パチパチと音がある。話し声がある。
オレンジ色が夜闇を抉じ開けている。
そこには焚き火があり、古木が倒れていた。
古木に腰掛ける二つの影があり、一つは蛇人であり一つは人間であった。
「──ということがあったのだよ」
「ほう、そんなことが」
火を棒でいじりながら、蛇人がやくたいもないことを垂れ流す。
それに、人間が適当に相槌を打つ。
静かに続くこの応酬をキュイキュイという泣き声が遮った。
「蛙……?」
「ああ、蛙さ」
疑問符が伴ったのは、その蛙が二足で歩いていたからである。
肌の色は赤茶、いやにツヤツヤとしている。
大きさはガマガエルと変わらない。
焚き火に近付きながら、キュイキュイと鳴き続けている。
「なんて言ってるんだか、わからん」
こぼれた言葉に、蛇人が答える。
「獣の言葉がわかるものかよ」
「……小人ではなかったんだな」
「ハハハ」
蛇人は軽く笑った。
「こいつは歩蛙という。まぁ、そのままの名前さ」
焚き火のまわりを歩む蛙に、二人の視線が集まる。
「見てのとおりなのよ、火に集う性質がある。羽虫やヒトと同じに」
蛙が足元に来ると、蛇人はドンと強く足を鳴らす。
──驚くほど高く、蛙が飛び上がった。
頂点に達し落ちる蛙を、蛇人が掴み取る。
「そして、よく跳ねるのよ」
蛇人はそう言うと、蛙を火で炙り丸呑みにした。
人間が空を仰ぎ見た。体重の移動に古木がきしいだ。こちらをじっと覗き込む星々を覗き返す。
「──蛙を……、食うんだな」
「ああ。そちらの世界では食らわないのかな?」
「世界……か。食わないこともないな。俺は、食ったことはないが」
「そうか。次に蛙が来たら、分けてあげようとも」
「鳥肉に似た味と聞いたことがあるが……」
「ふむ…………」
焚き火から、パチンと一際大きく弾けた音がした。
「どうした?」
「そういえばだが、鳥を食らった記憶がない」
「鳥肉は嫌われている、とかか?」
「そうではないさ。ただの、偶然よ。私自身でも不思議だがね」
蛇人もまた夜空を仰いだ。
「生まれてから、不作を知らなかった。蛙、魚、イタチが溢れるほど捕れる。鳥か、」
「鳥は、少ないのか」
「気にしたこともなかった」
「…………」
「鳥を捕ってはくれないかな?」
「すまんが、鳥の捕り方を知らないんだ」
「…………そうか」
焚き火は変わらずに燃えている。
- この妙な間と「え?そうなの?」とお互いが心の中で思ってそうな手探りの会話が交流の第一歩という雰囲気が出ている。 鳥肉を食べさせたらどんな感想が出るだろう? -- (名無しさん) 2013-07-03 00:56:00
- ただ異世界では捕食するのに簡単な動物が歩蛙だったという話なれど地球と異世界は見た目は違えど根幹は同じと見せ付けるような凄味を感じました -- (名無しさん) 2014-09-07 20:47:29
最終更新:2013年07月03日 00:53