※   ※   ※

ところで、説明するまでも無い事を一つ、語らせていただきたい。

『同盟』とは各々の思想、利害、あるいは目的を同じくする者同士が、『約束』する『協力』の『体勢』を呼ぶ物である。

以上を踏まえた上で、吉良が提案した同盟は締結される。

J・ガイルとアンジェロにおいては、差し迫った殺し合いを効率よく実行するためのツールとして。
ジョナサンにおいては、目的を達するための近道として。
ディオにおいては、自身の体のパーツを奪った卑劣漢から目を離さない為の監視塔として。

※    ※    ※

「エリナが…死んだんだ。」

DIOの館、その一室にて。
ベルベットが目張りされた木製の椅子に深く腰を下ろし、少し前かがみになり膝の上に肘をつき、両手を組んで。
ジョナサン・ジョースターは言った。
彼の視線は床に落ち、そこに敷かれた毛足の長い絨毯の模様を追うように、ちらちらと動いていた。

「フン…それにしては、お前は泣き顔一つ見せないな。」

ジョナサンの座る椅子に向かい合う形でおかれた革張りのソファ。
そこに腰をかけ、ディオ・ブランドーは膝に置いた地図に書き込みをしつつ言う。
紙は無くなった左腕で器用に抑えられ、さらさらという小さな音と共に禁止エリアの場所と時刻がつづられる。
傍らに置かれた参加者名簿にはすでに、先程の放送で読み上げられた死者の名に線が引かれていた。

ディオはちらりとジョナサンを盗み見る。
絨毯の模様を見ていると思っていたジョナサンの瞳は、紋様に沿って動きながらもその実何も見てなどいないかのようだった。

「…うん。だってもうすぐ全部、還ってくるから。」

「何?」

答えず、ジョナサンは床に伏せていた視線をふと上げると、まじまじとした様子でディオの姿を見た。
傾いているとはいえ窓から差し込んだ日光が、近くに腰を下ろしたディオに確かに注がれている。
表面的ではあったが平穏だった日々を思い出しているのか、ジョナサンのアーモンドの様な形の良い目がすうっと細められた。

「吸血鬼になって無い君と話すのは何だか懐かしいな。」

ディオは地図から目を上げ、口に咥えていたキャップにペンを差し入れつつ、ほんの少しだけ怒気を含ませた声色で言う。

「…ジョジョ、話題を逸らすな。時間を超えて俺たちは存在する、さっき説明しただろう…。」

答えず、ジョナサンは引き締まった両腕を天井に向け、伸びをする。
放送前後に交わされていた話し合いと、今まで乗り越えてきた戦闘での疲労は、波紋で軽減しているとはいえ全くのゼロでは無いのだろう。
固まった筋肉をほぐす様に引き延ばし、ゆっくりと弛緩させている。
そして息を丁寧に吐き出しながら、彼はまだ関係の無い話を続けようとした。

「うーん、まあね。覚えているかい、ラグビーをしていた頃の事。」

「俺にとってはつい最近だ。…質問に答えろ。」

「うん?言うまでもないさ。僕が全部殺して、ミスター・荒木に全部元に戻してもらうんだ。それから彼も殺す。」

ディオは沈黙で答える。
目の前のジョナサンの異常さ。はっきりと心で理解できる異常さ。
その言葉は、悪いジョークというにはやけに重く。

___勿論、ディオ、君も殺す。

口の端より言葉の出ずる前に、すでに目は物事を語るけれど。

ディオは、ジョナサンの瞳の奥で小さな灯がぱちりと爆ぜた気がして、目が離せなくなる。
質問の答えを追求せず、噤んだ口を開く事も出来無い。
吉良が語った同盟の規約が頭の中で響く。

『各々、最後まで同盟者には手を出さない』

吉良吉影、あの『最初の場所』で前の方に頓挫していた男。
何が起こったのかわからぬ、という顔をしていたのは他の参加者たちと同じだったが。
ディオの直観は吉良を「こいつは危険だ」という部類に属した。
思えば、プッチとジョルノと共にこの屋敷に着いた時から狂い出していたのかもしれない。
あの場にいたのは、ほとんどが「危険」に属する類の輩だったのだから。
しかし、もう関わりを持ってしまった。もう戻れない、吉良を殺すまでは。

