0372:狂わぬ指針が生む出会い ◆7euNFXayzo




 ――『オラ』、は。



 目に見える全てが黒だった。右を向いても、左を向いてもそれは変わらない。
 夜なのだろうか。それにしたって、この場所はあまりに暗過ぎる。これでは、まるで――
 闇、そのものではないか。

「ようやくお目覚めかい、『オレ』。おっと、最早オレとも違う存在なんだったな。ソンゴクウ、とか言うんだったか?」

 闇が、奇妙に蠢いた。
 『そこ』から現れた男の顔は、灯の存在しないこの空間において、異様にくっきりと悟空の眼へと焼きついた。


 ……オラと、同じ顔だって……?


「何を呆けている? まさか今更、都合よく記憶がありませんで済ませるつもりじゃないだろう。
 そんな真似をしたところで、奴らは許しちゃくれないぜ」

 ――奴ら?



「オレとお前が殺した、あの地球人どもの事さ。ゴクウ」

 ――――――――



 ――あ、あ、あ。

「いやぁ、元々地球人如き、オレ達サイヤ人の敵じゃあないんだが――お前の身体は大したもんだよ。実に楽に殺ることが出来た」

 ――オレ、達?
 ――お前の、身体?
 ――オラの身体を、こいつが使って。オラの身体で、人を、殺したのか? オラの、力が?

「下等生物を蹴散らすのは気分が良いなぁ。サイヤ人の血が騒ぎっ放しで、自分の事ながら参っちまう。お前もそうだろう、なぁ?」

 ――こいつは、何、言ってんだ。
 ――こいつの言ってることは。オラのアニキだとか言ってた、あのラディッツってやつや、ベジータの言ってたことと、おんなじだ。
 ――オラのアニキは、サイヤ人で。オラにも、その血が流れていて。オラの中にも、戦闘民族の、サイヤ人の、血が――


「メシも食ったし、起きたらまた思いっきり暴れようぜ。地球人は皆殺しにする、そうオレと誓っただろう、ゴクウゥ……?」


 もう一人の自分が手を伸ばしてくる。逃れなければ、理性が必死にそう忠告をしている。にも拘らず、身体が言う事を聞かない。
 狂気に満ちた笑顔が見える。『人殺し』の、笑顔が見える。けれど、それは自分自身の顔で。
 この表情で、自分は人を殺してきたのだろうか? これが自分の、本性なのだろうか? これが――オラ、の――?

 『自分』の手が、自分の視界を塞いだ。唯でさえ闇の中にあった世界が、一層その濃度を増して、黒へと包み込まれていく。
 意識の途切れるその間際、誰かの叫びが耳に届いた。聞き覚えのある声だった。
 その瞬間、震えていたのは明らかに自分の喉だったというのに、何故だかそれを、自分の声だと思うことが出来なかった。
 その声も、その声を聞いているこの聴覚も、聴覚を司るこの意識も、何もかもが。
 もう、自分自身だと思えなくなっていた。





「……く、ははっ」

 長かった。あの甘ちゃんの意識の底でずっと止まっていた時間が、ようやくこの手に戻ってきたのだ。
 眠りに就く前までは、悟空の人格をベースに自分の思考が働いていたという状態だったが、今では奴の存在の片鱗も感じない。
 この宇宙最強の肉体が、完全に自分の物になったのだ。いや、取り返した、と言うのが正しいのだろうか。
 地球人の掃討。それこそが、自分達サイヤ人に課せられた使命。その本来の任務を果たす時を、自分はずっと待ち焦がれていた。
 だというのに、『自分』は愚かにも、その地球人と交友関係を持っていたらしい。
 『クリリン』という名前が先の放送で呼ばれた時、既に消えかけていた悟空の意識が、
 大きく揺れ動いたのをカカロットは思い出していた。
 悟空の記憶を辿っていくうちに、その男が地球人であり、また悟空にとっての掛け替えのない親友だったこともその時に知った。
 まったく、『我』ながら吐き気のする話だ。下等生物である地球人に、そこまで『自分』が歩み寄っていたとは。
 最強の戦闘民族である自分が、遥かに能力の劣る地球人などと手を組む必要は無いというのに。

 ――それとも、その程度のことも理解出来ないほど、お前は地球の文化に染まってしまったのか、ソンゴクウ?

