「チックショオ~、ネズミが腹に張り付いてるとなるとどんな奴でも警戒すんだろ。
『初見で警戒される』ってのは言うまでもなくマズイぜ」
放送を聞き終え、その内容に何の感慨も浮かばずに民家を出たのは
ホル・ホース。
彼は腹に張り付いたネズミに対して、悪態をついていた。
と言ってもネズミが言葉を理解するわけでもなし、不毛な独り言でしかない。
「南へ行くっつっても、やみくもに真南へ行くのは馬鹿のすることだ。
ある程度目星つけなきゃなんねー。こちとら急いでんだからよ」
彼が焦っているのは、その腹のネズミによるものだった。
どこから疑われていたのか知らないが、ネズミはスピードワゴンがホル・ホースが裏切らないために懸けた、言わば『保険』。
なんでも、10時間以内にとある“カギ”を得なければ、『心が折れて』しまうのだそうで。
さすがにホル・ホースには腹をえぐる覚悟は無く、外すには命令された『仲間探し』を貫徹させなければならないのだ。
まあ、『心が折れる』という言葉が意味するところはスピードワゴン自身もよくわからなかったようで。
分からないが、その無知がなお一層恐怖を駆り立てるというのもまた事実。
「やっぱ、あの場所だろうな……。地図の確認も兼ねて」
方位磁石を取り出し、地図と照らし合わせつつ歩む。
「女の一人でもいてくれりゃあいいんだがな。悪趣味なとこだから可能性は低いかね」
最低限、周囲の警戒は怠らず。
★
背中を預けていいと思える者が、この場においてたった一人。
これを頼もしいと取るか、心細いと取るかは自由。
「
ペッシ、そいつの監視を頼む。来客だ」
「リ、リーダー? 来客って?」
「どんな奴かはわからんが一人だ。だからこそ『試す』チャンスと俺は取る。
単独なら、ここを制圧しようと考えてる輩じゃあないだろうからな。ヤバくなったら容赦なく逃げる。
もしそうなったら体勢を立て直してここを取り戻すがな。念のためだ、脱出経路は確保しておけ」
『パッショーネ』暗殺チームのリーダー、リゾットにとっては後者だった。
チームを喪い復讐に燃えた事もあったが、何の因果かその一人と再会を果たした彼。
すべては荒木が作りし箱庭からの脱出を目指すため、彼は新たなリーダーとして、新たなメンバーを欲していた。
「気ィつけてくれよ、リーダー」
「首輪を外せる奴かもしれない以上、下手に痛めつけるわけにもいくまい」
その言葉を受け、部下のペッシは安堵の表情を見せた。
暗殺を生業とする彼らにとって許されぬ態度かもしれないが、人員確保は必要なのでその行為は目的に反しないものだとリゾットは判断した。
「行ってくる」
「ああ。……さあ、とっとと歩きな。心臓突き破られたくなかったらな」
「……言われなくても出来る」
リゾットを見送り、ペッシは己がスタンド、『ビーチ・ボーイ』で女性の看守――ミューミューを小突く。
針は胴体部にまで食い込んでいる。
ちょっとでも妙な動きを見せようものなら、心臓の奥深くにまで針が貫かれることだろう。
リゾットの尋問は、スタンド使いにとって命綱とも言える能力の説明をも迫るものだった。
ミューミューは、勝つ見込みがないことを理屈でなく心で理解し、仕方なくバラすことにした。
名は『ジェイル・ハウス・ロック』、能力は『触れたものを「3つ」の物事しか記憶できなくする』。
これを聞いたリゾットは、彼女の監視を担うペッシに命じた。
『ビーチ・ボーイ』の針をあらかじめ胴体に食い込ませておくこと。
腕にあらかじめ「2つ」の書き込みをしておくこと。
『女の心臓を突き破れ』『リーダーからの命令』この2つ。
なぜ「2つ」なのか?