「ディオ。君はなぜ、吉良さんの提案に乗ったんだい?」

束の間の沈黙ののち、ジョナサンは強い何かを秘めた瞳で、黙ったままのディオの目をさらに覗き込んできた。
ジョナサンは、どうやら優勝をするつもりらしい。
だが一人で虱潰しに殺して回るには時間と労力がかかる。

「色々あって揺らいだりしたけれど、この同盟を組んだ人たちを見て思ったんだ。ああ、こういう人たちは許せない。やはり僕が、殺さなくては。全部無かった事にしなければ、って。」

だから効率よく参加者を減らせる上、悪党どもを確実に始末できるこの方法を選んだと、ディオに言った。
おそらく、死んだエリナ・ペンドルトンを生き返らせるつもりなのだろう。
あの生真面目で、見ている方が羞恥を覚えるほどの正義感をもっていたジョナサンをそこまで駆り立てさせる彼女。
やはりただの女では無かったのだ。

そう考えつつディオは、何か言おうと反射的に口を開きかけた。
が、咄嗟に言うべき言葉を作り出せずに不自然な間が開く。

「ディオ?」

微笑と言ってもいいような穏やかな表情で、けれども暗く光る黒曜石の瞳をディオと合わせたまま、ジョナサンは首を傾けた。

「…吉良を殺すためだ。あいつから目を離すわけにはいかない。そしてお前と同じく、邪魔になるものを排除する為。徒党を組んだ方が効率がいいからな。」

そして最後にこの会場に立っているのはこの俺だ。と付け加えると、ジョナサンは再び床に視線を落とし己のつま先を見つめた。

「君らしいや。そうか…じゃ、最後に残ったら。」

「俺達で、殺し合いだ。」

交差する思惑は、確かな殺意に彩られて黒い。

ディオは無意識に、残った右手で左腕を撫でる。
先刻、ディオの左腕はジョナサンの波紋で治療された。今、出血は完全に止まり、清潔な布が巻かれている。
ジョナサンは当たり前のように、ディオの先端が無くなった腕を見て言ったのだ。

「ディオ、腕がそれじゃあ、戦闘をするには問題があるんじゃないか?同盟を組んだ者として、僕は君を治療する事を申し出るよ。」

頑張って参加者を減らさないと、お互い組んだ意味が無いからね、と。

ディオはこれを別に屈辱とは思っていなかった。
腕がこのような状態で正しい処置も施さずにいれば、必ず行動の障害になる。
ならば使えるものはすべて使う。過程や方法などなんとやら。

『他の参加者が全滅したのち、最後に残った同盟者同士で殺し合う』

片腕欠損のハンデを負った今の状態では、最後に計画通り5人が残った時でも、一番にターゲットになるかもしれない。
だから、治療にジョナサンの力を借りてしまったとしても、そんなことは目的達成のための小さな踏み台に過ぎない。
スタンドを完全にものにし、吉良への復讐を心に穿つ様に刻んだディオの自尊心は、そのくらいでは動揺しないまでに成長出来た。

ディオは考える。
仮に今攻撃を仕掛け、吉良を殺せたとして、無傷のままでは済まないだろう。
吉良だけを殺して終わりではないのだ、他の参加者も殺さなければこのゲームは終わらない。
それならば同盟を組んだ他の奴らに働いてもらえば良い。

ヤマギシユカコの様に、年に不相応な働きを見せる人間もいる。
彼女も是非自分で仕留めたいディオには、他の人間にかかずらっている暇など無いのだ。
どうも中には快楽的に人間を殺して回る下らない殺人者もいる様。自分一人であくせく動き回る必要はない。
吉良主導という不快感に目をつぶれば、この同盟には多数のメリットがある。

ただ、ジョナサンの口から当たり前の様に紡がれる「殺す」、「減らす」、という言葉にひどい違和感を覚えたことは確かだった。
だが考えても仕様の無い事だとも思っていた。
自分も同じことをしようとしているのだから。

そう割り切っても払拭できないジョナサンへの違和感は、彼の全身にこびりついた血のせいなのかもしれない。
いや、あるいは坩堝の様に愛憎渦巻く、光の無いあの瞳か。
それとも、それとも。

