体に痛みを感じない。もし失敗していたのなら、確実に体に受けているであろう痛みを。
「………………」
ふふ、やった、やったぞ、私はあの窮地を脱したのだ!
必死なあまり「いいや! 『限界』だッ! 押すねッ!」などと叫んでしまったが……ふふ、もうあそこまで必死になる日は二度とこない。
私のバイツァ・ダストは無敵なのだッ! 恐れる事はない……同じ過ちを繰り返さぬよう、慎重にあいつらをブチ殺せばいいだけの話だ。
今度こそ、確実に……
「フ……フハ……フハハハハハハハハハ」
私は嬉しくてつい高笑いをしてしまった。これでようやく、私に平穏が訪れるのだ!
「戻ったぞ……」
私は目を開けあたりを見渡す。
さあ、平和な平和な杜王町の平穏な朝よ、私を出迎えてくれッ!
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
何だこれは? 真っ暗じゃないか……
どうなっている? 私は一日をやり直しているはずだろう?
もしかして私はバイツァ・ダストの能力を見誤っていたのだろうか?
例えば、『一時間ほど時を戻す』でなく、『挽回可能な時間まで時を巻き戻す』とか……それならば何日のかは分からないが深夜に戻されたのにも説明がつく。
時間が分からないので少々不便だが、平穏な暮らしを得た代償だと思えばこのくらい……
「これから君達に、殺し合いをしてもらうよ」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
な、何だアイツは? 私はあんな男知らないぞ。
クソッ、分けが分からないッ! それともこれは夢なのか!? だとしたらどこからが夢だ?
「君たちは、“これは夢だ”と思っている。そうだろう? だが、これは現実だ。嘘だと思うなら、頬でも尻でもつねってごらんよ」
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
痛い。普通に痛いッ!
何故だ、つねった太股が痛いじゃないかッ!
クソッ、落ち着け、落ち着くんだ
吉良吉影!
冷静に状況を分析しろ、そうしなくちゃ平穏は掴めないッ!
そうだ、これは演劇か何かだ、そうに違いない。
だとしたらここで騒いで警備員に来られたら厄介だな、静かにしていよう。
「フ~ゥ、やれやれ。女性ってのはお喋りだねェ~。キャンディーでも舐めるかい?
口全体に味が広がるキャンディーだよ」
ほら、何やら囁いていた女が注意されている。
どうやらここは劇場で間違いなさそうだな。
やれやれ、これでスッキリした……おかげでもう爪を噛まなくても済みそうだ。
「ママ!」
喧しい餓鬼だな。舞台を見るときは静かにしろと習わなかったのか!?
しかも立ち上がるだなんて非常識な……
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
一瞬思考が停止した。
マナーのないガキを睨みつけてやろうと振り返り、見てはならないものを見てしまった。
(バ、ババババババカなッ! 何故あのガキがここにいるッ!?)
悪夢の始まりを私に告げた、おかしな頭の忌々しいチビガキ。
あの時、確かに爆破したはずだ……それが何故ここにいる!?
バイツァ・ダストで奴に会う前まで戻ったということか!?
「ママあああああああああああ!!!!」
背後から炸裂音が聞こえ、次いで首筋に生暖かいものを感じた。
手で触れる。液体であることが分かった。
目の前に指を持ってくる。指についた液体は真っ赤であることが分かった。
臭いを嗅ぐ。やはり血液で間違いないことが分かった。
振り返り、先ほどまで浮いていた女を見る。作り物ではない本物の死体であることが分かった。
荒木が笑い、何かを呟く。奴が“ヤバい”人間であることが分かった。
その後、一瞬の浮遊感を経て目に映る景色が汚らしい部屋へと変わった。これは夢ではないことが分かった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「麻薬を止めさせるために……『麻薬止めますか?それとも人間止めますか?のキャッチコピー』の……『麻薬止めますか?人間止めますか?』……ってよォ~~。
『人間止めますか』ってのは、わかる……スゲーよくわかる。麻薬は人を狂わせるからな……
だが、『麻薬やめますか?』って部分はどういう事だああ~~~っ!? そんな気軽にやめられたら問題視されるかっつーのよーーーーーッ!
