0357:ニアミスの朝





滋賀県琵琶湖南の森の中、女戦士の眠りを覚ましたのは僅かな光と雀のさえずりだった。
文字通り悪夢の一日目を生き残った津村斗貴子は時計を確認する。休息をとって数時間しか経過していない。
(昂ぶっているのか・・・・フッ、無理も無いか)
核鉄の治癒効果で、脇腹の負傷も完治には至らないがもう痛みは無い。行動を起こすべき刻である。
これから関西方面に打って出るにあたりスカウターを起動させる。アビゲイルの話では参加者の位置、戦闘力が把握できるはずである。
「近辺には反応は無い。少しずつ広げてみるか」
索敵範囲を広げていくと一つの反応がある。かなり大きな反応が北東から向かってくる。
しかも速度と方向から遭遇は必至、戦闘力の数値は・・・・斗貴子を軽く凌駕する!
武器や武装錬金発動の有無を考慮に入れても勝てる見込みは少ない。
(やむをえない、やり過ごす)
武装錬金を発動させ今までいた場所から樹上へと移る。
足跡が途中で消えるため、勘のいい者なら樹上だと看破するだろう。だから偽装を施す。
適当に離れ頭上からは視認しにくい物陰へと飛び降りる。高機動戦闘を得意とするバルキリースカートあっての芸当だ。
物陰に隠れると万一発見された事態に備えバルキリースカートを待機状態にさせておく。ショットガンは嵩張るので繁みに隠す。
だんだんと反応が接近してくる。200、150、100、50――――
草木を掻き分ける音を立てて反応の主の姿を現す。
ズバ抜けた長身と、そして何よりも全身が黒かった。ヘルメット、ボディスーツ、ショルダーガード、ブーツ・・・・恐らく下着も。
特徴のある息遣いを発し、黒尽くめは周辺を捜索する。しかしひび割れた仮面は何も語らない。
斗貴子は息を殺す。唾液を飲むことすら我慢する。可能なら心音さえ止めていただろう。
予想通り黒尽くめは足跡を見つけ樹上を向く。驚異的な跳躍力で樹上へ移るがしばらくして降りてきた。
何も発見できず黒尽くめは南の方角へと消えていく。
スカウターの反応が100メートル離れても斗貴子は動かない。距離が500メートルを超えたのを確認して初めて深呼吸をした。
「あれ程の戦士が周辺には存在しているのか。やはり西を目指して正解だったかも知れないな」
だが気になることもあった。あの黒尽くめが去った方角は愛知県である。運が悪ければアビゲイルやサクラ達と遭遇するだろう。
昨晩サーチした二人の戦闘力ではアビゲイルはともかく、サクラは黒尽くめの足元にも及ばない。
ニアミスを祈る自分にハッとして、自ら戒めに頬を張る。
「何を今更! それは大いに喜ばしい結果ではないか。」
気を取り直して、斗貴子はスカウターで索敵しながら西部へと向かう。
さっそく京都南部に5人、その内特に反応が強いのが3人。いずれも斗貴子と互角かやや上回る。
埋伏の毒――――一瞬卑劣な考えが浮かんだが直ぐに打ち消した。腐っても錬金の戦士としてのプライドは持ち合わせているのだ。
(しばらく様子見、といくか・・・・)

斗貴子が目を覚ます数時間前―――――
闇に生きる者共が山奥のアジトへ帰還したのはまだ朝日が顔を出す前、不快な時間へはまだ十分に時間があった。
東の空が明るかったのは日の出ではなく火事か何かの様である。
吸血鬼二人の帰還を待っていたのは、DIO打倒を目指す少年マミーである。
「やあおはよう、よく眠れたかな?」
「・・・・おかげさんで」
DIOに向かってマミーは皮肉の一つも言ってみる。実はロクに睡眠をとっていないのだ。
DIOらが出かけてから数時間しか経過していないのに加え、
山梨県の方で大規模な戦闘があったらしく、火災による炎がこの場所からでも確認され気が気でなかったのである。
「ところであの黒尽くめ、ウォーズマンだったか? 見えないけどどうしたんだ?」
「ああ、彼には別の任務を与えた。昼間活動できる部下は何かと便利なのでね」

