アレッシーは機を待つ。木の傍らで機を待つ。

じき日も昇るだろうし、顔面に傷を負ったとはいえ視力に問題は無い。観戦に支障は出ない。
地図において端に近い位置であるし、無いとは思うが奇襲の危険性を考慮し、絶好の『釣堀』を探すのに時間がかかった。
命には代えられないし、今後更に『魚』が集まる可能性を考えれば時間の無駄ではない。
と言っても、最大の理由は東方より迫っていたヘリコプター。
おそらく鉄塔の騒ぎに参加したい者が乗っているのだろうが、その騒音には驚かされた。
支給品なのだろうが、向こうの厚遇に対してこっちは現状武器になるのが毒入りのカップラーメンぐらいしかない。
最初は不平を一人つぶやいていたが、上空からこちらに気付かれれば作戦は下手すればご破算、最悪狙撃されることだってあるだろう。
故にアレッシーは身を隠すのに慎重になった。

「朝っぱらから爆弾投下なんて、わざわざえらいねェ~~~~~」

慎重になりすぎ、ヘリコプターから何か放たれたのか良く確認はできなかったが、こういった状況下であれば爆弾か何かだろう。
鉄塔の脇に男女の二人組も確認できた。間違いない。
聞き覚えのあるような奇声が聞こえたことや、爆弾が不発に終わったことが気になるが、奇声は騒音による気のせいとし、爆弾は一発だけでは無いのだろうと自己完結させた。
再びヘリコプターを注視する。しばらくして、

天に昇らんとする青年と、地に下らんとする豪傑が同時に視界に入った。

  ★

「なんてヤローだ……。あの高さから飛び降りるか普通?」

しばし思考がフリーズした後、アレッシーは呟く。
異能『スタンド』を持つアレッシーは、上空から受身をせず着地したところでそこまで驚かない。
天に昇ることと同様、スタンド能力を用いたものだろう。
だがヘリコプターを飛び降りた男は、スタンド能力では説明がつかないことが一点ある。

『ためらいが無い』ことだ。

バンジージャンプに命綱があるからといって、安心して飛び降りれるわけが無い。
地に足つけて生活している人類にはそう経験できない高度、速度に恐怖を感じるだろう。
考えられるのはそういった状況に慣れていることだが、『慣れ』と言っても並大抵のものではない。
挙動からして、豪傑の行動は本人には『二階から一階に向かって階段を下りる』くらいの認識で済まされるのだろう。
文字通り彼は精神面でも――敢えて例えるなら、主DIOのような――超越者。


とにかく、豪傑はレンジャー部隊も真っ青の離れ業を、余裕を持ってやってのけた。
『魚』は上と下、二箇所に散った、ということでもある。

(さぁて、どっちにするかなあ~)

視線は天を向き、フリーズした思考は再び稼動し始める。

ヘリコプターが依然動いていること、一向に青年が中に入らないことを考えると、中に最低もう一人いるのだろう。
天に昇る青年がスタンド能力を堂々と使っているのを見るに、彼は自信家なのかよほどのバカなのか……あるいは両方か。
『スタンド能力を簡単に見せることは弱点を教えることにほかならない』アレッシーだってそれは心得ている。
それに、どうやって飛んでいたかは分からないが、ロッククライミングをするような動きを見るに単純に空を飛ぶ能力ではないようだし、青年は自分で自分の足場を限定したのだ。
『自ら首を絞めて』いるとも言える。
このゲームにおけるスタンスは分からないが、そう長くは生きられないタイプと推測。放っておけば自滅するだろう。
不発に終わった爆弾を無視してヘリコプターに向かった以上、利用できる善人であるはずも無い。
ヘリコプターを操縦している男が仮にスタンド使いだとしても、このような事態を想定していなかったこともあり、この位置からでは両者何をしているのか見えにくい。

「答えは決まった! 地上を観察するッ!」

ともすれば、消去法。
鉄塔付近に視線が移る。

(おそらく構図は2対1。二人組のスタンスは分からねぇが、乗ってるとしても共同戦線を張るだろーよ。
 あんなド派手な登場されちゃあ、話し合いの余地まるでねーもんなァ~~~~~~)

荒木に抗う仲間を募るならもっと他にやりようはある。
爆弾が別の何かだったとしても、攻撃の意志はなかったなんて弁明は、自分が弁護士でもゴメンである。
豪傑をよく観察する。
皮製であろう軽装のプロテクター。ターバン。巨大なピアス。
どこかの民族なのかもしれないが、アレッシーはそのような知識を持ち合わせていなかった。
そして、やはり注目すべきはその肉体。鍛錬の成果であろう丸太のような四肢は、鈍器以上の強靭さを感じさせる。
スタンド能力が気になるが、いずれヴィジョンを出すだろうし、観察対象を変えようと――


――豪傑、突如拳を阻む。


(はえぇ! まるで見えなかった!)