ナメやがってこの言葉ァ、超イラつくぜェ~~~ッ!! 一度やる前に止めなきゃ、やめられるわけねえじゃあねーか!
やめさせられるもんならやってみやがれってんだ! チクショーーッ。
どういう事だ! どういう事だよッ! クソッ! 『あなた、ご飯にする?お風呂にする?それともア・タ・シ?』みたいに軽く尋ねるって、どういう事だッ!
ナメやがってクソッ! クソッ!」
支給された麻薬を手に、
ギアッチョは苛ついていた。
折角ミスタを倒してボスの手掛かりを掴んだだと言うのに、気付いたら殺し合いに巻き込まれていた。
栄光が遠ざかったのもムカつくが、何をされたのかさっぱり分からない事に腹が立つ。
「オレをナメてんのか!? ふざけやがって、チクショー!」
拉致するほどの余裕を見せた荒木は、完全に自分を見下している。
その事に対する溜まりに溜まったフラストレーションを、近くの建物へ叩きつけた。
しばらくの間殴り続け、ようやく平静を取り戻してから名簿を開く。
「ああ!? なんだこりゃ……
プロシュート達の名前まであるじゃねえかッ!」
ギアッチョはメローネを信頼している。イカレてはいるが、大事な所で嘘を吐くような奴ではない。
そのメローネが「死体を見付けた」と報告してきたのだ。間違いなくプロシュート達は死んでいる。
イルーゾォやメローネなら「生きていたのか!」で済んだのだが、生憎このメンツではそうもいかない。
「ふざっけんじゃねぇぞ! クソが、侮辱しやがって!」
だからギアッチョは考えた。
ここに書かれたプロシュート達は偽物だと。
一人なら偶然同名なだけだと思えたかも知れないが、ここまで死人の名前が出てくるとわざとやってるとしか思えない。
「見てやがれ、荒木の野郎~~~~ッ!」
故に『その偽物は荒木の用意した連中』と考えるのが妥当であり、『誇り高く死んでいった本物の為にもブチ殺すべき存在』なのだと。
「このゲームを勝ち残るのは俺かリゾットだ! どっちになるか今はまだ分からねえが、どちらにしても『俺達暗殺チーム』がブチ殺してやるぜ!」
ギアッチョのスタンスは単純明快。
『トリッシュを捕らえてボスの秘密を吐かせ、自分かリゾットが最後の一人になるまで参加者を殺す』
ボスは徹底して己を隠す性格だ、そんな人間がここに連れてこられてるとは思えない。
だから、ギアッチョにとって当面の問題は『自分達が捕らえる前にトリッシュが殺される事』だ。
ブチャラティチームのメンバーも来ているようだから簡単にはくたばらないだろうが、万が一死なれでもしたら今までの苦労がパアである。
かと言って闇雲に探し回っても時間の無駄だ。
「ホワイト・アルバムッ!」
スタンドを発現させ、近くのデパートに手を触れる。
「生憎だがよォ~~~、気配に関しちゃ暗殺者のテリトリーなんだよ! テメェがそこで様子を見てる事は分かってるんだぜェ」
触れた部分を急速に凍らせ、分厚い壁越しに徐々に内部までを凍らせていく。
ギアッチョに躊躇いなど欠片もない。
ギアッチョの中で、勝利を得るための『殺り方』はすでに出来ているのだ!
☆ ★ ☆ ★ ☆
「クソッ……私にどうしろと言うのだ!」
手にした名簿を思わずクシャリと握りつぶす。
折角ピンチを切り抜けたというのに、平穏な日常を取り返せそうだったというのに、殺し合いなどという平穏の対極にあるものに巻き込まれてしまった。
酷い、酷すぎる。この吉良吉影が何をしたと言うんだッ……!
