ボインゴ、ボインゴよ。

兄ちゃんはここでいつまでもだらだらするわけにゃあ行かねえよな?
だって考えてみろよ、ここではゲームに乗ってる奴と乗って無い奴が必ずいるだろ?
乗ってるやつは基本単独で動くだろうからここでは置いとくぜ。
だが乗って無い奴等は当然、仲間を集めて荒木を倒して脱出だ!って考えるわな?

つまり俺が引きこもってる間に、どんどん組織的になっちまうってことだ。
結束が固まり、集団外の人間に対して警戒心が高くなる。
そんな中に俺が入れるか、ってえ話だよ。

スタンドは戦闘できない、人望も無い、そもそもほとんど知り合いがいねえ。
今のうちに誰かとのパイプを作んなきゃなんねえ。
自分の命以外どーでもいいけどよ。孤立化は避けたいところだぜ。
ひとまず他人になりすまして悪評振り撒きつつ情報収集…だな。
あーでも、潜り込めそうな集団に潜り込むってのもやってみるべきかもしんねえな。
何よりも、いつでもチケットを使って逃げられる、これはでかいぜ。

早くお前のとこに帰んなきゃあ、俺無しじゃお前は他人と口もきけねぇからなあ…。
今まで何もし無さ過ぎた兄ちゃんを許せよ。
まあ安心しな、最後に一人で笑うのは兄ちゃんなんだからよ。

つーわけで、遅れを挽回するために一先ず潜水艦を降りて、行動開始してみたんだぜ。
で、鏃の反応を頼りに歩いてたら大泣きしてる女を見つけちまったわけだが。

さーて、顔はどうしような?
承太郎は実は生きてましたってことにしても良いんだが、あいつのキャラを演じ切る自信が無いぜ…。
億泰に散々怪しまれたしよぉ。

ここはそうだな、名前と顔と喋り方がわかってる「露伴」にするぜ。
元々傲慢ちきな性格らしいから、悪評振り撒くにはもってこいじゃね?
この女が露伴の知り合いじゃなきゃあやりやすいんだが、そこは懸けるしかねえ。
服は元の服で行くしかねえな。

待ってろよォォー、兄ちゃんすぐ帰るからな!

※  ※  ※

ヴェスヴィオの火山灰に埋もれた街、ポンペイ。
美しかったローマの属国を覆い尽くしたその灰は、既に風に散った後。
地面に横たわり朽ちた建築物も、今は植物の繁殖にその身を任せている。

だが、滅びと再生を一処で体現する美しい世界遺産も、己の虚無にむせび泣く者には只の陰気な石の塊でしかなかった。
乾いた石畳に涙が落ち、染み込む。
それを霞む目で見つめながら、女は泣く。泣き続ける。
ひんやりとした地面は彼女の体温を奪い、無為な時間の経過を実感させるかのようだ。

「あー、おい。君…」

「!!」

突如降ってきた声に、女は肩を弾ませて驚く。
岸辺露伴の顔をしたオインゴは相手の反応に自分も驚きそうになるのを抑えつつ、目の前の女を安心させるためさらに言葉を続けた。

「そんなに驚く必要は」

「う、うるせェエェー!あ、アタシに、チャラチャラ、は、話しかけてくんじゃねえェェエー!」

なだめるようなオインゴの調子を遮り、しゃくり気味ではあるが大声でどなり散らした女。
その声にポンペイの遺跡は反響し、空気を震わせてもなお静寂を押し返す。

差し出しかけた腕を盛大にはじき返され、オインゴはひきつった笑いを控えることができなかった。

(ゲェー、なんかしらんがプッツンしてやがるぜぇ…人選しくったか?)

