428:冷静と情熱の間(後編) ◆8nn53GQqtY




越前リョーマは、テニスの天才だということ以外は、普通の中学生だった。
中学一年生という年齢の割には、かなり冷静なところがあり、かなり生意気な部類の喋り方をするけれど、
この世界で知り合った同年代の星矢やキルア=ゾルディックのように、
異能の力は何も持たない――ラケットを持てばオーラを出せないこともないが――日本で普通に学校に通う中学一年生だった。
この世界の、別の場所で頭を働かせている『人類最高の頭脳』のように、
主催の何気ない一言から、主催の意図を推理するなんていう真似はできない。
散っていった『導士』のように、大勢の人間を信用させる策が打てるわけでもない。
今この時、別の場所で責任感に押し潰されている『勇者』のように、皆の希望を集めるような力も持たない。
最期まで戦った彼の『先輩』のように、手持ちのデータから論理的に行動方針を決定することもできない。

しかし越前リョーマは、おそらく全参加者の中でも五指には入る、「負けず嫌い」だった。

リョーマは物心つく前から、父親にラケットを握らされ、
引退した父の「遊び相手」としてテニスを覚えさせられた(思えばえらく身勝手な父親だ)。
だから、彼の練習相手は常に「父親」だった。それも、世界のNO.1まであと一歩だった父親だ。
その上、この親父はひどく大人げなかった。大の大人と子供との試合だというのに、全く手加減しなかった。
いや、手加減はしたのだが、かなりムカつく形でハンデを与えた。
片足一本で試合とか。その場から一歩も動かずにラリーをしてみせたりとか。目を瞑ったまま試合をしたりとか。
しかし、そんな雲の上の父親に対して、リョーマは全くへこたれなかった。「いつか倒す」と十年余り、闘志を燃やし続けた。
長じるにつれて、ジュニア大会にも出るようになった。
お前は実力があるから十四歳以下の部に出てみたらどうだと言われて、十六歳以下の部に申し込んだこともあった。
そして、たくさんの選手を見てきた。
リョーマを見て、まだ無名だからとか、年下だからとか、背が低いからとか、そんな理由で油断した人間の顔も。
そんな人間が、逆に追い詰められた時に、どんな顔をするのかも。
青学テニス部に入ってからは、何人か忘れられない強敵にも出会えた。
それまでの世界が変わるような本当に強い奴も見たし、絶望的なまでに追い詰められる試合も経験した。
けれど、「生意気なルーキー」と称された基本スタイルは変わらなかった。
「日本テニス界最強の中学生」だろうと、「十五年に一度の逸材」だろうと、「部員が200人いるテニス部の部長」だろうと、
彼はいつだって、「格上」の、年上の、自分より背が高い、時には今の自分よりはるか強い相手と戦ってきた。
そんな彼の最大の武器は、気持ちの上で一歩も引かない心の強さだった。
『そんなことより、そこの猿山の大将、試合やろーよ』
時には彼自身、身の程知らずとも不遜とも見える挑発を平然と行った。

だから、敵を嘗めている者が、どういう反応をするか、リョーマは知っている。
そういう奴が思い通りにならない時にどういう反応をするか、知っている。
内心の焦りを隠そうとする時にどういう反応をするか、知っている。
十二年余りの短い人生経験の中から、知っている。

だから、越前リョーマは「挑発」に強い。
そして彼は「挑発を受ければ逆に燃え上がる」タイプの人間だった。
この辺りが、「挑発になど動じない」タイプである仙道やサクラ、ひいてはL、ポップ、パピヨンらとの違いだろう。

そして、キルアを殺害して混乱の最中にあった第三放送や、寝起きの状態ですぐに斗貴子に襲われた第五放送でも、
しっかりと放送に耳を傾け、禁止エリアを記憶していた冷静さが、ここで活きた。

