0371:地獄の車窓から ◆bV1oL9nkXc
がたんがたん、がたんがたん
黒塗りの汽車が黒煙を吐き出しながら線路を飲み込んでいく。
車輪が鉄の道を噛み締め、巨大な車体を東へ東へと運び続ける。
三人の賢者を激戦の地へと運んでいく。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
車内は静寂が支配していた。
普段はムードメーカーとして話を振る役割の
ウソップが、俯いたまま沈黙しているためだ。
ポップはそんなウソップを横目でチラチラと見ながらも、かける言葉が思いつかずに困り果てている。
パピヨンは全く気にせず景色を楽しんでいた。
第五放送。
五回目に流された放送は、ウソップの心を深く抉った。
ロビンの死。
一緒に旅を続けてきた、仲間の喪失。
その衝撃は、ウソップから言葉を奪い去っていた。
放送が流されてからウソップは一言も喋っていない。
汽車に乗り込むときも終止無言だった。
当然、仲があまり良くないポップとパピヨンが和気藹々と話し合うわけもなく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
場に沈黙が舞い降りる。
「なあ、ウソップ」
沈黙に耐え切れずポップが声をかけるが、ウソップは黙ったまま。
顔を上げようともしない。
「放っておけ」
パピヨンが冷たく言い放つ。
人一人の死で立ち直れなくなる奴など生き残るわけがない。
足手まといは必要ない。
第三放送では自分が。
第四放送ではポップが。
それぞれ乗り越えてきた道だ。
ウソップに乗り越えられないわけがない。
自力で乗り越えられなければ、死ぬだけだ。
ポップも自分が口を出すべきではないと悟ったのか、それ以上話しかけることはなかった。
代わりにパピヨンに話題を振る。何か話していないと落ち着かないのだろう。
「今汽車が走っている所はどんな所なんだ?」
汽車は丁度岡山県に足を踏み入れたところだった。
線路の周りを並木が囲んでおり、遠くには瀬戸内海が見える。
本来、山陽本線から瀬戸内海は見えないはず。
ミニ日本と現実の日本は、やはり決定的に違うらしい。
「岡山か・・・降水量が日本一少ないから、『晴れの国』などと呼ばれているな。
他に有名所といえば・・・『桃太郎』あたりが知名度は高いだろうな」
「桃太郎って何だ?」
ポップが疑問を発する。彼の世界にはない単語だ。
「桃が突然変異を起こして人型の生物となり、食料を使って畜生共を手懐ける物語だ。
物語の最後ではとある島を襲って住人を叩き伏せ、宝を奪い取ってハッピーエンドだ」
「凄い話だな・・・」
ポップは偏見に満ちた説明を聞き、感心している。
ああ、ここに桃太郎を押し込み強盗と勘違いする人間がまた一人・・・
そんな話を聞いていたウソップがボソリと呟いた。
「楽しかったなァ・・・」
ウソップは呟き続ける。
「俺の海賊団もよ、宝奪って逃げたんだよなァ。空島から、数億ベリーもするお宝をな」
ポップとパピヨンはいつしか雑談をやめ、静かに耳を傾けていた。
「あァ、そういやあれがロビンと初めてした冒険だったなァ。あいつ、強かったのに・・・死んじまったんだよな・・・」
ウソップは壊れたカラクリ人形のように言葉を発し続ける。
その目に、人形には有り得ない光が宿った。
それは、決意の光。
「そうだ、鐘を鳴らそう」
「「ハァ?」」
ポップとパピヨンがハモる。
直後に凄く嫌そうな顔をしてお互いに顔を見合わせたたが。
「鐘だよ、鐘。全部終わった後、この島で死んじまった皆の為に弔いの鐘を鳴らしてやる!」
それは、空島の冒険の最後に聞いた鐘の音のような。
それは、自分の故郷を救うためにルフィが鳴らしてくれた鐘のような。
大きく響く、島中に響く、鐘を鳴らそう。
「鐘なんかどこにあると言うんだ?」
パピヨンの無粋な突っ込みにもウソップは動じない。
「無ければ作ればいいんだよ!天才ウソップ、腕が鳴るぜ!」
既にウソップの決意は固いようだ。
パピヨンは呆れた顔をし、ポップはウソップが立ち直ったことに安堵する。
鐘を鳴らそう。大きな鐘を。
ロビンの魂がきちんと天国に行けるように。
「おい、プラットホームに誰かいるぞ!」
最初に気付いたのはウソップだった。
完全に立ち直り、落ち込んでいる様子は微塵も見えない。
「しかも・・・パピヨン、お前のお仲間だ・・・」
「何だと?」
お仲間?
