日は高く昇り、光がさんさんと地上を照りつける。
たゆたう波、被るは砂浜。その側を駆ける一人の少女。
ここに追いかける美男子でもいれば、まるでドラマのワンシーン――
「荒木の野郎! ピンポイントで狙ってきやがって!」
――なんだろーが、現実はそうじゃあない。
あたしは見ての通り全速力で疾走中。何でかって?
『13時に I-7』が禁止エリアになるんだとよ!
さしずめ追ってくるのは美男子じゃあなくて時間ってとこか?
逃げ道全部塞がれてはいない? 一時間余裕がある? んなもん知るか!
こっからどうなるか分かったもんじゃあないんだ、とっとと抜け出すに越したことはない!
大体、あの爆発見て禁止エリアの近くにいられる奴いるかってんだ! 生きた心地しなかったぞ!
本音を言やあ、予想できなくはなかったよ。
あたし、荒木の野郎が大事そーにしてた日記パチったし、地図でいうところの端方面にいっぱなしだったし。
それにしたって報復が露骨すぎやしねえか位置的に考えて!
あーちくしょう、こんな事だったら首輪いじってるんじゃあなかったよほんとに!
左手に果樹園が見えてきた。
……あそこで見た死体、出来れば埋葬してやりたかったな。民家の裏に放置しっぱなしだった。
信心深い、ってわけじゃあねえが(だったら服役してないし)あのままってのもあんまりいい気しねえ。
きっと、死にたくて死んだわけじゃあないんだろうし。
……あの人たちは、ここにいる誰かの心の中にいられるのかな? それとも、わたしみたいに忘れられる?
わからない。
何で……あいつらは殺し合ったんだ?
大切な人を守りたかったから?
荒木の野郎が許せなかったから?
死にたくなかったから?
皆がそうだったらいい。最初から殺し合わなければ、それで。
出来ないんだろう。状況が許してくれない。
恐怖にあおられて、助けてくれる人がいなくて、救いがなくて――
――救いがない?
ちゃんちゃらおかしい。
今のあたしは一人だ。自分でそうなるよう仕向けてしまったとかは置いといて。
仮にみんな死んで、あたしだけ生き残って……そしたら、一人のままなのに救われるの?
そんなわけない。今孤独なあたしだから分かる。
あたしが徐倫を、花京院を――友達を必要としたように、誰だって他人を必要とする。一人では生きていけない。
みんな死んで一人になったら、誰の心の中にもいられない。それがずっと続くんだ。
一生、孤独。
一番救われない、報われないことじゃあないか。
どうして、今になって気づいたんだろう。こんな簡単な事。
花京院に忘れられたくないあたしだから、わかったのかもしれないけど。
あたしだけじゃあない。皆が皆、そうであるはずなのに。
……誰かのことを考えられるようになったのは進歩かな? シリアスなキャラは合わないと思ってたんだが。
まあいいや、橋が見えてきた。ここを出れば禁止エリアに怯える必要もなくなる。
「ハァッ……ハァッ……!」
地面に転がって仰向けになり、切れ切れになった呼吸を整える。バール抱えたまんまだったから、体力の消耗が激しい。
デイパックに水があったな。川の水そのまんまってのがチョイ不安だが、出そう。
――ブヒヒイィン……
唸るような鳴き声。言うまでもない、馬だ。割と近くから聞こえた。
参加者なわけないだろーが、誰かが乗っている可能性はある。ドジったな、こっちはさっきまで走ってて疲れきってる。
足音鳴らして近づいてきたそいつの鞍には……誰も乗っていなかった。
「……はぁ~。ビビらせんなよ、ったく」
緊張が解け、あたしはへたりと崩れるようにしゃがんだ。
とりあえず誰も乗ってねえってことは、もらってっていいってことだよな? これは盗むとは言わねえだろ。
馬なんて乗ったことないから不安もあるが。バイクと一緒の感覚で乗れるわきゃねえし。
揺れがダイレクトに伝わるんだろーからな。
「どお、どお」
良し、今のは真似事だったけど、馬がちゃんと動きを止めてくれた。
近くで見ると、結構デカい。花京院の背丈もなかなかだったが、こいつはそれ以上だ。
……もっと他の分かりやすいたとえ持って来いってのは無しだぜ、ちょうどうまいこと思いつかなかっただけ。
そして今のも「馬」とかけたわけじゃあない、つーか全然うまくねーし。
「よっこらせ、っと」
乗れるかどうか疑問だったが、杞憂に終わった。
馬がちょうど都合よくかがんで、乗りやすくしてくれたからだ。偶然かな?