とはいえ、膠着気味である己の状態を打破するためには、他人とコミュニケーションを取る事が必須である。
この女、今見ただけではどういう状況なのか判断が難しいが、何か精神的ダメージを存分に受けている事だけはよく伝わってきた。
しかし殺し合いの最中に一人で泣きわめく女…こんな奴と関わって何か得があるのか。

迷った時は己の直感を信じ、即断即決。
オインゴは諦める事を決意した。
無言で踵を返すと、立ち去るため足を一歩踏み出す。

いそいそと五歩、六歩…そこで足に感じる違和感。
大の男である自分の歩幅が、小さいのだ。
前に進んでいる気がしない。
後ろを振り返ると、思ったよりもずっと近くに女がいる。
オインゴは一瞬何が起こっているのか分からずキョトンとした表情で、うずくまる女を見つめた。

「待ちな…。」

呆けるオインゴにそう言うと、先程まで座り込んで身も世もなく泣いていた女がフラリと立ち上がった。
オインゴは女を見上げる。
そもそもこの時点でおかしいのだ。
なぜ、長身であったはずの自分が、女を見上げるような格好になっているのか?

女の表情は影になりよく読めないが、足元には小さなスタンドのヴィジョン。

オインゴの背中を冷や汗が伝う。

攻撃、されている?

オインゴはぎこちなく首を動かし、震えながら自分の体を見た。
手足のサイズが明らかにおかしい。
地面が近い。女の影が自分を覆い隠さんばかりだ。

「アタシはもう…狂人でいい。」

女、グェスは大きく宙を仰ぎ、眼は空を見ていた。だが瞳は虚を捉えて、ただただうつろ。

がくがくと震える足で逃亡を試みた小さな身体を軽くつま先で蹴飛ばす。
スライディングよろしく前へとつんのめり、数十センチすべるオインゴ。
小さくなったがゆえの激しい衝撃。
全く無意識のうちにスタンドを解除している己にも気が付くことができない。
元に戻った砂まみれの顔で手足をばたつかせ、匍匐前進の真似ごとを試みる様は壊れたねじまき人形の様だ。

「狂っていていい。元々まともなオツムなんて持ち合わせてなかったんだ。…あっちも狂人、こっちも狂人。何が起こるか分かりやしない。キャハハ…!」

空笑い、グェスはオインゴの衿首を造作もなく摘み上げると自らの眼の高さまで持ち上げて、下まぶたを膨らませる邪悪な笑いを晒す。
顔から血の気を引かせ、手足をばたつかせつつもオインゴは己のポケットへと手を伸ばしていた。

チケット。

後数センチ、それで助かる。

「さあ、楽しいィィダンスの時間だぜェェ?アタシの手のひらで最高にハイなタンゴを踊ってよ、ベイビー。」

「うおおぉぉ、だ、ダービィィー!」

叫んで身体を闇雲に捻り、己の身を鷲掴みにせんと迫っていたグェスの大きな手から抜け出すことに成功した。
地面に尻もちをつき、起き上がって走り出しつつ、ポケットから取り出した紙切れ。
それを開いて呼びかければ、フィールド外の小島へと自分だけを導いてくれるはずだった。

「待ちやがれミジンコ野郎ッ!ちくしょう、踏み殺してやる!みんなみんな踏み殺すッ!」

だがグェスも諦めず、転送が行われるよりも一瞬早く、今は小さなダービーのディバッグを引っ掴んだ。

※  ※   ※


「もー。なんて言うかさぁ…」

吹き抜ける海風。
頬を撫でて過ぎゆくそれは、寄せては返す潮騒と溶け合いながら遥か水平線を目指す。
海面を射す日光は、その情景に煌めきの彩りを添えていた。

「支給品ってのは、頑張って貰うためにサービスしてるんであって…別にこう使えって強制はしやしないけど…。」

ここは命がけのパラダイス。
命をチップに嗜むのは、ギャンブルという甘く、危険な最高の美酒。

そこに躍り出た一組の男女は、まずその場の明るさに瞳孔を細める。

そんな彼らに気だるげな視線を投げるのは、奇妙なタトゥーを顔面に施した男。
掛けていた椅子からゆったりと腰を浮かせ、礼を一つ。
彼の口から紡ぎ出されるのは機械的な自己紹介。