――そうですねぇ。私も未だに現実を受け入れず小細工を続けている卑怯者の集団より、好感が持てますよ。

これを聞いたのが、現実的に首輪を外す方法を模索する参加者なら、大した手掛かりにはならないと思ったかもしれない。
仲間を死なせてしまった重みに潰されそうになっている参加者なら、ただ絶望を深めるだけだったかもしれない。
仲間とはぐれて、独り放浪している参加者なら、苛立たしいBGMとして流したかもしれない。

その放送の微細な変化を聞いて、越前リョーマは素直に怒った。
麗子と星矢、まもりが死んでしまった衝撃に耐えながらも、怒りで拳を握った。
新八を、香を、仙道を、サクラを、アビゲイルを、仲間達を侮辱されたことに怒った。
罪の償い方を教えてくれた新八を、泣かせてくれた香を、治療してくれたサクラを、囮になってくれたアビゲイルを、
アビゲイルの気持ちを汲んだ仙道を、これまで出会った人々を、馬鹿にされたことに怒った。
決してその感情を表に出すことはしなかったけれど、怒っていた。
だからこそ、彼はその意味を考えた。
だからこそ、彼だけがその声を聞いて勘付いた。
麗子と星矢の死という衝撃を突きつけられても、勘付いた。


「どこにでもいるんだよね。すぐに人を見下す奴」
そしてただの中学生の彼は、宇宙の帝王フリーザの余裕を、そんな言葉で、片付けた。


※ ※ ※


「放送でフリーザが参加者を馬鹿にするようになったら、逆にアイツの思うように運んでないってこと。
反対に『頑張ってくださいね』とか応援が多めになったら、アイツの思い通りに運んでるってことだろうね」
「越前君、それってここで話したら意味ないんじゃない? 主催者が盗聴してる可能性もあるんだよ」
いくら敵とはいえリョーマがバッサリ言い過ぎたのか、新八の突っ込みも普段より控えめだった。
フリーザって奴は、ダイって奴の世界のバーンや、星矢の世界のハーデスと同じくらい強いんでしょ? 
なら、見下して話すことに慣れてても、その逆には慣れてないよ。注意して話してもボロが出るって」
あまりにも大雑把な断定に、仙道、サクラ、香も呆れていいのか感心していいのか困るような顔をしている。
苦笑していた香が、ふと思い出したように小首を傾げた。
「……じゃあ、前々回の放送で、『首輪の故障』を教えたのも、何か参加者を挑発する意図があったのかしら?」
「第六放送……?」
前回の放送を聞き逃した志村新八以外の全員が、記憶をたぐる。
「あ……」と最初に声を上げたのは、サクラだ。

―――ところで皆さん、『首輪』は正常に動いていますか?
   いえね、この雨で万が一故障でもしたら大変だと思いまして。
   なにせ精密機械ですからねぇ……
   ああでも、これまでの放送で名前を読み上げられた方々は、皆さん確かに死亡しているのでご心配なく。

何故、フリーザは「首輪が故障したかもしれない」などと脱出派に希望を持たせるようなことを言ったのか。
仙道も歩きながら渋い顔をする。
「言われてみれば、違和感がありますね。
首輪に手を出して爆発させる参加者が増えたら、その分だけ殺し合いで亡くなる人数が減ります」
太公望の考察の中にも含まれていた。
第一放送では見知らぬ仲間と組んだ故に裏切られて死んだという主旨の放送を行い、
第二放送では信頼できる同じ世界の仲間が変わった、という意味のことを言った。
このことから、参加者の不安を煽り、あくまで参加者の意思で殺し合いをさせようとする意図が読み取れる、と。
「首輪解除に必死になるのを見て、楽しもうっていう腹じゃないッスか?」
リョーマの答えに、香は眉根を寄せて考える。
「それなら、次の第七放送で、首輪の故障について深く言及しているんじゃないかしら?」
更に期待を煽るのでも、逆に首輪の解除を否定するような根拠を出して、持ちあげた期待を叩き潰すのでも、
どちらでも転がしようはあるはずだった。
「首輪の解除」という最終目的が絡んでいるだけに、引っかかる。
リョーマも、話を切り出した身として考える。
――首輪が壊れたかもしれない、っていうのは嘘じゃない、気がする。
リョーマには、フリーザがそこで嘘をつくタイプには思えなかった。
根拠はない。いや、リョーマなりに根拠はあるのだが、上手く言葉にできるものじゃない。
――フリーザは、もし幾つも必殺技があったら、一つずつ技を出し惜しみしていって、
  相手が一つ目をやっと攻略して喜んだ瞬間、二つ目の技を出して絶望させるタイプだ。
  試合に無理やり例えるなら、そんな感じ。
  フリーザの放送を七回も聞いていれば、どんな奴なのかぐらいは分かる。
  人間を思いっきり見下してる奴。きっと格下しか相手にしたことがないし、自分を一番“上”だと思ってるタイプだ。
  アイツと比べれば――もういないけど――氷帝の猿山の大将だって、ぜんぜん謙虚に見える。

