人の死に涙を流さなくなってどれだけの月日が経っただろう。
多くの命を奪ってきた俺は、いつしか死に何の感慨も覚えなくなってしまった。
ジェラードが死んだ時も、ソルベが死んだ時も、悲しいとは思わなかった。
ただ静かな怒りを胸にボスへの裏切りを決め、黙々と情報を集め始めた。
奴らを悼み振り返る事もせず、ひたすらに前だけを見つめてきた。
そして得た。ボスの娘の情報をッ!
ようやくオレは掴んだんだ、自由と栄光を手にするための片道切符を!
ボスを裏切り、麻薬ルートを占拠する――簡単なことじゃあない。五体満足で成せることではないだろう。
だからオレはあいつらに『命令』はしなかった。手伝ってくれと『願う』こともだ。
だが、あいつらはオレについてきた。誰一人降りず、皆が命がけのギャンブルで「コール」したのだ。
何も感じなかったと言えば嘘になる。
長年一緒にやってきた部下が共に来ると言ったのだ、心強いに決まっている。オレは奴らを信頼しているからな。

だが……あらゆる面で信頼していたオレの部下は、誰一人としてオレの元には戻らなかった。
ポルポの葬式にブチャラティが来ていないことを突き止め、最初にブチャラティ達を追ったホルマジオ
死体すら見つからなかったというイルーゾォ。
ギアッチョの報告によるとメローネが死体を発見したというプロシュートペッシ
そのメローネとも連絡が取れなくなったと報告が入り、その報告を行ったギアッチョもとうとう連絡がつかなくなった。
……涙は出ない。こうなる可能性があることは、あいつらも分かっていたはずだ。
あるのは憎悪と、冷たい殺意。
涙は流さないし、墓を造って手厚く弔ってやる気もないが、あいつらはオレの大事な部下だ。
リーダーとしての責任は最期まで果たす。

確かにあいつらは負けたかもしれない。ブチャラティ達に敗れ去った無様な負け犬だと罵られても、それを否定など出来やしない。
だがッ! 『俺達』はまだ負けてはいない! オレはまだ生きている……オレはまだ、ボスへの到達を諦めてはいない……
『暗殺チームは、まだ負けていない』のだッ!

オレは勝つ。ボスを倒し、組織を乗っ取る。暗殺チームに勝利をもたらす!
それがオレのあいつらに出来る唯一の事であり、オレなりの餞別だ! あいつらを『負け犬』ではなく、『勝利者』にするために!
オレは立ち止まらない!





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





(……新手のスタンド使いか)
ありのまま今起こった事を整理しよう。
『オレはサルディニア行きの飛行機に乗っていたと思ったらいつのまにか降りていた』
あいつらが聞いていたら「何を言っているんだかわからねーぞボケたのか」と言われそうだが、オレも何が起きたのか分からなかった……
三十路手前で痴呆症だとか居眠りしてたらサルディニアだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。
もっと恐ろしいスタンド能力の片鱗を味わったぜ……
(奴の能力は人間ワープといったところか……? 精密性と連射性はそれなりに高そうだな。
 あの場で女を浮かせていたが、あれは“空中のある地点に延々ワープさせている”とも取れなくはない。
 それならあの場が薄暗かったのも「連続ワープで『位置がブレる』事に気づきにくくするため」と説明がつく)
断定は危険だが、奴の能力はそれが可能であることにまいだろう。
オレは暗殺者だ、付近の座席は警戒のためしっかりと見ていた。あそこに荒木はいなかった。つまり奴の射程は少なくとも5メートル以上!
そしてそれは同時にこの場はあの時飛行機が飛んでいた位置からそう離れていないという事だ……超近距離型でもない限り、そう遠くまでは飛ばせないだろうからな。
おそらくこの島はサルディニア行き航空機の航路上にあるのだろう。泳ぐのは無理だが、生還が絶望的な場所ではない。
1週間とは言わないが、10日もすれば船ぐらいは通るだろう。
それはさておき、やはり荒木を殺るのなら最後の一人になり接近できるようになってからだな。そうでなくては荒木を射程に入れる前にどこかへ飛ばされてしまう。
そうなってしまっては勝ち目がない。
まずは近付かなくてはいけないのだ。