これは、『ペッシが記憶せざるを得ないような何かが起こっても指令を忘れないようにする』ため。
ミューミューが「記憶すべき事象」を起こしてもいいように。
もっとも彼女は、『ビーチ・ボーイ』の糸でぐるぐる巻きにされており、ほぼそんな事態は考えられないのだが。
ちなみにこれはリゾット、ペッシともに知ることではないが、ミューミューの能力は『スタンド攻撃を受ける直前までの記憶は残る』。
能力を知られた今、彼女に為す術など元から無いのだ。
「寝込みを襲うとは、やってくれたな荒木……」
「だ~か~らぁ、俺たちゃ別に荒木の差し金じゃあねえって」
ミューミューは、荒木を元々の世界で世話になった『ホワイトスネイク』の本体だと思い込んでいた。
リゾットもその名は別の本体名で聞き及んでいたが、刑務所内で井の中の蛙になっているような奴が並行世界に干渉などと大それたことをする可能性など論外とみなす。
見当違いの勘違いも甚だしい、と言ってやりたかったが、リゾットにも覚えがあるし、こちらの説明も聞く耳持たずといった感じだったので無視した。
相手を任されたペッシにとってはうっとうしい事この上なかったが。
「もういい、しゃべるな。話が噛み合わねえ」
「グッ……!」
竿でつつくとそれきり彼女は黙った。黙って歩くしかなかったから。
★
「誰かいませんかねぇ~、っと」
遠目にナチス研究所を観察するホル・ホース。
中を確認しないでやみくもに突入するわけにもいかない。
彼は一番よりナンバー2、誰かと組んで力を発揮するタイプなのだから。
「ん? 中から誰か出てきやがった」
研究所から出てきた者はひとり。
フードをかぶり黒衣を纏った男性としか、外見上は判断できない。
「あの動き……プロだな。いかにもって感じがするぜ」
だが、ホル・ホースとて素人ではない、れっきとした暗殺者。
DIOの部下という立場上、その道の人々はよく見ている。
そんなホル・ホースでさえ、彼を今まで見てきた中でも群を抜く存在と評する。
それこそ、彼の下についていいと思えるほどの。
「姿見せた瞬間襲われたら嫌なんだがな……あ~~~クソッ! どの道身の危険が迫ってるのは変わりねえ!
こうなったら腹ァくくるぞ!」
女を口説く自信はあるが、初対面で仲良しになれるほど、この状況は甘くない。
相手が修羅の道を歩んできたというのならなおさら。
だが、仲間を引き連れるには避けて通れない交渉。
ホル・ホースは意を決し、地をしたたかに踏みしめ向かっていった。
「止まってくれ! 俺の名はホル・ホース。まあ、腹のネズミは気にしなさんな。
俺は荒木を倒すために仲間を集めてる。中にもあんさんの仲間がいると察するぜ。一緒に来てくれないか?」
気さくに問いかける。
交渉で大事なのは、自分のペースに持ち込むこと。
ホル・ホースは口説きの経験でそれが分かっていた。
また、軽い態度を気取ってはいるものの、身の警戒は怠っていない。
二人の距離は10メートル。
銃器を形どったスタンド『エンペラー』は、弾丸もスタンドゆえ距離次第で威力が変わってしまう。
ここがギリギリ殺傷能力を保てる射程距離というわけだ。
相手が一番戦いたくない近距離パワー型のスタンド持ちだったとしても、まず射程距離が10メートルもないため安全圏と言っていい。
交渉を図る際の方程式は完成している。
だが、完成しているということすなわち、ダイヤモンドより壊れないというわけではない。
目には目を、歯には歯を、という言葉がある。
ルールにはルールを、誰かが定めた新たな規則に、既存の規則は駆逐されるのだ。
「オレはおまえに……近づかない」