ディオは首を振る。金の髪が左右に軽く散り、その位置を変えた。

それに加え、この同盟が目的とする『参加者を殺して回る』。
つまり『息子』だというジョルノ・ジョバァーナを、手にかけなくてはならないのか。
息子を持つ自分という存在がはっきりと理解できない今、ジョルノに対する感情など自分にはわからない。
出会ったときに感じた奇妙な『違和感』。あの感覚の正体もつかめないまま、永遠に別れるのか。
何故なのだろう、ジョルノが死ぬ様子を想像すると鳥肌が立つ。

ジョナサンはそんな彼の様子を不思議そうな顔で見ている。
逸らすまいと強く己に言い聞かせ、ディオはジョナサンと目を合わせると言い放った。

「ジョジョ。今は、同盟を組んでやる。だが、最後は残った俺達で殺し合う。それまで勝手に死ぬのは許さん。」

そのディオの言葉に、眉を眇め小さな声で笑い頷くジョナサン。今はその名を捨てた者。

『参加者を殺して回る、この過程において、我々は絶対に協力し合う。』

※   ※   ※

吉良は耳を澄ます。
だみ声と言い切ってしまって構わない様な、荒れた低い男の声が2種類、しっかりと聞こえてくる。

「なあ…おい。そろそろ真面目に考えなきゃあなんねぇんじゃねえのか?」
「何をだよ、うざってえ言い方してんじゃねえ、J・ガイル。」

「ま、言っちまうと、だ。俺達、誰か一人しか生き残れねえんだぜ?」
「そーだな。でもそんな心配はいらねえぜ、てめえはここで死ぬからな。さっきの爆発で俺が負った傷を見ろ、クソ野郎…ッ」

「めんどくせーな。今ここでそんな騒動起こしてみろ?仮に俺を仕留めたとして、その瞬間後ろから他の奴が来てボン!だろうが、てめえ。」
「試すか?」

「ちょっと待てって。やっぱここは同盟の話に乗っとくべきだ。いいか?悪魔の虹はもう俺らとあのガキだけだぜ?」
「……今は数減らしをする段階、ってことかァ?」

「飲み込み早えじゃねえかアンジェロ。趣味とか娯楽とか、浮かれてる時間はちょいと置いとかなきゃあなんねえ。おふくろもずいぶん前に死んじまったし、やっぱDIO様には手を出せねえ。まだ、な。」
「いっちょ前に忠義面、息子面か。きめえ。」

「は、ねーよ。どうもあの人は吸血鬼じゃねえみてえだし…まだ何の能力かわからねえ、それだけだ。最終的にどうなるにせよ、協力したってデメリットなんかねえだろ?」
「フン…ビビりやがって。じゃあ、どーすんだよ。ちょっと考えてから返事するって言っちまっただろうが。」

「基本的に今までと変わらず動き回って殺しまくればいいって事だぜ?それにプラス、『同盟者同士は最後になるまで殺し合わず、お互い助け合う』ってのがいいじゃねえか。」
「ノーリスクの保険みてえなもんかァ?それだってどこまで守られるのかわかったもんじゃねえが、言いだしたら切りがねえ…ってか。」
「そりゃ、お互いおんなじ条件なんだぜ。悪魔の虹の時と同じく、いらなくなったらおっぽりだせば問題ねえ。」

「ケッ、どっちかってーと、おっぽりだされたのは俺らだったがな。さっさと言いに行って来いよ。俺は爆発の衝撃でしんどいんだよ。」
「ならその素敵なスタンドでドアを開けてくれよ、アンジェロさんよ。」

嫌味を含めて吐き出された言葉の後、しばらくの無音。
吉良は背中を向けて張り付いていた壁から離れ、手近な椅子に腰かける。サイドテーブルには紅茶が湯気を立てている。
一瞬の間の後に、ドアが半分ほど開かれた。
見れば、ドアノブには透明な液体の塊が蠢いていて。
そちらに気を取られていると、手に持っていたスプーンから声が投げかけられた。
スプーンは、紅茶を混ぜようと館から拝借したものだ。

「おい、俺たちは同盟に乗る。姿を現わせなんて言わねえよな?俺ら2人は別行動だ…心配すんな、俺らは殺しが好きなんだ。ちゃーんと参加者減らしはするぜ。」

まあ、どっかでピンチなのを見たら助けてくれや、と。
スプーンの丸みに合わせて湾曲した姿で、包帯だらけの奇怪なスタンドヴィジョンが笑っている。
吉良は、スプーンと会話する様で滑稽な己の姿に眉を歪めた。