(まずは支給品とやらの確認をしておくか)
一般人に負けるつもりもなければ奴の与えた道具で奴を倒せるとも思わないが、手持ちの情報は把握しておくに越したことはない。
それにオレにはまだ『先』があるのだ。荒木を殺した後に、サルディニアでボスの秘密を暴くという暗殺チームとしての最後の任務が。
傷を負う可能性が減るのならば、使えるものは使ってやるさ。
「これは……『ボヨヨン岬の岩の欠片』……?」
紙を開いて出てきたのは、間の抜けた文字が書かれた岩。
添付の説明書によると、一度だけ衝撃を跳ね返してくれるらしい。
これは奴の配下のスタンドだろうか? だとしたら過度な期待はしない方がいいだろうな。
そもそも両手で抱えなければ持てないサイズなのだ、はっきり言ってコストパフォーマンスが悪すぎる。
「……まだあるな」
岩をデイパックにしまう際、もう一つ紙を見つける。
またデカい物が出てきたら持ち運べなくなるが、その時は要らない方を放棄すればいいだろうと考え紙を開いた。
「……フォーク?」
開かれた紙から出てきたのは、先端がちょっぴり血に濡れていること以外は何の変哲もないフォーク。
添付された紙切れには『フーゴがド低能もしくはクサレ脳みそを刺したフォーク』とだけ記されている。
どうやら先端の血はド低能もしくはクサレ脳みそとやらのものらしい。無論聞かない名だ。放送禁止用語な気がするが、誰かのあだ名だろうか。
通常なら射程距離と殺傷力が恐ろしく低い刃物でしかないのだろうが、磁力を操る自分にとってはそうじゃない。
自身の体に反発するよう磁力を操作すれば、慣性に従い射程外の相手まで飛んで行ってくれる可能性がある。何せスタンドで作った刃物ではないのだからな。
勿論メタリカの射程圏内から離れるほど威力は減るし過度の期待は出来ないが、射程距離を偽るためのブラフなど色々な用途に使えるだろう。
このフォークは大事に持っておく事にしよう。



「……待てよ? 『フーゴ』……この名前、どこかで……」
何かが引っかかる。この名はどこかで聞いたことがあるはずだ。
それも、何か重要な名前だったはずだ。思い出せ、この名前は、確か……
「……フーゴ。パンナコッタ・フーゴかッ!」
思い出した。パンナコッタ・フーゴ。
オレ達の追っていたブチャラティチームのメンバーで、確か外見に似合わず短気な奴だとの情報を受け取った気がする。
このフォークを配った人間はパンナコッタ・フーゴを知る人物ということか!?
だとしたら、まさか……
「いるッ……ブチャラティも、ミスタもアバッキオも! ブチャラティチームの連中も、この殺し合いに参加しているッ!」
慌てて取り出した名簿を見、衝撃を受ける。
どうやらこれはただの殺し合いではないらしい。
ブチャラティチームの奴も、トリッシュもここにいる。
おそらくこれにはパッショーネが深く関わっているのだろう。
その証拠に……
「ホルマジオにペッシ、プロシュートにギアッチョ……」
死んだはずの部下が、ここにいる。
とは言え、死んだ人間は生き返らない。小学生でもわかることだ。
つまりアイツらは死んでなかったということになる。おそらく、ブチャラティ達に敗れボスに捕らえられたのだろう。
そしてこの悪趣味な殺し合いはオレ達への処刑法というわけだ。
ブチャラティ達も反旗を翻したと聞くし、奴らも俺達と共に処刑にかけられているのだろう。
ソルベを生きたまま輪切りにする男だ、みせしめとして殺し合いをさせてもおかしくはない。
これ以上の氾濫を防ぐためとはいえ、わざわざ島を貸し切るのにはさすがに驚きを隠せないがな……
「だとすると、あの荒木という男は親衛隊の一人か?」
……いや、それはない。瞬間移動だなんて危険な能力を持つ男を手元に置き続けるほど、ボスの器は大きくないはず。
俺達に縄張りを与えないよう、力を持つと厄介な人物には徹底して地位を与えない奴だからな……
おそらく自身の正体を知る親衛隊には“反逆されても困らない奴”を置いているはずだ……信頼できてなおかつ反逆する力のないペリーコロのような奴をな……
だとすると、考えられる可能性は一つだ。