――嘘やハッタリを言って、対戦相手を惑わせる戦略を取れるのは、
  格下に甘んじたことがある人で、それでも上を目指そうとするタイプの人。
  桃先輩や乾先輩みたいな人。フリーザとは全然違う。例えるのも失礼だけど。
  だから、自分の切り札を自慢することはしても、相手に嘘の切り札を渡すような発想はあんまりしないんじゃないか。

長く言葉にすればそういうことなのだが、リョーマはほとんど勘で、そこにたどり着いた。
でも、一足飛びにたどり着いたからこそ、逆にそれ以上考えを深めることができなくなってしまう。
青学テニス部の桃先輩や乾先輩のように洞察力があれば、もっとマシな推測ができるのかもしれないのに。

(待てよ……桃先輩と言えば)

越前が思い出したのは、関東大会準決勝での出来事。
この世界に来る前、まだ皆でテニスをしていた時の記憶。
桃先輩こと桃城武が、初めてその「洞察力」を試合中に発揮した試合だった。
桃城と三年の河村隆のダブルスペアは、準決勝で古豪、六角中のダブルスペアと試合をしていた。
スコアは2-5で六角リード。桃城たちも追い上げを見せ始めたが、あと1ゲームでも取られたら負けてしまう。
そんな大ピンチの局面。
そんな時、桃城が河村に言った。
『タカさん、そろそろ「アレ」やってもいーっすか?』
対戦相手が圧倒的なリードを保つ中、そう言って注意を引いた。
桃城にはまだ何か隠し技があると、誇示するかのように。
けれど違った。
隠し技を持っていたのは、河村の方だった。
桃城にばかり目を向けていた六角中のペアは、河村の新技「ダッシュ波動球」を最高のタイミングで決められてしまったのだった。
そして、その一球が綺麗に決まったことで、完全に流れが逆転した――

(首輪の故障をわざとばらすことで、別のことから注意を逸らそうとしてるってことは、ない……?)

「首輪の故障」という言葉が、ブラフである可能性はどうだろう。
(でも、首輪の故障より知られたくない事なんてある……?)
やはり、本当の目的は何なのかというとこで、考えが止まってしまう。
仙道の仲間で賢人だったという太公望なら、ここであっと驚くような正解を口にするのかもしれないけど。
………………太公望
(待てよ。仙道さんには、太公望さんに頼まれたことがあって……)
「そっか!」
滅多に聞かないリョーマの大きな叫び声に、歩く全員が一斉に振り向いた。
「サクラさん、すんません五分……えーと、三分だけ時間ください! 思いついたことがあって……」
リョーマは先頭を歩くサクラを呼びとめると、五人に丸くなって座るよう指示した。
「ちょっと、今は吸血鬼から逃げる方が先でしょう?」
アビゲイルが吸血鬼から時間を稼ごうとしている現在、一刻も早く琵琶湖から離れることが急務なのはリョーマにだって分かっている。
けれど、多分これは、他の参加者に会うまでにまとめた方が良い考えだ。
そして、リョーマだけでは考えをまとめきれない。
出発したそうだったサクラを、仙道が手を上げて制した。
「サクラさん。志村君が動けるようになった分、俺たちの移動速度も上がっています。
……まだ慌てるような時間じゃない」