男の丁寧な物腰に来訪者である男女はたじろぐも、沈黙を貫いた。

さらにその様子を地下にて眺める楽園の主。

白い穴のような部屋で一人、背徳に酔いしれる荒木飛呂彦は呟いている。
目の前に放り出されたおもちゃをどう楽しむか、心を躍らせつつも困ったような様子で。

「サボられると、困るんだよね。」

首をゆるゆると左右に振り、あきれたような微笑を浮かべた。
彼はサイドに置いた携帯電話を軽快に開くと、ボタン上に指を走らせる。

「あ、僕。うん。今来たでしょ?ギャンブル?違う違う、そいつそんな気全ッ然無いから。ちょっと聞いて。」

足を高く組み直して、携帯を耳に当てている腕の肘に反対の手を添える。
座った柔らかな革のソファーが、上質なその枠組みを軋ませた。

「あのさー、そこは賭けごとをして色々楽しむとこなわけ。逃げ場所じゃあないの、でしょ?」

スピーカーからは不明瞭な音が漏れ聞こえる。
荒木はぴょんぴょんと組んだ方の足でリズムを取りつつ、会話を続けるのだった。
そして通話先と2、3言交わし、話はおおむねまとまった様子を見せた。
が、そこで彼は眉間にしわを寄せると、拗ねた子供の様な雰囲気を作る。

「あー、でもまた君ぶつくさ言って来ない?前も言ったけど、駒に手を加えるくらいいいでしょ?」

スピーカーからは短い返事が聞こえる。

「そう言うと思ったけどさー。それに君はギャンブルするために呼ばれてるんだし。逃げてきた奴と談笑なんて壁と喋ってた方がましとか思うクチかなって思ったんだけど。」

また短い返答音。

「いやあ、まともに君が同意してくれたのって初めてかも、ありがとね。あー、ゲームするかどうかは彼らに聞いてみてね。じゃ、よろしく。」

携帯電話をはたと置くと荒木はにんまりと舌を出し、楽しそうに笑う。

「あ、彼の事言い忘れちゃった…なんてね、ワザとだよー。ごめんね、ダービー。」

クスクスという忍び笑いが、白い部屋に満ちた。

※   ※   ※

携帯電話を静かに閉じ懐に仕舞うと、テレンス・T・ダービーは改めて来訪者に向き直った。
グェスはオインゴを宙にぶら下げたまま、怪訝そうな顔でダービーを凝視する。
オインゴは空中ブランコの様に大きく左右に揺れ、拘束から逃れようともがき続けていた。

ここで沈黙を破ったのはグェス。

「ヘッ…OKOK。今さらこんな事なんかで驚かねぇぜ。で?てめー今誰と喋ってた?」

彼女は腰に片手を当て、暴れるオインゴを地面に叩きつけた。
2度目の大きな衝撃に悲鳴を上げるもなんとか起き上がり、オインゴはダービーの方へと走り寄る。
逃げ込んだ靴の陰からグエスを伺いつつ、小さな声でわめく。

「ダービィィ!この女、イッちまってる!俺の姿を見ろ!助けろよ!な、オイ!」

その切実な願いを聞きダービーはにっこりと笑うと、手のひらで優しくオインゴを掬い上げた。
オインゴは心底ほっとした表情をし、口を緩ませてダービーと目を合わせる。
次の瞬間、ダービーは輝く様な笑顔をそのままに、斬首役人の様な躊躇の無さで言い放つ。

「お断りだ。」

ここでオインゴは焦っても、諦めることはしない。
まずい手を正し、うまい手へと変える努力をする。
彼は不器用ながらもチェスの駒を進め、自分の有利になるように盤上を整えようと画策する。
彼はいつだって心得ている。
強者に付き従い、その庇護を得るためにはまず、相手を喜ばせること。