『 荒 木 こ そ が 、 オ レ 達 の 追 い 求 め て い た ボ ス の 正 体 』



おそらくこの推理に間違いはないだろう。
そうでない場合、少なくともオレにはギアッチョ達が生きている説明をすることができない。
ここに名のないイルーゾォは、能力的に監禁が困難だったため消されてしまったのだろうか?
プロシュートとペッシの亡骸を目撃したというメローネは、ひょっとすると奴らに騙されたあと用済みになったとして始末されたのかもしれない。
どちらにせよ、二人の生存に期待はしない方がいいだろう。
悼むのはボスの――いや、荒木の首を取ってからだ。
荒木の正体がボスだと分かり、この場に部下がいる以上、「最後の一人になって荒木を殺す」という案は却下だ。
忌々しい首輪を再び外し、部下とともに荒木を討つ!
そうなると協力者が必要だ……メローネがいない今、首輪をどうこうできる人間がチーム内にいるとは思えない。
利用するだけ利用してポイというのが定石だが……それをやられて反逆を企てた身だ。出来れば理念を共にする仲間として暗殺チームに引き入れたい。
「……仲間、か」
荒木に反逆するであろう人物に、心当たりがないわけではない。
それもそいつのチームの実力は折り紙つきで、仲間に出来ればこれ以上ないほどの戦力になるだろう。
ブローノ・ブチャラティ……」
奴を仲間に引き入れるか?
メローネとイルーゾォを殺したチームの頭を?
仲間の死を悲しむ間も惜しんでようやく得たボスへの手がかり・トリッシュを利用することを許さないであろうあの男を?
「できるわけがない……そんなこと、できてたまるかッ!」
部下の死に涙を流す代わりに、仇に対する怒りの炎を燃やし続けた。
何があっても振り返らずに、目標を追い続けた。
それはどんな事態にあっても変わらない。ここが殺し合いの場だろうと、ボスの正体が判明していようと、オレは変えるわけにはいかないッ!
「娘奪取計画は遂行する」「ブチャラティ達も殺す」
『両方』やらなっくっちゃあならないのがつらいところだが、それが先に逝った仲間に出来る唯一の弔いだ。
オレはやり遂げてみせる! 誇り高き暗殺チームのリーダーとして!





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





ありのまま今起こった事を話すぜ。
『神父と命のやり取りをしていると思ったら大人数での命のやり取りを強制された』
何を言ってるのかわからねーと思うが、あたしだって何が起きてるんだか分からなかった。
ただ、今はとりあえず徐倫達の名が名簿にあることを喜ぼうと思う。
ここに名前があるってことは、あの時徐倫はちゃあんと生き延びたってことだ。
体張ってDアンGを殺った甲斐があるってもんだ。
「ってよくねえーーーーーーーーーーーッ!!」
確かにひとまず徐倫の無事は確認できた、それはいいことだ。
ボロボロだった体も何故だか治っている。これも素直に喜べる。
だが殺し合いに徐倫と一緒に放り込まれたって言うのはちょいとヤバい。
名簿に目を通してみたが、神父のやろうの名前まである。つまり荒木は神父よりも強いってことだ。
それもヤバいが、何より……
「徐倫が神父に会っちまったら……」
徐倫だけじゃない。
エルメェスもウェザーもアナスイも、誰一人としてホワイトスネイクの正体を知らないんだ。
顔見知りの神父ってことで、あっさり奴を信用しかねない。
もしそうなったら、うっかり奴に背中を見せようものならば、間違いなくその場で始末されるだろう。
「クソッ、徐倫にこの事を伝えねえと……」
徐倫は大切な友達だ。こんな所で死なせやしねえ。
とりあえずまずは支給されたものを確認してみよう。もしかすると、徐倫達と再会するのに役立つ物があるかもしれない。


