0359:ヒーローになろう ◆bV1oL9nkXc
待ってくれ。
もう少しだけ待ってくれよ。
叫びを無視して鎧を纏った後ろ姿が遠ざかる。
俺は、まだアンタから学びたいことがある。
強くなりたいんだ。
どこまでも強いスーパーヒーローに―――
「おい、起きやがれ
ボンチュー!いつまで寝てんだコラ!」
「ぐ・・・」
野太い声が俺を夢から現実へと引き戻す。
ゆっくりと目を開けると、目の前には人相の悪い顔。
桑原だ。上から覗き込むアングルで老けた顔が瞳に映っている。
俺も人のことは言えないが・・・
ところで、何故俺はうつ伏せで倒れているんだ?
軽く頭を振るが、いまいち記憶がハッキリしない。
体中の痛みが酷く、疲労も圧し掛かってくる。気絶する前、俺は一体何を・・・
・・・そうだ、確か
フレイザードの炎と氷の合成攻撃をまともに―――
「ルキアッ!」
思い出した!ルキアは無事かッ!
急いで飛び起きようとして地面に手を付くと、妙な弾力がある。
手の先を見ると、それは地面ではなくルキアの身体。
そのまま自分の肉体機能を一時停止していると、心臓の鼓動が手の平を伝わってくる。
よかった、何とか生きているようだ。
そしてどうやら今、俺はルキアに覆いかぶさっている状態らし・・・
・・・マズイ。非常にマズイ。
一瞬で体を起こし、急いでルキアから離れる。
手は「俺は無実だ!」を象徴するようにバンザイの姿勢。
「違うぞ誤解だ。これは
フレイザードの攻撃からお前を守ろうとした結果であってだな。
決してやましいことをしようとしたわけじゃないぞやめろ俺を助平と呼ぶな」
俺の流れるような言い訳をルキアは完全無視。
相当怒ってるのだろうかと顔を覗いて見れば、まだ気絶中らしい。
桑原がニヤニヤ笑っている。くそ、チクんじゃねえぞ。
気持ちを落ち着けて周りに気を向けると、承太郎を背負った桑原しか見当たらない。
「
フレイザードの野郎は・・・」
「あのクソ野郎はどうやら逃げやがったみてえだ・・・しぶてえ野郎だぜ」
桑原は舌打ちをしながら罵詈雑言を続ける。
「
ヤムチャの奴とまとめてぶっ殺して、
世直しマンの仇を討ってやらァ!」
ヤムチャ・・・誰だ?
そして今、桑原は何と言った?
追及に言葉を濁す桑原。
「あ、悪ィ。
世直しマンは、もう」
「・・・いや、大体わかる」
夢の中で・・・別れを告げられたからな。
フレイザードを倒さなくてもいいから必ず生き延びろ、か。
悪ィがその約束は守れそうにねえ。
フレイザードや
ピッコロから尻尾を巻いて逃げるなんて論外だ。
辺りを見渡すと地面全体が水浸し。
フレイザードの合成魔法が引き起こした惨状は、その威力をまざまざと見せつける。
しかも合成魔法は成長途中の代物らしく、放っておくと相当ヤバイことになりそうだ。
「・・・とにかく、ここから移動しないとな」
ルキアを安全な場所に移動させるべく、その身体を持ち上げる。
軽い。だが、その身体は傷だらけで痛々しい。
火傷だらけの肌は、どうしてもメグのことを思い出させる。
助けられなかった妹。俺が弱かったせいで助けられなかった妹。
ルキアに、焼け死んだメグの面影を見てしまう。
メグが死んだとき、強くなると誓ったはずだ。
俺は、強くなったんじゃなかったのか?