リゾットは名乗らない。それが、彼らのルールにおいて闘争の開始を示すゴングとなった。
★
飛来するメスの群れ。
一斉に、宙を乱れなく奔る様子はまるで水魚。
「おわぁっ! 容赦なしってわけかい!」
咄嗟に横転して避けるホル・ホース。
無論、ここで守りに甘んじるほど彼は心穏やかではない。
「『皇帝(エンペラー)』!」
素早く体制を整え、手のひらに収めた精神のヴィジョン、『エンペラー』の引き金を二度引く。
撃鉄が弾薬を叩く音が響く。
狙いは頭部。
「おっと」
だが、転がってすぐ狙いを定めるというのはそうそう上手くいくものではない。
結果として照準はぶれ、リゾットはちょっと身を傾けただけで回避に成功、弾丸は遥か彼方へ。
「拳銃型のスタンド。武器として見れば遠距離で戦うべきものだが、距離をとればスタンドパワーは弱まる、常識だ。
勝てると思うか? そんな役立たずのおハジキで」
嘲るリゾット。外した弾丸を悔しそうな目で追うホル・ホース。
「ケッ、戦闘中におしゃべりたぁ、感心しねえな」
負け惜しみのような挑発を受けても、リゾットは悠然とした態度を崩さない。
絵的にも、しゃがんだままのホル・ホースを、リゾットが見下ろす構図が成立していた。
(全くもって感心できねえぜ、あんさん)
リゾットは『役立たずのおハジキ』と揶揄したが、短所あるがゆえの長所というのは存在する。
『思念を通じての弾丸操作』、『エンペラー』の長所はそこにあった。
的を逸れた弾丸はUターン、リゾットの後頭部に風穴を開けんと迫る。
普通の弾丸なら空気抵抗などで勢いをなくしているだろうが、スタンドの弾丸にそんなものは存在しない。
狙いは脳幹。真後ろ、完全な死角!
「勝った! 脳みそ地面にブチまけやがれ!」
言い終わる前か後か。
リゾットの周りでメスが生成され、弾丸と交差しはじき落とされたのは。
「ニャニイ―――ッ!」
「『勝った』だの『やった』だのは“ブッ殺した”時に言うもんだ。先に言うのは感心しないな」
先の自分の発言に似た忠告をされ、ホル・ホースはギリと奥歯を噛みしめる。
憎々しげな表情とは裏腹に、脳裏では何故自分の目論見がばれたのか、と考えを巡らせていた。
「いつまでも外した弾丸を見つめ続けるバカはいまい。敵が近くにいるならばな」
その言葉にホル・ホースはハッとさせられた。
彼が犯した最大のミス。
それは、弾丸操作の都合上外した弾丸をわずかだが注視してしまったことだ。
そんなことをすれば、外した弾丸に何かあると思われるのは道理。
少し後ろに注意してやれば、戻ってくる弾丸に気づくのは容易い。
ホル・ホースが得意とするのは近距離からの暗殺であったため、普段弾丸操作に重きを置いていなかったのが仇となった。
「おしゃべりしすぎも良くないな」
徐々に、まるで空間を溶媒として溶けるかのように、リゾットは背景に馴染んで消えた。
これでは弾丸を当てようがない。
(なんてこった! 姿まで消せるのかよ! メスを飛ばすだけじゃあ決め手に欠けるとは思ってたがな……。
だがこれで、奴の能力が読めてきたぜ!)
だが、ホル・ホースは諦めなかった。
(おそらく奴の能力は『鉄を作りだす』ことだ。
メスは言うまでもねえ、姿を消したのは鉄を身に纏って保護色にしたってところだろう)
能力の全容に――正確ではないものの、核心には――近づいていたからだ。
(だが、そう無尽蔵には作れないらしい。弾丸をはじく強固な壁でも作っちまえば、こっちは勝ち目ねえんだからな。
弾丸がスタンドでも、分厚い壁を透過できるかっつーと疑わしいしよ。
つまり! 位置さえわかりゃあ『エンペラー』は通用する!)