二人組の男の方が、スタンドのヴィジョンを発現し、正拳を放つのに要した時間は刹那。
かつて相手にした(というより一方的にやられた)空条承太郎の『スター・プラチナ』の攻撃を髣髴とさせ、アレッシーは戦慄する。
見ていなかったから、という言い訳はしない。見ていたところで結果は同じだったろう。
背筋に冷や汗。早まる鼓動。

(人型の『近距離パワー型』! まず間違いねぇ)

平静を取り戻すため、改めて観察。
スタンドを発現した男は、高校生かそこらといった感じの少年。金髪で、髪を後ろに編んでまとめている。
外見上特に気になることは無いが、スタンドの拳を素手で阻まれても身じろがないその態度は賞賛に値する。
ある程度の修羅場をくぐってきたのだろう。
スタンドの拳が引かれる。豪傑は、彫刻のように固定したまま動かない。

(『触れたものを固定する能力』か? 俺の『若返り』と相性バツグンに良さそうな能力だねェ~。触れなきゃなんないのが面倒だけどな)

奇しくもその能力は天に昇る青年――サーレーの能力であったが、そんな偶然の一致は何の意味も持たない。
判断材料の少ない中で『物質に生命エネルギーを与える』能力、という答えを見出すことは至難だろうが。

少年が女に向かって何か叫ぶ。
距離と騒音の相乗効果で何を言っているのかは聞き取れないが、女が走る方向を見ればある程度の察しはつく。

(爆弾の様子を見に行かせたってえところだろうな。不発に終わったとはいえ無力化したわけじゃあないし、あの位置だと3人とも危険だからなぁ。
 しかし、サシでやるっていうんだからよっぽど自信あるんだろ? えらいねェ~~~)

調子に乗ったその態度は気にいらないが、アレッシーの心情を無視するように闘争は加速。少年は猛攻に出る。


――突きの連打。


近距離パワー型だからこそできる、ゴリ押し。
再び『スター・プラチナ』によるトラウマを回顧させられ、小動物のように体を振るわせつつ、より木陰に身を隠す。
流星のように放たれた無数の拳を捌く豪傑。やがて均衡崩れ、巨体がブッ飛ぶ。

(『固定』が解かれたのは能力に制約が課せられてるとして・・・・・・、妙だな。何であの大男はスタンドを出さない?)

豪傑はスタンドのヴィジョンを見せる気配すらない。
『身体と一体化している』『ヴィジョンが無い』……こういう短絡的な結論は真っ先に挙げられるしそれ自体に矛盾も無いが、何かがおかしい。
豪傑が『最初に少年のスタンド攻撃を避けずに受け止めた』のがわからない。
アレッシーのスタンド能力が影のヴィジョンに触れて発動するものだからこその疑問。
下手に触れれば圧倒的に不利、そういったスタンドは少なからず存在する。
だからこそ、相手の能力を警戒しないあの態度は不自然。
眉間に皺寄せ瞑想するように思索にふけるが、現時点では情報が少ない、そんな言い訳じみた結論を出して――――

ふと目を開けば、知人らしき男の姿が。


  ★


暫し思考した後、アレッシーは女――F・Fを追う決断を下した。
理由は大きく分けて三つ。

第一に、少年と豪傑、二人の決着には時間がかかると判断したこと。
いくら少年のスタンドがパワー・スピード重視のものであっても、豪傑は対応しきっていた。
腹部に一発食らう姿を見たが、顔面をやられても平然と跳躍していたし、それが致命傷となるはずが無い。
『固定』したところで、サンドバックを相手にしているようなもの、決定打がなければ徒労に終わる。
他者の介入が無ければ、決着がつくのはだいぶ先だろうし、自分が割って入るなんてのは論外だ。
第二に、知人ダニエル・J・ダービーの発見。
ずっと単独行動していたため、もし強者の庇護を受けようとしても、下手をすれば『はめようとしているのでは』と思われてしまう。
しかし同行者が知人ならば? その人を心配するような言動があったら?
何も無いより、信頼を勝ち得る可能性がグッと上がるのは明白。
実際には、ダービーのことはエジプト九栄神の一人として知っているだけだし、スタンド能力も知らない程度の間柄なのだが。
万が一殺し合いに乗っているとしてもDIOへの忠誠心によるものだろうし、それならそれで同じ臣下にある自分は安全だ。
そして、第三の理由が最も重要なことなのだが……
おそらく女は、傷を癒せるスタンド能力の持ち主だということ。
女はそう遠くない距離に移動し、いつの間にかダービーを抱え、走っていった。
ダービーが騒ぎを聞きつけやってきたのなら、抱えられているのは明らかにおかしい。
女は鉄塔に向かう際、戦闘に臨む態度ではなかったし、そもそも敵対したなら抱えて逃げる必要は皆無。
このことからアレッシーが導き出した推論はこうだ。

