はぁ、死にて~。
皮肉な事に、この殺し合いの場でM字の剃り込みを入れた男『
サンダー・マックイイーン』が初めに考えた事がこれである。
そして、彼はその考えに忠実に行動しようとした……のだが死ねるような環境がない。
飛び降りれるような高い建物もなければ車や電車がありそうな様子もない。
仕方がないのでディバッグを漁ってみると出てきたのは紙、それを空けると布袋、更にそれを開けると―――
なあ、あの男は俺に殺し合いをしろって言ったんだよな?
なら殺傷能力のあるものが普通くるよな?
じゃあ何だよこのおもちゃは?
はぁ~ホントに俺ってついてね~な…
猫のヌイグルミと血糊が出てきた。
紙の中に布袋が入っていた事には多少驚いたが、
自分にも相手を道連れにする能力があるのでそのような異能が他にもいるのだと自己解決する。
他に自殺に使えそうな道具がないか探すものの、出てきたのは食料と地図、名簿のみであった。
食料も地図も今から死ぬんだし関係ね~、わざわざ荷物を持つのも面倒だし置いて行くか。
そう考えて荷物を置いた後、自殺に使えそうな道具を探し繁華街をうろついていると一軒のレストランを見つけた。
レストランなら包丁が置いてあるはずだな。
そう判断したマックイイーンは『レストラン・トラサルディー』と書かれた看板を見つつドアを開け中に入る。
狭い店内にはテーブルが3つしかなく、繁盛してないのだろうか?とよけいなことを考えさせられる。
そう思っていると自分の鼻に送られてくるスープの香りに心を奪われた。
「あ~うまそうな臭いだな~、こんなのをいつも食ってる奴がいるのに
俺は無実の罪で刑務所の飯を食う羽目になっちまってるんだよな~~?
なんでこんなに不公平なんだ?死にたくなってきた……」
俺が不平不満をぼやきながら、自殺に使えそうな刃物をさがしに厨房へと向かう。
しかし俺が厨房に入る前に、その声に反応したのか厨房から一人の男がやってきた。
☆ ★ ☆
会場で見た
東方仗助や
虹村億泰達は殺し合いを止めるために尽力するであろう
しかし何の戦闘能力も無い自分にできることはホンの僅かしかない。
だからこそ自分の得意分野の料理で殺し合いを止める為に頑張っている人をサポートしたいと考えた。
トニオは自分の料理に絶対の自信を持ち、その料理は自信を裏切らない味である。
しかも、トニオには料理に混ざり病気を癒すスタンド『パール・ジャム』の使い手だ。
これなら精神的にも、肉体的にも皆さんをサポートできる。
そうして料理を始めたトニオであったが、急にドアを開ける音がしたので調理を中断して警戒する。
今持っている道具は包丁のみだ。
一般人相手なら十分すぎる武器だが、スタンド使いを相手にするには不安な装備だろう。
緊張しながらも警戒を続けていると、男の声で「死にたくなってきた」というのが聞こえた。
その声をきいてトニオは男はゲームには乗ってないと判断する。
しかし油断はできない、何故なら男は「死にたい」と言ったのだ。
この状況下、絶望して自殺してしまう人がいないとは限らない、
いや、それどころか十分すぎるほどにありえる話である。
こんなゲームで犠牲者を出したくはない。
トニオは哀れな犠牲者を止めるために厨房から出た。
☆ ★ ☆
「死ぬ前に私の料理を食べませンカ?」
妙に片言なコックが俺に話しかけてくる。
この殺し合いの中で死ぬ前に食事をしないか?なんて聞かれるとは思わなかったので拍子抜けしながらも
「あ、あぁ食わせてもらおうか」と答えておく。
「では、席に腰掛けて少しお待ちくだサイ。」
そう言い残して、再び厨房へ戻っていくコック。
不思議な人だと思う。
なぜ、このようなゲーム下でも自分を見失わないのだろう?
