あらすじ
『彼女の名は、芦原瑠奈《あしはら るな》。
ただでさえ目立つ金髪碧眼の顔立ちに、魔眼だと言い張る充血した赤い左目を患う中二病患者である。
伝説の魔導書をその手に携え、世界征服を企てる魔女の生まれ変わりとして……』
「アンタいい加減なこと言ってると燃やすよ?」
『そしてこういうジョークが分からない奴でもある。
……おいやめろ。未成年がジッポライターなんて携帯するものでは――熱っ!』
【芦原瑠奈とカラス】
十津那学園の図書倉庫で見つけた躍書に、悪仙を封じろという難題を押し付けられてから早一週間。
その間、瑠奈は躍書の口調を整え、神戸ポートアイランドを散策し、異世界との繋がりの説明に翻弄された。
悪仙などどこへやら。未曽有の危機が十津那を襲うかと思えば、いたって平和のままだった。
午前の授業でありながら、すでに机に倒れこむような姿勢を取る瑠奈。
慣れない仕事ですり減った思考と体力で、学業になど集中できるわけもない。
休日前の学校なら尚更であり、気持ちはとうに上の空である。
そして今、いかに授業を抜け出すかの方に瑠奈の思考は注がれていた。
そんな考えを察してか、教壇からは見えないよう教科書の中で広げてある躍書に文字が浮かび上がる。
『瑠奈。学生としての領分は勉学にある。しっかりと授業を受けろ』
「集中できない原因を作ったアンタが言うなっつーの」
瑠奈が小声でボソボソと本に向かって呟く。
「っていうかさ、こんなに見つからないとか大丈夫なわけ? 相手は悪事を働いた仙人どもなんでしょ。
まさかとは思うけど、もうこの辺にはいないんじゃないの」
『その点なら問題は無い。奴らの肉体はすでに朽ち果て、今や神力によって躍字として形を保っているだけだ。
ゆえにその力の及ばぬ範囲に出た途端、躍字としての意味性質を失い勝手に自壊する』
「具体的にその範囲ってどこらへんよ」
『それなりに広範囲ではあるが、このポートアイランド一帯およびその周辺といった所だろうか。
何か行動を起こせば人目には付くだろうし、そこから噂話として我々の耳にも入るやもしれん。
奴らとて迂闊には事を起こせんのだよ』
すでに奴らは罠にかかっている。動けば察知される、かと言って脱出は出来ない蜘蛛の巣に。
この躍書が悠々と構えていられる理由はそこにある。
「アタシらが探すより、あちらさんが動くのを待った方が吉かしらねー」
『それも一つの手だろう。そういうわけで、安心して学業に励め』
「アタシ勉強って大っ嫌いなのよねー」
教壇に立つ教師がふいに瑠奈の方へ視線を向ける。その気配に気づき、こっそりと躍書を机の中に隠す瑠奈。
「芦原ー、目が痛いのは分かるが静かにしろー」
「センセー、保健室行ってもいいっすかー」
「あー……しょうがない。誰か連れて行ってやれ」
「ひとりで大丈夫でーっす」
自前の紫の肩掛けバッグに教科書と机の中のものを放り込み、スタコラと逃げるように教室を後にする瑠奈。
躍書と共有し赤くなった左目を怪我だと偽り、さも当然のように教室を抜け出る。当然行先は保健室ではない。
時刻は太陽が高く昇りきるより一時間半ほど前。お腹もちょっとだけ空いてきていた。
「うーっし、またカフェでも行ってまったりしてよっと」
足取り軽やかに学園の入り口に向かった瑠奈を、校門で一羽の黒いカラスが待ち構えていた。
じっと瑠奈の方を見つめるカラスをしり目に門を抜け、駅の方面へと足を進める。
「何あのカラス。気持ち悪」
ぼそりと呟いてその場を去る瑠奈。
その後ろ姿を見送るカラスの目は赤く、その中で文字とも模様とも取れぬ何かがうごめいていた。
【但し書き】
本作品における設定は多分に独自解釈を用いております。
また作品内に登場するキャラのシェアに関しては、ご自由にお使い下さい設定となっております。
※ご指摘等あれば、下記コメント欄よりどうぞ。
- 悪仙と躍字など異世界の要素がどれくらい地球で能力を発揮できるのかは色々考えるポイント。 ポートアイランドはやっぱり特殊な舞台ということで色んな事が展開できそうだ -- (名無しさん) 2013-04-27 04:56:26
- つかみの一話ですね。今までとは違う日常に突入した瑠奈に一体どのようなできごとが巻き起こるのか?の前にちゃんと授業は受けたほうがいいと思いました -- (名無しさん) 2014-09-14 18:27:56
最終更新:2012年06月30日 23:17