0361:共同戦線~武道家VS能力者~ ◆kOZX7S8gY.




 爆発音が木霊した。ずっと宙を舞っていた繰気弾が、ついに爆ぜたのだ。
 爆ぜた箇所は、地面。ロビンが立っていた地点――つまり、足元だった。

「うっ…………」

 衝撃で投げ出されたロビンは、伏した身体を起こし、周囲を確認する。
 土煙と焼けた木の葉が舞っていた。粉塵が舞う森の中、視界は最悪だった。
 だが愚痴は言っていられない。すぐ近くには殺し屋がいる。仕掛けてくるなら、視界を制限された今が最適――

「っ! "六輪咲き"!」

 警戒していたロビンだからこそ、自らに襲い掛かってきた影にも対処できた。
 即座に"ハナハナの実の能力"を発動。対象に"腕"を生やし、逸早く拘束に成功した。
 かと思われた。

(――――手応えが、ない!!?)
 確かに捉えた桃白白の身体――しかし、絡め取ろうとした四肢が見当たらない。
 ロビンが困惑する内に、捉えた対象は土煙から姿を現す。
「――丸太!?」
 ロビンが桃白白と"錯覚"したそれは、なんてことはない、ただの丸太だった。
 囮――桃白白がかつて戦った敵、シカマルの変わり身の術から学んだ兵法だったのだ。

「惜し――」
 気づいた時。桃白白は。

(敵は――既に背後に――)
 手からこぼれた脇差しを取り戻し。それを構えて。

「――かったなァーーーーッ!!!」
 ロビンに。斬りかかっていた。

「がっ……はっ」
 口から鮮血が零れる。
 腹部に深々と刺さった脇差しは、ロビンの意識を掠め取るように奪っていく。
 その柄を握るのは、憎き仇敵――桃白白。
(私が…………こいつに殺、される……? それ……だけは…………!)
 ロビンは最後の力を振り絞り、桃白白の身体に"ハナ"を咲かせる。
 だがその"腕"に込められた力は弱々しく、桃白白の動きを奪うまでには至らない。

「ふんっ。このくたばりぞこないがァァァ!!」
 突き刺さった脇差しを引き抜き、斜めに袈裟斬りを加える。
 ロビンの身体に入る、新たな亀裂。吹き飛ぶ鮮血は、勝利を確信するには十分な量だった。

 力尽き、倒れるロビン。
 桃白白の身体に生えた"腕"もその姿を消し、完全に沈黙する。

「……ようやく死んだか。随分と手間を取らされたが、これで六十億。やはり世界一の殺し屋の名は揺るがんな」
 自分の仕事内容に満足した桃白白は、ロビンの元を離れる。
 敵はロビン一人ではない。もう一人いる。
 ブチャラティなる異能者。そして叶うなら、ヤムチャも一緒に殺す。そうすれば一気に八十億。
 目論む桃白白は、土煙から抜け出し、次なる獲物の位置を探す。

 そんな殺し屋を出迎えたのは、"二人"の敵だった。

「『スティッキィ・フィンガーズ』!!!」

 ――おそらく桃白白が隙を見せるのを待っていたのだろう。
 ロビンを助けるため、わざわざ標的であるヤムチャを放って駆けつけたブチャラティ。しかし僅かに遅かった。
 入れ違うように土煙から出てきた桃白白。絶好の的だった。
『スティッキィ・フィンガーズ』の攻撃が命中する。
 桃白白の首筋から右脇腹にかけて、"ジッパー"が走る。
「ぬおおおおおお!!!」
 しかし、それを引くまでに至らなかった。
 "ジッパー"の危険性を感じ取った桃白白は反撃の手も引っ込め、全精力を逃走につぎ込んだ。
 おそらく、"ジッパー"は取り付けられただけでは無害。そう考え、ブチャラティを殺すことを後回しにしたのだった。

「おい、無事か桃白白!?」
「ここは一旦引くぞ、亀仙流の小僧!」
 桃白白とヤムチャが合流し、逃走を図る。
 超人的な身のこなしの武道家二人にブチャラティが追いつけるはずもなく、また追いかけようともしなかった。
 こうなってしまっては、一時的とはいえ同盟を結んだ仲間の方が大事である。