そんな人と自分を見比べて………死にたくなった
有言実行を地で行った男である。
先ほどは気が動転していて気が付かなかったがここにはベルトがある。
これで首を吊れば死ねるだろう。
と、ベルトで輪を作って首を括ろうとした瞬間―――――
「何やってるんですカーーー!!?」
店内にトニオの絶叫が響き渡る。
☆ ★ ☆
「何であんな事やろうとしたんですカ!?答えてくだサイ!!」
非常に驚いたトニオがマックイイーンを問い詰める
「いや、こんな状況でも精一杯の行動をしているアンタを見てつい。」
「っていうことはあなたは魔が差して自殺しようとしたって事ですネ!!?」
「そういう事になるかな?気分が滅入ってたんだよ。
でも、もう大丈夫。命の大切さ気付いたよ。絶対にこんな事はしない。」
「そうですカ…とりあえずこのハマグリのズッパ(スープ)でも飲んで落ち着いてくだサイ。」
そう言うと、急に泣き出すマックイイーン。
「オレッ、オレッこんなに人に優しくされたのは2回目だ。ありがとよ…え~っと」
「トニオ・トラサルディーです。」
「ありがとうトニオさん。オレはサンダー・マックイイーンっていうんだ。」
自己紹介を終えた直後、唐突にマックイイーンはフォークを持って自分の喉を突き刺そうとする。
それにギリギリ気が付いたトニオがとっさに腕を出して、マックイィーンの喉を守る。
当然フォークはマックイイーンを庇ったトニオの右腕に深く突き刺さる事となってしまった。
「な、何やってるんですかトニオさん!?」
「うぅっ、何をやってるカ?それは私のセリフでス!!何でそんなに死にたがるのデスカ!?」
「だってオレがトニオさんに何か食わせてもらっても恩返しできねぇし……」
そう言った途端にトニオさんがブチ切れる。
「私が金やチヤホヤされるために料理を作ってるとおもってるのデスカ!?
私は『お客さんに喜んでもらうため』に料理を作っている『お客さんに喜んでもらうため』ただそれだけのためデス。
単純なただひとつの理由だが、それ以外はどうでもいいのデス!」
トニオさんのあまりの気迫にオレは押し黙る。
「いいですか!?あなたは色々と深く考えてますが、それは逆なんデス!
私の事を本当に考えているならこの料理をよく味わって食べて下サイ!!」
そういわれてオレはスープ(ズッパだっけ?)に手をつける。
本当に旨い。流石はさっきあれほどの宣言をした人の料理といった所か。
オレは黙々とスープを口に運ぶ。
トニオさんは何故オレのようなクズにまで優しいのだろうか?
そんな事を考えながら食べ続けるオレ。
暖かいスープのせいかオレの心は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。
そしてスープを完食した俺は先ほどの疑問をトニオさんに問うた。
「なぁ、トニオさん…。」
「ハイ、何でしょウ?」
「何でトニオさんはオレみたいなクズに優しくしてくれるんだ?」
「それは……なんででしょうネ?
それでもこれだけは言えマス、マックイイーンさんは決してクズなどではありまセン。」
「なんで!?なんでそんな事が言えるんだよ?」
その言葉を皮切りにオレは今までの体験を吐き出した。
自殺しようとした女を事故で撃ち殺した事、そして送られた刑務所で自分がやった事
自分の罪を全て話した後、マックイイーンは再び涙を流した。
☆ ★ ☆
「マックイイーンさん、このごろ私一人でこの店をやっていくのが辛くなってきたんデスヨ。
もしあなたが人の喜ぶ顔が見たいというなら私のレストランで働きませンカ?
当然この殺し合いが終わってからになりますけどネ。」
オレが泣き止んだ後に、唐突に提案してくるトニオさん。
「オレを雇ってくれるんですか?こんなオレを?」
「えぇ、当たり前じゃないでスカ。」
そういって微笑むトニオさんは神様の様に見えた。
よく考えれば誰かに必要だと言ってもらえたのは生まれて初めての事だ。
オレは?オレは生きてていいのかな?