私はただ静かに暮らしたいだけなのにッ!
「そもそも……バイツァ・ダストは成功したのか? 承太郎達は何処まで知っている?」
目下の問題、
東方仗助とその仲間達。
奴らが私の正体を知っているなら、何としてでも爆破しないといけない。
だが、もしも私の事を知りもしないのだとしたら、自ら仕掛けるのは自殺行為だ。
無理せず放っておくのが一番。
ちゃんと殺したあのガキが生きていたんだ、その可能性も0じゃあない。
私は、どうしたらいい?
「……とりあえずは支給品とやらを確認しよう」
デイパックから中身を取り出し、一つ一つ並べていく。
不味そうなパンに水の入ったペットボトル、筆記具にコンパス。それらを先程つけた皺を伸ばすために広げた名簿の上に置く。
「なんだこれは……」
デイパックに入っていた折り畳まれた紙切れ。
それを開くと、大きな音を立てて小洒落たシュガーポットが砕け散った。
破片の隙間から真四角の角砂糖が顔を覗かせる。
どうやらこの紙は開くと中から支給品が出てくるらしい(エニグマと言ったかな、確かそんなようなスタンドを使う奴がいた)
それにしても殺し合いで角砂糖をよこすとは……毒でも仕込まれているのだろうか?
「ふむ、説明が書いてあるな」
紙切れに書かれた説明書を隅から隅まできっちり読む。
適当に流し読みをすると後から「そんなの聞いてない!」なんて叫ぶ羽目になりかねないからな。
「……本当にただの砂糖のようだな」
しっかりと読み込み、裏面や小さな文字、薄い文字といった詐欺紛いの説明書きもないことを確認。
どうやら口に入れても問題なさそうだな。
ポケットからハンカチを出し、他の角砂糖の『上』に乗った綺麗なものを包んでいく。
地面に落下した物を口に含みたくはないが、水を消費し尽くしたとしてもこれさえあれば唾液で何とか凌げるかもしれない。
起こりうる災いに備えておくのは平穏を得るための大切な一歩だからな……砂糖を包んだハンカチはきちんとデイパックに入れとかねば。
「キラークイーン! 『角砂糖』を爆弾に変えろッ!」
地面に残された、『地面に触れて汚れてしまった角砂糖』のひとつを、キラークイーンで爆弾に変える。
「……5つほどポケットに入れておくか」
ポケットティッシュの中身を出し、空になったケースに角砂糖を詰める。それをポケットに入れ、いつでも取り出せるようにしておく。
抜いたティッシュで残りの『汚れた角砂糖』を1枚につき2~3個包み、デイパックへとしまっておく。
爆弾にした角砂糖は念のため手元に置いておいた。
これで最悪承太郎達と戦闘になっても、奴の射程外から攻撃を加える事ができる。
「……ここに居ても仕方がないな」
平穏を得るためにも、自分のスタンドは隠しておきたい。だが、勿論ここで死にたくもない。
ならばどうする? 簡単だ、誰かを利用すればいい。
私の正体を知らない、お人好しのスタンド使いもこの中にはいるはずだ。
何せスタンド使いは引かれ合うものであり、スタンド使いには広瀬浩一達のようにお人好しが多々いるからな。
さて、そんなわけでさっさと移動するべきなのだろうが……
「ええい! やはり気になる。ちゃんと片付けねば……」
一枚のCDを聞き終わったら、キチッとケースにしまってから次のCDを聞くように、壊したシュガーポットの後始末はキチッとしなくては落ち着かない。
勿論「東方仗助が『破片』を活かして私を追いつめたトラウマがあるから」というのも大きいが。
とにかく、持ち運びに不便だし(カチャカチャとうるさそうだし、慌てて取り出そうとすると自らの指を切りかねない)破片は全て爆破しておこう。
一枚一枚爆破していては切りがないので、一ヶ所に集めてから角砂糖爆弾で爆破してやろうと思う。
「………………」
だから広い集めた欠片を地面に置いた。音が鳴らないようゆっくりと地面に置いたんだ、確かに。
なのに何故だ? スイッチを押そうと腕を上げて見てみたら、“破片が明らかに減っている”じゃないかッ!