「…………逃がさない」

 しかし、もう一人は違った。
 復讐に燃える女――ニコ・ロビンは、桃白白を逃しはしなかった。
 最後の力を振り絞り、桃白白の身体に"腕"を生やす。そしてその手が掴んだものは、ブチャラティが仕掛けた"ジッパー"。
「な、なにぃ!?」
 ニコ・ロビンの手により、桃白白の"ジッパー"が引かれる。分断されたのは、右腕だった。
 取りに戻るわけにも行かず、桃白白はこぼれた右腕を名残惜しそうに見ながら駆けていく。

 取り残された右腕は、ニコ・ロビンの執念の証だった。



 十分な距離を稼ぎ、二人の武道家は木陰で身を休める。
「おのれぬかったわ! あの女、あんなところでイタチの最後っ屁をくらわせてくるとは……」
 右腕を庇いながら憤怒する桃白白。相手が異能者とはいえ、世界一の殺し屋たる彼らしくない失態だった。
「そうカリカリすんなよ。どうせ痛みはないんだろ?」
「馬鹿め。確かに痛みはないが、これでは満足に戦えんではないか。このままでいるわけにはいかん。右腕は必ず取り戻す」
「おいおい! まさかもう一度あいつのところに行くって言うのか!?
 オレはやだね! もうあんな変な力使う奴とは係わり合いになりたくない!!」
 ヤムチャの目的はあくまでも、『悟空に殺せないような弱い者の始末』。
 ブチャラティのような手に余る輩は、他の誰かに任せておけばいい。
「ふん。今さら亀仙流の小僧に助力を求めたりはせん。あの場合は利害が一致したから協力したまでのこと」
「あ、そっか。そうだよな。別にオレとおまえがずっと組んでる必要はないんだよな」
 亀仙流のヤムチャと、鶴仙流の桃白白。本来なら相容れぬ間柄であった二人が手を取り合ったのは、単なる偶然。
 よくよく考えれば、桃白白は優勝を狙っているのだ。協力者を作ること自体が間違っている。

「……なら、今ここでオレがアンタを殺しても文句はないよな」
「――なに?」
 嫌な風が吹いた。ヤムチャが桃白白に殺気を放っているのだ。
「ま、待て。正気か貴様?」
「もちろんマジさ。殺せる時には殺さないとな。オレの目的は人数減らしなんだし」
 冷や汗が出てきた。この男、本気だ。
「よ、よせ、それはマズイ! もう少し考え直せ!」
「なんでだよ。この期に及んで、ちょっと往生際が悪いんじゃないか?」
 ヤムチャの実力は、既に最初の接触時に判明している。
 それでなくとも今の桃白白は片腕。まともにやり合って敵うはずがなかった。

「心配すんな。おまえみたいな悪党でも、一応後で生き返らせてやる。
 クリリンが考えた願いは、『このゲーム自体をなかったことにする』ことだからな」
「生き返らせる? それはまさか、優勝者へのご褒美のことを言っているのか?」
「ご褒美? フリーザたちの言ってた一人蘇生のことか?
 だったら違うぜ。オレが言っているのは、『ドラゴンボールを使って全部なかったことにしてもらう計画』さ」
「ドラゴンボールだと?」
「そうだ。おまえも噂くらいは聞いたことあるだろう? 七つ集めればなんでも願いが叶う玉。
 オレはあれを使って、このゲームをぶっ壊すつもりなのさ!」
 ドラゴンボール――知らないはずがない。
 かつての雇い主だったレッドリボン軍が探し求めていた玉だ。
 桃白白にとっては、孫悟空と出会うことになったきっかけの玉でもあった。

 話によると、ヤムチャは一度このゲームを終わらせた後、
 元の世界でドラゴンボールに願い、このゲームをなかったものにしてもらうつもりらしい。
 だがそれにはピッコロという人物の生存が絶対で、彼が死ぬとドラゴンボールはただの石ころになってしまうとのことだ。
(それを見越しての殺人。やはりこの男も孫悟空の仲間。満足に人も殺せん甘ちゃんか)
 だがそれならそれで、生き残る道はある。

「ならばなおさら、わたしは殺さない方がいい」
「なんでだよ?」
「わたしは世界一の殺し屋だ。
 この世界に来てからも、既に六人の参加者を葬ってきた。人数減らしにはもってこいの人材だと思うが?」
「それはつまり……オレの計画に協力してくれるってことか!?」
「うむ。例によってキャンペーン中のため、報酬は無料だ。おまえは運がいい」
「やっほう!」
 ヤムチャは飛びあがって喜んだ。
 これでまた一歩、計画成功への道が進む。クリリンは死んでしまったが、彼の計画に賛同してくれる人物はまだまだいるのだ。