「…そうか。協力に感謝しよう。」

スプーンに写った『吊られた男』はケラケラと笑い、次の瞬間にはドアにはめ込まれた硝子にうつっていた。

「俺らはテキトーに人がいそうなとこを回る。お前ら3人もサボるんじゃねーぞ。特に言い出しっぺのてめーは、がんばってくれよなァ?」

吉良は答えず、優雅な動作でスプーンをカップへと差し込み、紅茶を混ぜる。
そしてゆっくりと風味をも口の中で転がす様に、コハク色の液体を口に含ませ。

それを飲み下す頃には、ガラス窓には何も映ってはいなかった。

※   ※   ※

時は遡り、第3放送前。
5人が不安定で唐突で衝撃的な出会いを、再会を果たしたころ。

「…どうやら興味を持ってくれたようなので、私の提案を引き続き聞いてもらえると解釈するよ。いいかね?『協力』とは、そう、同盟だ。」

まるでプレゼンテーションのようだった。
スタンドヴィジョン2つと、睨み合いから一転、己に視線を投げかける青年二人に対し、吉良は饒舌だった。
上質に仕立てられたヴァレンチノのスーツにしわが寄る事もかまわず、彼は身ぶり手ぶりを大げさなまでに交え、語る。

「まず、君たちは参加者を殺して生き残る事を目的としている。そうだね?何、隠す必要なんかない。そう考えるのが、こんな状況では最も正常な思考だ。」

頷きもせず、4人の回答は沈黙だった。
しかし、それでは彼らが吉良の質問にNOと答えた事にはならない。
先刻、4人の瞳全てに闇を見た吉良は、改めて全員の眼を見渡す。
そこに宿っているのは、明らかに肯定の意。
再び満足そうに息をつくと、吉良は続けた。

「私が提案する同盟が共有する目的は、『参加者を殺して回る、この過程において、我々は絶対に協力し合う』。」

ジョナサンは吉良の方へと2,3歩近づいた。依然背後の窓から覗くディオに、意識を向けつつ。
ディオは吉良の姿とジョナサンの姿を交互に見、歯ぎしりをしたままピクリとも動かないのだった。
『吊られた男』と『アクア・ネックレス』は2度目の同盟の申し出に、皮肉を含めて笑っていた。
4人の思枠は一つ、同盟を組むことの目的は理解した。
では、同盟を組む上での規約はいかなるものなのか。

「ずいぶんいい気になってやがるようだが…お互いがお互いを信頼して無いんだぜ?どうしていざって時に裏切って逃げたり、ここにいる奴らを先に殺しちまおう、と考えないって言い切れる?」

「言い切れるね。『殺さなければ優勝できない』この前提がある限り。少しは自分の頭で考えてもみたまえ。」

『アクア・ネックレス』に吉良は断言する。
それは保身という目的から導かれた結論。
つまり、生き残りたい5人は、殺す以外の選択肢を考えていないことが分かった以上、言われ無くても殺しを行うだろうと言う事。
その強固な意志の上に、同盟を組み集団で動くことにより、己の殺しがやりやすくなる事。
分担する事によって一人一人の負担が5分割されると言う事。

サボって殺さなかったり自ら同盟者を減らす様な事をすれば、結局は自分に負担が増え、時間が長引き、体力が削られる。
自分たち以外にも殺しに乗り気の奴らがいたとすれば、その人物達とやり合う可能性だってある。
正義感面した奴らが既に徒党を組んでいれば、その集団と正面衝突する羽目になるかもしれない。

ならば『同盟者同士は、他者を排除する過程においては協力し合う』。
時間と体力の消費を最小限にするには、この同盟で堅実に仕事をこなす事が最も優勝に近い道。


___ここで、唐突に音楽が空気を揺らした。

少し遅れて聞こえてくるのは最早聞きなれた男の楽しげな、無邪気な、忌々しい声。
それは5人の間を流れてゆき、一方的に情報を告げると始まった時と同様、唐突に終わった。
5人は身じろぎもせずに聞き入っていた。
メモを取る者すらいない。お互い動けなかったのだ。
そのような緊迫感の中、流れて行った音楽はドボルザークの「新世界」。
各々が想起するイメージが何なのか、彼らの表情からは分からない。
少なくとも誰の心を癒す事も安らがせることもなく、音楽は彼らの耳をすり抜けて行った。

