【じいちゃん!じいちゃん!】

「じーーーーーいーーーーーーーーちゃーーーーーーーん!」

涙混じりの叫び声。その主はノームの少年。名前をノータと言った。

「じいちゃん!じいちゃん!たいへんたいへん!助けてよ!」

「ふぉっふぉっふぉ。そんなに慌ててどうしたよ、我が孫ノータ」

「ジャイオと決闘しなきゃなんないんだよ!でも絶対勝てないんだ!」

「決闘か……懐かしいのう……。そう、あれは140年ほど前のことじゃったか……」

「じいちゃん!じいちゃん!思い出話はあとで聞くからさ!10分でわかる超喧嘩殺法を教えてくれよ!」

「ふぉっふぉっふぉ。して、なぜ決闘ということになったのかのう?ノータは体力はないじゃろうに」

「じいちゃん!じいちゃん!愛のためなら!男は立ち上がるしかないのさ!シズィーが勝った方に手作り菓子をくれるんだよ!」

「ふぉっふぉっふぉ。シズィーちゃんは相変わらずじゃのう……」

「じいちゃん!じいちゃん!分かっただろう!5秒でわかる超絶暗殺拳を教えてくれよ!」

「ふむむむ。よしよし、じいちゃんに任せんしゃい!」

取り出したるは四角い箱。

「じいちゃん!じいちゃん!その箱なんだい!?角で殴りつければいいのかい!?」

「ふぉっふぉっふぉ。これは禁具庫に繋がっていてるんじゃよ。鍛冶神の素敵アイテムにかかれば、ジャイオ君なんてちょちょいのちょいじゃわい」

「じいちゃん!じいちゃん!それヤバくね!犯罪じゃね!?」

「ふぉっふぉっふぉ。大丈夫じゃよ、儂が取り締まるほうじゃからのぅ。儂の法典によると、孫がかわいいなら無罪じゃよ」

「じいちゃん!じいちゃん!それってケンリョクのランヨーってやつだろ!?」

「おうおう。難しい言葉を知っていて、いい子じゃのう。そのとおりじゃ、ノータ。権力は濫用してこそなのじゃよ」

「じいちゃん!じいちゃん!よくわかんないけど、じいちゃんかっこいー!」

「ふぉっふぉっふぉっ!褒めるでない褒めるでない。よしよし、素敵アイテムを今だしてやるからのぅ」

四角い箱より取り出したるは、黒い棒。

「じいちゃん!じいちゃん!その棒は何なんだい!」

「ふぉっふぉっふぉっ。轟天暴じゃよ。これを一降りすれば、天地が裂けるとか裂けないとか。ジャイオ君も一撃必殺じゃよ」

「じいちゃん!じいちゃん!オーバーキルだよ!世界を道連れに滅ぼすべき敵をもった覚えなんてないよ!」

「ふぉっふぉっふぉ。わがままじゃのう。しかし、孫のわがままに振り回されるのは心地よいのぅ」

また四角い箱から取り出したるは、鏡貼りの棺桶。

「じいちゃん!じいちゃん!何なんだいそれは!」

「ふぉっふぉっふぉ。万仙運といってのう。この中に入ればノータが一万人に増えるとか増えないとか。戦いは数じゃからのぅ」

「じいちゃん!じいちゃん!ジャイオ軍なんてないよ!ジャイオは個人だよ!じいちゃん!」

「そうかそうか……。残念じゃのう……。見渡す限りのかわいい孫、見たかったのぅ……」

またもや四角い箱に手を入れて取り出したるは、水色の靴。

「じいちゃん!じいちゃん!その靴はいったいなんなんだい!?」

「ふぉっふぉっふぉ。これはのぅ、光蹴道といってのぅ。多段ジャンプをすることが出来るとか出来ないとか」

「じいちゃん!じいちゃん!いきなりスケールダウンだ!だけどそれがいい!これしかないよ!」

「おや?これが選ばれるとはおもっては思わなかったのう。本当にいいのかのぅ?」

「じいちゃん!じいちゃん!ありがとう!そろそろ時間だからもう行くよ!」

「ふぉっふぉっふぉ。気張るんじゃぞー」





荒野に風が吹く。
憎いほどの晴天がジリジリと大地を焼いていた。
大気が興奮に揺れる。
この血闘に滾るギャラリーの鼓動が世界をざわめかせていた。

「今のアタシは静寂を好むわよ!」

唐突に、鋭く高い声が喧噪を切り裂いた。
一瞬で静寂が生まれ、すべての視線が一点に集中する。
小高い台に、一人雄々しく立つものがいる。
マントをスカートを、風にはためかせている。
不敵な表情で睥睨する少女こそ、此度の決闘の主催者、シズィーである。