もう生き残っている知り合いは
津村斗貴子しかいないが・・・
仲間などという間柄ではない。
それに、一目見ただけで俺の仲間だと判断できるだと・・・?
考えを巡らせるパピヨンに気付かず、ウソップが呟く。
「俺、ファッションセンスに自信がなくなってきたぜ・・・」
プシューーーーーーーーーッ
汽車が岡山駅に止まる。
プラットホームにいたのは全身を包帯で覆った男だった。
ポップが軽く引いた。
(世の中には変わったセンスを持った人間が多いんだな・・・)
その包帯男は、二人の男によってパピヨンの同類としてカテゴライズされたことには全く気付かず、
包帯に覆われた、その焼け焦げた口で”再会”の挨拶をした。
「よう、一日ぶりだな蝶々仮面」
志々雄真実は口元を吊り上げる。
「お前こそな、包帯男」
パピヨンも不敵に応えた。
その手は股間に伸ばされ、核鉄を掴んでいる。
ポップがゲンナリしながら一応注意する。
「パピヨン、その体勢はやめろ。手を離すか、核鉄を完全に取り出すかどちらかにしろ・・・
って、戦闘態勢に入ったってことは、この包帯男はつまり・・・!?」
「ああ、こいつはゲームに乗っている」
一瞬で空気が硬質化する。
ウソップとポップが慌てて武器を構えた。
見知らぬ人物に一応警戒していたが、挑発しないように武器を隠していたのだ。
だが、ゲームに乗っている者だとわかったのなら遠慮は無用。
一対三。
この状況においても志々雄はまだ余裕の笑みを崩していなかった。
余程自分の力に自信があるのだろう。
岡山駅に張られた緊張の糸は、キチリ、と強く張り詰めて――――
「やめだ」
糸を張った張本人、志々雄真実の言葉によってアッサリと切られた。
「何だと・・・」
「言った通りだ。お前らと戦うつもりはねえ」
困惑するポップ達とは裏腹に、志々雄は落ち着いたものだった。
本当に戦うつもりはないようだ。
パピヨンは静かに思考する。
(昨日会ったときはすぐに戦いを挑んできたのに、どういうつもりだ・・・?)
いや、確か昨日は俺のムラサメブレードを狙っていたのか。
好んで戦いを仕掛けてきたのは・・・志々雄の相方の剣八という剣士。
それにヒソカが応じ、戦いになったのだ。
見たところ、今の志々雄は腰に西洋の大剣をぶら下げている。
武器を手に入れた後はもう他人を襲う必要はないということか?
ふん、馬鹿らしい。
使わないで何が武器だ。
志々雄がゲームに乗っているのは間違いない。
剣八のような好戦的な輩を連れ歩いていたことから、他人を利用する策士タイプなのかもしれない。
どちらにせよ、油断はできない。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
汽笛が鳴り響く。
「おい、もう発車するんじゃねェのか?邪魔だからそこをどきな」
志々雄は汽車の入り口で構えている三人に命令する。
それに対してパピヨンが残り二人に何ごとか囁き、結果、三人は身を引いた。
元の席に座り直す。
志々雄も汽車に乗り込み、三人から少し離れた席に座った。
プシューーーーーーーーーッ
扉が閉まり、汽車が動き出す。
車輪がゆっくりと回転し、徐々に速度を上げてゆく。
がたんがたん、がたんがたん
窓の外には、後方に流れる朝の風景。
動き出した汽車の中で、三人の賢者が議論を開始する。
三人集まれば文殊の知恵と言うが、船頭多くして船山に登るとも言う。
果たして彼らはどうだろうか?
(おいパピヨン、何で汽車に入れるんだよ!?あいつゲームに乗っているんだろ?)
(ああ、それは間違いないが、今戦う気がないというのもおそらく本当だろう。どういうつもりかは知らんがな)
(でも危険じゃねェかな・・・)
(無闇に手を出すつもりはない、戦う気がないなら好都合だ)
(見逃すってのか?これから他の参加者を殺すかもしれないのに?)
(フン、他の参加者など知ったことか。簡単に死ぬ奴が脱出に役に立つと思うか?)