「…………」

 試しに呼びかけてはみたが、やはり何も返ってはこなかった。
 孫悟空という名の『地球人』は、完全にこの世界から消え去ったのだと、カカロットはそう、確信した。

 窓の向こうに光が見えた。暫く眠っていた間に、この世界は朝を迎えていたらしい。
 友情マンの姿が見えない。そもそも、ここは一体何処なのだろうか。
 自分が眠りに就いたのは、屋外でのことだった筈だが、いつの間にか自分はベッドの上にいる。
 孫悟空の意識を完全に刈り取るきっかけとなってくれた、あの信頼に足る宇宙人。彼が、ここまで運んでくれたのだろうか。
 流石は『友情』マン。食料まで奪い取った自分にここまでの配慮が出来るとは、大した『友達』だ。
 ならば、自分はその友情に報いなければなるまい。
 空腹も満たし、疲れも癒えた。彼の邪魔になる地球人どもは、この手で殺し尽くしてやるとしよう――





 ……よ、ようやくここまで戻ってきた……
 腹の虫が一向に鳴き止まない。せっかく野草で得られた栄養も、数十分に及ぶ全力疾走のせいですっかり消え失せていた。
 だがもう少しの辛抱だ。この扉を開け、カカロットを起こし、先刻の大声の主を彼に倒してもらえば、晴れて自分の食料も手に入る。
 貧困生活ともようやくお別れだ。溢れんばかりの期待を込めて、友情マンはカカロットを放り込んだ家のドアノブへと手を掛けた。

 その瞬間、目の前のドアが内側から破壊された。

「どあっ!?」

 強烈な衝撃と粉々になった破片をまとめて身体に受けて吹っ飛ばされる。コンクリートの地面に尻餅を搗く羽目になってしまった。
 ド、ドアが壊されてどあっなどという悲鳴を上げてしまうとは……これじゃあ天才マン並のギャグセンスじゃあないかっ!

「――よう友情マン。探しに行く手間が省けたな」
「カ、カカロット君……!?」

 すっかり見通しのよくなった玄関から出てきたのは、放送前に眠りに就いた筈のカカロットだった。眼を覚ましたのか。
 口調に若干の違和感を感じるが、これは彼の中にいた二つの人格が完全に統一されたということなのだろうか。
 どうやら、好戦的な人格の方が肉体を支配したらしい。これは好都合、存分に暴れてもらうとしよう。けど食料は分けてね。

 立ち上がり、ひとまず尻の埃を払う。自然と咳払いが漏れた。相手が誰であろうと尻餅を搗いた姿のまま会話をするのは情けない。

「――僕も、君を起こす手間が省けて良かったよ」
「いたのか? 地球人が?」

 食いついた。心底ホッとしたという表情を取り繕いつつ、内心でほくそ笑む。後は言葉で釣り上げるのみ。

「ついさっき、南の方で大規模な爆発があってね。僕が見つけた人間は、おそらくその戦闘での唯一の生存者だ。
 きっと強い、僕の力では到底太刀打ちできないと思う……力になってくれるかい?」
「強い、か――で、そいつは地球人なんだろうな?」
「ああ。間違いない」

 殆どデタラメだ。けれど、断言しておけば確実にカカロットは動く。そいつと相対させてしまえば、後はどうとでも有耶無耶に出来る。
 そして思った通り、カカロットは満足気に表情を歪めて、自信満々にこう言ってのけた。