それは希望という火種となって、闘士を再燃させる。
だがそんな思いに反して、無慈悲にも戦いの神は決着を迫った。
「おげえええええあッ! 口から……針がッ!」
無数の針がホル・ホースの口内を突き刺し、頬と口からボロボロと垂れ流される。
血液と混じって落下するその様子、あえて形容するならば土石流のよう。
「もう遅い。すでにおまえは『出来あがっている』のだからな」
どこからか声がしたが、ホル・ホースは突然の攻撃による動揺と激痛のためにその位置が察知できなかった。
(体内にも……仕込めたのかよ……。
声のした場所はわかんねーし、足跡つけて歩くほど奴はマヌケじゃあない。どうすりゃあ……)
「ガハァッ!」
俯き、咳きこむようにして口に残っている針を吐き出す。
目に映ったのは、散らばる無数の針と、赤黒く染まった地面。
そして、左手に握りしめていた方位磁石。
(俺は確か、南西方面に向かって歩いていったはず……。奴と対峙した時にも西を向いてた。
じゃあ……なんで『N極が西方面を向いている』……? 下に置かれた針に引き寄せられた? いいや違う。
しっかりと西に向いているからな……。だったら何故? 決まってんだろそんなの!)
方位磁石を置いてすっくと立ち上がり、『エンペラー』を握りしめ、左手を添える。
狙いはN極が指し示した方向。
「磁力だ……鉄を作りだし、操っていたのは……! 奴が発していた……!」
腕からカミソリが生えてきて裂傷を作った。
駆け巡る激痛。それでもホル・ホースは構えをぶらさない。
(せっかくつかんだチャンス、逃がすかよ……! 狙いは……正中線上!)
近距離の暗殺こそが『エンペラー』の独壇場、自分で言ったのだから名前負けするつもりはない。
名を背負う以上、この戦いからは逃げられないのだ。
引き金は一定のリズムを刻み、狙い通り銃口から4発の弾丸が放たれた。
構えが最後までぶれなかったのは、ホル・ホースの精神力の賜物か。
「それをやると思ったよ」
――的がないのに狙い通りとは、実におかしな話だが。
後ろから聞こえた声に、呆然とするホル・ホース。
群れをなした弾丸はとどまることを知らず。
「方位磁石を持ってる事には気が付いていた。その動きを見れば、いずれ俺の能力がわかることも。
磁石が指し示したのはそこに置いといたメスだ。血液ごと『メタリカ』を付着させたメスをな……」
ホル・ホースがもう少し冷静だったら。
方位磁石が、わずかに下に傾いていると気が付いていたら。
このようなミスは犯さなかっただろう。
ホル・ホースは先ほどまで固く握りしめていた『エンペラー』を、ポロリと落とす。
「降参だ。マジにしてやられたよ」
両手を上げる、降伏を示すサイン。
もはや誇りも何もあったものではない、命あっての物種ということだろうか。
「正気か? お前が白旗揚げたところでみすみす逃がすバカはいない。同業者ならそれがわかるだろう?」
「俺は深追いはしないことにしてんだよ。それに、引き際は見極めねーとな」
ホル・ホースは振り向かない。
ただただ、惨めな言い訳をするのみだ。
「これからお前の頭をカミソリで切り飛ばすが……その銃を拾って弾を装填する程度の時間はあるかも知れないぞ。
発射はさせないがな」
「なんだって? いまなんていったんだ……? 装填しろ? 弾を込め直せだって~?
その必要はない! 弾を込める必要はぜんぜんねーのよ!」
言い終えたが刹那、ホル・ホースの脇下をすり抜けた弾丸がリゾットに向かう。
「弾丸を操作してくることぐらい読めていたぞ!」
あらかじめ用意されていたメスが弾丸をはじく。
弾丸をはねる甲高い音が、『3回』響く。
では、残りの1発はいずこへ?