(だがよォ・・・)
後者だった。
首輪の構造などの科学的(もしくは魔法的)な問題に対しては妙な結束力を発揮するのに、
倫理的な問題になると、価値観の違いが前面に出て意見がバラバラになる三人であった。
しかし論理を伴った議論ならば、島中で彼らの右に出る者はそうそういないだろう。
議論は続く。
(俺達の目的を思い出せ。ゲームに乗った者を倒すことが目的ではないはずだ)
(あくまでも脱出が目的、か・・・)
(別にここで始末することもできるが、それなりに犠牲は出るぞ?そこまでするメリットは見受けられないな)
(こっちは三人なのに、そんなに苦戦するのか?)
(奴は剣士、しかも相方だった剣士の戦闘から察するに相当の実力者だ。さっきのような至近距離での戦闘は分が悪い)
(確かにこっちには接近戦のプロがいないな・・・)
岡山駅での対面時、一番ホーム側にいたウソップとホーム上の志々雄との距離は2m前後。
実力がある剣士に対して2mの距離など無いも同然だ。
(しかも汽車内では更に狭い空間での戦闘を強いられる。ウソップの射撃はあまり役に立たない)
(俺の魔法やパピヨンの爆破も威力が高すぎて使えないな・・・ちょっと待て。今の状況ってマズくないか?)
そう、今襲われたら対抗する手段がない。
魔法や爆破は強力だが、自分達にも被害が及んでしまう。
しかしパピヨンは、ああそんなことか、とでも言いたげに答えを提示した。
(そのときはウソップを盾にして、ウソップが斬られている隙に、ウソップごと爆破する)
「待てェ!じゃあアレか?さっき俺をホーム側に突き出していたのは盾にするためかァ!?
今俺が座っている席が一番包帯男に近いのもそれが理由か!?ってか『それなりの犠牲』って俺のことか!?」
(声が大きい。奴が剣以外の道具を使うかどうかは俺が注意して見ているから安心して犠牲になれ)
「ざけんなクラァ!」
大騒ぎになった。
その騒動を映している瞳が四つ。
包帯に埋もれた瞳が二つ。鉄に埋もれた瞳が二つ。
鉄に埋もれた瞳がギョロリと動き、騒動の元である三人には聞こえない程度の声を出す。
声をかけた対象は、自らの持ち主。
―――志々雄の旦那ァ、四国の時とは随分態度が違うねェ。どういった心変わりで?
声を出したのは”人”ではない。
世にも不思議な喋る大剣、飛刀である。
その疑問に対し、志々雄は小声で答えを返した。
「言った筈だ、関東に着くまで休息するってな。ま、あいつらは運が良かったってことだ」
もちろん、これは真実ではない。
志々雄は、機会があれば参加者を減らす心積もりが出来ていた。
だが、相手が三人では勝手が違う。
一人相手なら、短期決戦に持ち込むことができる。
こちらに駒がいれば、自分は手を下さずに相手を倒すことも可能だ。
一体三はまずい。
戦闘に勝つ自信はあるが、時間が掛かりすぎてしまう。
そもそも志々雄はゲーム開始当初から、自分が積極的に戦う気はなかったのだ。
志々雄真実は
更木剣八のような
戦闘狂ではない。
剣八と同盟を組んだのも、自分が手を下さずに参加者を減らすことが狙いだった。
緋村剣心と戦ったときは、指名されたため。
玉藻京介と戦ったときは、勝てる可能性が高い戦いだったため。
跡部景吾と戦ったときは、確実に勝てる戦いだったため。
ラーメンマンと戦ったときは、武器を手に入れるためだった。
四国の戦いでは、自分はほとんど戦っていない。
せいぜいトドメを刺したくらいだ。
それでも、昨日今日と動きすぎた。
優勝への道程は長く、身体に無理はさせられない。
武器や食料を手に入れた今、無理に戦う必要は感じられなかった。
とはいえ、参加者を減らす絶好の機会に巡りあえば殺人を行う気はあったが。
まだ誰にも知られていないことだが、志々雄が全力で戦えるのは15分が限界だ。
これは、志々雄の最大の弱点である。
飛刀にすら明かしていないこの弱点のことを知られたら、ゲームで優勝することはかなり難しくなる。
休息を先延ばしにしてまで抜刀斎を始末することを優先したのは、この弱点に結びつく情報を根絶するためでもあった。
抜刀斎は志々雄の過去を知っている。
その情報を聡い知略家が検討でもすれば、弱点に辿りつく可能性もあったのだ。
しかし、抜刀斎は死んだ。
懸念が一つ消えたわけだ。
だが、弱点自体が消え去ったわけではない。
15分が戦闘時間の限界という現実は残る。
その戦闘時間を少しでも延ばす為に北へと向かっているのだが・・・
(蝦夷、陸奥に続いて陸中も閉鎖されたか・・・九州の閉鎖といい、どうやら主催は参加者を中央に集めたいみてェだな)
このまま北へと向かうのは得策ではないかもしれない。
いくら長く戦えても、戦う相手がいなければ意味が無い。封鎖されたら追い出されてしまう。
ならば、中央でゲームの動静を見守ったほうが効率がいいのではないだろうか?