吉良は音を追うように宙へと向けていた視線を4人の方へと戻すと、肩をすくめて言った。

「……今の放送を聞いたかね?テレンス・T・ダービーとか言う輩が新たに参戦したらしい。1人とはいえ参加者が増えた今、殺人者同士で効率良く行こうじゃあないか。」

「へぇ…『アトゥム神』のダービーか。『9栄神』の奴らなんぞ、スタンド名しか知らねーがな。」

包帯だらけのスタンドヴィジョンは考え込むように腕を組む。
何か知っている情報があるのかと、全員の視線が『吊られた男』の映っているガラス窓へと向くが、彼はそんな視線にも構うことなく一人ごちている。

「や、マジに名前しか知んねーぜ。ちょっと前に兄貴が死んでたなァ…どんな酔狂かは知んねーが、このタイミングで参加ってことは乗り気なんじゃねーのかね。」

J・ガイルが大した事を知っているわけでもないと知った『アクア・ネックレス』は、『吊られた男』を遮る様に彼が映ったガラス窓の前へ出しゃばり、言う。

「乗る乗らないは置いといて…だ。5人てぇのは目立ちすぎねーか?3人と2人に分かれた方がいーだろ。団体行動はいい気になりだす奴が必ずいるから嫌いなんだよ。」

形の定まらない流動的な体をくねらせ、『アクア・ネックレス』は訴える。
吉良は腕を組み、憮然とした様子で反論した。
男5人でぞろぞろと、それも虫の好かない赤の他人たちと長時間行動を共にするなど、彼とて好きで望んで居る訳ではない。

「私だって団体行動なぞ大嫌いだ。だが、このゲームを脱出しようといきがっている正義のミカタが徒党を組んで襲ってきたらどうする?ひとたまりもないだろう?」

「…でも、彼の言う事には一理ある。あまり大人数だと、見つかりやすいかもしれないな。」

黙っていたジョナサンが、小さくはあったがしっかりと良く通る声で言った。
ディオがジョナサンを凝視する。
血まみれの義兄弟を見て彼が何を想っているのか、その表情からは読み取れない。
ジョナサンの言葉を受け少し考えた様子で、吉良は顎に軽く手を当てて頷く。

「…では、どういう分け方が最善だと思うんだね?」

「おい、まだ話を飲んだわけじゃねえ。考えさせろ。放送内容もメモりてーしな。」

『アクア・ネックレス』は噛み殺した様な声で答えた。
アンジェロは先程の爆発で負った傷の痛みを忘れたわけではない。
だが、今は目先の獲物、楽しみよりも最終的なゲームのいく末を見定めるべき時。
どのみち、生き残っていればJ・ガイルを心ゆくまでいたぶって殺すチャンスがあるのだ。
『アクア・ネックレス』が、来るべき復讐の時を夢想するようにゆらりと、不穏に動いた。

「まあいいだろう…。だがあと二つある。『他の参加者が全滅したのち、最後に残った同盟者同士で殺し合う』、『各々、最後まで同盟者には手を出さない』」

吉良は指を2本、眼前に立てて示す。

「我々五人以外が全滅したら、その場で殺し合うも良し、一度離れて体力回復を図るも良し、その隙にぐさり!といくも良し、だ。」

吉良の言葉を聞きつつ2つのスタンドヴィジョンはいずこかへと消えていった。
それを見送った吉良は眼前に佇む屈強な青年と、先程右手を奪い、徹底的に叩きのめしてやった青年に目を向ける。
2人は未だその立ち位置を変えず、眼前に佇んでいた。

「で、君たち二人はどうするね?」

吉良の懐のポケットには、未だ新鮮さの残るディオの手が確かに存在している。
だが、右手を奪い終わった以上、ディオにはもう利用相手という立場でしか接しない。
おそらく自分を恨んでいるだろうが、同時に恐怖もあるはず。
吉良はそう考え、ディオと視線を合わせて薄く、笑った。