「せ、仙道さん、髪の毛当たってます。痛いです」
「……誰か、他の参加者がこのポーズを見てないことを祈るわね」

五人でほとんど額をくっつけんばかりの距離に近づけ、円陣を組んだ。
なけなしの監視対策だった。
どこから見られているかさっぱり分からないから、極力、覗かせる隙間を与えないほど密着して筆談するしかない。
……監視装置が首輪にあれば終わりだけど。
リョーマの思いつきが的外れじゃないなら、きっとこれは、主催者に聞かれるとまずい話になる。
サクラからペンを借りると、リョーマは急いで地図の裏面に考えを書きこんだ。
(「首輪の故障」のことで思ったんですけど、
実は首輪だけじゃない、もっと大事なものが壊れて、注意を逸らしたかったんじゃないですか?)
少し間をあけて、その思いつきを書く。

(例えば、俺たちを監視する装置とか)
あっ
と狭い車座から溜息が洩れた。



※ ※ ※


太公望が示した、監視の可能性は大まかに四つ。
仙道はその方法を、箇条書きで記した。

1 姿を隠して参加者に一人ずつ付いて監視
2 遥か上空から監視
3 木や岩、建築物に監視装置を取り付けて監視
4 その他

この内、1と2については仙道が実際に富士山への登頂をして実験済みだった。
その実験の結果も書く。
(富士山上空を見たけど、雲と青空の他は何も確認できなかった。
周囲の景色を調べたが、足跡や影など、後を尾けられた痕跡はなし。)
つまり、2の可能性はかなり低い。1の可能性も、2ほどではないにせよかなり低くなった。
もちろん、監視が人間の視力で見つけられるモノなら、という仮定の上だが。
そうなると、消去法で残るのは3か4。
もし、この3か4を行う装置に、首輪と同様に精密機械が使われていた場合……
リョーマの思いつきを、仙道は素早く具体的な形にした。
(主催者の作った首輪の故障があり得るなら、監視装置の故障する可能性だってあり得るかもしれない。
むしろ、どちらかというとこちらの可能性の方が大きい。
山梨の大火事といい機関車の破壊といい、戦闘で会場が破壊された回数は多い)
追究がどんどん深くまで進んでいくので、リョーマは慌ててペンを借りると、書いた。
(俺はそこまで考えたわけじゃないッスけどね)
新八がゴクリと喉を鳴らした。
速筆でサクラが新たな裏付けを記す。
(そう言われてみれば、さっきの第七放送ですけど、監視から得る情報が多かったように思います)


  • 禁止エリアに入って自爆した参加者がいる。
  • その自爆は、「バーンの子飼い」の参加者の作った罠である。
  • その「バーンの子飼い」は、純粋な戦闘力では死亡した参加者をはるかに下回る。
  • 集団になっている対主催がおそらく複数いる。
  • ご褒美の一人蘇生を受け入れた参加者は少ない。
  • 機関車を一車、破壊した参加者が複数いる。

最後の一つは、交通手段に影響を与える事件だから重要伝達事項だとしても、
それまでの六回の放送とは比較にならない量の情報が与えられている。
しかも「特定の参加者」に具体的に言及した情報が多い。
(監視手段の不調を悟られない為に、わざと監視で得た情報を多めに流したってこと?)
(はい、もしかしたら……)
サクラがペンを置くと、次にペンを取る者は現れない。
筆談で書かれた仮説が、全員の頭に浸透した頃合いを見計らって仙道は立ち上がった。
「意見はあらかた出揃ったみたいなので、出発しましよう。三分経ちましたし……
この説の真偽を確かめる手段はまだ分からないけど、少なくとも新たな可能性が得られた成果は大きい」