「後ろかッ!?」
リゾットが犯した重大なミス。
それは、相手のスタンドではなく、『相手そのもの』を見下していたことだ。
同じ策を二度も用いるような、愚鈍な人物と判断していたことだ。
「あぐぅッ!」
「いいや、前だ。活路を見出すのはいつだって前なのよ」
リゾットの左肩に弾丸がめり込む。
倒れそうになるも、踏ん張ってホル・ホースを見やる。
左肩に、染物でもしたかのような鮮やかな円が広がっていた。
「自分の体を死角にして……弾丸を放ったか」
「その通りよ。あんさんが後ろにいたのは想定外だった。マジにしてやられたと思ったさ。
だが、逆にその位置はちょうどよかった。近距離からの暗殺は、『エンペラー』の得意分野だからな」
言ってしまえば、最初の3発はすべてオトリ。
本命は、完全な死角から放たれる一撃だった。
リゾットが先述した事の逆を言えば、スタンドは自分に近ければ近いほどパワーが強くなる。
つまり、『エンペラー』の弾丸がホル・ホースに当たれば、奇妙に思えるが推進力が増す。
肉体を貫いたのち、背後の相手に傷を負わせるほどまでに。
そう、ホル・ホースはたとえ誇りを失ってでも、惨めになってでも、勝利を諦めなかったのだ。
(さて……面子は保たれたが、いかんせん血を失いすぎた……。
まあ、カウンター喰らわしただけでも良しとするかね。自分に弾当てるだなんて二度とやりたくなかったがよ……)
ホル・ホースはこの隙に乗じて決定打を与える予定だったが、貧血と数々の傷、そこに疲労が伴ってはまともに立つのも難しく。
落としたはずの『エンペラー』のヴィジョンが消えるほどに、意識がしっかりと保てずにいた。
このまま、反撃する前にやられてしまうだろう。
「さっさと……とどめ、さしやがれ」
「いいや、ささない。なぜならお前は俺の仲間になるからだ」
「ハァ!?」
振り向き、想定外の言葉に目を見開くホル・ホース。さっきまで息も絶え絶えだったのが嘘のよう。
「いや、マジに恐れ入ったよ。自分に弾丸を当ててまで勝とうとするお前の覚悟に敬意を表したい。
そして4回引き金を引いた時、構えに震えがなく、呼吸にも乱れがなかった。腕を傷つけられたにもかかわらず、だ」
「世辞にしか聞こえねーよ……」
ホル・ホースがそう思うのも無理はない。
策でもって一杯喰わせたものの、リゾットの有利は終始揺らがなかったのだから。
「とりあえず中に招待しよう。簡単にだが、傷の手当てもしてやる」
肩を貸したホル・ホースは歩く気力もないのか、はたまた争いを終えた安堵によるものか、
その歩みは力なく、リゾットに引きずられているかのようだった。
★
『メタリカ』は、体内や物質の鉄分を操作し、新たに鉄を作りだすスタンド。
それを利用して、股釘を作って傷口に打ち込んでやれば、ひとまず傷は塞がる。
鉄は地表に出る金属の中では最も多い金属だ。
国家の威信をかけた一施設なら、なおさら事欠かない。
「リーダー、何で俺には傷の処置してくれなかったんです?」
「喉は傷を塞ごうとして頸動脈を傷つけたらまずい。肘は『ビーチ・ボーイ』の操作に支障が出る恐れがある」
「よく考えてるんだな、さすがだぜ旦那」
「旦那……? お前がそう呼びたいならそれでいいが」
一通り治療を済ませたリゾットは、ペッシと彼に拘束されたミューミューを呼び戻した。
ペッシはホル・ホースが傷付いていたことに対する弁明を求め、リゾットは入団試験だと答えた。
直後、「あんなヘヴィな入団試験があるか」と、ホル・ホースの文句を受けたのは言うまでもない。
「それとホル・ホース。さっきの話は本当なんだな?」
「スピードワゴンがどれくらい同志を集められるか分からんが、そういう話があったってのは事実だ」
応急処置を施している間に情報交換を兼ねてこれまでの経緯を話しあったのだが、そこでリゾットは己の僥倖に歓喜することになる。
殺し合いを打破するためのメンバーを募るため、わざわざホル・ホースは相方と二手に分かれて捜索していたとのこと。
話を聞くに半分脅しに近いものだったらしいが。