「いい子ね、みんな。褒めてあげるわ。喜びなさい」

歓声があがった。
そしてシズィーが手を振り、また静寂。

「ねぇ、みんな。 喧嘩って、暴力って下らないわよね? 造り手たるノームに相応しくないわよね? ええ、野蛮だわ」

────そーだそーだそのとーり!野蛮だ!野蛮だ!暴力野郎はぶっころせー!────
シズィーが促すと、ギャラリーから罵声が次々にあがる。

シズィーが懐から小さな袋を取り出した。

「しかも、その原因がこの小さなお菓子。バカバカしいったらありゃしないわ」

────そーだそーだそのとーり!バカだ!バカだ!バカだ!────
またもやギャラリーが沸く。

「で、みんなどう思う?そのバカのことをどう思う?」

一拍。

────最高!好きだ!最高!愛してる!イカしてるぜ!最高だ!────
歓声があがった!

「そうね!アタシも、そんなバカ野郎が大好きよ!さぁ、歓声をあげて出迎えなさい!最高峰のバカ二人の登場よ!」

────ワアアアァァァァァアアアア!────
止まない歓声の中、天からかすかな口笛が降ってきた。
鳥か?グライフリッターか?いや、ノータだ!バカ野郎だ!

軽やかに、踊るように天から現れたのはノータだ。
空に溶け込むな水色の靴が美しい。

────ワアアアァァァァァアアアア!────
止まない歓声の中、地の底から轟音が響く。
地震か?タイタンか?いや、ジャイオだ!バカ野郎だ!

拳を突き出し地中より現れたのはジャイオだ。
岩石を押し込めたような巨躯が恐ろしい。





「ずいぶん鍛え直したな……」
ノータは呟いた。
そりゃ呟きたくもなる。
だってほんの数時間前までは同じくらいの小人だったのに。
今やオーガよりも大きいのだから。
平静を装ってるが内心ビクビクだ。
(轟天暴もってくりゃ良かったよ、じいちゃん)

「ふん、一時間で出来る超最強喧嘩術の成果だ。お前こそ、面白いおもちゃを手に入れたようだな」
ジャイオは呟いた。
そりゃ呟きたくもなる。
だって空を歩いてきたとか頭が狂ったとしか思えない。
明らかに鍛冶神のアイテムである。何が起こるかわからない。
平静を装っているが内心ビクビクだ。
(破壊光線を遠慮するんじゃなかったよ、じいちゃん)


シズィーは二人の様子を見渡し、感極まった様子で告げる。

「刮目して見なさい!この千年において最高峰の!決闘の始まりよ!」

────ワアアアァァァァァアアアア!────
大歓声である。

そして、一転して舞台は静寂であり、ギャラリーもいつしかその緊張感にのまれていた。
一人の観客がつばを飲もうとしてためらった。
喉を鳴らすことさえ、許されない雰囲気であったのだ。


ノータは焼き付くような緊張感の中、微動だにせずジャイオを睨んでいる。
(こわいこわいこわい。あんなんで殴られたら死んでしまう!)


ジャイオは肌がひりつく緊張感の中、微動だにせずノータを睨んでいる。
(こわいこわいこわい。何が起こるかわからねえぜ…!)


そして、しばしの時が流れる───
心身が削られる。
──ドサリ
先に倒れたのは、ジャイオである。ああ、もとよりあの筋肉を維持するのは無茶があったのだ。
ジャイオの体はみるみる縮み、もとの大きさへと戻っていった。
続いてノータが倒れる。
ノータを持ち上げていた緊張の糸が千切れたのだ。

シズィが宣言する。
「勝者、ノータ……!ああ、三陸に轟く名勝負!星月日さえ涙するわ!みんな、勝者も敗者も最大に讃えなさい!」


────ワアアアァァァァァアアアア!────
観客は興奮に包まれた。止まない歓声が轟く。






ところで、血もぶつかりあいもないというのに、このノームの子供たちは何故盛り上がっているのだろうか?
そうだ、実のところ決闘がいかなるものかよくわかっていないのである。
なんかすごい登場してきた。なんかシズィがすごいこと言ってる。なんかみんな騒いでる。なんかすごいことが起こったに違いない。
とまあ、こういうわけだ。
後ろに並んでるノームに至っては何一つ目にしてないというのにノリと勢いだけで死ぬほど興奮していた。
今日もシズィーと愉快な仲間たちは、それなりに呑気で平和な一日を送っている。


  • 危険な大人の玩具がごろごろ眠っているのかクルスベルグ! -- (名無しさん) 2013-11-19 23:37:07
  • 異世界でもやはり子供は子供らしいのとじいちゃんのノリのよさがなごみます。実際に効果の出る秘密道具でどうなることと思いましたがいいオチでした -- (名無しさん) 2014-09-28 17:21:46
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最終更新:2013年11月19日 23:36