またひとり、別種の種を回収し我が父の下へ栄誉の帰還を果たした者が現れました。 我が父は、その者の期間を喜ぶことでしょう。
だがしかし、こういう場合、大抵は余計なモノがくっ付いてくるのが常。 実に面倒なことです。
「なぜだ・・・なぜなんだ・・・!」
みっともなく泣き崩れる鬼族が、父の麓に居座っていますね。 種にしか価値がなく、その種も回収できた以上、邪魔でしょうがないのですが・・・困ったものです。
だが、そんな邪魔なモノにも、それなりに利用価値はあるのです。
「そんなに、彼の者を失ったのが悲しいですか?」
「だ、誰だ!」
「ふふ・・・悲しいですか?」
「当り前だろう! オレはアイツを愛していたんだ! アイツも俺を愛していると言ってくれた! なのに何故こんな別れを強いられなきゃならない!」
「ウットオシげふんげふん・・・ではもう一つ、貴方に問いましょう。 彼の者をもう一度その腕に抱くためなら、いかな困難にも立ち向かうという気概は持ち合わせていますか?」
「何だと!?
世界樹に呑み込まれたアイツを救う手だてがあるのか!」
「どうなのですか? 貴方の言う『愛』とやらは、ここでただうずくまって泣き叫ぶためにあるのですか?」
「・・・ああいいだろう! 何であろうと、アイツを取り戻すためならやってやる!」
「そうですか。 ならばこれを貴方に授けましょう」
私はその用無し鬼族に、通事のように、僅かばかりの蓄積情報を乗せた世界樹の実を授けてやることにしました。
「これを持ち、この地より北東にある大いなる森の深淵を目指しなさい。 人数も、装備も、移動手段も、過程も、その一切を問いません」
「・・・やってやる! やってやるぞぉぉぉ!」
本当にヒトという生物は愚かなものです。
「彼の者を父の内より引き出すことが出来る」とも「創生樹に辿り着いた暁には彼の者に再度会わせる」とも言っていないのに、早合点して引き受けようとは。
まぁおかげで無駄な手管を使うまでも無いので助かるのですが。
さて・・・これでまた創生の森も栄養補給と新種の対外実働の試行がわずかながら出来ることでしょう。 父共々、雄々しく育っていただきたいものです。
この手の所作位にしか役に立たない程度の種に許された数少ない使い道として、精々頑張ってもらうとしましょう。
また性懲りもなく、栄誉の帰還を果たした者を追って、愚か者がやって来ました。
「大いなる世界樹よ! なぜこのような仕打ちを我らに与えるのか?」
「ヤカマシげふんげふん・・・神の決定に抗うと言うのですか?」
「私たちの間の絆は、例え神であろうと断ち切ることなど出来ない!」
たかが被造物の分際で、随分と態度の大きい狐人です。 まぁ吼えるしか能が無く種にしか価値の無い存在なので仕方ないのですが。
「では、貴方がいうその『絆』とやら、試させていただきましょう」
「試す、だと? 誰だかは知らんが、神を気取るつもりか貴様!」
「私としては、貴方がここでけたたましく騒ぐことが『絆』とやらの証明だとしても一向に構わないのですが」
「随分と癪に障る言い方をしてくれる! 仙術の総てを以て世界樹を燃やしてやっても良いのだぞ!」
「愚かしいことを言うものですね。 尤も、貴方如きの仙術では枝葉を焼くことすら叶わないでしょうが」
「貴様ァーーーーーーーー!!」
本当に騒ぐことしか出来ない下賤の者には困ったものです。 獣神の神力を僅かにも宿す特例種だとしても、取り込む価値も無いというのは、やはりこういう下等な思考言動にもあるのでしょう。
「騒がしいだけの下等種は不要。 疾く去れ」
私の神気《オーラ》を叩き付けてやれば、喧しい狐人は瞬く間に泡を吹き、白目を向き、痙攣を起こし、やがて絶命に至る。
「下等種でも、栄養くらいの役には立つでしょう。 むしろ栄養にもならなければ本当に存在する価値も無いのですが」
埋める作業は樹獣に任せておけば良いでしょう。
栄誉の帰還を果たす者が雌型である場合、かなりの頻度で愚か者が帰還の旅路に付いて回るようです。
こちらとしては、幻影を見せるにも、前後不覚に陥らせるにも、父達への栄養と種族発展への寄与にも使える便利な愚か者どもが勝手に集まってくれるというのはありがたいことです。
言葉を尽くさずとも、軽く期待を仄めかせるような言動をしてやるだけで、ある者は我が父への登坂を試みて半ばで倒れ、ある者は創生の森へ踏み込み樹龍や戦闘獣の糧となり、ある者は終末の荒野へ繰り出し破滅獣の餌となる。
己の分を弁えず、不可能を不可能と理解せず、ありもしない希望に縋り付くことに疑念を抱くことも無い。 実に利用しやすいことこの上なく、しかも正否を問わずこちらに損失がないという位の役には立ってくれるのはいいことです。
太陽神に使える盟友は「黒本を見て侯爵から源氏を盗むようなものですか」と例えていましたが・・・きっと正鵠を射ているのでしょうが、盟友の言動は最近特に異界に歌舞れていて、理解し辛いことがあるのが困りものです。
それにしても困りました。
創生の森からの便りが届き、「双方が持つ内包情報の混合を行い、さらなる種の発展を目指したい」と言うのです。
父はたいそう乗り気で、頼りと共に受け取った創生の実を取り込み新たなる創造への意欲を見せる一方で、蓄積した情報を多量に含んだ世界樹の実を生み出しましたお授けいただきましたが・・・。
「困りましたね。 これを確実に創生樹へ持ち運ぶとなると、いつもの有象無象では分不相応なのは明白。 どうしましょうか・・・?」
思案を巡らせたところで、妙案が浮かびました。
こういう煩わしいけども完遂を求められる雑事を喜んで引き受けてくれる存在が砂漠にいましたね、そう言えば。
では、父に許しを頂いて、砂漠へと向かうことにしましょう。
久しぶりのお出かけです。 帰りには盟友に会いに行くことにしましょう。
- 何という非情。しかしこの冷静で揺るぎない冷徹がいるからこその世界樹は目的へ進んでいるのではないかとも思えました。世界樹は座するだけの神なのかどうかが気になりますね -- (名無しさん) 2014-05-30 02:00:48
最終更新:2014年05月30日 01:58