い、一体他の破片はどこに……
カチャッ……
「………………?」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
何だ……?
“何故私の手にシュガーポットの欠片が貼り付いている”……?
「これは、一体……」
破片を掌から離そうと引っ張ってみる。
「…………」
ペリッ……
「……何?」
掌から離した破片を見る。
“そこには『私の掌の破片』までもが付いていた”
「な、何ィィーーッ!」
私の掌がッ! シュガーポットに貼り付いてやがるッ!
いや、おかしいのはそれだけではない!
“何故さっきから私の吐く息は白いんだ!?”
歯がカチカチと鳴り始める。まるで極寒の地にいるようだ。
「クソッ、どこのどいつか知らんが、スタンド攻撃していやがるッ!」
思い出したかのように皮のめくれた掌から血が吹き出す。
五体満足なまま静かに殺し合いを終えたかったというのに……忌々しいッ!
辺りを見渡す。
どこだ? どこから攻撃している!?
「かかったなアホが!」
外から誰かの叫び声が聞こえる。
窓の外を見ると、厳つい男が奇妙な衣装を身に纏った奴へと攻撃をしかけていた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
三つの気配がここにある。
一つは彼、ギアッチョのもの。
残りの二つは……
(中の奴は気配を消す気がないみてぇだな。おそらくはド素人だ。もう一つの方は素人じゃあないみてえだが……
だとしたらどちらから殺るべきかは考えるまでもねえよなあ~~~ッ!)
狙いは決まった。
『角』の向こう側から様子を窺っている方の陰だ。
ホワイト・アルバムを発動させて奇襲に備える。
(建物の陰なんていう近い場所にいるってのもあるが、まずはお前からやらせてもらうぜッ!)
デパートに手を添え、デパートを急速に冷やしていく。
相手が凍りつくにはかなりの時間を要するのだが、牽制には十分なる。
事実、ギアッチョの冷気での牽制を受け、男は姿を現した。
彼は名は
ダイアー。
長きに渡る厳しい波紋の修行を乗り越えた自慢の肉体で戦う戦士である。
「我が名はダイアー。貴様、何やらおかしな術を使うようだが、この殺し合いには乗……」
「おいオメー、トリッシュって女に会ってねえか」
「…………」
ダイアーは殺し合いを止めるつもりであり、ギアッチョは娘の捕獲を最優先にしている。
だからこそ互いにすぐには手を出さない。
もちろん両者共に隙は無いが、『いつでも防御が出来る』というだけのダイアーと違い、ギアッチョの方はホワイト・アルバムによる冷却を進めている。
そのため、もうしばらく後にゆっくりと冷やされたデパートの中に居るもう一つの気配――吉良吉影は二人の戦闘に気付くこととなる。
「……会っていないな。私が会ったのは貴様が最初だ。次は貴様が質問に答える番だぞ」
若干腹を立てながらもダイアーは質問に答える。
『人を捜している』ということは即ち『殺し合いをする気がない人間』と判断したからだ。
息を潜めていた自分に気付き、今も隙を見せようとはしないギアッチョを、荒木打倒の戦力になると判断したのだ。
だがしかし、当然ながら彼の算段は崩れさる事になる。
先ほども記したように、今こうして互いに手を出さないでいるのは互いに聞きたい事があるからである。
つまり、“攻撃を自重する理由が、もうギアッチョには存在しない”のだッ!
「答えてやるぜ……答えは『テメーをブチ割る気』だ!」
叫ぶと同時にギアッチョは体を前方に倒し、足の裏から刃を生やす。
そしてラスト一周を迎えたスピードスケート選手のように、ダイアーに向かってタックルをかました。
「チイッ………おもしろい動きじゃねーか………それがお前のスタンド能力か?」
だがしかし、その体はダイアーには当たらない。
ギアッチョが体をぶつけたのはダイアーの作り出した残像である。
勿論残像は体当たりでは怯まないし、体に組み付いて凍らせることも出来やしない。
「フン! だがな……超低温は『静止の世界』だ……低温世界で動ける物質はなにもなくなる。全てを止められる!