えーっと、私の支給品は……と、加湿器? これちゃんと使えるのか?
もう一個あるみたいだけど……なんだこれ、マスクか?
それにしても悪趣味だな……まぁいいや、とりあえず使えそうにないし、デイパックに戻しておこう。
「オレは、おまえに…………近づかない」
「はっ!」
何だ今の!?
背後から聞こえてきたはずなのに! 振り返ってみたら居やがらねえッ!
「出てきやがれ、クソッ」
どこだ、どこにいやがる!?





 ☆  ★  ☆  ★  ☆





行動を始め、最初に見かけたのは頭の悪そうな女だった。
――いや、悪“そう”ではなく、悪“い”だろう。
こんな殺し合いの場で大声を出すとは……おそらくチンピラ崩れの鉄砲玉だな。
コイツは使えそうにもなく、いずれ敵に回る可能性がある女だ。今ここで始末しておく。

(……こいつ、スタンド使いですらないのか?)
わざわざ声をかけた理由。それはズバリ、『敵の存在を認識させ、スタンドを出させるため』だ。
こいつ自身が絵に描いたようなクサレ脳みそだとしても、スタンド自体は荒木打倒に役立つ可能性が大いにあるからな。
だが、奴のスタンドは一向に現れない。スタンド使いですらない雑魚ということだろうか?
小さすぎて見えない場合やオレのように体内に潜むタイプである可能性もあるが、その場合戦闘になると厄介だ。奴が仕掛けてくる前に始末する方が得策だろう。
(くらえ、メタリカッ!)

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

「…………!?」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

(メタリカ! メタリカッ! メタリカアァァァッ!)

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

(な、何だ? 何が起きている!?)
お、落ち着け……素数を数えて落ち着くんだ……
1……2…………ん? そういえば1は素数だったか? いや、そんなことはどうでもいい。
今重要なのはッ! 目の前の女に! 『スタンド能力が効いていないという事』だッ!
確かにオレはメタリカを繰り出しているのに、ハサミどころか縫い針一本出て来やしない。
おかしい、明らかにおかしい。仮に恐ろしく貧血気味の人間なのだとしても、血液が無いという事はないはず……
まさか、これが奴のスタンド能力か!?
……ありえない、とは言い切れない。奴から隙が一気に消えたし、只者ではないのだろう。
考えたくないが、奴は『オレと同じタイプのスタンド能力』を――つまり、『磁力を操るスタンド』を持っているのかもしれない。
SF小説じゃあないんだ、少なくとも「奴が血液の流れていない人間以外の何かだ」と考えるよりはよほど現実的だろう。

(だが……どうする? 操作した鉄分を正常に戻すという事はかなりのやり手ということになるが……
 引くか? いや、それはない。何も得ぬままおめおめ逃げ出すなどありえない。
 だがどうする? このままだと互いに相手の磁力を打ち消すだけの千日手だ。しかし同属のスタンドなら手を組む旨みも少ないが……)

ボッ!

「……何ィ!?」
急に振り向いた女の指先から弾丸が発射される。これも磁力の応用なのか!?
弾丸は頭巾の玉を掠めたようだ。
衝撃でよろめき、『迷彩がズレて』しまう。体に描いているだけだから急激な動きに迷彩がついてこられないのが難点だな。
それはともかく、この女……侮れないぞ……
「何故、オレがここに居ると分かった」
迷彩を解除し口を開く。最も、死ぬ前の冥土の土産を聞きたいわけじゃねえ。
鉄分を操作し、奴が対処に手間取りそうな場所を探すためのお喋りだ。
カミソリで頭を吹き飛ばせるとは思わないが、足先から針を突き出させるくらいなら出来そうだしな。
奴から喋る余裕が消えたら、その箇所を中心に叩くッ!
「あ? 分かってねーよ。ただ逃げてないならこの辺りにいるんだろうし、辺り一面に撃ちまくればいいかって思っただけだ」
何……だと……?
「まあ、あたしと戦り合う気なら背後から来るだろうとは思ってたけどよ」
何なんだコイツはッ……一撃でオレに当たらなければ辺り一面に撃ちまくるつもりだったと言うのか!?
誰が来るかも分からないというのに……頭脳がマヌケか、よほど自分のスタンド能力に自信があるのか……
闇に潜んで確実に仕留めることを基本とする暗殺者には理解できない思考だ。
「んじゃ、スタンドを出してもらおうか。姿を消すオメーのスタンドをよォ」
……なめやがって。つまりお前はこう言いたいんだな? 『お前のスタンドは姿を消す事ぐらいしか優れていない』と。
よほど自分の磁力操作に自信があると見える。だが、慢心はしないことだな。付け入る隙はそこに生じる。



