に・・・」
「こう言っちゃなんですけどね・・・ちょっと有名になったからって勘違いされてません?私も息子さんが行方不明になったって聞いた時は心配しましたけど・・・これじゃあねk・・・・」
「すみません・・・」
母が何も悪いことをしていないのに近所の人に玄関先で問い詰められて謝っている姿を僕は何度も見た、そして何もできずに「どうして母が謝らなければいけないのか」と思った。

僕は学校にまで押し掛けてくる取材のせいで一日だけ登校して、学校からのそれとない「他の児童の勉強に支障がですね・・・」という言葉に、両親は仕方なく僕を学校に行かせることをしばらく延期することにした。
そして僕は、そのまま2カ月以上家からも出ることができない状況が続いた。

僕があのおかしな世界に迷い込んでいる間に友達は一年学年が上がっていた。二ヵ月後、やっと学校に行けることになった僕は、年齢的に進級することになったけど当然のように一年間勉強している子とは違ってみんなが何を勉強しているのかがわからず、成績も常にクラスの下のほうから数えたほうが早いくらいになっていた。
そして、僕はあることをきっかけに学校に行かなくなった。
あれだけずっと行きたいと思っていた学校に僕は行きたくないと思い、それから僕は引き篭もりになった。
きっかけは僕の不用意な発言だった。
「ねぇ、良太君って一年もどこに居たの?」
こう尋ねられた僕は深く考えることもなく、あのおかしな世界で体験したことを当時の僕のおせじにも満足とは言えない語彙をフル活用して話した。話してしまった。

「先生!良太君が嘘ばっかり言います!」
「良太のウソつき、お前とはもう遊んでやらねーよ!」
「バカでウソつきとは話しちゃうけないんだぜ、バカとウソがうつるから!」

僕はその日から嘘つき呼ばわりされた。僕は嘘なんてついてない、本当のことをそのまま伝えただけだ、だけどみんなは信じてくれなかった。信じてくれないどころか僕を嘘つきと言ってバカにした。
そして、僕は学校に行くのが苦痛になり、家に引きこもるようになった。

「ねぇねぇ?こんな話知ってる?」
下校途中の学生で程よく混雑した電車の中、僕の少し斜め向かいの座席に座った女子高生二人が他愛もない会話をしており、その内容が僕の耳に入ってくる。
「え?なになに?」
「私の友達が話してくれたんだけどさ、最近出るらしいよ?」
「え?出るってなに?幽霊?」
本当に他愛もない、有益性とはかけ離れたただただ時間を浪費することが目的の会話
「違う違う、これがさ笑っちゃうんだけどさ吸血鬼」
「え?吸血鬼って・・・あのドラキュラとかの?」
「そうそう、それもさ、吸血鬼って映画とか漫画とかだと昼間は太陽の光で灰になっちゃうとかって感じじゃん?」
それは違う、原点を辿れば別に吸血鬼は日光に弱いという弱点はない、ただし映像化されるに当たっての分かりやすい弱点として様々な要素が追加されただけ、今の吸血鬼はオリジナルに比べると小技は増えたかもしれないが弱点が増えて弱くなっている。
「うんうん、あと心臓に杭刺したりニンニクとか十字架が苦手なんだっけ?」
ほかにも色々ある。流水があるとその先には行けないとか、家には家主から了解がないと入れないとか眠る時は自分の埋葬された墓場の土が入った棺桶がないと駄目だとか
「そう、でもね、その友達が話してくれた吸血鬼ってさ、昼間も普通に動いて、しかも十字架もニンニクも効かなくて心臓に杭を刺してもへっちゃらなんだって」
へぇ・・・それはずいぶんと変わってるな・・・でもそれはちょっと強すぎないか?弱点らしい弱点がないなんて
「なにそれ・・・最強じゃん」
「でしょー?でね、その友達の話だとね、最近この辺りでカラカラに血を抜かれた犬や猫の死体が見つかって、それを保健所が誰にもバレないように回収してるんだって」
そんな事件があったら小さい記事にでもなっていそうなものだが、毎日新聞を読んでいる僕はそんな記事見たことがない
「なにそれ気持ち悪い・・・それ全部その昼間もへっちゃらな吸血鬼がやってるってこと?」
「うん、友達の話だとね、そういう死体が見つかる前にはその周辺で冬でもないのにパーカーのフードで顔を隠したヒョロってした人影が目撃されるんだって」
ふと自分の今日の格好を見る、ほかに適当な服がなかったからだがフードつきのパーカーにジーンズだ。
「へー・・・・ってあの席に座ってるのってそれっぽくない?」
「え・・・うわ!ホントだ・・・・もう夏近いのに・・・しかもなんかあの人超色白くない?」
「うんうん・・・血の気悪すぎだよね・・・それっぽいよね・・・」
なぜか彼女たちの視線がこちらに向くのがわかる、僕のほうは彼女たちに一切視線も向けてないのに・・・