オレの『ホワイト・アルバム』が完璧なのはそこなのだ!
爆走する機関車だろうと止められる! 荒巻く海だろうと止められる!」
ギアッチョが吠える。
これ以上時間をかけると計画が狂う。
ここにいるのはあくまで『3人』なのだ。
目の前の奴への対処に無駄な時間はかけられない。
「ましてや、ちょいと分身して見えるだけのオッサンを止めるくらいわけねえんだよ! その気になりゃあなあーーッ」
再び突っ込もうとするギアッチョだが、ダイアーが飛び上がるのを見て動きを止める。
ホワイト・アルバムの優れている点は防御力。相手の攻撃を通さない事は勿論、こちらに触れようが拳銃で遠くから攻撃しようが『防御がそのまま攻撃になる』点において、ホワイト・アルバムは完璧なのだッ!
ならばここで自らダイアーに仕掛ける意味はない。
ダイアーが攻めに転じたのなら、ギアッチョはそれを防ぐだけでいいのだ。それだけで、ダイアーへの攻撃を果たせるのだ!
「そんなねむっちまいそうなのろい動きでこのギアッチョが倒せるかァーーーーーー!?」」
ダイアーの蹴りをあっさりと両の腕で防ぐギアッチョ。
そのままダイアーの足を掴んで“直”をお見舞いしようとし………
バシィーーン
「!」
ギアッチョの腕が、ダイアーの足により広げられた。
「ヌゥ……」
体が動かせなくなるほどではないとはいえ、冷気が体を蝕んでいるはずなのに……
予想外のダイアーの動きに、ギアッチョは思わず唸り声をあげる。
その隙を歴戦の戦士が見逃してくれるはずがなかった。
「かかったなアホが!」
ガッシン
大股おっぴろげたダイアーが、その腕を胸の前でクロスさせる。
ギアッチョはというと、特に何をするわけでもなく冷気の放出を続けながらダイアーの動きを眺めていた。
「 稲 妻 十 字 空 烈 刃 ! 」
稲妻十字空烈刃(サンダークロススプリットアタック)
ダイアーが長い年月をかけて編み出した、彼が誇る最強の奥義である!
――この殺し合いに放り込まれる直前、
ジョナサン・ジョースターに試した時は模擬ゆえか手刀を十字に組んでいなかった。
したがってその欠点は頭突きやふくみ針などの攻撃に弱いこと。
だが十字空烈刃はその欠点をおぎなって攻守において完璧なのである。
これをやぶった格闘者はひとりとしていない!
バシバシバシバシ
だがしかし! それはギアッチョとて同じこと!
彼は『こんな事態にならなければ起こっていたはずの未来』でジョルノとミスタに敗れてはいるものの、『現時点』では無敗である!
ダイアーの稲妻十字空烈刃と、ギアッチョのホワイト・アルバム。
共に無敗の必殺技! そのぶつかり合いを制したのは……
ピッタアアーッ
ホワイト・アルバムッ! この戦いを制したのは、ギアッチョのホワイト・アルバムだった!