「お、お前の言う事なら何でも聞くからよ。ここは見逃してくれ。あの女だけを元の場所に還らせれば済む話じゃねえかッ。」

「寝言は寝てから言うものです、オインゴ。いいか、私は誰の味方でも無い。ましてやここは賭博場。街角のカフェじゃあない。」

しかし近付く不幸は、その人間から一切の方法を奪い取るのだ。
ダービーはオインゴが手に握っていた小さなチケットをつまみ取ると、用も興味も無くなったと言わんばかりに、砂の上にオインゴを放り投げた。
オインゴは3たび訪れた落下の衝撃に耐え、なんとか着地を成功させる。

荒木の依頼はこれだった。

『チケット支給の目的にそぐわない使い方をする者、それを所持するべからず。』

「ち、ち、ちくしょう!覚えてろよ!?ぶっ殺す、てめえらぜってえぶっ殺すからな!」

オインゴが怒りに震えながら地団太を踏み、啖呵を切った時。
新たな駒がその沈黙を破った。

「ハッ…、しょーがねえなあ~。」

その声はグェスの背後より投げかけられた。
同時にグェスの腕をひねり上げ、拘束する第三の男。
突如感じた背後からの気配にグェスは振り向くことも叶わず、苦痛に顔を歪ませる。

「痛ってえなオイ!触んじゃねえよ、誰だてめえ!グーグードール…」

「やめな、無駄だ。」

グェスは何か尖った冷たいものが首筋に当たっている事に気が付く。
自分の状況を飲み込み、拘束をほどこうともがくのをやめる。
額に背中に、冷や汗がどっとわき出るのを実感するグェス。
大人しくなったグェスに男は満足し鼻を鳴らすと、耳元で低く脅しをかけてきた。

「言うまでもねーが、万年筆でも十分凶器になるんだぜ?おっと…お前のスタンドを使うか?ならこっちもスタンドを使うぜ、中々面白ぇ事になるだろーがよ。」

「…貴方は…ホルマジオ様。」

日光が作る濃い影達は微妙に揺らぎながら、お互いの動向を探り合う。
ホルマジオを除く3人の中に、グェスのデイバックが小さく開いている事に気付く者はいない。
先程まで身を潜めていた場所、狭いバックの中から外の空気に触れたホルマジオは大きく深呼吸をし、影のある笑みを作る。


プロシュートと別れてきた、あのこの世の掃き溜めの様な場所で。
あいつのスカしたスーツはぼろぼろで、血まみれ泥まみれ。

どうしてあんなボロカスみたいな死にざまになっちまったんだって、俺はそれが悔しくて。
あいつに何があったのか分からない、それが悔しくて。
何で死んだ、何で死んだって詰め寄っても、あいつ、答えやがらねぇ、それが悔しくて。

でも。

あいつの弟分は、まだ生きてる。
リーダーも、まだ生きてる。

そして俺も、まだ生きてる。

Low life___安っちい人生。
だが俺はまだこの舞台で踊る、踊り続けてやる。
例え荒木が俺たちを生ゴミの親戚くらいにしか思っていないとしても。

ホルマジオは唇に浮かんだ笑みを深める。
彼は背負った業を覚悟の炎で燃やし、この地獄の舞踏会に臨むのだ。

姿を現したのは、情報を収集するため。
テレンス・T・ダービーという名簿外の人間の存在。
当然荒木と通じているのだろう。
ならば拷問をしてでも情報を聞き出す価値がある。

しかし、その目論見は失敗に終わった。
曰く、テレンスも広義では参加者であり、荒木に付いて何を知っているわけでもない事。
曰く、この島と施設、ダービー自身ははいわゆる「支給品」であり、それだけの存在である事。
曰く、正規の情報を得るためには先ほど述べられたように魂を懸けたギャンブルというリスクを乗り越えなければならないという事。