人生に光が差した気がする。
しかし、俺の中の暗闇はこの程度の光では完全に消えないらしく、ネガティブな考えを発信し続けている。
内心葛藤しているオレの様子を知ってか知らずかトニオさんが話しかけてくる。
「そういえば、マックイイーンさんの話の中に出てきた能力は『スタンド』という名前で
実は私も持っているんでスヨ。」
「えっ?」
オレは一瞬、トニオさんにもオレの様な下種な能力があるのか?と期待する。
しかし、その期待はあっさりと裏切られてしまう。
「私の能力は“パール・ジャム”と言う名前で能力は『病気を直す』事デス。」
「そ、そうなんですか。」
そういってオレの手のひらを観察しだすトニオさん
「ちょっと失礼しますネ。
え~っとこれは、どうやらあなたは胃炎気味デスネ。
さっき食べたばかりですがまだ食べられますカ?」
「えっ、あ、だ、大丈夫です。」
「では胃炎に良く効く料理を作るのでちょっと待ってて下サイネ。」
そう言って厨房へと再び戻るトニオさん。
トニオさんの能力を聞いたとき、自分の中の劣等感が心を深く抉る。
自分は人を道連れにするという便所のネズミのクソにも劣る能力。
しかしトニオさんの能力は人を癒す能力。
天と地ほどにも違うこの差に再び死にたくなって……
ギリギリで押しとどまった。
(オレは絶対生き残って、トニオさんの元で幸せになる)
そう心の中で呪詛の様に繰り返す。
そうでもしなければ自分の心の暗い部分に押しつぶされてしまいそうだからだ。
☆ ★ ☆
そうこう考えているうちにトニオさんが帰ってきて、料理をテーブルの上に置く。
これはオレも見たことがある、確かこれは……
「リゾットでございます。」
オレが思い出せなかった料理名を言ってトニオさんは満面の笑みでこっちを見てくる。
その笑顔に若干気後れしながらもリゾットを口に運び
「うんま~い!!」
絶叫した、それも思いっきり。
しかしそんなことを気にしていられない位この料理が美味しいのだ。
さっきのスープも絶品であったがそれどころの話ではない。
オレは行儀が悪いのを自覚しながらも、皿に口を着けて米を搔き込んでゆく――――
パァン
そんな小気味のよい音がした。
腹に違和感がする、というか胃袋が腹から飛び出している。
そう思いながらオレはトニオさんを見た。
トニオさんは相変わらず笑顔を絶やさない―――――
☆ ★ ☆
【最強のシェフと最凶の囚人】
【E-5(レストラン・トラサルディー)・1日目 深夜】
【トニオ・トラサルディー】
[時間軸]:4部終了後
[状態]:右腕に刺し傷(割りと深い)
[装備]:無し
[道具]:不明(まだディバッグを開けてません)
[思考・状況]
1.マックイイーンを励ます
2.対主催の皆さんに料理を振舞う
※レストランにある食材に関しては後の作者様にお任せしますが
少なくとも10人が1食できる程度の量はあります
【サンダー・マックイイーン】
[時間軸]:エルメェス戦中
[状態]:精神的に不安定
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
1.あれ……?
2.オレはトニオさんの下で幸せになる
※マックイイーンは一応死ぬのをやめようと考えてますが、
まだ非常に不安定な状況です
※マックイイーンは『ハイウェイ・トゥ・ヘル』の能力を把握しています
※マックイイーンのディバッグは放置E-5に放置されてます(支給品は猫袋のみ)
※トニオさん達は地図と名簿を見てません
☆ ★ ☆
時間は少し遡る。
銀髪を立てたヘアースタイルの男『
J・P・ポルナレフ』
DIO討伐の旅を経た彼が荒木のゲームに乗るはずが無く。
現在打倒荒木のための仲間を集めるために、一本の剣を携えて繁華街を歩き回っていた。
しかし、彼の足取りは荒く動作に落ち着きが見られない。
「クソッ、花京院、アヴドゥル、
イギーだとっ」
旅の途中で散ってしまった仲間がゲームに参加している、
その事実が彼の心を揺さぶり続けているのだ。
それにもう一人
「J・ガイルッ!」
歯を食いしばりながらつぶやくのは妹の敵の名。
引導は渡してやったはずだ、なのに奴はこの場にいる。
ならば再び俺が地獄に叩き込んでやる!!
そう決心して、ポルナレフは歩く―――――
何分歩いただろうか?、目の前にレストランが飛び込んでくる。
ちょうど腹も減ってるし、支給品は節約したい。
そう考えた彼がレストランの中に入ると―――
目の前に内臓が飛び出している男と、それをみてニヤついているコックの姿があった。
☆ ★ ☆
【E-5(レストラン・トラサルディー)・1日目 深夜】
【J・P・ポルナレフ】
[時間軸]:3部終了後
[状態]:混乱
[装備]:LUCKとPLUCKの剣
[道具]:不明(戦闘や人探しには役に立たない)
[思考・状況]
1.目の前のコック(トニオ)を敵と認識
2.仲間を集める
3.死んだはずの仲間達に疑問
4.
J・ガイルを殺す
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最終更新:2008年08月14日 16:51