<次は~新神戸~新神戸~>

電車内にアナウンスが流れる、良かった・・・僕の目的地だ。
「あ・・・逃げた」
なんだよ逃げたって!たまたま降りる駅がここだっただけだ!何勝手に自分の都合がいいように解釈してんだよ!
「私たちに正体バレたから逃げたんだよ!」
他の下車する乗客と一緒に電車を降りる際、あの女子高生二人の会話が聞こえた、完全に僕のことを吸血鬼と思ってるらしかった。
ホームに下りた僕は他の乗客と一緒に歩いて改札口へと向かう、背後で電車のドアが閉まる音が聞こえ、電車が動き出すと視界の端にこちら側の窓から僕を見るあの女子高生二人が一瞬見えた。

「・・・なんだよ吸血鬼って!ふざけんな!」

ガンッ!

つい魔が差して怒りの感情の矛先としてホームの自動販売機の横に置かれたゴミ箱を思わず蹴るってしまう。

ガシャン!ガラガラガラガラガラ・・・・・・ッ!

「あ・・・・・」
普通は転倒防止のために地面と金具で固定されてるはずのゴミ箱は盛大に僕の蹴りで横倒しになり、中に入っていた空き缶がけたたましい音を立てて周囲にぶちまけられる。
「ちょっと君、なにしてるの?」
慌てて散らばった空き缶を拾おうとした僕の背後から声が発せられる、振り向いた先には中年の駅員が立って僕を見ていた。
「今の見てたよ、ちょっと駅舎まで来てくれるかな?」
「あ・・・はい・・・」
その日、僕はバイトの面接に盛大に遅れ、当然のように不採用になった。