ディオは、眼下に佇む男の視線と笑みの意を解し、碧い瞳を憎悪の炎で光らせた。
しかし、彼は首を縦に振る。

「……いいだろう。」

自分の賭けが成功し、吉良は満足そうにうなずいた。

「…僕も、乗ります。」

酸素に触れ、赤から黒へと変わりだした血液を夕陽に光らせたジョナサン。
彼もゆっくりとうなずく。

浮かべた笑みを一層深め、吉良はゆっくりとした足取りで屋敷の扉をくぐった。

※   ※   ※

以上が事の顛末である。
常にナンバー3、目立ちすぎる事もなく軽蔑される事も無い位置にいた吉良だが、今回の大きな賭けは人生のターニング・ポイントとなるかもしれない。

少しくらい矢面に立ってもかまわないと考えていた。なぜならどうせみんな死ぬのだから、と。
中途半端に身を隠し、及び腰で決定的な行動を起こさずにいるよりは、さっさと事を起こし、自分を知るものを殲滅させた方が良いに決まっている。

吉良は2杯めの紅茶に口を付ける。
柔らかな蒸気が顔に当たり、肌に温かさを運ぶ。
口内に注ぎ込んだ液体は、リーフの香りと渋みを舌ににじませ。
遅れてやってくる甘みにため息をこぼし、吉良は掛けていた椅子の背もたれに深々と身を沈めた。

どの道、荒木にはばれている。山岸由花子にもばれている。
億泰にも、早人にも、ばれている可能性がある以上、吉良の思惑は一つ。


___全てを消す。
木の葉が風雨に飛ばされるように造作もなく、我が『キラークイーン』で死の中に吹き飛ばしてやる。

間近に夜。

私は吉良吉影。
今夜はここで休むとしようか。


【悪魔の虹、再び】

【C-4 DIOの館/1日目 夜】
【吉良吉影】
[時間軸]:限界だから押そうとした所
[状態]:左頬が殴られて腫れている、掌に軽度の負傷、爪の伸びが若干早い
[装備]:ティッシュケースに入れた角砂糖(爆弾に変える用・残り4個)、携帯電話、折り畳み傘、クリップ×2 、ディオの左手
[道具]:ハンカチに包んだ角砂糖(食用)×6、ティッシュに包んだ角砂糖(爆弾に変える用)×7、ポケットサイズの手鏡×2
    未確認支給品×0~2個、支給品一式×2、緑色のスリッパ、マグカップ、紅茶パック(半ダース)、ボールペン二本
[思考・状況]
基本行動方針:植物のような平穏な生活を送るため荒木を含む全員を皆殺し。
0.少し休んでから2人と話し合い、今後どこへ出向くか決める。
1.植物のような平穏な生活を送るため荒木を含む全員を皆殺し。ただし無茶はしない。
2.手を組んだ由花子と協力して億泰、早人を暗殺する。ただし無茶はしない。
3.危険からは極力遠ざかる
4.利用価値がなくなったと思ったら由花子を殺して手を愛でる。
[備考]
※バイツァ・ダストは制限されていますが、制限が解除されたら使えるようになるかもしれません。
※プッチの時代を越えて参加者が集められていると考えを聞きました。
※シアーハートアタックに何らかの制限がかかっているかは不明です。

【ディオ・ブランドー】
[時間軸]:大学卒業を目前にしたラグビーの試合の終了後(1巻)
[状態]:内臓の痛み、右腕負傷、左腕欠損(波紋と、ジョナサンが持っていた包帯で処置済み)、ジョルノ、シーザー、由花子、吉良(と荒木)への憎しみ
[装備]:『ホワイトスネイク』のスタンドDISC
[道具]:ヘリコの鍵、ウェザーの記憶DISC、基本支給品×2(水全て消費)、不明支給品0~3
[思考・状況]
基本行動方針:なんとしても生き残る。スタンド使いに馬鹿にされたくない。
0.吉良が憎い憎い。ジョナサンの様子が気になる。
1.吉良は絶対に殺すが、今は同盟の規約を守る。
2.少し休んでから2人と話し合い、今後どこへ出向くか決める。
3.スタンド使いを『上に立って従わせる』、従わせてみせる。だが信頼などできるか!
4.ジョルノ、由花子に借りを返す
5.勿論、行動の途中でジョージを見つけたら合流、利用する
6.なるべくジョージを死なせない、ジョナサンには最終的には死んでほしい
7.ジョルノが……俺の息子だと!?
[備考]
※見せしめの際、周囲の人間の顔を見渡し、危険そうな人物と安全(利用でき)そうな人物の顔を覚えています
※ジョルノからスタンドの基本的なこと(「一人能力」「精神エネルギー(のビジョン)であること」など)を教わりました。
  ジョルノの仲間や敵のスタンド能力について聞いたかは不明です。(ジョルノの仲間の名前は聞きました)
※ラバーソールと由花子の企みを知りました。
※『イエローテンパランス』の能力を把握しました。
※『ホワイトスネイク』の全能力使用可能。頭部を強打されればDISCが外れるかもしれません。