 手際よく人数減らしを行うため、二人の武道家は進路を別々に取ることにした。
「では、わたしは南、おまえは西だ。参加者を見つけたら即座に抹殺。いいな」
「おお! これで人数減らしもだいぶ楽になるぜ! じゃ、頼んだぞ桃白白!!」
「うむ。この世界一の殺し屋、桃白白に任せなさい」
 桃白白の了解を受け取ると、ヤムチャは意気揚々と西に走り出して行った。

 去っていくヤムチャの背中を見ながら、桃白白はフフフっと笑う。
「馬鹿な男だ。この桃白白様がそんなアホな計画に乗るはずがなかろうが。
 第一、全部なかったことにされては主催者からの報酬がパーになるではないか」
 もちろん、桃白白にヤムチャを協力する意思などない。さっきのは単なるその場凌ぎの方便だ。
 生き残るのはあくまで自分ひとり。その信念は揺るがなかった。
(まずは体力の回復だな。そして、なんとしてもあの男から右腕を取り返す)
 次なる標的はブチャラティ――目標を持った殺し屋は、殺意を滾らせる。



「桃……白白は?」
「……逃げられた。君が切り離した、"右腕"を置いてな」
 もはや虫の息となってしまったロビンと、桃白白の右腕を持ったブチャラティが語り合う。

「そう……わたしは、杏子の仇を討つことができなかったのね……悔しいわ」
「悔しがることはない。君は立派に"目的を果たした"。この"右腕"がなによりの証拠だ」
 桃白白の右腕を示すブチャラティ。これで十分とでも言いたいのだろうか。
 だがロビンにとっては、こんなもので復讐が完遂できたことにはならない。
「……気休めは止してちょうだい。わたしはあの男を殺すことができなかった。
 あの男は、きっとこれからも殺人を繰り返す。杏子の無念は……晴らせていない」
「いや、違う。君の"無念"も、その杏子という少女の"無念"も、すぐに"晴れる"」
「……? どういう……?」
 疑問に思うロビンに向けて、ブチャラティはさらに強調させて、右腕を示した。

「桃白白が置いていったこの"右腕"。首筋から脇腹にかけて、斜めに"ジッパー"が入っている。
 いや、"右腕"と呼ぶには少々面積が大きいな。なにせ右肩や右脇もこの"右腕"に含まれている。
 もはや"右半身"と言っても過言じゃない」

「ブチャラティ……まさかあなた」
 ブチャラティがしつこく翳す右腕を見て、ロビンも気づいた。彼がなにを言いたいのかを。

「これだけ大きな"切断面"だ……実際に切断されたものだとしたら、かなりの出血を及ぼすだろうな。それこそ"死を免れぬほどに"」

 ブチャラティの言葉の意味を確信し、ロビンは安心した表情を浮かべた。
 そして、優しく瞼を閉じ始める。
「……ルフィには迷惑をかけてしまうわね。勝手に船を下りることになってしまって……」
「なんだ? まだ心残りなことがあるのか?」
「いいえ。こちらの話よ」
「そうか」
 これ以上ブチャラティに迷惑はかけられないと、ロビンは自らの口を閉ざした。
 最後に願わくば――ルフィや長鼻くん、紳士さんたちが生き残ってくれますように――

「これを、"ニコ・ロビン"への"弔い"にしよう」

 ブチャラティは桃白白の右腕を頭上に放り投げ、己のスタンド、『スティッキィ・フィンガーズ』を出現させる。
 そしてその拳を、空に舞った"右腕"に向けて――

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ
 アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリィィィィィ!!!」

