【「あなたはだれですか?」「わたしはホモ・サピエンスです」】

さて諸君。
諸君は当然、十一門世界の事は存じているかと思う。
その世界の事で、諸君はこう疑問に思った事は無いだろうか。
何故、空想の産物であったエルフやドワーフが実在したのか、と。
おっと。若者には意外だったかもしれないが、元々それらの名は空想上の存在の名だったのだ。
エルフやドワーフ、ノームやケンタウロスはヨーロッパの神話や民話に登場するものだ。
鬼や龍は中国や日本の神話や民話に登場する。
ホビットにいたっては、20世紀の小説家によって生み出された名だ。
では何故それに該当する種族が十一門世界に実在したのだろうか。

ある学者はこう考えた。
人類の中には特別な霊力を持つ者がおり、彼らの存在をその力で感知したのだ、と。

またある学者はこう考えた。
我々がその存在を強く信じたが故に、神が彼らを作りたもうたのだ、と。

ある学者はこう考えた。
かつて小ゲートが開いた際に、彼らの姿や名を克明に記録し語り継いできたのだ、と。

またある学者はこう考えた。
天文学的確率によって、偶然にも姿と名が一致したのだ、と。

諸君もだんだんと混乱してきた様子だね。
ここから見ると困惑した表情がありありと見えるよ。
それでは一体、何が真実なのだろうか。
その前に一つ質問をしていいだろうか。
諸君の中に、親族や自分の名が「ホモ・サピエンス」という人はいるだろうか。
あるいは、「あなた達は何という種族ですか?」という問いに対して
迷わずに「ホモ・サピエンスです」と答える者は居るだろうか。
まあ、今でこそ十一門の人々が地球で暮らす世の中になり、そう答える者もいるかもしれない。
だが、門が開いた20余年前には、そんな人間はほとんどいなかったのだ。
もうおわかりかと思うが、それは十一門世界の人々も一緒なのだ。
「あなた達は何ですか?」と問われて、生物学的な名称を答える者など居やしないのだ。
言うまでも無く彼ら彼女らは、自らの国の名や部族の名を答えたものだ。
だから、門の向こうに調査に渡った人々は、当初からその名で記録し続けたのだ。
だが、彼らが映像を持ち帰って地球人に見せた時に、まったくそれとは異なる現象が起こった。
「ああ、異世界にはエルフが実在する」「向こうにはホビットが本当に居たんだ」とね。
そう。十一門世界の人々をエルフやドワーフ、ホビットと呼んでいるのは、地球人なのだ。
彼らは自らエルフやドワーフと名乗ったわけでは無かったのだよ。
そんな単純な歴史的事実を忘れて、学者たちは持論をこねくり回しているのだ。
何とも滑稽な話だね。

滑稽ついでに話を2つ披露しよう。
スラヴィアンの事を執拗にアンデッドと呼称して、世間の誰にも賛同されていない学者がいた。
またそれに懲りて、マセ・バズーシアンと呼称して、やはり世間の誰にも賛同されていない学者がいる。
どこに居るかって?
諸君の目の前だ。


  • 存在が先か名前が先か… 深い! -- (名無しさん) 2012-08-12 19:38:43
  • 世界同士の融和が進むと何の違和感も無しに誰とも呼び合うようになるんだろうか -- (としあき) 2012-08-14 09:02:38
  • 異世界だと地球みたいに住民が全部が全部人種把握できてなさそうだし「人間」と呼んでくることはすくなさそう。 あくまで名前でその次に見た目で呼ばれるとかさ -- (名無しさん) 2012-08-21 02:21:06
  • 自説は学者の魂でもあるような。地球と異世界の住む種族の数や違いが生んできた他人と自分に持つ観念の違いがはっきり分かる話でした -- (名無しさん) 2014-11-16 19:01:46
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

タグ:

d
+ タグ編集
  • タグ:
  • d

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2014年08月31日 01:48