ミスタの死にはさすがに驚いた。だが、それも一瞬。いずれ自分たちが追うべき相手だったのだから悲しみもない。
その他、ティッツァーノやチョコラータの死も、情報源がなくなったという意味でのみ残念に思ったが、だがそれだけであった。
更に四箇所増えた禁止エリアを地図に書き加えるとホルマジオはゆっくりと立ち上がり、再びグェスを見降ろす。
そして数分、今に至るが――目の前、と言うよりは足元にいるグェスも随分と落ち着きを取り戻したかのようだった。
万年筆はもう彼女の泥と涙で汚れた頬から遠ざけた。叫ばれても困る。

「知りあいは死んでませんでした、ってな表情だなァ」

暫く待っても返事はないがこの事は問題ではない。ホルマジオ自身も立場が逆なら黙殺していただろう。
だがしかし、今は状況が状況であり、ここでやるべきは情報を吐かせる事。認める訳にはいかない。

「そして……そうならさっさとお前さんの知ってる情報を教えな。
 嘘がねぇと納得できたなら俺の方からも情報を出してやっても構わねぇからよ」
――と、まずは穏やかに。情報はあくまで『吐かせ』るけれども『拷問する』必要がなければそれに越したことはない。

「……さっきあれだけ万年筆グイグイやられた奴に馴れ馴れしく話せるかよォ……」
「もっともだ、が……それでも話してもらうぜ。それともやっぱり万年筆グリグリされてねぇとキモチヨクお話しできませんってか?」
少々の脅しを加える。細々と答えたグェスの目に一瞬恐怖の色が浮かぶ。
「そんな訳あるかよッ!」
「しょうがねぇなー。だったら話せること話しな。聞いてやろうじゃあねぇか……ッ」

少々の沈黙。言葉を選びながらグェスはポツリポツリと話し始めた。

「情報ったってよォ~……アタシの名前がグェスで、アメリカの水族館の囚人でェ……」
だが、このセリフ――と言うより態度、あからさまに時間を稼いでいる。
「大事なのはそんなこっちゃあねェだろ…(後でどっち道聞くけどな)…重要なのはここに来てからだろうが」
「アタシはよ……友達もいなくて、一人ぼっちで寂しくて……死にたくなかったんだよ」
「だからよォ~、ここに来てから誰に会ってどうし……てッ!?」

ほんの十数秒でホルマジオの身体は衣類や荷物ごと『超像可動のフィギュアのように』縮んでいた。
ハッと驚くホルマジオを地面からかっさらい顔の前まで持ち上げて言葉を続けるグェス。
その顔は泣き笑いとも怒りとも違う、何とも形容しがたい表情になっていた。
「だから言ってんだろ。アタシゃ死にたくねぇんだよ。って事はだ……アタシをぶっ殺そうとしている奴らを返り討ちにする他ねぇだろッ!」
「誰がお前をぶっ殺そうとしてるって?」
涙が零れる目の前の大きい顔をぼんやりと眺めながら尋ねるホルマジオの方はいたって冷静だった。
まるでチームの、そして未だこの地に健在の、あのマンモーニが“兄貴”にすがりついている日常の光景がグェスに重なった。
そして……先ほどまでの迷っていた自分自身を見ているような気分でもあった。
「全員だよ、ぜ・ん・い・ん・ッ!みんなみんな狂っていやがるッ……だからアタシも狂って殺す。ドイツもコイツも狂人だッ!」


「―――違うな」


一言だけ、しかしハッキリとそう言ったホルマジオにグェスの怒りは爆発した。
「はぁア!?何が違うってんだッ?言ってみろよ!アタシのどこが間違ってんだ!!どうせお前だってアタシをころ」