ダイアーの体にヒビが入り、ついにその腕が動作することを止めてしまう。
「無駄無駄無駄無駄ァーッ! まだ理解しねーのかッ! どんな攻撃だろーと『超低温』は触れればストップできるッ!」
ピッキイ~ン
「う……う、動かん!?」
ギアッチョの言う通り、ダイアーはもはや指一本動かせなかった。
ダイアーは『静止の世界』に捕らわれてしまったのだ。
だが、ダイアーは決して喚かない。命乞いをすることも、何が起きたのだとパニックに陥ることもだ。
ただ彼は懸命に脳から信号を送る。
己が最も信頼出来る『苦行を乗り越え鍛え上げられた肉体』が、己の信頼に応えて動いてくれると信じて。
「ブチ……われな……」
ドバァァァン
しかし現実は非情である。
ダイアーはとうとう指一本動かす事なく、股おっぴろげてストレッチでもやってるかのような格好のまま、その身をギアッチョに砕かれた。
肩に掛けられていたデイパックが地に落ち、そこに首だけになったダイアーが落下する。
ダイアーを冷たい目で見下ろすギアッチョは、もはやダイアーには何の関心もなかった。
せいぜい「変な動きをしてきたオッサン」程度だろう。ギアッチョにとっては、スタンドで抵抗しなかった者は須く雑魚なのだ。
「……やはり逃げるか」
特別耳がいいから足音をしっかり聞いていたというわけではないが、ギアッチョには吉良吉影が撤退した事が分かっていた。
プロの暗殺者でいうところの『気配』や『殺気』を読むスキルのおかげで分かるのだ。
「凄み」と言い換えてもいいかもしれない。
とにかく、吉良の気配が遠ざかる事に感づいた一瞬、ギアッチョに大きな隙が出来る。
そして――首だけになりながらも、ダイアーはその隙を見逃さなかった。
「!!」
一瞬の事で、ギアッチョには何が起きたのか分からなかった。
視界が一気に真っ黒になる。
だが、次に聞こえてきた言葉で、だいたいの事情は察する事が出来た。
「フフ……い…イカ墨入りのスパゲッティは、く、黒か……ろう………フッ」
意外! それはイカ墨ッ!
デイパックの上に落下したダイアーは、死力を尽くして自身に支給された『ネーロ』の入った紙をギアッチョに向けて飛ばしたのだ!
確かにダイアーはバラバラに砕かれてしまったかもしれない。
だがしかし! 彼は最後まで屈する事なく死力を尽くした!
彼の『黄金のような魂』は、決して砕けなかったのだ!
「見ッ……見えねえ…………ぬぐえねえッ!!」
全ての物を凍らせるホワイト・アルバム。それは顔に飛んできたスパゲッティですら例外ではない。
カッチカチに固まったスパゲッティは擦れど擦れど剥がれない。
「チィッ……だが、まあいい……もう一人の方は“計画通り、ちゃあんと逃げた”みたいだしな……」
リゾットのメタリカと違い、ギアッチョのホワイト・アルバムは『戦闘』には向くが『気付かれないように戦う』事には向いてない。
その代わり『能力に気付いても打ち破れない』のがホワイト・アルバムの長所だとギアッチョは思っている。
だからギアッチョは“スタンド能力を隠す事をやめた”
敢えて己のスタンドの強さを見せつけ、素人と思しきスタンド使いを逃走させる。
逃げた者はこう思うだろう。「ヤバい氷使いがいる。誰か強そうな人を連れてこなくちゃ」と。
(それこそが俺の狙いッ! これで俺は『動かずとも他人に会える』! リゾットとトリッシュは別だが、他の野郎は出会い次第ブチ割ってやるぜ……!)
大人数が襲ってこようが問題ない。
むしろまとめて消せるのなら大歓迎だ。
ジョルノやミスタといったブチャラティチームのメンツが混ざっていれば願ったり叶ったり。
「俺の勝ちだぜェ……視界が塞がっちまった時に、アイツが逃げずに襲ってきたら面倒だったが……奴は逃げた! 俺は賭けに勝ったんだッ!」
ダイアーの決して砕けぬ戦士の心は、最期にギアッチョの視界を封じようとした。
遠ざかる気配に気付き、その者を逃がそうとしたのだ!
だが、その行為は無意味なものとなってしまった。
ギアッチョは元から吉良を追う気がなく、また吉良を「決着がついた隙を突いて襲ってこなかったから、殺人鬼ではない」と評価したものの、吉良吉影は骨の随まで殺人鬼だ。
ダイアーの『誇り』は砕けなかったが、受け継がれる事も決してない。
「『賭けに勝つ』……ってよォ~~。『誰々に勝つ』ってなら、わかる……スゲーよくわかる。そいつを打ち負かしたんだからな……
だが、『賭けに』って場合はどういう事だああ~~~っ!? 賭けを打ち負かしたのかっつーのよーーーーーッ!