「…………」
俺は黙って唇を噛む。そこから滴る血を舌で舐めると、その舌を女へと突きつけた。
「喧嘩売ってんのか、テメー!」
「……違う、よく見ろ。これが『姿を消すことしか能のない』俺のスタンドだ」
自嘲めいた皮肉を返しながら、舌に付いた血からメタリカを発現させる。
磁力使いであることはもうバレているのだ、スタンド能力を隠しておく意味はない。
それならばむしろ、偽りの情報を与えた方がいい。結果の方は期待できないが、何もしないより遥かにマシだ。
「オレのスタンドは『口内に潜むタイプ』……身を守る力もなければ、腹をぶち抜くことも首を飛ばす事も出来ない貧弱なヴィジョンだ」
嘘の基本は真実を混ぜること。
スタンドをガードに使えない事も、メタリカのビジョンは殴打も腹パンも出来ない貧弱なヴィジョンと言う事も真実だ。
だが『口内』という所は「嘘」だ。これで奴は千切った体の一部に警戒心を持たなくなる。
「……ふうん、弱そうなスタンドだな」
殴るぞ。
……いや、ここは我慢だ。見下される事に長年耐えてきたオレには、こんな小娘の戯言を我慢するくらい朝飯前じゃないか。
もっとも、隙が出来次第この分の『清算』はきっちりしてもらうがな。
「まあいいや。それよりお前、あたしと一緒に行動しないか?」

!?

……何を企んでいる? 少なくとも荒木の手のひらの上で踊る気はないようだが……
「姿が消せるんなら、神父を倒し損ねてもDISCをくすねて逃げる事が出来るかもしれないからな。その時には徐倫に情報とDISCを渡す役目を引き受けてくれ」
「神父? 誰だそいつは」
敗走する可能性を考えねばならない相手という事は、コイツの敵対者なのだろう。
もしかしたら神父とやらのスタンド能力も、この女は知っているかもしれない。
「ん? ああ、グリーン・ドルフィン・ストリートの教会の神父だ。ホワイトスネイクっつースタンドを使う野郎だ」
「グリーン・ドルフィン・ストリー……まさか、アメリカの水族館か!?」
「だったら何だっつーんだよ」


水族館の神父と敵対しているだと? もしかしてこいつは水族館にブチ込まれてたのか?
組織がアメリカにまで進出しているなんて聞いたことがないが……
もしかしたらコイツは組織の人間でなく、ボスが乗っ取ろうとしているアメリカの組織の人間で、アメリカのギャングへの見せしめ代りに参加させられているのか?
……本人に聞くのが早いのだろうが、答えてもらえるわけがないので聞かないでおく。
それよりも聞いておかねばならない事はたくさんある。
確実な暗殺とは相手の情報を把握することから始まると言っても過言ではないからな。
「……何でもない。続けてくれ」
「えーっと、どこまで話したっけ? まあいいや。それより徐倫だ。お前、徐倫を見なかったか?」
「徐倫……? どんな奴だ?」
徐倫。目の前の女の知人なのだろう。
奴から徐倫とやらの情報を遠慮なく引き出させてもらう事にした。スタンド能力まで喋ってくれると有難いんだが……
「私が一々知り合いの特徴を話すより、お前が会った人間の特徴を話してくれた方が早いんじゃあないのか?」
やはりそう甘くはない、か……
だがまあこれは想定内だ。そう簡単に仲間の情報を口にするほど迂闊な奴はそう居まい。
「……生憎だが、オレが出会ったのはお前が初めてだ」
そして、他人の情報を簡単に信じるほどのマヌケもそう多くは居ないだろう。
嘘を嘘と見抜けない人間に、ギャングをやっていくのは難しい。
ならしょうもない嘘をついて疑心を与え、それがバレた時に反感を買うよりは、情報を引き出すためにも正直に受け答えをし相手が口を滑らせるのを待った方がいい。
(もしかすると、コイツを利用すれば水族館にブチ込まれた連中を引き込めるかもしれない……)