突然の乱入者に心情を乱されるも、ダービーは説明しながら己の役割を思い出す。
同じく笑みを浮かべ、腕を軽く胸の前へ振りながら礼をした。

「さぁ…どうなさいます。ここは賭博場。魂を懸けるか、懸けないか。」

「チッ…プロ相手にそうやすやすと勝負には乗らねぇ。帰らせろ。」

ホルマジオはグェスに万年筆を突き付けたまま吐き捨てる。
見込みが外れた。何の策もない今の状態では負ける、確実に。
負けるとわかっていて向かっていくのはバカだ。戦うと言うのはそういう事ではない。
ホルマジオは職業柄、本能でそれを知っていた。

グェスは憎々しい背後の男を何とか振りほどく方法を必死に考えるも、相手の能力が不明な事に尻ごみをして全く行動に移せない。
オインゴは未だ小さい己の身を持て余しながらも、ダービーに呪いの言葉を呟き続けた。

「畜生、ダービィィ…覚えてやがれ、人でなしがァ…」

「これは心外。私は中立です。そんな罵りは的外れだな、オインゴ。」

承太郎の姿でこの島に現れた時、オインゴはばれていないつもりだったが、ダービーはしっかりと見抜いていた。
その時テレンスが完全に中立を貫くことで、自らが助かっていたとも知らず、オインゴは唸り続ける。
ダービーは3人を見渡し、片足を一歩下げるともう一度頭を垂れ腕を振り、己の役割の終わりを告げた。

「では、さようなら。グッドラック。」

※   ※   ※

「なんでだよ、ちくしょうッ。離せッ!アタシを放っといてよッ!」

場所はG-5、ポンペイ遺跡。
腕を拘束され、首筋に万年筆を突き付けられたまま、グェスは目を固く閉じて叫ぶ。
わめく彼女をよそに、ホルマジオは周囲を見渡し、他の人間がいない事を確認しつつ身を潜める場所を見繕っている。
そこでふとオインゴがいなくなっている事に気が付いた。

「あー、ちくしょう、さっきの小っこい奴は逃げたか…オイ、黙れ。じっとしねえと刺すぞ。」

ホルマジオは女をどうするのか決めかねていた。
如何に取り乱してるとは言え、殺し合いを止めるためにせめて情報収集くらいはせねばならない。

(しっかしこいつのスタンド能力…なんつーか、しょうがねーなァ…)

花京院のポケットから飛び出し、プロシュートの元を離れた先で再び見つけたのがこの女だった。
彼女のデイバックの中から全てを見ていたホルマジオだったが、自らとほぼ同じ能力者がいるとはまったく驚きで。
ふうと吐息をもらしつつも、今後の計画を瞬時に立てる。

ホルマジオは女が黙るまで待つつもりだ。
当然こちらに敵意があれば始末する。それは揺るがない。
しかし今は錯乱している感情を沈めなければ判断ができない。
このまましばらく黙らなければリトル・フィートを食らわせる事に決めていた。

スタンド能力、本人の性格、今の状況も顧みず泣き叫ぶ精神の幼さ。
どれを取っても同行させるには面倒くさそうな相手だ。
ならば持っている情報を全て頂き、小さくして持ち運んでやればそのうちおとなしくもなるだろう。
そして次に向かうべきはどこか、それはもう一度地図を見て考えなくてはならない。

プロシュート達の死に誓って、自分はゲームには乗らない。そう決めたのだから。
残ったチームの奴らが、一瞬でも優勝を考えた自分を受け入れてくれるかどうか、わからない。

(だが俺はまだ、まだこれからだ。まだやれる。まだ、生きてるんだからな。そうだろ、プロシュート、ギアッチョ。)

改めて万年筆が皮膚ぎりぎりのところまで押し当てられる。
金属質な切っ先の冷たさを感じ、グェスの目にはまた涙が浮かんだ。

全て失ってもなお、時間は過ぎ去り、己の身には起こらなくてもいいようなことが起こり続ける。

マップ外の島の存在を知り、そこに男がいる事、ギャンブルが行われている事、様々な情報が身の上を通り過ぎても、彼女には無価値だった。
今まで信じたかった事、好きになろうとした事、うまくいきそうだった事、全て全て、彼女の手を滑り落ちていく。