仙道は「よく思いついたな」と言ってくれた。
香は「すごいじゃない」と褒めてくれた。
(桃先輩に教わったことが、役に立った……のかな? この場合)
あの先輩は、「殺し合いを生き延びる役に立った」と言われても複雑な顔をするだろうけど。
でも、こんな世界でも、元の世界の仲間がいなくなっても、仲間との繋がりは、確かにリョーマの中に生きている。
それが少し嬉しい、かもしれない。
(そーいや、先輩から色々と学んだっけ。)
――乾先輩からは……データ。たぶん。
時間があれば、サクラさんに乾先輩はどんな様子だったか聞いてみようか。
どうせサクラさんのデータがどうとか言って、引かせていたんだろうけど。
――桃先輩からは、曲げない心の強さみたいなもの。
青学に入ってから、何故かよく一緒に行動していた先輩だった。
――海堂先輩からは、決して諦めない精神。
まぁ、海堂先輩のことがなくても、俺はこんなところで諦めたりしないけど。
――菊丸先輩からは……気分屋なところか?
猫みたいに気分屋で、ちょっと鬱陶しいと思うこともあったけれど、学校の帰りにハンバーガーを奢ってくれたりしたっけ。
――河村先輩からは努力と思いやり……学んだっけ?
祝勝会で食べた、河村先輩の実家の寿司屋、美味かったな……って、違う違う……あー、畜生、想像したら欲しくなってきた。
――大石副部長からは、責任感……かな。
面倒見の良い副部長は、俺が怪我を抱えて試合に出ようとした時、止めてくれた。
……結局、それに逆らって試合を続行したんだけど。
――不二先輩からは、勝負の駆け引きを。
青学に入って、心の底から「強い」と思った「二人の化け物」のうちの一人。不二先輩とも、まだ決着を付けていない。
――そして手塚部長からは、強き意志を。
「二人の化け物」のもう一人。青学の柱になれと言われた。それを、まだ果たしてない。
(俺は絶対に、青学に帰る)
あの仲間と、全国制覇をする。
そして、竜崎を死なせた罪と、キルアを殺した罪を償う。
(……きっと、死ねば麗子さんたちやキルアが許してくれるわけじゃないし)
二人の死を知らされた時は、悲しむより、「これからどうしよう」という空虚さでいっぱいになった。

でも、今やるべきことが残っていたから、未来に帰る場所が残っているから、こうして歩き続けることができる。
(だから俺は、あんな主催者の思い通りにはならない)
―――構わぬよ、フリーザ王。『仲間』という名の安住の地に浸り寝惚けた戦士など軍には不要であろう?
―――私も未だに現実を受け入れず小細工を続けている卑怯者の集団より、好感が持てますよ。
あんなことを言う連中の、思い通りになりはしない。
負けず嫌いの越前リョーマに、「諦める」という選択肢は最初から存在しなかった。
化け物じみた主催者に、勝つ方法なんて知らない。
しかし、「諦める」という選択肢さえ選ばなければ、勝ち目のない敵にも向かって行けることは知っている。
(俺は絶対に、負けない)



「よく思いついたな」とリョーマの肩を叩いて、仙道は考える。
(本当に故障が起こっていたとして、そこまでして不調を悟られたくないからには、よほど深刻なレベルの故障だと考えていいのか?
でも、「禁止エリアで爆死した参加者」の情報はかなり具体的だった。
「爆死した参加者」を追うカメラは壊れていなかった?
それとも、映像の解像度が荒れているだけで、おおよそ何が起こっているかは分かる?)
もちろん、これらの仮説は全て見当違いだという可能性もゼロではない。
第七放送の偏った情報量も、ゲームが佳境に入ったせいだと言われればそれまでだ……
しかし、種目は違えどスポーツの駆け引きに身を置くものとして、越前リョーマの考えにはピンとくるものがあった。
(他にも、首輪や監視手段について、考えを進めてる参加者がいれば、もっと裏付けも取れるんだけどな……
問題は、主催者に気づかれずにどう伝えるかだな)
ただ、それは今すぐに結論を出すことではない。
(今すぐに言っておくべきことは……)
仙道は、前方の彼女を見た。