【ジョナサン・ジョースター】
[時間軸]:エリナとのハネムーンでアメリカに向かう途中の船上でワンチェンと遭遇する直前
[状態]:波紋の呼吸、唇と右手から少量の出血、鼻の骨折、右肩と左ももに隕石による負傷、額に切り傷
    頬がはれてる、内臓にダメージ(中)、身体ダメージ(大)(いずれも波紋の呼吸で治療中)、ブチャラティの眼光に恐怖
[装備]:“DARBY'S TICKET”、サブマシンガン(残り弾数80%)
[道具]:デイパック*3、不明支給品1~5(全て未確認)、メリケンサック、エリナの首輪、エリナの指輪、ブラフォードの首輪、
    ダニーについて書かれていた説明書(未開封)、『プラネット・ウェイブス』のスタンドDISC
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、荒木に全部なかったことにして貰った後、荒木を殺す
0.――――ただ、全て打ち砕くだけだ、勿論ディオ、君も。
1.同盟の規約を守る。
2.少し休んでから2人と情報交換をしつつ話し合い、今後どこへ出向くか決める。
【備考】
※ジョージ・ジョースター一世を殺したと思い込もうとしてます。
※参加者が時間を超えて集められた説を聞きましたが、今は深く考えていません。人間のディオを懐かしがっている程度です。
【C-4 /1日目 夜】
【J・ガイル】
[時間軸]:ジョースター一行をホル・ホースと一緒に襲撃する直前
[能力]:『吊られた男』
[状態]:左耳欠損、左側の右手の小指欠損、全身ずぶぬれ、右二の腕・右肩・左手首骨折(治療済み)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず殺しを楽しみつつ、自分が死なないよう立ち回る
0.大きな施設を回り、参加者を殺害する。
1.同盟の規約を守る。でもいらなくなったら同盟なんか知るか。
2.ほかの参加者を可能な限り利用し、参加者を減らす。
3.自分だけが助かるための場所と、『戦力』の確保もしておきたい。
[備考]
※『吊られた男』の射程距離などの制限の度合いは不明です。
※ヴァニラアイスの能力、ヴェルサス、ティッツァーノ、アレッシーの容姿を知りました。
※第二放送をアンジェロに話しました。

【片桐安十郎(アンジェロ)】
[スタンド]:アクア・ネックレス
[時間軸]:アンジェロ岩になりかけ、ゴム手袋ごと子供の体内に入ろうとした瞬間
[状態]:全身を火傷(中度)、身体ダメージ(中)、プッツン
[装備]:ディオのナイフ ライフルの実弾四発、ベアリング三十発  
[道具]:支給品一式×2
[思考・状況]
基本行動方針:安全に趣味を実行したい
0.大きな施設を回り、参加者を殺害する。
1.同盟の規約を守る。でもいらなくなったら同盟なんか知るか。
2.J・ガイルは絶対に殺す。だが今は参加者の数を減らす事に専念する。
3.荒木は良い気になってるから嫌い
[備考]
※アクア・ネックレスの射程距離は約200mですが制限があるかもしれません(アンジェロは制限に気付いていません) 。
※ヴェルサス、ティッツァーノの容姿を知りました。
※第二放送をJ・ガイルから聞きました。
※ミューミューの基本支給品を回収しました。

投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

173:For no one - 誰がために? ジョナサン・ジョースター 191:いともたやすく行われる――
173:For no one - 誰がために? ディオ・ブランドー 191:いともたやすく行われる――
173:For no one - 誰がために? J・ガイル 201:ニュクスの娘達
173:For no one - 誰がために? 片桐安十郎(アンジェロ) 201:ニュクスの娘達
173:For no one - 誰がために? 吉良吉影 191:いともたやすく行われる――

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最終更新:2011年01月23日 23:23