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【秋の大運動祭:棒倒せ】

「午後からはクラス対抗種目が始まります。
種目名“棒倒せ”、赤は山之上校二年虎組、白は海之前校二年鮫組です」
どっと歓声があがる観客席は第一グラウンドを囲む席段、年も組も校も何も境界線の無い自由席。
そして隣には父兄含め一般来客席が連なる。
日本に幾つかある異世界特区の“はじまり”であるポートアイランド。
その中央あたりに位置する中央親界公園にて春と秋に行われる十津那学園合同運動祭。
クラスや学年などの全体演目や部活動紹介などで和んだ午前より一転、公園に満ちるド熱気!
何故競技種目は午後にまとめられているのか? その理由は至極単純明快で、
 競技内で脱落者が出てその後のプログラムに支障が出るので
という事である。
「あ~海之前放送部の鴎ちゃんの声、やっぱりいいわー」
棒倒せに参加する生徒が続々入場する列の中で狼少年が総毛震わせる。
「でもペーパーの中身覚えられないから、見たまんましか喋れないんだったか。
いつかペーパーの中に紛れ込んだ文芸部のエロ部誌をそのまま朗読して大騒ぎになったってのは
うち(山之上)にも伝わってきてたよな」
列の中で平平平と続く次に山で飛び出す背丈は、それに見合った頑強な体付きの人間。
ドスンッ!ドスンッッ!!
山の次に巨峰が続く。
「なんでもいいからはやくおわらせよう。 そしてめしにしよう
まっすぐぼうまではしってたいあたりでおわらせよう」
山が見上げないと顎も見えない顔の位置。 目線の腹は既に雷雲の如き唸りをあげている。
おーがのしょくじはいちにちろっかい。
「ハイハイハイハイ! 野良(やり)!廉祓(かどはら)!ヤゴンヌ!余計なお喋りは体力のむだむだむだ!
さっさと入場するする! あとヤゴンヌ、名前呼び難いわよ何とかしなさいよホントにもう」
最後尾より前にはっぱをかけたのは油で揚げた様な癖毛を無数に編み込んで頭皮に定着させている浅黒い少女。
一際前に飛び出す大きな鼻と尖り上がった耳も特徴的だが、
何よりも絵本に出てくる悪い魔女が湛える邪悪な笑みを絶やさないのが目に付くゴブリン

一瞬の静寂。乾いた風が流れる。
凡そ全長200m、全幅50mの楕円の白線の内に両軍三十名と三十名が相揃う。
サイズはそれぞれまちまちであるが全員体操服。 頭部には紅か白の鉢巻。
「直径40cm、全高5m、皮を剥かれ大気と水気に触れて程好く締まった兵庫杉五年モノの棒。
その登頂にある紅白の旗を落とせば勝利となります。
尚、鉢巻を落とす外すなどは即退場となり、組全員が退場になるか相手の棒を折ってしまった際は敗北となります」
「お~?去年とルール変わってんねー?」
「散々ぱら巨体無双のパワー一辺倒競技だったからな。
流石にそればっかりだとつまらないし加減も無いから変更したんだろうさ」
「たいあたりだめ? だめなのか?」
「ふむふむふむ、これはあたいも掴んでない情報だったわ想定外」
「でももう作戦くらいは浮かんでいるんだろ?」
「っとうっぜんっ!」