滋賀と兵庫を結ぶ直線距離には、幾つもの山があり、峠がある。
歩けるようになったばかりの仙道や新八には過酷なコースだ。
ここは南下し、名神高速道路に沿う形で、大坂を経由するルートで兵庫に向かう。
サクラはそう決めた。
それに、“風”というものは基本的に、山の上から下に向かって吹く。
吸血鬼がどうやって、獲物を探知するのかサクラには分からない。
しかし、風下に向かって進めば、少なくとも、“嗅覚”から嗅ぎつけられる危険性は少なくなるわけだ。
それに、大阪という大都市を横切ることで、他の参加者と接触できる可能性も多少は上がる。
……ただし、それは、マーダーに出会う可能性が上がることをも意味している。
(その時は、私が……)
この中で、戦闘ができるのはサクラだけだ。
マルスを握る手に、強く力をこめる。
一般人だらけのこのメンバーで、全滅を避ける為には、いざという時はサクラが囮になってでも……
「サクラさん」
いつの間にか仙道の長身が、サクラの隣に並んでいた。
「これだけは言っておきたい。無茶はしないでください」
考えを見抜かれたようで、ドキリとする。
「このメンバーの中で、人並み以上の力を持っているのはサクラさんだけです。
戦闘が起これば、おそらくあなたが一番前に出ることになる」
「大丈夫、無茶はしません。ただ、なるべく仙道さんたちを逃がすことを優先させて下さい」
これ以上仲間を失わない為に、できる手段は全てを尽くす。
「サクラさん」
仙道の真剣な視線が、サクラをまっすぐに見下ろす。
「俺はただ心配してるだけじゃありません。
サクラさんがいなくなったら、怪我人が出た時に治療できる人がいなくなります。それでは全滅を招きかねません」
頬を叩かれた気がした。
――サクラ、医療忍者は決して戦闘で負傷してはならない。何故か分かるか。
尊敬する五代目火影、綱手師匠の言葉だった。
師匠が言った“答え”に、目が覚めるような思いをしたことを、今でも覚えている。

――医療忍者がいなくなったら、誰が班員を治療する。

そう諭した師匠は、訓練中、サクラに決して手加減容赦のない攻撃を加えた。
サクラが攻撃の全てを躱せるようになるまで。
サクラが決して死なない為に。
今、同じことを、目の前の青年に諭されている。
「大丈夫、俺たちも戦えます」
「そうですね……私、大事なことを忘れるところでした」
仙道は如意棒を構えたまま、悠々と列の最後尾に戻って行った。
サクラの後ろでは、香とリョーマが新八に、第六放送以降の詳しい事情を説明している。
オリハルコンレーダーを今一度確認して、強く握りしめる。
吸血鬼の接近を知らせる光点が、間もなくアビゲイルのいる小屋の位置に到着しようとしていた。
アビゲイルさん、私たちは、必ず仲間を見つけてみせます。だから、アビゲイルさんもご無事で……!)
「冥界の預言者」をして未来を託された五人は、進む。
……決して振り返ることなく。



【二日目/京都府/夜】


 チーム【侍と忍と掃除屋とスポーツマン】
 共通行動方針:1名神高速道路から大坂経由で兵庫に向かう
        2その後、四国に渡り太公望の仲間(ダイ)を捜索
        3三日目の朝には兵庫に戻る
        4道中、対主催の仲間を集め、太公望の情報を伝える
        5新八に詳しい状況説明をして、情報を共有。道中、オリハルコンレーダーの反応に変化があればそれも話し合う。