探し人の存在を隠すならともかく、わざわざ偽りの探し人をでっちあげるメリットは皆無である。
少なくとも神父と徐倫の二人の事を、この女は知っているッ! この女は『嘘は言っていない瞳』をしている。
二人分のスタンド能力の情報なら、多少の手間暇を賭ける価値はある。
そして何より、『水族館』というキーワードも適当に口にしたようには見えなかった。
コイツを使えば、水族館出身の有能な部下が手に入るかもしれない!
「そうか。あたしも誰にも会ってないし、時間がもったいないからさっさと移動しようぜ」
……まだ仲間の誘いに乗った覚えはないんだが。
まぁいい、ここは素直にコイツの誘いに乗るとしよう。
コイツがいれば様々なメリットがありそうだし、情報も集めやすくなりそうだからな(チームメンバーのみでの情報収集には限界があることは反逆後に嫌というほど思い知らされた)
それにどうやら奴に弱点はないらしく、体内から刃物を出すのは出来そうにない。
コイツを殺るにしても隙を見て“外”から鉄製の物以外でやる必要がありそうだ。
つまり、どの道今のオレには『メリットがありそうだしコイツと組む』か『無様にも肉弾戦を始める』かしか選べないわけだ。
その二択なら、答えは考えるまでもない。
「そういやお前、名前は?」
女はデイパックを担ぐと、間抜け面で問いかけてくる。
それにしても、人の支給品や知人について全く尋ねないとはな……愚かにも程があるぞ。
もっとも、支給品に関してはこちらも秘密にしておきたいし、話題に出すことはしないのだが。
「……リゾット。リゾット・ネエロ
ここで下手な嘘はつかない。名簿があり、今後何人にも会う可能性がある以上、偽名などハイリスクローリターンだからな。





 ☆  ★  ☆  ★  ☆








リゾット・ネエロ。これは偽名じゃないだろう。
頭巾だか帽子だかの玉に掘られた文字も『リゾット』だしな。
……まぁ、名前入りの頭巾をかぶっておいて偽名を名乗るバカはいないだろうし、偽名を使わなかったからって信用できるわけじゃないんだけどさ。
(コイツ、裏切ったりしないだろうなぁ? 神父の事は知らないみたいだけど……)
裏切られる可能性を考えると、コイツを徐倫に会わせたくはない。
だが、もしコイツが信頼できる人間で、なおかつ他者をも透明化できるとしたら、神父打倒に大きく貢献できるはずだ。
もし自分しか透明にできないとしても、強力な武器さえ持たせれば役に立つはずだ。
(逆に考えりゃ強力な武器を持って反逆されたらヤバいんだよな……とりあえず使えそうな武器が手に入るまで様子を見るか)
近付いて来ながらもアイツは武器を構えなかった。
無力化したかったにせよ殺す気だったにせよ、素手で(多分絞殺する気だったんだろうな)戦おうとする理由なんざ一つしかねぇ。
『リゾットはロクな武器を持ってない』
あたしにだって分かる。これは間違いないだろう。
にも関わらずあたしに武器をよこせって言わねえのは、あたしを信頼してないからか、はたまた頭が良くないからか。
しかしどうすりゃいいんだ、あたしは?
コイツが敵じゃないっつーなら信頼関係を築くためにも武器を見せるくらいした方がいいのかもしれないけど、敵だった場合は牽制として武器は隠し通した方がいいからなぁ~~~……
「……とりあえず、ヤバい人物の情報を交換したい」
リゾットの提案に頷き、歩みを止めずに情報交換を始める。
とりあえず私が知っている『徐倫達の敵』の名前を教えておいた。
どうせ敵なんだから能力も教えても問題ない気がしたけど、よくよく考えれば敵のスタンドの詳細を私はほとんど知らないんだった。
間違った情報を口にするのも何だし、素直にケンゾーのスタンドとホワイトスネイクについて知っている事だけを教えておく。
「……あたしの知ってることはこのぐらいだな」
「そうか……まあいい、敵対者の能力をイマイチ把握出来ていないのはオレも同じだ」