鬱屈とした気分で気絶中のルキアを背負う。
それからルキアの荷物を持ち上げようとすると、一枚のカードが荷物から抜け落ちた。
拾い上げてみると、それは白い龍のイラストが描かれたカード。
ルキアが使用方法を探していたカードだ。海馬という男によると相当強力な
切り札らしいが・・・
「くそ、せめてこのカードの使い方がわかれば・・・」
このカードの使い方がわかれば『
フレイザードを倒しに行ける』のに。
だが、このカードの使い方がわかる遊戯という男は死んでしまった。
使い方がわからなければ唯の紙。
どうしようもない状況で、歯軋りをしながらカードを見つめる俺に声をかけたのは意外な男。
「ん?そのカード、俺の支給品と同じやつじゃないか?」
気絶している承太郎を背負った桑原だった。
「このカードの使い方を知ってるのか!?」
「ん、ああ。俺のは
友情マンにくれてやったけど、説明書の内容くらいは覚えてらぁ。
確か・・・召喚獣の名前を叫べばいいはずだぜ」
「その方法では何も起こらなかったと言ってたぞ?」
「いや・・・ちょっと待て。確か他にも何かあったような・・・
そうだ、『二十四時間の間で一回しか使えない』って注意書きがあったような気がするなァ」
『二十四時間の間で一回しか使えない』・・・だと?
そんな限定条件が・・・だが、これで疑問が解けた。
フレイザードが、ルキア・海馬との戦闘の直前にカードを使っていたのだろう。
だからカードを使おうとしても発動しなかったのだ。
ルキアがこのカードを拾ったのが朝だから、少なくとも朝には使えるようになる筈。
あと少しでカードは使用可能になる、ということだ。
つまり――これで『
フレイザードを倒しに行ける』状況が整った。
「桑原、頼みがある」
「なんだよ」
俺は『頼み』を口にする。
「俺の代わりにルキアを護ってくれ。俺は
フレイザードを倒しに行く」
その『頼み』に、桑原が呆れたような声を出した。
「ハァ?何ほざいてんだテメエ。イカレたか?なんで俺に任せるんだよ。
護りたい奴は自分で護れ。じゃねえと、後悔するぜ」
正論だ。
だがな、そんなことはわかってんだよ。後悔なら腐る程したさ。
メグの救助を他人に任せた自分を恨まなかった日はない。
しかし、後手に回ることだけは避けなければ。
フレイザード退治を他人に任せて、何かが起こってから後悔することだけはしたくない。
ルキアを直接護ることはできなくなってしまうが、
フレイザードを放置しておくことは危険すぎる。
ルキアも護りたい、
フレイザードも倒したい。
さりとて俺の身体は一つ。
だから・・・・・・
「『青眼の白龍』のカードをお前に預ける。こいつでルキアを護ってくれ」
「おい、お前が持ってくんじゃねえのかよ!?」
違う。
俺は『青眼の白龍』を
フレイザード対策に使う事など欠片も考えてねえ。
このカードはルキアを護る為に使う。
それが、ルキアの傍を離れる俺に出来るせめてものこと。
別れを言うつもりはない。
ルキアの性格上、絶対についてくるだろうからな。
フレイザードとの戦闘にルキアをこれ以上関わらせないことは唯の自己満足。
奴との決着は俺がつけるべきだという身勝手な判断。
これ以上、傷付くルキアは見たくない。
何故か桑原が激昂する。
「真性のバカかお前は!一人で
フレイザードに勝てると思ってんのか!?」
「手応えはあった。奴は重傷だから攻めるなら今しかないんだよ!」
俺は反論するが、相手は全く退く気配を見せない。
「お前もボロボロだろ!」
「刺し違えてでも、倒す」
「こっちの態勢が整ってからでもいいじゃねえか!」
「奴の合成魔法が完成したらお終いだ。その前に決着をつけないとヤバイ。口を出すな!」
「あァ!?フザけんなよテメエ。死ぬこと前提の特攻なんて俺は認めねえぞ!」
「黙れっつってんだろ!お前に認めてもらう必要なんかねぇんだよ!」
「ざっけんな、やんのかコラァ!」
言い争いは熱を帯び、激突寸前。
そんな剣呑とした空気を打ち破ったのは、腹に響く大きな声。
「落ち着かれよ!」
突然目の前に現れた男が持つのは力強い闘気。
逞しい身体に、額には大往生の文字。
男塾三面拳筆頭。中国拳法の達人である雷電その人である。
「ここで争っても何の意味もない。頭を冷やされい!」
凄まじい肺活量で説教する乱入者。
いや、そんなことを言われても・・・
俺はあんたが誰かわからないんだが。
困惑する俺とは対照的に、男と知り合いであるらしい桑原は少し気持ちを落ち着けたようだ。
状況からしてこの男は、承太郎達との話で出てきた雷電という男か。
雷電は俺達に近づくと、いきなり頭を下げた。
「申し訳ない!翼殿を見失ってしまったでござる!」
翼、だと?