深夜のコンビニ、時刻は深夜2時過ぎ。
深夜シフトの店員以外は来店客のいない店内で商品の補充や在庫リストの記入をしながら雑談する男女の姿があった。
「え?サエさん織田信長知らないんですか?」
陳列棚に袋菓子を並べる作業の手を止めて胸に「水瀬」と書かれた店員証をつけた青年がレジ台で在庫確認の書類に記入している「大隈」と書かれた店員証をつけた女性に驚いた様子で問いかける。
「だから知らないって。誰それ?」
在庫確認の書類とレシートを見比べながら大隈サエは問いかけに問い返す。
「うわー・・・織田信長ですよ?ほら?小学校の社会科でも普通に出て来る歴史上の超有名人ですよ?」
「私、そういうの詳しくないし。あ!でも魚のことは超くわしいよ?」
レシートと書類の確認が終わって包帯だらけの手でそれらをまとめながら彼女は自慢げに自分の得意分野を彼に主張する。
「へー・・・サラッと話題変えようとしてますよね?」
スナックの袋を陳列棚に並べながらレジのほうに顔を向けることなく水瀬という名前の青年は
「え?別に・・・そんなことない・・・よ?」
「じゃあ戦国武将の話しましょうよ」
「だから私、そういうの知らないんだって!」
二人がこの来店客のいない暇な深夜一緒に仕事をするようになってからすでに3週間が経とうとしていた。
その間、二人は仕事の合間客の来ない時間帯には雑談をすることが多く、差しさわりのないお互いの日々の出来事などを話したりしていた。
「サエさんってけっこういろいろなこと知りませんよね?」
その雑談でわかったことだが、彼女は日常会話や最近流行なことについては彼がついていけないくらい詳しいのだが、逆に一般常識的なことはゴッソリ知らなかったりする。
そこで今夜は比較的誰でも知ってるであろう歴史上の人物についての話題をしていたのだが、驚くべきことに彼女は彼が挙げる人物すべてを知らなかった。
「でも聖徳太子とは知ってるよ?」
「その違いがわからない」
「ヒント、お札」
「それでか!」
なぜか彼女が妙に偏った人物だけは知ってると思っていたら、どうやらお札に肖像として記されている人物については知っているらしとわかり思わず声を出してしまう。
「はいはい、私は水瀬君みたいに物知りじゃありませんよーだ」
「いや、別に俺も物知りってわけじゃないですけど・・・子供の頃は部屋に引きこもって本ばっか読んでただけで・・・」
彼女の何気ない言葉に彼の中の何がか一瞬触れ、言葉が思わず微妙に言いよどむ
「へー・・・水瀬君って読書家なんだ、私も本読むの好きだよ?」
が、それに彼女が気が付いた様子はなく、二人の雑談はそのまま別の話題へと移り変わる。
「あ、そうなんです?」
「うん、大隈のおじいちゃんに「お前は本を読んで勉強せぇ」って言われたからいろいろ読んだし今も読んでる」
「どんなの読んだんです?オススメとかあったら教えてくださいよ」
「そうだな~・・・まずはド○ゴンボールでしょ?」
「・・・え?」
本・オススメという単語から出てきた題名に彼の口からまず疑問の声が漏れる?てっきり活字本だと思ったらまさかの漫画、しかも超有名少年漫画雑誌の大ヒット作品
「こちら葛○区亀有公園前派出所でしょ?ゴ○ゴでしょ?ジ○ジョでしょ?あぁ○神様でしょ?寄○獣でしょ?他にもいろいろ読んだよ?オススメは○生獣かな?」
そして次々に出てくる共通点がありそうでなさそうなタイトルの数々、そして最後の彼女のオススメ作品に完全に顔をしかめる。
「それ・・・たしかに本ですけど・・・全部漫画ですよね?しかも一部除いて理髪店とかラーメン屋でおなじみな類の・・・」
微妙に店舗によって例外はあるものの、そこにド○ベンとか幽○白書とかを追加すると完全に個人経営の飲食店などの注文した料理を待つ間の暇つぶしに読む備え付けの長編漫画の品揃えのそれだったりする
「うん、漫画面白いよ?」
「ハイハイ、面白い面白い」
青年は再び商品補充の作業に集中することを選択する。
「え?なんかその反応ってすごく傷つくんだけど!?」
「気のせいですよ・・・ほら、仕事しないとまた店長に怒られますよ?」
そんな感じで二人の会話が一区切りついたのを待っていたかのように駐車場に一台のパトカーが駐車し、中から一人の警察官が降りてくる。

ピンポーン

自動ドアが開き、店内に来店客を告げる電子音が鳴る。
「おい!チュパカブラが出たぞ!チュパカブラ!」
「「・・・エ?」」
来店早々深夜のコンビニ全体に響く声で内田裕也巡査23歳の発した某中南米で話題の未確認生物の名前に、二人の「なに言ってんのこの人・・・・」的なニュアンス満載な声が見事に重なった。

  • 世間の対応がいたたまれない序盤の流れだけど、ある意味現実っぽいなと納得してしまう。 そんな事があってもしっかり行動は起こしている前向きな心にまた泣けてくる。 職場環境はおいといて、めぐり合いがあったことにまたほろりとした。 ところでチュパカブラはいずこにぃー?! -- (名無しさん) 2013-07-13 21:19:45
  • 異世界があるといっても大ゲートが繋がる前だと少年のような悲しい境遇もあるだろうと実感します。腐りながらもしっかりと日々を送っているのに安心しました。大ゲートができた今となってはチュパカブラなんて些細な日常のできごとになっていますか? -- (名無しさん) 2014-04-20 20:09:43
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

c 他
+ タグ編集
  • タグ:
  • c 他
最終更新:2012年04月08日 16:19