(ふん・・・)
この思考は一先ず置いておこう。
志々雄の懸念はもう一つあった。
無限刃だ。
あの刀がなければ第一の秘剣も第三の秘剣も使えない。
そして、この懸念のために汽車に乗ったと言っても過言ではない。
この汽車には三人の”敵”がいる。
今は戦う気がないようだが、いつ襲ってくるとも知れない相手だ。
いざと言うときは窓から飛び降りるかキメラの翼を使えばいいが、それでも危険なことに変わりは無い。
なにせ相手の一人である蝶々仮面は、見たことも無い技を使っていた。
残りの二人に至っては全く情報がない。
異様な能力を持った人外が集まるこのゲームで、正体不明の三人を同時に相手をして無傷で済む。
そう考える程、志々雄は馬鹿ではなかった。
それでも汽車に乗り込んだのは、無限刃の情報収集のためだ。
三人のうち誰かが無限刃を持っている可能性もある。
昨日のように物々交換、又は賭け試合が出来るかもしれない。
志々雄は飛刀に、声を出すな、と命令した後、まだ取っ組み合っている三人に声を掛けた。
「おいてめェら、ここで会ったのも何かの縁だ。情報交換といこうじゃねェか」
その言葉に真っ先に反応したのはパピヨン。
そう、パピヨンも情報目当てで志々雄を車内に招き入れたのだ。
長い間九州に引き篭もっていた自分達は本州の状況を何も知らない。
たとえゲームに乗っている人間が相手であろうとも、少しでも情報を得ておく必要があった。
虎穴に入らずんば虎児を得ず、というやつだ。
しかし、だ。
「断る。本当かどうかわからん情報など邪魔なだけだ」
交渉の基本として、下手に出たほうが足元を見られる。
焦らすだけ焦らして、交渉自体が失敗するギリギリのところまで有利な条件を追求することが必要。
わざわざ自分から情報交換を持ち出すくらいだから、そう簡単には諦めないだろう。
パピヨンはそう思っていた。
だが、しかし。
彼は言葉の選択を失敗した。
『ゲームに乗っている人間と交渉などできない』と言うべきだったのだ。
志々雄は証拠が作りにくい『状況』ではなく、物品自体が証拠となる『道具』の情報を欲していたのだから。
「ああ、お前の言う通りだ。だから交換するのは道具だけにしようぜ」
志々雄が我が意を得たり、といった表情で答える。
パピヨンは軽く舌打ちをしながら、それでも流れを引き寄せようと策を巡らす。
そんな交渉相手を知ってか知らずか、志々雄は自分のペースで話し続ける。
「俺が欲しいのは刀だ。侍なんでな、両刃剣じゃあちっとばかり使いにくいんだよ」
これはカマかけだ。
いきなり『無限刃が欲しい』などと言えば、弱みを握られてしまう。
とりあえず、相手が”刀”を持っているかどうかの確認。
それに対してパピヨンは―――
「勝手にそちらのペースで進めるな。自分の要求だけ言って、はいおしまい、か?ふざけろ」
物凄く身勝手、かつ理不尽であった。
交渉する気などハナからないような態度。
主導権を握るためには強気の態度が必要である。
志々雄はパピヨンの言葉に苦笑すると、デイパックの中に手を入れる。
相手に呑まれず、自分のペースを貫くことも重要だ。
ここはこちらも交換材料を示して、相手の反論の芽を摘めばいい。
(さて、どれにするかな)
物々交換のカードとなるアイテムを選別する。
青雲剣・・・・・・この妖刀は使い道がありそうだ。
拳銃と弾丸・・・・・・飛び道具も役に立つだろう。
キメラの翼・・・・・・緊急脱出用に取っておいたほうがいいな。
これらのアイテムは残しておこう。
交渉の展開次第では出すことになるかもしれないが・・・
(となると、これか)
使い道がいまいちわからない金色の羽根と銀色の羽根。
子供用のおもちゃ。
二つのアイテムを取り出す。
「そうだな・・・もし、俺が気に入るような刀を持っていたら、これと交換してやるよ」
志々雄としては、半ば冗談のつもりだった。
訳のわからない羽根や、子供のおもちゃなど欲しがる奴がいるとは思えなかったからだ。
そしてこの冗談が、パピヨンの敗因となる。
「そんなもの・・・」
パピヨンが馬鹿にする前に、連れの二人が叫んだ。
「それはアバン先生のっ」
「俺のパチンコッ」
普通の人間にとってはハズレでしかないアイテムも、
特定の人物にとっては大当たりとなる。
パピヨンの核鉄しかり。
ウソップのパチンコしかり。