「フン……いいだろう、すぐに殺してやる。そいつの居場所は一体どこだ?」
「ここから走って数十分の巨大な街に、一際目立つ白い円状の建物がある。東京ドームというんだけどね。おそらくその辺りさ。
 既に奴はその場を立ち去っているかもしれないが、あれだけの爆発があったんだ。様子を見に現れる他の参加者もいるだろう。
 その時は、そっちを始末してくれればいい」
「東京ドーム、か――案内は任せるが、戦闘の時は下がっていろ。下等生物が幾らいようが、オレ一人で充分だ」
「……そうか、すまない。頼りにしているよ、カカロット君」

 ――これでいい。何もかもが計画通りだ。散々好き放題やってくれた分、しっかりと働いてもらおうじゃないか。
 フフン、ようやく僕にも運が巡ってきたということか? ラッキーマンの代わりに、僕の頭上に幸運の星が輝いていたりして、ね。
 内心でそうして浮かれていると、玄関を出て傍へと歩み寄ってきたカカロットが、不意にこう言った。

「友情マン、お前は面白いな」
「――そうかい?」
「そうさ。人畜無害の弱者を装い、オレに食料を分け与えるその一方で、あくまでも立場はオレと対等であろうとする。
 何らかの自信を持っていなければ出来ないことだ――本当は強いんだろう?」
「……買い被りだよ、それは」

 唐突過ぎるその問いかけに、思わず背筋がヒヤリとする。
 ――バレたのか? そんなバカな、尻尾を出した覚えなどない。
 人格の再統合が成されたとはいえ、僕に対してそこまでの不信感を持つには至っていない筈だ。
 これは単に、サイヤ人の血とかいう、彼が持つ本能がそう思い込んでいるだけなのだろう。笑顔を崩すな、畳み掛けろ。

「僕は弱者さ。けれど、死にたくない。だからこそ、君の力が――『友達』が必要になるんだ。分かるだろう、カカロット君?」
「…………」

 カカロットは無表情で黙っていたが、やがて元通りの獰猛な笑みを浮かべると、軽く鼻を鳴らしてみせた。

「……まあいいさ。お前が楽しい奴だということに、変わりはないんだからな。
 『友達』も、そう、悪くはない――さあ、行こうか」
「――ああ。よろしく頼むよ」

 地面を蹴って、目指すは東京ドーム。『腹が減った』と主張し続ける胃袋達へと鞭打って、友情マンはカカロットを連れ駆け出した。



 ……ふぅ……

 思わず内心で溜息が漏れた。いやまったく、彼との会話は毎度の事ながら心労が大きい。
 一つの悩みをクリアしたと思えば、すぐさま別の悩みが突きつけられる。
 頼り甲斐のある『友達』だが、やはり性格も『友達』を選ぶ上では大切だなと、改めて思った。

 ――『友達』か。

 偽りの友情野郎、いつだか自分のことをそう評していたのは何処のモブキャラだったか。飛田君を治していた辺りのことだったか。
 すっかり、『そこ』まで堕ちてしまったな――と、気が付けば自嘲気味に、笑いが込み上げてきていた。







 主催者が告げた死者達の中に、桃白白の名前があった。ニコ・ロビンの復讐は、ここに完遂されたのだ。
 桃白白が命を落としたことで、残されたヤムチャはどう動くだろうか。
 『スティッキィ・フィンガーズ』の能力で脅しを掛けた際の対応と、奴らの協力体制はあの場限りのものだったであろうことを考えると、
 ロビンのように敵討ちを考えてこちらへ逆襲を仕掛けてくる可能性は薄い。奴の存在は、暫く警戒せずに済みそうだ。
 放送から意識を切り離し、前方へと視線を向けると、先を行く翼の足が止まっているのに気が付いた。
 翼の仲間も、今の放送で呼ばれたのだろうか。一向に動こうとしない背中へ、ブチャラティは静かに声を掛けた。