「やぁつらはきっと初耳であろう。 しぃかし…我は違う!知っていた!」
体操服に何故か陣羽織。 頭部の鉢巻は体表の“ぬめり”で位置保持が危うい鰻人。
前方に側面と並ぶ眼がせわしなくぎょろぎょろ動く。
「知っていたのか級長!? 流石であるな…」
渋い男性の声。 しかし姿は見えない。何処だ。足元だ。
「地浪人(じろうに)君は無理に前に出なくても良いよ?」
腰まである黒髪を頭後ろで結った、見た目でも分かる人間の才女が手を膝に当て屈み
腰の高さにある甲殻獣人の細長い顔を覗き込む。
(たっ、谷間チラっ!? 戦の前の景気付けであるな…)
「処で葉巻(はまき)君、どうやって競技のルールを知ったの?」
「そんな澄んだ目ぇで我を見な… ふん、緑郷(ろくごう)と一緒に印刷所内のデータを監視し続けたのだ。
パンフに競技内容が大まかに書かれているのは通例だからな!知っていたか?!
印刷機器に送られるパンフ内容データを掴んでしまえば ──
「今聞いたよ?」
「級長、俺も今聞いた事実であるな」
鰭の沿え生えるぬるっとした腕を、鈴蟲人の肩に回して大笑いしていた鰻が真っ青になる。元々青いが更に青く。
手段に躍起になり目的を忘れ満足していた事実にがくっと地にへばり付いた葉巻。
それを無機質で体温の感じない複眼でじぃっと見下ろす緑郷。

 ドパパンッッ!!
複射火薬鳴銃が秋空に哭く。
瞬、一斉に両陣営に土埃が舞い上がり、双方の棒が勢い良く起つ。
「当競技では事前に武具の類を全て回収していますので、運営が“危険”と判断する攻撃手段以外は
全て実行可能になっています。
尚、運営が危険と判断した攻撃を行った選手は即退場となります」

『甲冑=防具と判断されたので、参加できません。 観客席で応援に徹する事にします』
「えっ?そうなの?残念ー」
棒倒せの次の参加組の生徒達は、もう既に高揚状態である。

「とっしんとっしんとっしーーんっ!」
一歩一歩はそう早いものではないが、その巨体のせいかヤゴンヌの進撃速度は高速哨戒戦車の如く。
白組の前列を形成し突進してきた狗人の縦列を一切の抵抗も感じさせずに弾き飛ばす。
「で、結局突進させるのかよ。 しっかりした作戦なのか?ワンダバ」
グラウンド中央へと無敵突進が向かう様を後方から、柔軟しながら眺める廉祓がこぼす。
「ヤゴンに複雑な作戦なんか無理無理無理よ。 何も考えずに突っ込ませるのが一番一番!」
聳え立つ棒を背にがっぷり腕を構えるワンダバの眼光は鋭い。
「ひ~る~め~し~!めっしめし~!」
「おいー?それはさっき食ったろ?!」
突進を続ける後ろから追う野良がすかさずツッコむ。
 ── 瞬間
足の生えた岩石が宙を舞う。高々と。
「足元注意、であるな」
球面甲鱗がびっしり生え揃う背を、丸太の様な足が着地するかしないかの絶妙なタイミングで
その爪先に、ちょんと突く様に押し当てた。
普通、考えるとオーガに蹴飛ばされて吹き飛ぶのは小さな獣人が当然なのだろうが、
大地と一体化したかの様な揺ぎ無い構えは、地より1mmも動かずにオーガを空へ飛ばした。
「大地と共に生きた獣人の!全てを弾く盾(カウンター)!」
見事な放物線を描いて相手陣地へと飛んで行くヤゴンヌ。
「ハチマキだー! ハチマキを落とさなけりゃ大丈夫だー!」
野良の必死の声が届いたのか、くるくる回転しながらも額を両手で抑える。
「これぞこれぞ巨人砲丸!」
「いや、唯の偶然だろ」
確かにこのまま相手陣地へと落下すれば大振動に大混乱を引き起こせる。 全くの偶然で。
「すぅー…はぁー…ふぅー…」
「落下予測地点計算終了。 ジャスト貴方の位置です勇牙王(ゆうがお)」
蟲人の的確冷静な瞬算能力にて導き出されたオーガの着弾位置に、深呼吸で立つは男と見間違う背丈の赤鬼。
(柳宮(やなみや)さぁん! 応援!応援してあげて!)
「勇牙王さ~ん、頑張って下さ~い♪」
細身の身体で勢い良く垂直ジャンプ。 両手を振っての声援。
(へっ、へぇそチラぁ!? 我、役得である!)
「愛(あい)!愛(らぶ)!貴女(ゆー)! 俺の魂は、貴女の声で
完全(ふる)情熱(ぼるてーじ)ッ!!」
体操服が身の内より発する衝撃によりひと張り。
続く第二破により襟元袖口胴回りが弾け千切れ飛ぶ。
下着未着用の裸体がはためく体操服より見え隠れするが、その殆どが紅潮する筋肉。
「翔・身・鋼・槍」
鬼の無呼吸内、喉奥から心臓を揺さぶる祝詞。
「そら青(お) くも白(し) 勇魂赤(いさりたまあか)」
合わせて黒髪を風に乗せ、離れた前の勇牙王を視界の中で包む様に、
両の指先で燃える彼女を囲い合の手。
「真鐵電掌(しっでんしょー)ぉぁあっっつ!!!」
掲げた膝を空を裂く勢いで地に打ち下ろしたすぐ後、体が微か浮いた瞬間に逆足が再度地を蹴る。
その間、0.4秒。
アフターバーナー。ソニックブレイク。 瞬時摩擦と空気抵抗の不一致から成る過度上昇が…
要するに、真っ赤な塊が空にブっ飛んでった。
「おでこっ! あちちちちちっ! あっ、はちまき~!」
超温度と共に音速突破した拳がかすめただけで、オーガが叩き落とされる。
合わせて頭部の鉢巻も断裂し燃え散った。