とりあえず、そんなに嫌われてないってことにしておくぜ。
北に行くとすっかな。さすがに一人で中央に行くのは怖い。……花京院にはまだ会いたくないし。
手綱を引き寄せて、ハイヨーなどと叫んでみる。
「ヒヒイィィィィィィン!!」
「わ、わっ、ちょっと!」
盛大に仰け反った馬は後ろ足立ちになり、ナポレオンの絵画みたいなポーズをとる。
何だ、今の一言で刺激しちまったのか? あたし押しちゃいけないスイッチ押しちゃったのか!?
明らかに興奮してるじゃん、これ!
そして、
慌てふためくあたしを無視し、
蹄鉄高らかに、
馬が猛ダッシュし始めた。
★
結局あたしは、馬が動きを止めるまで身をゆだねていた。
叫んで舌噛んで死にましたとなったら笑うに笑えねーし、そもそもそんな余裕がなかったし。
結構な距離移動しちまったみてーだ。あぶねえ奴に会わなかったのは幸運だったぜ。
道中、馬を扱いきれずに爆走するさまを見られたかもしれないけどな。
「あ~……怖かった」
ずり落ちるように馬から降りる。
馬に怒りをぶつけたら今度こそタダでは済まない気がしたのでやめておく。
と言うより、目の前がそれどころではない。
「……また、死体」
血の気のない老人が横たわってる。確認するまでもなく脈はない。
老人と言うにはいささか若々しい顔は、死んだにもかかわらず満足げな笑みを浮かべたままだ。
何かをやり遂げ、それを誇らしく思う表情。
一体、何なんだろう。
最初に見た爺さんを跡形もなく消すスタンド使いくらいしか、殺しに積極的な奴は見なかったはずなのに。
元々人と出会ってないのもあるだろうけどさ。
なのに、どうしてこうも行く先々で人が死に続ける?
殺しあっても最後に一人のままじゃ、寂しいじゃないか。
でも、この爺さんは誰かの心の中にいることが出来たんだろうな。
死んだとは思えないくらい安らかな顔だから。悔いを残してたらこんな顔はしねえって。
あたしとは違う。
自分が一番大切で、身勝手でわがままで、だから大切なものが離れていくあたしとは。
……この殺し合いもあたしと一緒なのかもしれない。
自分一人が大事だから、どんな横暴も許されると思いこむ。
その先なんて考えないで。人を踏みにじるのも、何とも思わずに。
繰り返して……最後には報われた? 逆だ、まるでそんなことなかった。
「止めなきゃ」
そうは言うけど、この殺し合いを止めよう、なんて大それたことじゃあねえ。
スタンドは強くないし、頭も悪い。そんな願いは身の程知らずも良いとこ。
あたしは、あたしの悪意を止めるんだ。
生きて元の場所へ戻るためにすべきことはたくさんある。
首輪を外すとか、この街を出るとか、荒木を倒すとか……いろいろありすぎて、手の届かない遠いところを見て、絶望してた。
でも違うんだ。まずやるべきは人を人の心の中にいられるようにすることだった。
皆に訴えなきゃいけない。あたしみたいに誰の心にもいられないままじゃ虚しいって。
「爺さん。これ、使わせてもらうよ」
具体的にどうするかって? ちゃんと考えてるよ。
爺さんの傍らにあったデイパック、これの中身がうってつけだ。
拡声器。
これで周りの参加者に呼びかける。
……自分でも、馬鹿げた考えだと思うよ。
もし花京院がこの作戦を聞いたら「そんな危険な真似はできない!」っつって止めにかかるはず。
花京院に限ったことじゃあねえな。誰だってそう思う、あたしだってそう思う。
出来る限り安全な場所を探してからやるけど、危険人物も引き寄せちまうかも、ってのは事実。
でもよ。あたしだって花京院に認められたいんだ。日記をパチった時とは違う『気高く勇気ある行動』で。
結局のところ、花京院にあたしの人間性の判断をゆだねちゃいけねえ。花京院に認められたいんなら、自分でやらなきゃ。