「スピードワゴンをこっちに連れていくつもりかい? 反対はしねーだろうが、誰か俺についてきてくれなきゃいけねーぜ。
『ここに仲間がいるんだけど』って言ってホイホイついてくほどあいつは馬鹿じゃあねえ」
「ならコイツを連れて行け。間が抜けているが戦力にはなるし、お前のスタンドとの相性もいいはずだ」
リゾットが指さしたのは、ともに自由を手に入れることを誓った男――
「わ、私か?」
「こいつですって、リーダー!?」
――ではなかった。
指名したのは、未だ拘束を解かれていないミューミュー。
「気が利くじゃあねえの、旦那! しっかりとエスコートさせていただくぜ」
「い、いいんですかいリーダー! もしかしたら二人とも裏切るかもしれないっていうのに」
真逆となった二者の意見。だが否定の意見は通らない。
「ホル・ホース、そいつが自分の立場をわきまえない愚図ならその場で始末しろ」
「女性に対してそういうこと言うのどうかと思うがね……。ま、下手して全員が危機に陥るようならやむなし、か」
「そういうことだ。お前は『生かされている立場』だということを忘れるな、ミューミュー」
「グッ……!」
鶴の発する一声が、何より響いて通らない。
「ペッシ、拘束を解いてやれ」
「わ、わかったよ、リーダー」
ペッシが『裏切るかもしれない』と言ったが、ミューミューに関してはやすやすと裏切られるほどやわな尋問をしたつもりはない。
拷問、というわけではないが、多少の武力行使をした甲斐あってミューミューの能力は割れた。
無論リゾットは自分の能力を明かしていない。
裏切る可能性を出来る限り減らしたのだ。屈服させ、ついていかざるを得ないと思わせることで。
ミューミューの肉体に絡みついていた糸がするりと解かれる。
「そいじゃあ行ってくんぜ、旦那。何か欲しいもんでもあるかい?」
「そうだな……首輪はおいおい手に入るし、技術者が欲しいのも既に伝えたな。
欲しいのはここの防衛力だ。探知能力をもつ者が来てくれたらありがたい。ペッシ一人では限界がある」
「探知能力持ちだな。レーダーとかでもいいんだろ?」
「あれば、でいい。スピードワゴンとやらと合流してこっちに戻るのを優先しろ」
帽子をかぶりなおしつつ、了解、と軽く返事するホル・ホース。
「無事を祈ってるぜ旦那。さ、ご同行願おうか」
「私はガキじゃあないんだ、言われなくたってそうする」
「あらら……こりゃあ、ものにすんのに骨が折れそうだぜ」
すごい剣幕で睨みつけるミューミューを、ホル・ホースは軽く受け流して研究所を出る。
彼女はつかつかと、速足でそれに続いた。
★
「本当にいいんですかい、リーダー?」
「ホル・ホースの奴が裏切るかもしれないと、考えているな?」
二人を見送った後、リゾットはペッシの抗議の相手をしていた。
初対面の人物を警戒するのは、この状況下なら確かに正しい反応だ。
「奴はしばらくは裏切らん。『一番よりナンバー2』、『強い者の下につく』、それが奴の生き方だそうだ。
手傷を負わせたことを誇りもしない。自分が弱いことを知っているから、組む必要性を理解している。
俺たちと組むことがどれだけ有用か、思い知らせてやる自信もある」
だが、リゾットはホル・ホースを知っており、ペッシは知らないのだ。
彼の本質を、彼が人生において重視していることを。
「お前が警戒するのも無理ないかもしれないな。ああいうタイプはチームにいなかった」
リゾットは伊達にリーダーをやっていない。
人の性質を見抜き、ふさわしい役割を与えるだけのことはできる。
調子の軽い女好き、暗殺チームのメンバーには誰一人として当てはまらない精神構造。
異常と言っていいくらい歪んだ性癖の持ち主はいたが、彼とはまた違う。
だが、それでもリゾットにとっては相手をするのに別段困るというわけでもない。
これくらいで苦労するようなら、リーダーの名が廃る。
「分かったら、お前はさっきまでのように駅周辺の警戒に当たれ。俺は引き続き首輪を外すのに使える部屋があるか調べる」