「おいおい、今度はこっちに何か飛んでくるぞ?!」
「アレを倒せば実質相手の直接戦力は削いだも同然同然よ!
あっちもヤゴン倒しゃ勝ったも同然とか思ってるんでしょうけどね…
甘い甘い甘いわ! 自陣にまでは巫女の詞は届かない!」
棒を折ったら負けというのはルールの上での決まりだが、果たして落下してくる彗星にそれが理解できているかは
定かではない。
 ドズムッッ!!
理解できていた様だ。
しかし棒前10mも無い間合い。
「旗ァ…いただきに来たぜーっ!」
「ほらほらほら! やっちゃいなさいよ“野獣戦車”!」
「俺が人間だって事を理解した上での注文か? 流石に午後一で保健室行きとか勘弁願いたい」
着地後に呼吸を整える構えの勇牙王を前に、ファイティングスタイルで臨む廉祓だが
ちょっと無理な試練の様に思えてならない。
「鋼矢(こうや)兄さーん。頑張ってー!」
一年が多く集まっている観客席で、昔ながらの長い学ランを羽織り必死に応援する白肌の鬼人。
長い銀髪は邪魔にならないようにくるり後頭部で丸め留められている。
上は体操服に長ラン。 下は…半スボンである。
「ふぅーぃ… さぁて!やるかオイ!」
赤鬼の構えが変わるのを見て、野獣戦車は更に腰を落とし低く構える。
「負けられない理由が出来てしまったな… 仕方が無い!」

まだまだ熱い本番は始まったばかりだというのにグラウンドは既にクライマックス!
勝つのは赤か?白か? 五体満足で次の競技へ進めるのは何人だ?!


スレで運動会の話があったので、十津那学園の運動祭を想像して一本
お互いにぶつかり合う競技はタダでは済まないッ!

  • 同じ教室の仲間で協力してというのが異世界交流ぽくて楽しい。それぞれの種族の特徴の見せ方も面白い -- (としあき) 2012-10-21 15:52:42
  • それぞれ見せ場を持たせるのが気持ちよい。それぞれの名前も雰囲気が出ている -- (としあき) 2012-10-30 22:48:01
  • 種族入り乱れる中でそれぞれの得意技を出すだけでなく競技として皆一丸となって協力するというのが異世界交流を表していて楽しいですね -- (名無しさん) 2015-03-15 18:19:25
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最終更新:2013年03月26日 00:10