このまま逃げ続けるより、あたしは誰かの心の中にいたい。
「それに、ここんところのあたしはツイてるからな……ハハッ……」
ちょっと調子に乗ってみる。言葉を発する唇は震えてたけど。
怖いよ、こうでも言わないとやってられない。
でも……自分が変われば世界が変わる、だったか? どこで聞いた言葉か忘れたが。まあいいや。
とにかく、この殺し合いを止める前に、あたしは変わってみせる。
やっぱり身の丈に合わないことするよか、身勝手な方が性に合うってことだね。
後は徐倫が見つかればいいんだが、声を聞いて駆けつけてくるかも、と期待しておこう。
去り際振り返ると、爺さんの顔の笑みがより一層強くなった気がした。
【
グェス】
【時間軸】:脱獄に失敗し徐倫にボコられた後
【状態】:精神消耗(中)、疲労(中)、花京院に屈折した思い(嫌われたくない/認めて欲しい)、罪悪感、自分が悪いと認めた
【装備】:バール(民家から拝借)
【道具】:支給品一式×2(地図・名簿が濡れている)、首輪×4(無傷3個、空1個)
「基盤、配線、謎の機械」をエニグマの紙に包んだ物、プラスチック爆弾2分の1
小さな鋏、ピンセット、ペンチ、ドライバー二種(全部、民家より拝借)、不明支給品0~2個、拡声器
【思考・状況】基本行動方針:会うのはちょっと怖いがジョリーンを探し、彼女が脱出を目指しているならそれを手伝う。
0.安全な場所へ移動し、拡声器で訴える
1.死にたくないけど、誰かの心の中にいられないのはもっと嫌
2.自分は腐れゲス野郎だけど、今よりましな人間になりたい。
3.ジョリーンに会って、脱出を目指すなら手伝いたい。
4.花京院にはマシな人間になれるまで、会いたくない。
5.首輪を解除する方法を探す
【備考】
※グェスは、エルメェスや他の刑務所関係者は顔見知り程度だと思っています。
※
空条承太郎が
空条徐倫の父親であると知りました
※花京院と情報交換をしました。
※花京院に自分ははめられて刑務所に入れられた、と嘘をついています。 →嘘だったと告白しました。
※フーゴが花京院に話した話一部始終を聞きました。
※グェスが出て行ったのはフーゴと花京院が会話を始めてから約1時間後、博士登場の約1時間前です。
花京院達が公邸を出るころにはグェスが立ち去ってから2時間強経っています。
※ダービーズアイランドを見ましたが、そこに何かがあるとは思ってません。
※グェスが発見した馬はエル・コンドル・パサです。I-5からH-7へ移動してきたところをグェスが乗りました。
道中誰かに見られたかもしれません。この後グェスが馬をどうするかは、次の書き手さんにお任せします。
首輪について
※グェスが持ってる首輪は、
ウィル・A・ツェペリ、
ンドゥール、
広瀬康一、
ワムウの物です。
(現在、ワムウの首環は金属部分の一部が壊れていますが、頭につながる第二の爆弾は配線ごとくっついたままです。
中身が全て外に出されています、そして、信管と、爆弾の半分が無い状態です。)
※グェスは、首輪が付けていた本人が死亡すれば、何をしても爆発しないという事と、首輪の火力を知りました。
※首輪についている爆薬は、人一人を余裕で爆死させられる量みたいです。
グェスは「もし、誰かの首輪が爆発したら周りの人間も危険な火力」と判断しました。
(ただし、首輪から取り出して爆破したからこの火力なのか ワムウの首輪だからこの火力なのかは不明です。)
※謎の機械はおそらく盗聴器、GPSだと思われますが、グェスは気づいていません
投下順で読む
時系列順で読む
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最終更新:2010年02月15日 13:39