 ※主催者の監視手段について

 視覚による監視は、精密機械によって行われており、
 第五放送から第六放送の間に、一部の監視機器に故障が生じたのではないかという仮説を立てています。




【春野サクラ@NARUTO】
 [状態]:仲間の治療のためチャクラを少し消耗、太公望の情報を受け取りました。
 [装備]:マルス@BLACK CAT
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分、ドラゴンレーダー(オリハルコン探知可能)@DRAGON BALL、兵糧丸(2粒)@NARUTO
 [思考]:1.決して振り返らない。
     2.アビゲイルさん…
     3.四国で両津と合流(その前に一度兵庫に寄る)
     4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。
     5.仲間を集める。
     6.戦闘要員として四人を守るが、極力死ぬような無茶はしない。
     7.主催者の打倒。

【仙道彰@SLAM DUNK】
 [状態]:微熱、小疲労、負傷多数(サクラによって治療済み)、軽度の火傷
     太公望から様々な情報を得ている
 [装備]:如意棒@DRAGON BALL
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分
     遊戯王カード@遊戯王
     (「真紅眼の黒竜」「光の護封剣」「闇の護風壁」「ホーリーエルフの祝福」…二日目の真夜中まで使用不可能)
     グリードアイランドのカード[漂流]@HUNTER×HUNTER、雷神剣@BASTARD!! -暗黒の破壊神-
 [思考]:1、何があっても香を守り抜く。
     2、決して振り返らない。
     3、四国を巡りダイ、両津と接触。太公望からの情報を伝える。
     4、追手内洋一を探す。
     5、仲間と協力し、首輪の解除。
     6、ゲームから脱出し、仲間とともに主催者を倒す。

【槇村香@CITY HUNTER】
 [状態]:右足捻挫(治癒済み)、太公望から様々な情報を得ている
 [装備]:ベレッタM92(残弾数、予備含め31発)
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分、ウソップパウンド@ONE PIECE
     超神水@DRAGON BALL、アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険 (弾切れ)
 [思考]:1、決して振り返らない。
     2、仙道、新八、リョーマ、サクラを守る。
     3、四国を巡りダイ、両津と接触。太公望からの情報を伝える。
     4、追手内洋一を探す。
     5、仲間と協力し、首輪の解除。
     6、ゲームから脱出し、仲間とともに主催者を倒す。

【志村新八@銀魂】
 [状態]:小疲労、全身所々に擦過傷、上腕部に大きな切傷、たんこぶ、他骨折等(治療済み)
     歯数本破損、貧血、現在の状況が読めていない
 [装備]:ディオスクロイ@BLACK CAT
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分、首輪
 [思考]:1.仙道たちの話を聞く。状況把握。
     2.仙道たちに同行。仲間を集める。
     3.もう一度斗貴子に会いたい。
     4.藍染の計画を阻止(まだ藍染が死んだことを知りません。
       話題に全く出ないことから、何かがあったとは察しています)。
     5.まもりを守る(まだまもりが死んだことを知りません)
     6.銀時、神楽、沖田、冴子、の分も生きる(絶対に死なない)。
     7.主催者につっこむ(主催者の打倒)。

【越前リョーマ@テニスの王子様】
 [状態]:小疲労、脇腹に軽度の切傷(治療済み)、より強い決意
 [装備]:毒牙の鎖@ダイの大冒険、ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数不明)
 [道具]:荷物一式、食料・水16食分、修理されたラケット@テニスの王子様
 [思考]:1.決して振り返らない。
     2.新八が無茶をしないよう見張る。
     3.ダイ、両津を探す。キルアを知る者に会ったら、自らの罪を謝罪。
     4.ピッコロって人が死んだってことは、斗貴子さんは……
     5.藍染を殺した人を警戒。
     6.生き残って罪を償う。

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427:長生きなんてするもんじゃない 春野サクラ 430:僕達のバトルロワイアル
427:長生きなんてするもんじゃない 仙道彰 430:僕達のバトルロワイアル
427:長生きなんてするもんじゃない 槇村香 430:僕達のバトルロワイアル
427:長生きなんてするもんじゃない 越前リョーマ 430:僕達のバトルロワイアル
427:長生きなんてするもんじゃない 志村新八 430:僕達のバトルロワイアル


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最終更新:2024年08月04日 10:08