「落ち着け。『違う』のは『能力』だ」

言葉を切ったホルマジオのセリフはグェスに次の一言を躊躇わせた。
時間にすればほんの一瞬。だがその間にホルマジオはグェスの手を抜けだしていた。もがいた訳でもスタンドを発現した訳でもない。むしろ『解除』して抜け出したのだ。
その身長は本来のそれから十数センチ小さいが、それでも小柄なグェスの身長よりははるかに大きく見える。
そして……一瞬で大きくなったホルマジオを握り締め続ける事が出来ず、グェスの指は本来曲がるべき方向とは逆方向に開いていた。
そんな自分の右手を見たグェスは大声を出す事はなかったものの、その激痛に顔を歪める。一方のホルマジオはそれを全く気にしていない様子である。
「俺の場合……自分自身をも小さくできる。気付かなかったようだな」
多くは口に出さなかったが、グェスはそれを感じ取ったようだった。己の能力を過信し、ホルマジオが縮んでいく時間を気に留めなかったのだ。
そして、その言葉を待っていたかのように今度はグェスの方が――グェスの『衣服が』縮んでいった。
「そして……まさか『拳で触れ』ずに発現できる能力だってのには少し驚いたが。
 さて、そのパッツンパッツンな服で身動き取れねえだろうが聞いて貰うぜ」
右手の激痛と、グイグイと締め付けられる服に耐えきれず膝をつくグェスの襟首を掴み、先ほど自分がされたかのように無理やりその面を持ち上げる。
「そして――いいか、違うなと言ったのはもうひとつだ……テメェは甘ったれてんだよ!おい目を逸らすなッ!」
ヒッと小さく息をもらすグェスの目を見据えて言葉を続ける。
「死にたくないだと?そりゃあもっともな意見だろうよ。俺だってそうだ、誰だって好き好んで死にたかぁねぇんだよッ!

 違うだろ!『死にたくない』んじゃあなくて『生きたい』んだろうがッ!違うか!クソッタレッ!」


その言葉に目を見開き、その淵から涙がボロボロと零れ出す。そんなグェスにお構いなしに握っている手をグイグイと揺さぶる。
「普段はこんな事ァ言わねぇ。だが、しょうがねぇな……この際だから言ってやろう。
 俺だって一瞬はゲームに優勝する事を考えた。だがそれは違うッ!そんなのはクズのやる事だ!
 いいか、俺にはチームの仲間がいる。そいつらと協力して…(本当は殺った後に言うべきセリフだが)…荒木の野郎をぶっ殺してやるのさ!」
「……アタシには仲間ってのが」
「そう言う事を言ってるんじゃあねえッ!自分がこの場で『何をするのか』って話だろうが!
 『死にたくなくて』最後まで生きてどうすんだ?『生きたくて』生きる方が万倍マシだろうと気付けッ」
グェスは答えなかった。その目は怯えているようにも怒っているようにも、そして悲しんでいるようにも見えた。

「だが……それでも、それでも狂って殺して回るって言うんなら」

襟首から手を離す。同時に能力も解除。グェスの呼吸が落ち着くまで待ち、そして改めて目の前に立ちふさがる。


「俺がテメェの根性叩き直してやる。――かかってきな」


* * * *



「――以上で全てか?」

「ああ……大した情報がなくて」

「謝る事じゃあねえ。フーゴの野郎の話が聞けただけでも俺としちゃあ十分だ。
 で、オメーは花京院とやらに詫び入れに行くのか?」

「いや……確かにいずれ会いたいけど、今行っても何話したらいいか分かんねぇよ」

「じゃあ俺の目的に付き合いな。これから――ナチス研究所に向かう」

「なんで?」

「『勘』だな。俺のチームのリーダーは頭イイからな。そういうところにいそうだ。
 コレの解除の事もある。オマエさんがサンプルを持ったままいてくれればよかったんだが……まあしょうがねえ」

「ごめ……いや、スイマセン。アタシも随分錯乱してて……
 で、行くのは良いにしても随分距離があるぜ……アタシは不安だよ」

「不安だ?ったく、まだンな事言ってんのか!?こんな地図にも載ってないような民家で怯えてゲーム終了まで待つのがイイって言うのか?」

「ごめん、ごめんよ。ただほら、ゲームに乗ったヤツらだってウヨウヨいるだろうし……」

「ふぅ……しょおぉがねえぇなァ~。こう言うセリフ吐くのは俺のキャラじゃあねえと思うんだがなぁ、この際だからもういっぺん言ってやる。
 良いかッ 大切なのは決意だ。あの荒木のヤローの手の上で踊らされようが何されようが最後は俺たちが勝つッ!っていう固い決意だ。

 何がどうあろうとそれだけは忘れるなよ……『栄光』を掴むためにな」


ホルマジオには彼女を守りたいとか、女だからとか、そういう気持ちは決してない。
ただ、話を聞いている内になおさら過去の自分を見ているような気持になり放っておけなくなってしまったのだ。
だからこそ、普段自分が、いや……おそらく正義感の塊のような人間でさえ口にしないようなセリフを吐いてまで彼女を説得したのだ。