ナメやがってこの言葉ァ、超イラつくぜェ~~~ッ! 戦う相手は、賭けそのものじゃねえじゃねーか!
『賭け』って名前の奴がいたら連れてきてみやがれってんだ! チクショーーッ。
どういう事だ! どういう事だよッ! クソッ! 賭けに勝つって、どういう事だッ!
ナメやがってクソッ! クソッ!」
ガシャン
イライラをぶつけるように、ギアッチョがダイアーの頭部を踏みつける。
視界を戻す意図とスタンドパワーを節約する意味とがあり、彼は今スタンドを解除している。
そのためダイアーの頭部は踏み抜かれはしなかった。
ただ、何度も何度も蹴りつけられ、顔面の形は歪んでいった。
スパゲッティ臭い男の足で、趣味の悪い顔面に無理矢理整形されていく。
ストレス発散の足蹴は未だに収まらない。
何度も何度も蹴りつけられる。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、―――
☆ ★ ☆ ★ ☆
まったく、何なんだあの猫耳スーツのスタンドは!?
デパート内にいた私まで冷やすとは……広域に攻撃が出来るタイプか?
まぁいい。あんな奴には関わらない方が得策だ。
あんなド派手なスタンドを使ってるなら、勝手に危険人物を呼び寄せて潰し合ってくれるだろう。
わざわざリスクを犯してまで爆破しにいく必要がない。
私の姿はもちろん、キラークイーンの能力は一切見られていないのだからな……
必要なのは『平穏』なのだ。
そのためには信頼を得られそうな奴を作った方がいい。うまくいけば時間を止める承太郎だろうと倒すことが出来るかもしれないしな。
さあ、どちらに向かおうか……
殺人鬼はもうしばらく走り続ける。
命の危険と正体がバレる危険から遠ざかり、今度こそ平穏を手に入れるために。
【ダイアー 死亡】
【残り84人】
【D-5 デパート周辺/1日目】
【吉良吉影】
[時間軸]:限界だから押そうとした所
[状態]:若干のストレス
[装備]:爆弾にした角砂糖、ティッシュケースに入れた角砂糖(爆弾に変える用・残り5個)
[道具]:ハンカチに包んだ角砂糖(食用・残り6個)、ティッシュに包んだ角砂糖(爆弾に変える用・残り8個)、未確認支給品×0~2個、支給品一式
[思考・状況]:
1.お人好しのスタンド使いの庇護の元で静かに暮らしたい
2.自分の正体を知る者がいたら抹殺する
3.承太郎達への対処を決めかねている
4.危険からは極力遠ざかる(2を果たすためなら危険な橋でも渡るつもりではある)
[備考]:バイツァ・ダストは制限されていますが、制限が解除されたら使えるようになるかもしれません
【ギアッチョ】
[時間軸]:サンタ・ルチア駅でDISCを手に入れた直後
[状態]:イライラ、スタンド解除中、臭い
[装備]:なし
[道具]:麻薬一袋、未確認支給品×0~2個、ダイアーの未確認支給品×0~2個、支給品一式×2
[思考・状況]:
1.トリッシュを捕らえ、ボスの秘密を喋らせてから殺す
2.逃がしてやった吉良が誰かを連れてくるのを待つ
3.自分かリゾットが優勝する気だが、ラスト2人になるまで「どちらが生き残るべきか」を考えるのは止める
4.リゾット以外は皆殺し。ジョルノとミスタをはじめとするブチャラティチームのメンバーとプロシュート・ペッシ・ホルマジオの名を語る偽物は絶対にブチ殺す
[備考]:ボスがこの殺し合いの場にいるとは思ってません
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
最終更新:2008年08月09日 22:58