「――辛いのか、ツバサ」
「……若島津君は」

 サッカーの日本代表選手だという彼の、がっしりとした肩が震えていた。振り向きもせずに、翼は続けた。

「凄いキーパーだったんだ。サッカーの中に空手の技を取り入れた、三角飛びっていう鉄壁のディフェンス技を持っていて……
 石崎君も日向君も、みんな優れたプレーヤーだったんだ。それなのに、みんな……みんな死んでしまったんだ! う、ううっ……」
「――ツバサ」

 大切な者を失った人間に対する適切な言葉など、ブチャラティは知らない。そもそも、適切な答えなど存在しないのだろう。
 弱気の背中へ、感じたことをそのまま投げかけた。

「オレはお前を、少々誤解していたようだ。
 お前は確かに『クレイジー』だが、仲間を尊ぶその思いは本物であり、お前の誇りでもある。
 誇りを持つ者を、オレは決して無碍にはしない。そしてお前には、その誇りを磨いてほしいと思う」
「――『誇り』?」
「そうだ。お前の仲間は、このクソッタレな『ゲーム』に殺された。そしてこの先も『ゲーム』は続く。
 この世界にいるあらゆる連中の誇りを削ぎ落とすまで、この『ゲーム』は終わらない。ツバサ、お前はこの『ゲーム』をどう思う?」
「…………」

 翼がようやく振り向いた。目頭に浮かんでいた涙を手の甲で拭い、力強い眼差しをブチャラティへと向けた。

「……許せないと、思う」
「ベネ(良し)――もう行けるな、ツバサ?」

 また力強く、翼は頷いた。それが合図だった。どちらが先という訳でもなく、二人は再び歩みを進めんと、前へと向き直った。

 ――『意志』の力だな、とブチャラティは思った。
 仲間を失い、自身も傷付いて、それでも尚前へと進もうとする『意志』。それが残っているうちは、まだ人は戦い、抗えるのだと。




「――あれ?」

 移動を再開してから、数十分が経過した頃。翼が再び、唐突にその足を止めた。
 今度は何だ、スタミナ切れか? いや、一流のサッカー選手である翼の方が、自分よりも体力はある筈だ。

「どうした?」
「見えないの? 向こうから……誰か来る」
「――むっ」

 フィールド全体を把握する必要のある『キャプテン』故か、視力は自分よりも上のようだ。真剣な表情で、正面をじっと見据えている。
 東京タワーを目指すブチャラティ達がその時差し掛かっていたのは、埼玉県の某駅前。
 立ち並ぶビルの谷間から、二人を除けば無人の道路に朝日がちらほら差し込んできていた。
 南下する彼らの真正面から向かってくる者がいるというのなら、
 相手は埼玉県の南部、あるいは東京都あたりから移動してきた者だと考えられる。
 ――もしかしたら、あの爆発と関係のある参加者かもしれない。
 放送の直前、『トーキョー』方面で発生した巨大な爆発。如何なる原因でそれが起きたのか推測する術は無かったが、
 『トーキョータワー』がその爆心地の近くなのだと翼から聞かされて以来、ずっと意識し続けていた事項だった。
 これから向かってくる相手がゲームに乗っていない者ならば、詳しい話を聞くことが出来るかもしれない。
 だが、そうでない場合は――最悪の場合、あの爆発を引き起こした元凶である可能性も有り得る。
 気が付けば、ブチャラティの眼にもその人影は認識出来るようになっていた――麦藁帽子を頭に被った、細身の少年。
 『スティッキィ・フィンガーズ』を即座に出せるよう、気を引き締めて待ち構える。はっきりと表情まで見えるようになったその時、

「おぉーい! 君はもしかして、ルフィ君じゃないのかぁーっ!?」

 警戒心のまったく感じられない爽やかな笑みを浮かべた翼が、走ってくる少年へと駆け寄って、あろうことか手を振っていた。
 バカな。『クレイジー』な奴だということは聞いていたが、この行動は無防備に過ぎる。一体何を考えている――!

「ツバサッ! 何をやっているッ!!」
「ブチャラティ君、彼は僕達のチームメイトだよ! 世直しマンの言っていた――」

「どぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおけえぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええッ!!」

 バシィィィィィッ あ~~っとつばさくん ふっとばされたぁ~っ!!