彼女は何も知らなかった。
徐倫も何も知らなかった
花京院も何も知らなかった。
只一人、一部の状況を分かっているフーゴは、保身ゆえに、その知能の高さゆえに、心を荒れるに任せるしかなかった。
お互い気持ちは近い場所にあったのに、状況が彼らを無知の状態に縛り付け、それぞれの心は遠ざかってゆく。

そして”知らない”のは”無い”のと同じなのだ。


悲痛な嘆きが再びポンペイ遺跡を訪れ、暗欝な響きを幾重にも反響させた。



【チーム・ザ・リトル結成?】
【G-5 ポンペイ遺跡/1日目 夕方】

【グェス】
【時間軸】:脱獄に失敗し徐倫にボコられた後
【状態】:精神消耗(大)、疲労(中)、頬がはれてる、両腕にダメージ(中)、錯乱
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】基本行動方針:ゲームに乗った?
0.離せよ、ちくしょう!
1.アタシは狂人でいい、みんな踏み殺してやる…でも、悲しくて何だかよくわかんないや…。
2.男の腕を何とか振りほどいて逃げたい。
【備考】
※フーゴが花京院に話した話を一部始終を聞きました。
※ダービーズアイランドを見ましたが、そこに何かがあるとは思ってません。→ダービーズアイランドが遠巻きに見た島だとは分かっていません。
※馬がどうなったかは、次の書き手さんにお任せします →E-5繁華街を彷徨っていると思われます。

※ゲームには乗ったつもりでいますが、悲しみによる錯乱が大きい状態です。落ち着いた後にどう考えるかは不明です。

【首輪について】
※グェスが持っていた首輪は、ウィル・A・ツェペリ、ンドゥール、広瀬康一、ワムウの物です。
 (現在、ワムウの首環は金属部分の一部が壊れていますが、頭につながる第二の爆弾は配線ごとくっついたままです。
  中身が全て外に出されています、そして、信管と、爆弾の半分が無い状態です。)
※グェスは、首輪が付けていた本人が死亡すれば、何をしても爆発しないという事と、首輪の火力を知りました。
※首輪についている爆薬は、人一人を余裕で爆死させられる量みたいです。
 グェスは「もし、誰かの首輪が爆発したら周りの人間も危険な火力」と判断しました。
 (ただし、首輪から取り出して爆破したからこの火力なのか ワムウの首輪だからこの火力なのかは不明です。)
※謎の機械はおそらく盗聴器、GPSだと思われますが、グェスは気づいていません



【ホルマジオ】
[時間軸]:ナランチャ追跡の為車に潜んでいた時。
[状態]:カビに食われた傷、精神的疲労(中)、肉体的疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、万年筆、ローストビーフサンドイッチ、不明支給品×3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:荒木を『ぶっ殺す』!
0:踊ってやるぜ、荒木。てめえの用意した舞台でな。だが最後は必ず俺らが勝つ。
1:グェスが大人しくなり次第、情報を吐かせる。その後どこに向かうか決める。
(聞き分けが悪ければ攻撃し、大人しくさせる。さらにゲームに乗っているなら始末する。)
2:ボスの正体を突き止め、殺す。自由になってみせる。
3:ディアボロはボスの親衛隊の可能性アリ。チャンスがあれば『拷問』してみせる。
4:ティッツァーノ、チョコラータの二名からもボスの情報を引き出したい。
5:もしも仲間を攻撃するやつがいれば容赦はしない。
6:仲間達と合流。
[備考]
※首輪も小さくなっています。首輪だけ大きくすることは…可能かもしれないけど、ねぇ?
※サーレーは名前だけは知っていますが顔は知りません。
※死者とか時代とかほざくジョセフは頭が少しおかしいと思っています。
※チョコラータの能力をかなり細かい部分まで把握しました 。


※  ※  ※

「クソックソッ!」

一人、歩を進めながら帽子を取り、頭を掻き毟る。

オインゴは潜水艦には戻らなかった。
他者との接触は完全に出鼻をくじかれ、何よりも自分の切り札を失った。
それでも安全な潜水艦に戻らなかったのは、あれも支給品、つまりは荒木の息がかかっているものだから。