「まあ、急な来客でしたからね。あんな短時間で全部の部屋見まわるのは無理でしょうよ」
リゾットはミューミューに対する尋問を終えた後、研究所内部の探索をしていた。
しかし、間もなくして施設に接近するホル・ホースを目にし、対処を余儀なくされたのだ。
結果としては良かったのだが、これ以上時間を無駄にはできない。
「何かあったらすぐに俺に伝えろ」
こくり、とあるかどうかわからない首を縦に振り、地下へ下るペッシ。
リゾットは、研究所内部の調査をしようと――する前に、
――活路を見出すのはいつだって前なのよ
時代錯誤な格好をした男の言葉を思い出していた。
(活路は前に……か。ブチャラティのチームと敵対していた過去にこだわるのは、活路を見いだせぬ後ろ向きの行為かもしれない。
だが俺は……そう簡単に割り切れない)
その覚悟に感銘を受けた相手だったが、彼を変えるには至らなかった。
後ろ向きの姿勢だからこそ。
(俺たちの目標は……殺し合いの打破もだが、組織の中で自由を得ることだ。
奴に、ホル・ホースに敬意を表したのは嘘ではないが――奴らとは相容れないのだから、戦うしかない)
彼は恐れを知らない、向こう見ずでいられるのだ。
【F-2 ナチス研究所/1日目 午前~昼】
【暗殺チーム(現在メンバー募集中)】
【
リゾット・ネエロ】
[スタンド]:メタリカ
[時間軸]:サルディニア上陸前
[状態]:頭巾の玉の一つに傷、左肩に裂傷、銃創(『メタリカ』による応急処置済み)
[装備]:フーゴのフォーク
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 基本行動方針:荒木を殺害し自由を手にする
1.ナチス研究所を拠点として確保する。まずは施設内を探索し首輪解除に使えそうな部屋探し
2.首輪を外すor首輪解除に役立ちそうな人物を味方に引き込む。
3.ホル・ホースを信頼。ミューミューはそうでもない。
4.暗殺チームの合流と拡大。人数が多くなったら拠点待機、資材確保、参加者討伐と別れて行動する。
5.ブチャラティチームとプッチの一味は敵と判断、皆殺しにする。ブチャラティチームに関しては後ろ向きな行動だろうがやむなし。
6.荒木に関する情報を集める。他の施設で使えるもの(者・物)がないか、興味。
[備考]
※
F・Fのスタンドを自分と同じ磁力操作だと思いこんでいます
※F・Fの知るホワイトスネイクと
ケンゾーの情報を聞きましたが、徐倫の名前以外F・Fの仲間の情報は聞いてません
※情報交換の際ホル・ホースから
空条承太郎、
ジョセフ・ジョースター、花京院典明、
J・P・ポルナレフ、
イギーの能力を教わりました。
※ホル・ホースの言葉に若干揺らぎましたが、現在ブチャラティチームと協力する気はさらさらありません
※リゾット、及びペッシのメモには以下のことが書かれています。
[主催者:荒木飛呂彦について]
荒木のスタンド → 人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
→ 精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない
※荒木に協力者がいる可能性有り
【F-2 ナチス研究所地下鉄駅ホーム/1日目 午前~昼】
【ペッシ】
[時間軸]:ブチャラティたちと遭遇前
[状態]:頭、腹にダメージ(小)、喉・右肘に裂傷、強い悲しみと硬い決意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(数不明)、重ちーが爆殺された100円玉
[思考・状況] 基本行動方針:『荒木』をぶっ殺したなら『
マンモーニ』を卒業してもいいッ!
1.駅周辺を警戒。
2.誰も殺させない。殺しの罪を被るなら暗殺チームの自分が被る。
3.ホル・ホースはいいとして、ミューミューは頼りになるのか?
3.チームの仲間(特に兄貴)と合流する
4.ブチャラティたちを殺す?或いは協力するべきなのか?信頼できるのか?