 粉々に拉げる、桃白白の右腕。無残な姿に変わり、地に落ちる。
 "ジッパー"の跡は、いつの間にか消えていた。

「アリーヴェデルチ(さよならだ)」

 この言葉を、右腕に――
 そして、他ならぬニコ・ロビンに――



「おーい、ブチャラティく~ん!」
 ロビンを埋葬した森林を後にし、ブチャラティはすぐ傍の農村で見知った人物に発見された。
「色々探し回っちゃったよ。このまま見つからないかと思った」
「……大空翼か。おまえのことも雷電から聞いている。相当"クレイジー"な奴らしいが……まさかずっと俺を追ってきたのか?」
「うん! それはそうと、ヤムチャって人はどこに行ったの?」
「ああ、奴なら逃げられた。おそらく追跡はもう無理だろう。雷電やカズマたちのところに戻るぞ」
「そうなのか……せっかくサッカーの魅力について語ってあげようと思ったのに、ちょっと残念だな。
 あ、雷電さんたちと合流するなら東京タワーに行こう。放送が流れる頃には、みんなそこに向かうことになってるから」
 翼はそう言うと、ブチャラティを先導するように走り出した。
 ロビンやヤムチャのことに関しては、今は話すつもりはない。
 このクレイジーボーイ一人に事情を説明したところで、あまり意味はないからだ。
(彼女の悲しみを背負うのは、今は俺一人でいい。それにもうすぐ放送が流れる。読み上げられる名には、きっとあの男の名前も――)



「――ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?」
 長野県の森に、男の断末魔が木霊する。
 その男は、切り落とされた右半身の傷口から鮮血を吹き、悶え苦しんでいる。

 ――この男にもっと苦痛を。

 鮮血の勢いは、途切れることを知らない。
 まるで壊れた蛇口のように暴れ狂い、男から血を絞り出す。

 ――この男に最も醜い最期を。

 清潔な拳法着、チャームポイントの髭とお下げ。全てが血に汚れていく。
 止血がままなる規模ではない。内臓や骨が飛び出しているのだ。止血がどうのこうのという騒ぎではない。

 ――この男に残酷な"死"を。

(馬鹿なっ……なぜ今になって血が噴出す!? あの男の能力は、傷を作らず人体を分断することではなかったのかァ!?)
 男は知らない。"ジッパー"により分断された人体。分断された状態で"ジッパー"が解除されれば、どうなるのか。

(こんな……ところ、で……)
 地獄の苦しみを味わいながら、男は死に絶える。
 森のざわめきが、復讐鬼の呪詛にも思えた。


 ――世界一の殺し屋桃白白、ここに散る。
 ――死因、出血多量によるショック死。





【群馬県・農村/早朝】
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:右腕喪失、全身に無数の裂傷、腹部に軽傷(応急処置済み)
 [道具]:荷物一式×3、千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
     スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険、ミクロバンド@DRAGON BALL
 [思考]1:東京タワーに向かい、雷電たちと合流。
    2:必ず仲間の元へ帰る。
    3:首輪解除手段を探す。
    4:主催者を倒す。

【大空翼@キャプテン翼】
 [状態]:精神的にやはり相当壊れ気味、全身各所に打撲、軽度の火傷
 [装備]:拾った石ころ一つ、承太郎お手製木製サッカーボール
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)、クロロの荷物一式、ボールペン数本 
 [思考]1:東京タワーに向かい、雷電たちと合流。
    2:悟空を見つけ、日向の情報を得る。そしてチームに迎える。
    3:仲間を11人集める。
    4:主催者を倒す。


【長野県・森林/早朝】
【ヤムチャ@DRAGON BALL】
 [状態]:右小指喪失、左耳喪失、左脇腹に創傷(全て治療済み)、左小指に"ジッパー"
     超神水克服(力が限界まで引き出される)
 [装備]:無し
 [道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料、バスケットボール@SLAM DUNK
 [思考]:1.西に向かい、人数減らし。
     2.参加者を減らして皆の役に立つ。
     3.あわよくば優勝して汚名返上。
     4.悟空・ピッコロを探す。
     5.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。


【ニコ・ロビン@ONE PIECE 死亡確認】
【桃白白@DRAGON BALL 死亡確認】
【残り41人】

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0361:共同戦線~武道家VS能力者~ 大空翼 0372:狂わぬ指針が生む出会い
0361:共同戦線~武道家VS能力者~ ブローノ・ブチャラティ 0372:狂わぬ指針が生む出会い
0361:共同戦線~武道家VS能力者~ ヤムチャ 0389:不幸が呼んだ必然の遭遇
0361:共同戦線~武道家VS能力者~ ニコ・ロビン 死亡
0361:共同戦線~武道家VS能力者~ 桃白白 死亡

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最終更新:2024年06月29日 01:12