わざわざデイパックから名簿と筆記具を取り出し歩きながらメモを取っていたリゾットが、今度は敵対する人物の情報を渡す番だ。
「まずは荒木。奴はオレの部下を惨殺した事のある、ギャング集団パッショーネのボスだ。能力はおそらく『人間ワープ』」
「な……ッ!?」
コイツ、あの荒木の知り合いなのか!?
……敵対しているってのが本当なら、コイツは仲間にした方がいい。
だが、もしコイツが“敵対者を装った腹心”だった場合、コイツを仲間に入れるのはマズい。
だが……どっちだ? コイツは荒木側なのか!?
クソッ、あたしじゃ判断がつかねぇッ!
「……もっとも、奴の能力を詳しく知っているわけじゃあないがな。ただ、奴の信頼する部下の名前は知っている」
「……そいつもこの殺し合いに参加してるっていうのか!?」
「……ああ」
クソッ、刺客までいるってのかよ!
徐倫は大丈夫だと思うけど……空条承太郎辺りはヤバい!
DISCを抜かれて廃人状態な時に襲われたらどうにもならねぇ!
……徐倫のママは荒木の野郎に殺された。徐倫は泣いてた。
これで承太郎まで死んだら、徐倫は再起不能になってしまうかもしれない。
それだけは何としてでも阻止してやるッ!
「複数人いる荒木の部下を束ねる男の名は、ブローノ・ブチャラティ。オカッパの男だ。奴の能力は――」






【D-2 森の中/1日目 深夜】

【真っ黒雑炊微生物添え】

【リゾット・ネエロ】
[スタンド]:メタリカ
[時間軸]:サルディニア上陸前
[状態]:正常、頭巾の玉の一つに傷
[装備]:フーゴのフォーク(ポケットに隠している)
[道具]:ボヨヨン岬の岩の欠片、支給品一式
[思考・状況]:
1.荒木(=ボス)を殺害し自由を手にする
2.トリッシュを捕える。ブチャラティチームの連中は皆殺し
3.首輪解除に役立ちそうな人物を味方に引き込む
4.暗殺チームの仲間と合流
5.ブチャラティチームとプッチの一味は敵と判断
[備考]
1.ボス=荒木だと思いこんでいます
2.F・Fのスタンドを自分と同じ磁力操作だと思いこんでいます
3.F・Fの知るホワイトスネイクとケンゾーの情報を聞きましたが、徐倫の名前以外F・Fの仲間の情報は聞いてません



【F・F】
[スタンド]:フー・ファイターズ
[時間軸]:DアンG抹殺後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:加湿器、メローネのマスク、支給品一式
[思考]:
1.徐倫達に会ってホワイトスネイクの正体を教える
2.承太郎のDISCを奪還する
3.勿論荒木は倒す
4.ひとまずリゾットと組んで行動し、リゾットを信用していいか見極める
5.ブチャラティチームとプッチの一味は敵と判断
[備考]
1.リゾットの能力を物質の透明化だと思いこんでいます
2.承太郎はDISCを抜き取られ廃人化した状態だと思いこんでいます
3.リゾットの知るブチャラティチームの情報を聞きましたが、暗殺チームの仲間の話は聞いてません

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リゾット・ネエロ 77:ほんのすこしの話
F・F 77:ほんのすこしの話

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最終更新:2016年07月03日 10:15