そこに引きこもっていれば潜水艦ごと爆発…などと言う事が起こりかねない。
首輪の爆発の方が現実的だが、オインゴはひたすら怯えて誇大な想像を繰り広げることを止められなかった。
何も知らずぬくぬくと寝ているうちに、海の藻屑。いかにもあり得そうではないか。

「ど、どうすりゃいい!?どーすんの俺!?」

オインゴは走る。
いつの間にか元のサイズに戻っているのは射程距離の問題であろう。何も不思議ではない。
それよりも、酸素不足で真っ白になりそうな頭でひたすら弟の所へと帰るために考える。

「優勝、それしか無ぇ…。」

ゴクリと喉を鳴らす。
バックに入っている青酸カリ。
これは飲み物などに混ぜると変質しやすい、致死量も200g前後と多く、はっきり言って毒殺には向かない薬品。
しかし、そう、問題なのは”使い方”だ。
誰も死なずとも、『誰かが毒殺を試みた』という疑いを起こせば、一気に疑心暗鬼が蔓延するだろう。
瓶を誰かの荷物に紛れ込ませるだけでも、状況次第では十分効果を発揮するかもしれない。

「でも、じ、自信無ぇぜ~…。とにかく目立たねーように、目立たねえように…こっそり動くしかねえな…。」

地図を開き、人の多そうな施設・場所に見当を付ける。
そして荷物をしまうと、壁に張り付き辺りをうかがいながら、建物の影から影へ。

格好悪くたって構わない。
大切な弟が待っているのだ。
彼は決して盲目ではない。
自分の能力を分かって、できる最大限の力量を発揮し、立ち回るのだ。


【G-5とG-4の間 ポンペイ遺跡のはずれ/1日目 夕方】
【オインゴ】
[スタンド]:『クヌム神』
[時間軸]:JC21巻 ポルナレフからティッシュを受け取り、走り出した直後
[状態]:健康。胃が痛いのは完治。
[装備]:首輪探知機(※スタンド能力を発動させる矢に似ていますが別物です)、承太郎が徐倫に送ったロケット
[道具]:支給品一式(食料を消費。残りはペットボトルの水2本、パン3個。その他の基本支給品は二人分)、
    青酸カリ、学ラン、ミキタカの胃腸薬、潜水艦
[思考・状況]
基本行動方針:積極的に優勝を目指すつもりはないが、変身能力を活かして生き残りたい。
0.これからは『消極的攻め』で行くッ…自信無ぇ~…
1.ひとまず情報収集の為、他人と接触したい。
2.他人の顔を使って悪評を振り撒こうかなぁ~。できれば青酸カリで集団に不和を起こしたい。
3.潜水艦はある程度使うが、引きこもる事は危険なのでもうしない。
5.億泰のスタンド能力はもういいや…

※顔さえ知っていれば誰にでも変身できます。スタンドの制限は特にありません。
※承太郎、億泰、露伴、ウェストウッド、テレンス、シーザー、ジョージ、グェス、ホルマジオの顔は再現できます。
※エルメェス、マライア、ンドゥール、ツェペリ、康一、ワムウ、リサリサの死体を発見しました。
 しかし死体の状態が結構ひどいので顔や姿形をを完全に再現できるかどうかは不明です。
※億泰の味方、敵対人物の名前を知っています。


※   ※   ※


___いつだってさ。
いつだって、運命は僕らを先回りする。いつも何もかもが足りないんだ。
でも足りないからこそ、彼らの様に抗うわけでしょ?それがいいんだよ。
僕は見たい。命をたぎらせて『常にどこかへ向かう』彼らの姿を。
だからこのゲームの中で、僕が彼らにとっての運命になるんだ。

彼は…オインゴは怠惰による代償を僕、つまりは運命に支払わされたのさ。

チケットはどうしよっかなあ~わかんない。
気が向いたらフィールド上にこっそり置いたりとかするかも。

ホルマジオの事は、んー、答える必要はない。
って言うか、教える義務もないし。
あんまり当てにされても困るなあ。
僕は気まぐれだからね、いちいち理由とか無いよ。

あ~、ジョルノくんに僕の居る場所ばれちゃったし、これからどうなるのかなあ。楽しみだよね!