[備考]
※100円玉が爆弾化しているかは不明。とりあえずは爆発しないようです。
※暗殺チーム全体の行動方針は以下のとおりです。
基本行動方針:首輪を解除する
1.首輪解除のためナチス研究所を拠点として確保する。
2.首輪を分析・解除できる参加者を暗殺チームに引き込む。
3.1・2のために協力者を集める。
4.荒木飛呂彦について情報収集
5.人数が多くなれば拠点待機組、資材確保組、参加者討伐組と別れて行動する
【F-2 ナチス研究所から東に少し離れたところ/1日目 午前~昼】
【ホル・ホース】
[スタンド]:エンペラー(皇帝)
[時間軸]:「皇帝」の銃弾が当たって入院した直後。
[状態]:頬、右上腕に裂傷、左肩に銃弾による貫通傷(すべて『メタリカ』による応急処置済み)貧血気味、
腹部にダニー(身体的な異常は0)
[装備]:なし。
[道具]:チューブ入り傷薬、支給品一式(不明支給品0~2、確認済)
[思考・状況] 基本行動方針:生き延びるために誰かに取り入り、隙を突いて相手を殺す。
1.ミューミューとともにE-4の民家へ。
2.スピードワゴンの作戦に乗ってやるが、今の旦那はリゾットだ!
3.探知能力を持った者、またはレーダーを探す。
4.ミューミューを口説くのは難しそうだ。裏切るようなら始末するがな
5.このネズミをどうにかしたい。
6.女は見殺しにできねー。
[備考]
※先刻の【D-4/深夜】にてホル・ホースの悲鳴が近くの参加者に聞こえた可能性があります。
※スピードワゴンにシーザーとの戦闘の事を隠しています。
※情報交換の際リゾットからブチャラティチームの能力を教わりました。
暗殺チームの名前と能力(ペッシ含む)は教わっていません。ミューミューの能力は教わりました。
※リゾットの考察メモの内容を聞きました。
※ホル・ホース、スピードワゴンの両者は、隕石を見、鉄塔とスペースシャトルの破壊音を聞きました。
※ネズミについて(SPWの不明支給品のひとつでした)
このネズミは【アクセル・ROの作りだした“ジョニィが捨てたダニー”】です。出典はSBR15巻。
このネズミの解除方法は原作同様“水で清める”だけOKです。ただSPWが教えなかっただけなので偶然的に外すことができるかも知れません。
ロワでの制限として“心が折れるまでには約10時間かかる”というものがあります。
ダニー自体を破壊する事は出来ます(コミック内の描写より)が腹と一体化しているのでまず無事では済まないでしょう。
また、ダニーはあくまでも“シビル・ウォーによって作り出されたモノ”であるのでシビル・ウォーの“罪をおっ被る”という能力は持っていません。あくまでも“心を折る”だけが能力です。
上記が記された【説明書】はスピードワゴンが破り、その一部は屋外へ捨て、残りは食べてしまいました。
【
ミュッチャー・ミューラー】
[スタンド]:『ジェイル・ハウス・ロック』
[時間軸]:幽霊の部屋から出た直後
[状態]:全身に軽い打撲。腫れ上がった顔。リゾットに対する恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況] 基本行動方針:ゲームには極力乗らない。身の安全を最優先。
1.ホル・ホースの軽いノリがムカつくけど、暴力は勘弁してほしいからついていく。
2.他のスタンド使いを仲間にして、アラキを倒したい。
3.もうスカーレットを仲間だと思うようなことはしないよ(鉄塔に行ったのだろう。勝手に行け)。
[備考]
※ジェイル・ハウス・ロックは特定の条件下で自動的に解除されるよう制限されています。
ミューミューが寝ると解除されるのは確定しました。
※荒木のスタンドを「ホワイトスネイク」だと思っています。
※
第一回放送を聞き逃しました。リゾットは教えていません。
※リゾット、ペッシの名前と能力を知りません。
※フーゴの辞書(重量4kg)、ウェッジウッドのティーセット一式は【F-2 ナチス研究所】に置いて行きました。
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最終更新:2009年10月12日 09:37