“目的を既に果たした以上長居は無用、日の出までにアジトへと帰還する。”
吸血鬼二人とロボ超人は愛知県と長野県の県境へ到達した。
時を止めるスタンド“ザ・ワールド”に阻まれ追跡者はいない。よほど運が良くなければアジトまで辿り着けないだろう。
「ウォーズマン! AYA! ストップだ」
DIOは配下のロボ超人と吸血少女に声をかけ進行を止める。
「ここまで来れば問題なかろう。さて・・・・まずAYA」
「はい」
AYA―――――人間を止めた少女、東城綾は返事をする。
友人の生血を啜り大分回復したものの、波紋によるものなのか失われた右腕の再生には覚束ない。
「君はこのDIOの勝利のために協力すると申し出た。その代償として私は君の友人、ツカサを蘇生させると約束した。
しかし―――――今の君は弱体化し、どう贔屓目に見てもケンシロウと戦えば十戦中一勝も無理だ」
綾は反論しようとしたが止めた。DIOの指摘は正鵠を得ている。
「そこで、だ。他人の腕を奪いたまえ。そして更なる贄を食らえば再生などどうということは無い。ウォーズマン!」
「ガガ!?」
「女性を招待して差し上げたまえ。15~8歳くらいが望ましい。それと出来れば今後移すべき拠点の候補地もだ」
「・・・・了解シタ」
捜索対象は生きた女性と拠点、ウォーズマンは西の森へと消えていった。もはや正義超人としての面影は見る影も無い。
残された吸血鬼二人はアジトを目指す。来るべき北斗神拳との対決に期待を膨らませて。

日が射してきてからは人っ子ひとりにも出会わない。しかし足跡は続いているのだから誰かしらはこの森に進入しているはずだ。
正義超人であることを止めた黒い悪魔――――ウォーズマンは琵琶湖畔から南下して滋賀県南部の森を捜索していた。
湖のほとりなら水の補給のため人が集まるはず、だが期待は予想以上に汚染された湖と無人の小屋に裏切られた。
小屋の規模からアジト候補には頼りないが無いよりマシだ、一応場所を記憶しておくとする。
だが確かにかつて人がいた気配はあった。不特定者に宛てた手紙がそうである。
慣れない日本語と悪筆のため読みづらかったが、筆者が“アイゼン”なる参加者への注意を促す内容なのはおぼろげながら理解した。
引き続き滋賀県南部を捜索するものの、自分の存在を察してか幾重もの偽装を施して痕跡を散らしてある。
とても短期間で行えるマネではなく、遠距離から視認されたとも思えないから、
相手は生体レーダーの類を所有していると考えるのが自然であろう。
(オンナ・・・・捜索・・・・腕・・・・・危険地帯・・・・ダヴァイ・・・・)
ファイティングコンピューターの電子頭脳内で、ある場所が点滅した。
名古屋市街地、精強な女格闘家をフェイバリット・ホールドで破った地である。
あの時はDIOへの贄を優先して回収しなかった女の両腕が転がっている。時間からして腐敗は進んでいないはずだ。
しかし名古屋までの道中はあのケンシロウに遭遇する可能性が大きい。
戦っても負けることは無いだろうが、こちらも大ダメージは避けられない。
その時は全力で走り抜けばいい。ムリに戦う必要な無い、今は任務が優先である。
目標は女格闘家の両腕の回収、ウォーズマンは一路名古屋を目指し駆けだした。
ウォーズマンの遥か後方、斗貴子は安堵の息をした。