 言葉を続ける前に、翼の身体は猛烈なスピードで突っ込んできた麦藁の少年によって吹っ飛ばされた……恐れていた事がッ!
 ビル街であるというのに、何故だか太陽を背に宙を舞った翼の安否を確認する余裕は無かった。
 暴走機関車を思わせる勢いで、直線上にいるブチャラティまでもをこの少年の体当たりは巻き込もうとしている。
 半歩身体を横に逸らして、思考する。この少年に何があったのかは知らないが、このまま放って走らせておく訳にもいかないだろう。
 とはいえ、適当に足を引っ掛けただけで止まる速度ではない。むしろこちらの足を持っていかれる可能性すらある。と、なれば――

「――出ろ」

 いつでも出せるように準備していた『スタンド』を、伏せの格好ですぐ傍らへと出現させる。
 まともに迎撃するつもりはない。この少年が翼の知る人物だというのなら、必要なのは傷も負わせず、逃しもせずに制止することだ。
 少年が迫る。狙いは一点。『射程距離』まで、3、2、1……今だッ!

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「『スティッキィ・フィンガーズ』ッ! 彼の『足』を止めろッ!」

 体勢を低くして放たれた『スティッキィ・フィンガーズ』の拳が、無我夢中で目の前を駆け抜けようとする少年の両足首を捉える。
 『スタンド』の拳を通して伝わる感触がやけに柔らかいのが気になったが、構わずに『能力』を発動した。

「走れジッパーッ!」

 ブチャラティが命じたのと同時に、少年の足に取り付けられた『ジッパー』が急速に開く。
 足首を完全に一周したその瞬間、足首は完全に少年の身体から切り離されて、地を踏み締めるべき脚力を失った彼は――

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお……おわ、なんだこりゃ!? だあぁっ!」

 顔面からコケた。派手に。


「……まったく、凄まじいな……」

 廃墟、という呼称が最も相応しい光景だった。何一つ命の痕跡がない、瓦礫と灰に埋もれた大地。
 この場所で誰が争って、誰の手によってこの空間が生み出されたというのか。推測出来る材料もまた、そこには存在しなかった。
 ただ一つ、今の彼らにとって重要な事柄は――

「――周囲をあらかた探ってみたが、ネズミの気すら感じ取れないぞ、友情マン。本当にここで地球人を見たのか?」
「既に移動した後だったか……すまない、カカロット君。どうやら君に、無駄足を踏ませてしまったようだ」

 ――殲滅すべき、地球人の姿が見当たらないということ。
 よくよく思い返してみれば、放送直後に聞いたあの絶叫は、放送に対する怒りを純粋に現したものだったように思える。
 親しい者の死を告げられて、じっとしているような人間ならば、そもそもこんな所でいつまでも足を止めている理由などないのだ。
 腹が空きすぎて、そこまで頭が回らなかったな――そんな言い訳をしてみたところで後の祭りだ。う、思い出したらまた腹の虫が。

「――来な、友情マン」

 いつの間にか先を歩いていたカカロットが、振り向きもせずに呼びかけてきた。彼が立っているその場所は、クレーターの、中心地。
 その視線は、草木一つも残っていない抜け殻の地面へと釘付けになっている。言われるがままに歩み寄り、そして、それを見た。

    (  ↑  )

「……これ、は」
「どうやら、完全に無駄足ってわけじゃあなさそうだな――」

 カカロットが、野獣のような笑みをより深くした。




「――事情は理解したつもりだ、モンキー・D・ルフィ」
「だったらこの足、元に戻せよ」
「だが断る」
「…………」

 四肢まで切り離していた数刻前までのことに比べれば、これでもマシになった方だろう――と、ブチャラティは思う。
 この少年は両足の自由が利かなくなった後も、残された両腕を『伸ばす』ことによって小一時間散々暴れ回ったのだから。
 吹っ飛ばされながらも無事だった翼が『世直しマン』という人物の名を出したことで、どうにかその場は収まったが、
 依然としてルフィが『仲間の元へ行く』という態度を崩さない以上、『ジッパー』の効力を解除するわけにはいかない。