そういえばさっきから姿を見ていない。
桑原も不安な顔を隠していないが、こいつは感情を隠さないことなどないだろうな。
不動のまま頭を下げ続ける雷電と、翼の失踪に歯噛みする桑原。
ここで質問して場を動かすのは俺の役目だろう。
話を聞くと、翼はブチャラティという男を追っていったそうだ。
そのブチャラティは、
ヤムチャを追っている。
もう、走り出している。
もう、敵を追っている。
それなのに、俺は何をボヤボヤしているんだ?
また、他人に任せるのか?
嫌だ。もう後悔はしたくない。
正直、
フレイザードに勝てる見込みは少ない。よくても相打ちだろう。
現状は『どうしようもない状況』。
だが、『どうしようもない状況』を打開できる絶対的な存在がいる。
それは、スーパーマン。
世直しマンのようなスーパーヒーロー。
そんなスーパーマンに俺はなりたかった。
どんな状況でもたちどころに解決してしまうヒーローに。
その為にリーダーを目指したが、結局はなれなかった。
その代わりに強くなることはできた。
誰かを護れるくらいに強くなったという自負もある。
たけしのばあちゃんと比べるとまだまだ弱いが、それでも今ならメグを護りきれる。
メグが護れて、ルキアが護れない道理はない。
ただし、
フレイザードの合成魔法は本気でヤバイ雰囲気が漂っている。
『守り』に入るわけにはいかない。
奴を倒せば、ルキアに降りかかる大きな火の粉の一つが排除できる。
例え俺が死ぬことになろうとも。
過ちを繰り返す気はない。
今こそ、スーパーマンに俺はなる。
桑原にルキアとカードを無理矢理押し付け、一歩を踏み出す。
「じゃあ、後は頼んだぜ」
「待てやァ!どうしても行くってんなら俺も行くぜ!」
「お前が来たら誰がルキアを護るんだよ!」
再び不毛な議論が巻き起ころうとしたとき、それを止めたのはやはりこの男。
「心配御無用、拙者にお任せあれ!」
雷電が承太郎とルキアをひょいと取り上げ、
その結果、抱えていた二人の人間を急に失った桑原がバランスを崩す。
倒れそうになった桑原を支えたのも、やはり雷電。
その身体で桑原の全体重を受け止める。
「す、すまねえ」
礼を言う桑原に軽く笑いかける雷電。
そのまま、自分の提案を口にする。
「問題を解決する手段は唯一つ。拙者がルキア殿と承太郎殿を護れば問題なし!