主を失った両腕を得てもウォーズマンの心は躍らない。むしろ不可解な感情に戸惑いを隠せない。
(花・・・・氷ノ精神・・・・否ッッ矛盾ハシナイ!)
草葉の陰にある者に対する行為は戦士としてのそれである。氷の心とは十分両立する。
しかし胸の内のわだかまりは渦巻く。精神的不安定は更に進行する。
ケンシロウとの遭遇は杞憂だった。愛知県に入ってから誰とも遭遇せずに進む。
確認のため昨晩破壊した小屋に向かったが、焦げた建物の残骸があるだけだった。彼らはとっくに移動していたのだ。
念を入れて辺りを捜索すると、小屋から少し離れた所に粗末な墓があった。
墓標名は“西野つかさ”とある。昨晩東城綾が喰らった少女のことだと思い出した。
人間を止めた友人を必死に説得し、それが叶わぬと自らの命をも捨てて止めようとした――――結局無駄骨となってしまったが。
ウォ-ズマンは西野つかさを、ある男と重ねた。
かつて正義超人と呼ばれていたころ、重症の身を省みず自分を庇って敵の手に落ちた友がいた。
彼の真摯な言葉に感動し、暴虐な行いを改め、そして敵に勝利した――――
気がつくと花を一輪摘み墓前に供えている自分がいる。
墓の主とは生前一度会っただけだ。言葉すら交わしていない。しかし――――やらずにはいられない。どうしてかは不明だが。
ただそれだけ、黙祷するわけでも無く花だけを供える。すぐに墓に背を向け名古屋市街地へ向かう。
氷の精神に僅かだが、亀裂の走る音が聞こえた。





【愛知県と長野県の境・山中の廃屋/早朝】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:軽度の疲労
 [装備]:忍具セット(手裏剣×7)@NARUTO
 [道具]:荷物一式(食料の果物を少し消費)
 [思考]:1.ひとまずマミーのいる小屋に帰還。
     2.綾、ウォーズマン、マミーを利用する。

【東城綾@いちご100%】
 [状態]:吸血鬼化、右腕なし、波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた、ちょっとブルー
 [装備]:特になし
 [道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
 [思考]:1.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
     2.DIOに協力する。
     3.真中くんと二人で………

【マミー@世紀末リーダー伝たけし!】
 [状態]:極度の怒り
 [装備]:フリーザ軍戦闘スーツ@DRAGON BALL、手裏剣@NARUTO
 [道具]:荷物一式(食料と水、一食分消費)
 [思考]:1 DIOを殺す。それまでは絶対に死なない。
     2 強者に君臨するため、もっと強くなる。
     3 誰が相手でも殺られる前に殺る。
     4 誰が相手でももう絶対にビビらない。


【滋賀県と京都府の境/早朝】

【津村斗貴子@武装練金】
 [状態]:肉体的・精神的に軽度の疲労、左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました) 核鉄により常時ヒーリング
 [装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッヂ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@DRAGON BALL
 [道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、ショットガン
     真空の斧@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ~べ~、『衝突』@HUNTER×HUNTER、子供用の下着
 [思考] 1:関西、中国地方を中心に人数減らし。
    2:参加者を減らし、ピッコロを優勝させる。
    3:友情マン、吸血鬼を警戒。
    4:もう知り合いには会いたくない。
    5:近くの5人組を警戒。


【愛知県/名古屋市街地/早朝】

【ウォーズマン@キン肉マン】
 [状態]:精神不安定、体力微消耗
 [装備]:燃焼砲@ONE PIECE
 [道具]:荷物一式(マァムのもの)、マァムの両腕
 [思考]:1.DIOに対する恐怖/氷の精神 *
     2.DIOに従う。

* 氷の精神には極小だが亀裂が入っています。

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344:恋する少女は盲目で友達の声も耳に入らないの DIO 377:暗雲に包まれし世界
344:恋する少女は盲目で友達の声も耳に入らないの ウォーズマン 377:暗雲に包まれし世界
344:恋する少女は盲目で友達の声も耳に入らないの 東城綾 377:暗雲に包まれし世界
337:男が壁にぶち当たった時 マミー 377:暗雲に包まれし世界
332:悲しい戦士のギャンブル 津村斗貴子 365:ボケも貫けばつっこみになる

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最終更新:2024年07月12日 20:10