ポップのゴールドフェザー&シルバーフェザーしかり。
だから二人が思わず声をあげてしまったのも無理からぬことだった。
それが大失敗だったとしても。
「もういい。勝手にしろ」
パピヨンは深く溜息をつくとさじを投げた。
ここまで弱みを見せてしまったら、主導権を握れる筈もない。
後は二人に任せることにする。
案の定、足元を見られた二人は、刀を持っていないことを知られてしまった。
ならばもう用はない、とばかりにアイテムを片付ける志々雄を、二人は必死に引き止める。
二人にとっては喉から手が出るほど欲しいものなのだろう。
「ちょっと待ってくれ!ええっと・・・これだ、ウソ~~~~~~~ップレターセット!
さあさあ奥さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!不思議な不思議な葉書だよォ!
なんとこの手紙、あの世の人間と文通ができるのだァ!」
ウソップが懸命に死者の往復葉書をアピールしている。
物々交換のカードとして使うつもりなのだ。
その言葉に・・・志々雄は変わった反応を示した。
「お前ら、『地獄』ってやつを信じるクチか?」
ポップとウソップは顔を見合わせる。
これは何を狙った問いかけなのだろう。
死者の往復葉書に対する探りだろうか?
ウソップが恐る恐る返答する。
「この葉書が存在するってことはあの世が存在するってことだけど・・・地獄があるかどうかはわかんねェよ」
その言葉を受けて、志々雄は哂う。
「実を言うと、俺は地獄を信じてんだ」
「戦闘凶の死神に、同じく戦いにしか興味がない道化師。死神との戦闘をも辞さないブタ鼻に、復讐に駆られる子供。
惨劇の末に朽ち果てる狐に、身の程を知らずに戦いを挑み斃れるボウズ。虚言に踊らされて死を選ぶ辮髪。
一人残され狂気に囚われるガキと、戦いの果てに絶望する流浪人。死に向かいながら引き金を引こうとするメガネ。血塗れの五つの死体」
「こんな血で血を洗う修羅共が蠢くこのゲームこそ」
「地獄と呼ぶにふさわしくないか?」
空気が、震えた。
圧倒的な威圧感。
これぞ修羅。
ポップもウソップも声を出すことができない。
(・・・これは、認識を改める必要があるな)
パピヨンが志々雄に手を出さなかったもう一つの理由。
それは、どれだけ強かろうが所詮『たかが人間の剣士』という認識だった。
近距離でしかまともに戦えない侍など、ニアデスハピネスや魔法、射撃で楽に殺せる。
故に生き残っていても脱出の障害にはならないと判断したのだ。
相手が襲い掛かってこない以上、自分達に不利なフィールドで無理に戦う必要はない。
しかし、その認識は間違っていたようだ。
志々雄真実は”人間”ではなかった。
全ての情を捨て去り、数多の死線を潜り抜けた”修羅”だった。
”修羅”相手に”人間”の常識は通用しない。
(早急に対策を練るべきだな。例え今すぐに戦わないとしても無駄にはなるまい)
パピヨンの中で志々雄真実は『放っておいても問題ない敵』から『警戒すべき危険人物』へと格上げされていた。
最小限の犠牲でどうやって志々雄を倒すか。
この列車内で戦うことは論外としても、いつかは戦うことになるかもしれない。
(早く情報収集の拠点を見つけなければな。広く、見渡しがいい場所が理想だ)
そう、自分達が最も得意とする戦術は中・遠距離戦。
逆に、接近戦はあまり得意とはいえない。
戦いやすい場所を見つけなければ、それだけ危険は増すだけだ。
めげずに交渉を再開するポップとウソップを尻目に、パピヨンは窓から空を見上げる。
さきほどまで晴れていた空は、今は雲で埋まっている。
(何が『晴れの国』岡山だ)
舌打ちをして、曇天極まる東の空を睨みつけた。
汽車は走る。
黒煙を撒き散らしながら。
乗客を、嘆きの雨降る修羅の巣窟へと運ぶために。
【岡山県/汽車内/朝】
【志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]:全身に軽度の裂傷
[装備]:衝撃貝の仕込まれた篭手(右腕)@ONE PIECE、飛刀@封神演義
[道具]:荷物一式 八人分(食料、水二日分消費)、コルトローマンMKⅢ@CITY HUNTER(ただし照準はメチャクチャ)(残弾1)
青雲剣@封神演義、パチンコ@ONE PIECE(鉛星、卵星)
ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険、キメラの翼@ダイの大冒険
弾丸各種(マグナムリボルバーの弾なし) 、ソーイングセット、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
[思考]1:無限刃を手に入れる。
2:無理に戦う気はない。誰かを利用して参加者を減らせるなら、それが理想(15分の時間制限のため)。
3:強力な敵や多人数と戦う場合は、作戦を立てて対抗する。できれば無限刃を持った万全の状態で挑みたい。
4:長時間戦える東北へ向かう・・・?
5:少しでも多く参加者が減るように利用する。
6:全員殺し生き残る
【ウソップ@ONE PIECE】
[状態]:健康
[装備]:賢者のアクアマリン@HUNTER×HUNTER、いびつなパチンコ(特製チクチク星×3、石数個)
ボロいスカーフ(団員の証として)、大量の輪ゴム
[道具]:荷物一式(食料・水、残り3/4)
死者への往復葉書@HUNTER×HUNTER(カード化解除、残り八枚) 参號夷腕坊@るろうに剣心
スナイパーライフル(残弾13発)、ボロいスカーフ×2
[思考]1:なんとかしてパチンコを手に入れたい。
2:ルフィ・ポップの仲間との合流
3:アイテムを信じて仲間を探す
4:全てが終わった後、死んだ参加者のために弔いの鐘を鳴らす。
【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:健康(MP全快)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
ウソップ作の仕込み杖 、死者への往復葉書@HUNTER×HUNTER、ボロいスカーフ(仲間の証として)
[道具]:荷物一式×3(食料・水、一日分消費)、首輪×2
[思考]1:脱出の鍵を探す。なんとかしてゴールドフェザーとシルバーフェザーを手に入れたい。
2:ダイ・ウソップの仲間との合流
3:夜になったら死者への往復葉書を使ってマァムに手紙を書く。
4:フレイザードを早めに倒す
5:パピヨンはやはりあまり信用していない
【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康、核鉄で常時ヒーリング
[装備]:核鉄LXX@武装錬金(ニアデスハピネス微量消費)、ボロいスカーフ(首輪から監視されていた場合への対策)
[道具]:荷物一式×4(食糧二食分消費)、首輪×2、ベアークロー(片方)@キン肉マン ※ヒソカ、一輝の荷物を回収しました
[思考]:1:武藤カズキを生き返らせる。手段は問わない。ただし主催者の思い通りになるのは拒否
2:首輪を調べる。爆破実験は迂闊に行うべきではないと思っている(少なくとももっと脱出の為の駒が集まってから)
3:大阪・名古屋・東京のいずれかの大都市で汽車を降りる。首輪の解除に役立つ人間またはアイテムを探す
4:志々雄を危険視。対策を立てる。自分達が有利な広いフィールド、又は拠点の捜索。
5:ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す
6:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない
<首輪の調査案 その①>
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1.死体の首輪で爆発力を調査(調査トリガー:情報不足のため、脱出の目処がつく/有力な仲間ができるまで保留)
1.1 死体の首輪が爆発しなかった場合 → 外部から首輪を破壊する(首輪が誘爆するかは不明)
2.項目1の結果を受けて列車の中で、起爆トリガーの調査
2.1 禁止エリアがトリガーだった場合 → 列車内の調査
2.2 主催者側の監視がトリガーだった場合 → 予備の首輪の爆破実験を行い、主催者側の視界の調査
3.項目1で破壊した、首輪の破片の分析(パピヨン・ウソップ)
4.「呪い」の調査、及び対処法の考案(ポップ)
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最終更新:2024年07月12日 07:49