「『トーキョータワー』に戻るぞ、ルフィ。ツバサが言うお前の仲間――『ルキア』と『ボンチュー』の二人ならば、
 今頃はカズマ達によって護衛されている筈だ。お前が一人で、合流地点を飛び出してまで会場を探し回る必要はない」
「待てねェ」
「…………」
「もう、目を背けたくねェんだ」

 麦藁帽子の下の双眸が、強烈にブチャラティを射抜いていた。
 睨み付けられている、というのではない。この瞳に宿っているものは、生半可な思いでは、秘められないような――


「……こいつならきっと平気だとか! あいつは強ェから大丈夫だとか!
 そんな思い込みがあったから、おれの知らねェところでみんなは死んじまったんだ!
 あいつらはおれの仲間だって、胸を張って言えるようになるには!! おれがあいつらを守ってやらなきゃいけねェんだッ!!」


 ――『覚悟』だ。


 ルフィの決意は、論理的とは言い難い判断だ。雷電も桑原もれっきとした実力者であり、
 その二人に守られたルキアとボンチューがそう簡単に命を落とすとは考えにくい。
 待ち合わせ場所までも指定して、既にこちらはその地点へと向かっていたところなのだ。
 予定通りに彼らを待ち、安全に合流すればいい――正確な判断力を持った人間ならば、普通はそうするのだろう。
 しかし――

「モンキー・D・ルフィ。『海賊王になる男』だと、そう言ったな」
「ああ。それがどうした」
「――言うだけのことはある、と思ってな。そこにいるツバサ、そしてカズマもそうだったが――お前もまた、
 立派な誇りを持っている者のようだ。仲間を守る、そう断言したお前の顔には『ウソ』が無かった。
 オレは決して、本物を見誤らない――『スティッキィ・フィンガーズ』ッ!」

 『スタンド』へ送るその思念は、ほんの一日前に出会ったジャパニーズ・ヤンキーに対して行ったことと同じ。
 身構えたルフィの右足首に括り付けられた『ジッパー』に、『スティッキィ・フィンガーズ』の指を掛けた。
 空いている方の手で、分断された足先を掴んで、足首へと押し当てる。怪訝そうな表情を浮かべるルフィの見ている前で、命じた。

「閉じろジッパーッ!」

 『スティッキィ・フィンガーズ』が『ジッパー』を滑らせて、双方の間に出来た隙間を完全に縫い合わせる。
 そうして『ジッパー』が掻き消えた時、分かたれた筈の足首は、断面の痕を微塵も残さず元の姿に戻っていた。
 左足にも、まったく同様の動作を遣って退ける。ルフィの身体が五体満足を取り戻すのは、一瞬のことだった。

「――お前の掲げる確かな決意を、オレは尊重するとしよう」

 正しい『覚悟』を押し退けてまで、道を選ぶのが『論理的』だというのなら――そんな『論理』は、クソ喰らえだ。

「……いいヤツだな、お前って」
「――気紛れなだけだ」

 カズマや承太郎辺りがここにいれば、ここぞとばかりに笑われていたかもしれないな――ふと、そんな下らない事を思った。

「――悪いがツバサ、そういう事になった。来た道をわざわざ後戻りすることになるが――ツバサ?」

 それまで黙っていた翼に声を掛けると、彼はこちらへと目もくれず、先刻にルフィが向かってきた、東京の方へと視線を向けていた。
 てっきり話に割り込まないよう黙っていたのだと思っていたが、そういう訳ではなかったらしい。つくづく行動の読めない男だ。
 肩でも揺さぶってやれば気付くだろうかと歩み寄ろうとしたとき、彼の唇が小さく動いた。