グェスには生き伸びる方法だとか、花京院に会った時の事とか、そういう答えは見つけられなかった。
ただ、目の前のギャングが自分の事を『怒ってくれた』という事実に対して不思議な感謝の気持ちを持っていた。
守ってもらったのでも諭されたのでもない。『怒られた』事が自分に答えを導いてくれそうな気がしてならないのだ。



――彼らの能力は、多くのスタンド使いから見たら『くだらねー能力』かも知れない。
  だが、『くだる』『くだらねー』という比較はまったくの無意味である。
  スタンド能力には得手、不得手があるし、頭の使いようでは無敵の能力になる事もありうる。そして何よりも……
  それは『心の力』によって成り立っているものなのだから。
  彼らの出会いはその心にどのような化学変化をもたらすのか。それは誰にもわからない。



【チーム・ザ・リトル 結成】

【G-5 ポンペイ遺跡付近の民家/1日目 夜】


【グェス】
【時間軸】:脱獄に失敗し徐倫にボコられた後
【状態】:精神消耗(中程度まで回復)、疲労(ほぼ無し)、頬の腫れ(引いてきた)、両腕・右手指にダメージ(応急手当済。右手指の具体的症状(骨折?脱臼?)は不明)
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】基本行動方針:ゲームに乗った? → 生きたい、生きていたい
0.とりあえずホルマジオに従い、ナチス研究所に向かう。
1.なんでこの男はアタシの事を怒ってくれたんだろう……?
2.研究所に行くのは良いけど随分遠くない?ちょっと不安だよォ……
【備考】
※フーゴが花京院に話した話を一部始終を聞きました。
※ダービーズアイランドを見ましたが、そこに何かがあるとは思ってません。→ダービーズアイランドが遠巻きに見た島だとは分かっていません。
※馬はE-5繁華街を彷徨っていると思われます。
※悲しみによる錯乱が随分と落ち着き、今のところ『ゲームに乗る』と言う発想は消えています。が……今後どうなるかは不明です。
※ホルマジオの持っている情報(チームの存在、行動の目的など)を聞きました。


【首輪について】
※グェスが持っていた首輪は、ウィル・A・ツェペリ、ンドゥール、広瀬康一、ワムウの物です。
 (現在、ワムウの首環は金属部分の一部が壊れていますが、頭につながる第二の爆弾は配線ごとくっついたままです。
  中身が全て外に出されています、そして、信管と、爆弾の半分が無い状態です。)
※グェスは、首輪が付けていた本人が死亡すれば、何をしても爆発しないという事と、首輪の火力を知りました。
※首輪についている爆薬は、人一人を余裕で爆死させられる量みたいです。
 グェスは「もし、誰かの首輪が爆発したら周りの人間も危険な火力」と判断しました。
 (ただし、首輪から取り出して爆破したからこの火力なのか ワムウの首輪だからこの火力なのかは不明です。)
※謎の機械はおそらく盗聴器、GPSだと思われますが、グェスは気づいていません。



【ホルマジオ】
[時間軸]:ナランチャ追跡の為車に潜んでいた時。
[状態]:カビに食われた傷(応急処置済)、精神的疲労(小)、肉体的疲労(ほぼ回復)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、万年筆、ローストビーフサンドイッチ、不明支給品×3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:荒木を『ぶっ殺す』!
0:踊ってやるぜ、荒木。てめえの用意した舞台でな。だが最後は必ず俺らが勝つ。
1:仲間達と合流。ナチス研究所に誰もいなかった場合は未定。
2:とりあえずグェスから情報を引き出したのでナチス研究所に向かう。グェスの同行も許すつもりである。
3:ボスの正体を突き止め、殺す。自由になってみせる。
4:ディアボロはボスの親衛隊の可能性アリ。チャンスがあれば『拷問』してみせる。
5:ティッツァーノ、チョコラータの二名が死んだのでボスの情報は引き出せないか……
6:もしも仲間を攻撃するやつがいれば容赦はしない。
[備考]
※首輪も小さくなっています。首輪だけ大きくすることは…可能かもしれないけど、ねぇ?
※サーレーは名前だけは知っていますが顔は知りません。
※死者とか時代とかほざくジョセフは頭が少しおかしいと思っています。
※チョコラータの能力をかなり細かい部分まで把握しました。
※グェスの持っている情報(ロワイアルに巻き込まれてから現在までの行動、首輪に関する情報など)を聞き出しました。



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171:Danse Macabre ホルマジオ 187:Resolution(前編)
171:Danse Macabre グェス 187:Resolution(前編)

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最終更新:2010年09月05日 22:52