『ヘリから投げ込まれたダービーを女が治療した』

豪傑は殺し合いに対し積極的、故にダービーを生贄にし、将来徒党を組み厄介になるであろう『人殺しが許せない善人』に自身への敵意を生み出させた。
結果少年はその挑発に乗ったが、女のスタンドは戦闘に不向き。
だからこそ、少年が隙を作って、女は鉄塔にいた重症のダービーを治療、そして戦闘の邪魔になるので逃走、といった具合。
かすかに聞こえた奇声もビビッたダービーのものだったとすれば、すべての謎が丸く収まる。
彼女と合流すれば、今の傷を癒せるし、信頼を得れば今後もそうしてもらえるだろう。
希望的観測が過ぎるかもしれないが、少なくとも女がゲームに乗ってないのは確かだから同行する価値はある。

かくしてアレッシーは、満身創痍の参加者をいじめてスカッとする『ベスト』より、生存確率が上がる最善手、『ベター』を選んだのだ。


  ★


アレッシーはひた走る。北を背にしてひた走る。
ヘリコプターが墜落したようだが、もはや興味が無い。

「ヒィー、ハァー、ヒィ~……」

早朝の冷たい空気が喉を通って肺を駆け巡る。だが体は油が切れたように上手く動かない。
やがて歩幅が狭まり、速度は緩み、歩いているときとほぼ変わらなくなってきた。
当然だ。
つま先の痛みで歩調が乱れ、貧血で酸素の供給がロクに行われていないのだから。
そして貧血の原因である鼻血、これが厄介だった。
鼻の内側の皮膚は脳に直接酸素を送り込んでいる、つまり鼻が詰まるのは脳の働きが鈍ることと同義。
司令塔が役目を果たせないなら、体中の各組織は自然本来の力が引き出せない。
とうとう歩くことすら叶わなくなり、アレッシーは森の中、母なる大地と重力にその身を委ねた。

「あいつ、あんな、に、早く、走り、やがって……、ぜんッ、ぜん、えらく、ねェ~……」

アレッシーは呼吸を整えつつ、うつ伏せになったまま愚痴をこぼす。
手負いと無傷を足の速さで比べたら後者が勝るのは道理だし、そもそもF・Fは同行者ですらないから待つ理由など無い。
この行き場の無い怒りは、まったくもって理不尽なものと言わざるを得ない。
無理も無いのだが。
ここに来る前に、幼児化したポルナレフに策でもってして出し抜かれ、事実上敗北し。
合流した承太郎とのダメ押しによって、今度は完膚なきまでに敗北し。
この世界に来てからも、再起は可能だが二度の敗北を味わった。
踏んだり蹴ったりだ。
自業自得ではあるのだが、歪んだ思考を持つには十二分な境遇。
これがもし演劇で、観客が今のアレッシーを見たなら、コミカルな悪役としてさぞ滑稽に思うだろう。
怒気を帯びて歯を食いしばってみせても、殴られた痕が残るその不細工な顔は更に不細工になり、嘲笑を誘う事間違いなしといった感じだ。

果たして彼は這い上がれるのか? それとも、今までのようにこれからもただ堕ちていくのみか?



――放送は、近い。



【D-1とD-2の境目/1日目 早朝】
【アレッシー】
[スタンド]:『セト神』
[時間軸]:はるかかなたにフッ飛ばされて再起不能した後
[状態]:顔面に殴られた痕(ミスタからとエリナからの分)、背中に刺された傷(浅い)、地面を転がり蹴られたのでドロドロ、
片腕に少女エリナの歯型、足のつま先に痛み、顔中鼻血の跡、貧血気味、疲労(放送ごろには回復します)
[装備]:なし
[道具]:カップラーメン(アレッシーは毒入りだと勘違いしています)、携帯電話、不明支給品×1、支給品一式。
[思考・状況] 基本行動方針:ゲームに乗るつもりは今のところないが、明らかに自分よりも弱い奴がいたら虐めてスカッとしたい
1.今は休む。
2.ダービーを抱えた女と合流、信頼を得て保護を受ける。 鉄塔近くの奴らとヘリは無視だ!
3.その後、携帯電話を使わせる。
4.でも本当はいじめまくりたくて仕方が無い。
5.上手く不意を突ける機会があればミスタとエリナに報復する
[備考]
※セト神の持続力が弱体化しているようです。アレッシーが気絶しなくても、アレッシーに何らかの異常があれば子供化は解除されるようです。
※『名に棲む鬼』における鉄塔の戦いの一部を目撃しました。会話は聞き取れていません。
  ダービーが投下された瞬間を見逃し、最初に目にしたのはF・Fに抱えられた治療後の姿だったため彼がカビに感染していたことを知りません。
  また上空の戦いは見ておらず、プッチ神父とサーレーの姿もよく見えていませんでした。
※ジョルノのスタンド能力を『触れたものを一定時間固定する』能力、F・Fのスタンド能力を『治療が可能な』能力と認識しました。
  エシディシに関してはスタンド能力がどういったものであるかイマイチ確信を持てていません。
ンドゥール、オインゴ、マライア、ダニエル・J・ダービーヴァニラ・アイスとはお互い面識がありますが、スタンド能力は把握していません。





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82:然るD-02鉄塔アレッシー警報! アレッシー 128:架空過去型<<禁忌>>まじない

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最終更新:2009年07月11日 23:04