「――う君だ」
「何? すまないツバサ、よく聞き取れなかった。何と言ったんだ?」
「悟空君が、いる……」
「――『ゴクウ』だと? それは――」
「何ィ!?」

 何者だ、そう詰め寄ろうとする前に、大きな反応を見せたのはルフィの方だった。
 翼の方へと素早く駆け寄ると、二人して同じ方向を凝視する。会話が成立しそうにない。
 仕方無しに、ブチャラティも彼らの視線が向かう先へと向き直った。
 橙色の胴着を着た黒髪の男と、その横にいるのは――『スタンド』か? 違う、あれは――人間でないことは、間違いないようだが。
 どうなっている? こいつらは、一体――『何』だ?

「――いやがった」

 麦藁帽子の少年にとって、それは全力でブン殴るべき相手。

「――やっと、見つけた」

 稀代のサッカー狂にとって、それは勧誘すべきプレーヤー。

「…………」

 ギャングの幹部の青年にとって、それは警戒すべき参加者。



 そして。



「久しぶり、そして始めましてか――『地球人』ども。会いたかったぜ」

 戦闘民族サイヤ人にとって、彼ら三人の存在は――



「死にてぇのは、どいつだ?」

 ――『餌』だった。




【埼玉県・駅前/朝】
【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:右腕喪失、全身に無数の裂傷、腹部に軽傷(応急処置済み)
 [道具]:荷物一式×3、千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
     スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険、ミクロバンド@DRAGON BALL
 [思考]1:悟空と友情マンを警戒。
    2:必ず仲間の元へ帰る。
    3:首輪解除手段を探す。
    4:主催者を倒す。

【大空翼@キャプテン翼】
 [状態]:精神的にやはり相当壊れ気味、全身各所に打撲、軽度の火傷
 [装備]:拾った石ころ一つ、承太郎お手製木製サッカーボール
 [道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)、クロロの荷物一式、ボールペン数本 
 [思考]1:悟空から、日向の情報を得る。そしてチームに迎える。
    2:ブチャラティ達と再度北上、雷電たちと合流。
    3:仲間を11人集める。
    4:主催者を倒す。

【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:両腕を始め、全身数箇所に火傷
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(食料半日分)
[思考]1、悟空を一発ぶん殴る。
   2、ルキア、ボンチューと合流する為に北へ。
   3、"仲間"を守る為に強くなる。
   4、"仲間"とともに生き残る。
   5、仲間を探す。


【孫悟空(カカロット)@DRAGON BALL】
 [状態]顎骨を負傷(ヒビは入っていない)、出血多量、各部位裂傷(以上応急処置済・戦闘に支障なし)
    全身に軽度の裂傷、カカロットの思考
 [装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@DRAGON BALL
 [道具] 荷物一式(水・半分消費、食料なし)、ボールペン数本、禁鞭@封神演義
 [思考]1、目の前の三人を片付ける。
    2、地球人を全滅させる。 

【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:肉体的・精神的に軽度の疲労、空腹(走り回って結局胃の中はすっからかんになった)
[装備]:遊戯王カード@遊戯王(千本ナイフ、光の封札剣)
   (ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴、は24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(食料なし)、ペドロの荷物一式(食料なし)、勝利マンの荷物一式(食料なし)、青酸カリ
[思考]:1.悟空にブチャラティ達を始末させる。
    2.食材・食料の確保。できれば力づくで奪うような手段は取りたくない。
    3.悟空をサポート、参加者を全滅させる。
    4.最後の一人になる。



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0361:共同戦線~武道家VS能力者~ 大空翼 0383:インフェルノ
0361:共同戦線~武道家VS能力者~ ブローノ・ブチャラティ 0383:インフェルノ
0347:異星人コンビの貧困生活 孫悟空 0383:インフェルノ
0370:歎きの咆哮 友情マン 0383:インフェルノ
0370:歎きの咆哮 モンキー・D・ルフィ 0383:インフェルノ

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最終更新:2024年07月12日 08:43