ボンチュー殿と和真殿は思う存分悪人退治をなされるがよい!」
つまり、俺と桑原が
フレイザードを追い、
雷電とルキアと承太郎は東京タワーでルフィ達と合流する、ということか。
その提案は確かに魅力的だが・・・
「駄目だ。桑原もルキアについて、俺の仲間が待っている東京タワーに向かってくれ」
その発言で、桑原が、キレた。
虎をも射殺すような視線で凄む。
「
ボンチューよぉ・・・いい加減にしとかねえと俺ァキレるぜ?気は長ェほうじゃねぇんだよ。
俺がここで放っておいたとして、もしお前が死んだら、俺はルキアにどのツラ下げて会えばいいんだよ?」
・・・そこを突かれると痛い。
黙っている俺に更に追い討ちをかける。
「それにどうやって
フレイザードを探す気だ?俺みたいに霊感能力でも持ってんのかええコラ?」
「・・・」
「なんとか言えよオイ!」
「チッ・・・降参だ。ただし、一つだけ条件がある」
これだけは譲れない。
桑原ではなく雷電への条件。
「ルキアを、絶対に護りきってくれ。頼む」
「ご安心召されい。この雷電、身命に代えても」
「信頼、するぜ。裏切んなよ」
信頼、か。
昔の俺からは考えられない言葉だな。
そういえば、桑原に頼むときもあまり不安を感じなかった。
さっき出会ったばっかりの、他人であるのに。
それはこの男が持つ、他人から信用を得ることができる空気のおかげだろう。
愚鈍だが、真っ直ぐな心。
少し、羨ましい。
信頼という言葉は、俺がリーダーになれなかった原因でもある言葉。
たけし、今ならお前が言った『信頼』の大切さも少しわかる気がするぜ。
それでも、俺は力を求める。
俺にとっては、リーダーになることより強くなることのほうが重要なんだ。
強くなる。
俺は強い。
氷と炎の化け物なんかに負けてたまるか。
なあメグ、そうだろう?
『メグ、なにがおきても怖くないよ・・・
世界で一番強いお兄ちゃんが守ってくれるもん』
メグが望むなら宇宙一にだってなってやるさ。
だからメグ、見守っていてくれ。
俺が
フレイザードを倒すところをな。
少年は決意する。
死神のために化物を倒すことを。
その気高き決意に応えるかのように、
黄金聖衣が輝きを増した。
【宮城県/早朝】
【ボンチュー@世紀末リーダー伝たけし!】
[状態]:ダメージ中、重度の疲労、軽度の火傷、強い決意
[装備]:蟹座の黄金聖衣@聖闘士星矢
[道具]:荷物一式(食料ゼロ)
[思考]:1:合成魔法が完成する前にフレイザードを倒す。
2:雷電に預けたルキアが心配。フレイザードとの戦いにルキアを関わらせるつもりはない。
3:戦いに備えて体力を回復させる。
4:もっと強くなる。
5:これ以上、誰にも負けない。
6:ゲームから脱出。
【桑原和真@幽遊白書】
[状態]:全身各所に打撲、戦闘によるダメージ中、軽度の火傷
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)
[思考]1:フレイザードを倒す。危なくなったらボンチューを連れて撤退しようと思っている。
2:ブチャラティ、翼のことが気になる。ブチャラティなら翼を護ってくれると思っている。
3:ピッコロを倒す仲間を集める(飛影を優先)
4:ゲームの脱出
【雷電@魁!!男塾】
[状態]:健康
[装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂、斬魄刀@BLEACH(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
[道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)、遊戯王カード(青眼の白龍・使用可能)@遊戯王
[思考]1:ルキアと承太郎を守りつつ、東京タワーに移動。
2:何があっても仲間を守る。翼のことはブチャラティ殿に任せる。
3:ルキアが目覚めたら『青眼の白龍』を返し、使い方を説明する。
【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:気絶、重傷、重度の疲労、右腕に軽度の火傷
[装備]:斬魄刀(袖白雪)@BLEACH、コルトパイソン357マグナム 残弾21発@CITY HUNTER
[道具]:荷物一式、バッファローマンの荷物一式
[思考]:1:気絶
2:ロビンを捜す。
3:ゲームから脱出。
4:第五放送が終わったら東京タワーに行く。
5:いつか必ず、フレイザードとピッコロを倒す。
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左腕骨折、肩に貫通傷(以上応急処置済み)、全身各所に打撲、左半身に重度の火傷、気絶
[装備]:シャハルの鏡@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(食料二食分・水少量消費)、双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢
らっきょ(二つ消費)@とっても!ラッキーマン
[思考]1:気絶
2:悟空・仲間にできるような人物(できればクールな奴がいい)・ダイを捜す
3:主催者を倒す
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最終更新:2024年06月28日 23:37