___そう言った彼の顔は、本当に純粋な笑顔でした。
参加者が退場した後訪れた彼に、私は質問したのです、何故オインゴからここの入場許可証を取り上げたのかと。
そしてホルマジオの事を黙っていたのは何故なのかと。

私の問いにこう答えた彼に、参加者たちの前に姿を現しているときの邪悪さはありませんでした。
一体どちらがこの男の性分なのでしょうか。

わからない、だからこそ危険です。
この男は子供の様に純粋に楽しんでいる。
全ての子供の行動が主体的であるのと同様、この男は真の意味で客観が無いと言えます。

私は彼の笑顔を前に恐怖を感じなかったことはありません。
その顔で見つめられると足に根が生えたように動くことも叶わず、じりじりと緊迫を感じます。
この奇妙な笑顔は、底知れぬ不安と嫌悪に私を導きます。
そして自由ではない私は、がんじがらめな己の身を嘆きつつ、こう考えることを止めることができません。

誰でもいい、ただ、それが可能ならば。
稀なる才にてこの”奇”を凌駕し、すべてを終わらせて下さい、と。

※   ※   ※


「皆が僕の為に踊ってる…楽しいな!」

ここはまるでダンスホール。
皆が死の舞踏を踊る。
彼の目が微笑み、そこに注がれ続けている限り、狂気の宴は終わらない。


【荒木飛呂彦】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:日記、ダービーズチケット、???
[思考・状況]
基本行動方針:運命そのものになって、それに抗う人々を見る。
0.僕は皆の運命になりたい。
1.さすがだ、ジョルノ君。
2.ダービーのことは出来る限り守る。楽しみが減るから。
3.次にダービーに勝った参加者には、自分と勝負する権利を与えてやっても良い。

※チケットは荒木が持っています。忘れるかもしれませんが、気が向いたら他の参加者に渡してもいいと考えています。


【G-10 北西部 小島(ダービーズアイランド)/1日目 夕方】
【テレンス・T・ダービー】
[時間軸]:承太郎に敗北した後
[状態]:健康、精神疲労(大)
[装備]:人形のコレクション
[道具]:世界中のゲーム
[思考・状況]
思考0.誰でもいい、救ってくれ…
思考1.荒木、この男、やはり読めない…ッ
思考2.私だって死にたくはないですよ。
思考3.この先の方針を考える。
状況1.参加者ではなく、基本はG-10にある島でしか行動できない。
状況2.荒木に逆らえば殺される筈だが……?
状況3.参加者たちとゲームをし、勝敗によっては何らかの報酬を与える(ように荒木に命令されている)。
[備考]
※ダービーは全参加者の情報について、顔と名前しか知りません(原作3部キャラの情報は大まかに知ってます)。
 ただし、変装している参加者の顔は荒木が教えています。
※ダービーズ・アイランドにも放送は流れるようです。
※アトゥム神の右足首から先は回収しました。
※第二放送を聞き逃しましたが、死亡者の名前は随時荒木が教えています。
※ジョージ・シーザーと会話をしました(情報の交換ではありません)


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163:Revolution 9 ― 変わりゆく九人の運命(前編) ホルマジオ 181:親指姫
163:Revolution 9 ― 変わりゆく九人の運命(前編) グェス 181:親指姫
158:赤ずきん オインゴ 180:Close to you ― 遥かなる『夢』を掲げて
168:プロモーション・キング(前編) テレンス・T・ダービー 177:第三回放送
168:プロモーション・キング(前編) 荒木飛呂彦 175:助けて! 上野クリニック!

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最終更新:2016年07月03日 23:10