だが……目的こそあれど“そこ”に至るまでは果てしなく遠い道のりである。現状では何も解決出来なかった。
固く握りしめた拳を開いてその場にぺたりと座りこみ、自分に支給されたデイパックに手を伸ばしたのは彼女が立ち上がってからゆうに五分は経った後の事である。
「とにかく、まずは現在位置の把握からね……」
そう言ってごそごそと地図を取り出す徐倫を見かねてか、
イギーも自身のデイパックを咥えてきて彼女の横に座り込み地図を眺め始めた。
そうしている間にも徐倫は地図を右から左からと眺めながらあーでもない、こーでもない、とぼやいている。
やはりと言うか――どうも現在位置の把握ができていないようだ。
(やれやれだぜ、まったく)
イギーはそう呟くと現在地の把握のために周囲の状況を観察し始めた。しかし人間の行うそれと違い、イギーの場合は目印になる建物や道でなく彼が感じる匂いや風そのものを観察する。そして――
(ずいぶんと潮の匂いがするな……海が近い、と。んでその潮風は東から……しかも何か妙にゴミくせーな。NYにいた頃を思い出すぜ。あーやだやだ。
……ってぇと、大体このへんか。それで?この女は把握できたのかねぇ?)
イギーの導き出した結論は見事なものであった。まさしくG-7その位置だったのである。一方の徐倫はと言うと……未だに地図をこねくり回していた。
もう溜め息をつく労力も惜しい。イギーはスッと立ち上がり徐倫から5メートルほど距離をとった。
「……?どうしたの?」
徐倫はポカンとしている。だが、その表情はすぐに真剣なものになった。イギーの背後に立つ【愚者】を確認したからである。
「ワンちゃん、あなたもスタンド使いなの!?」
(おいおい、これで「違います」って言う訳ねーだろがッ!)
そんなツッコミを胸にしまい、コクリとだけ頷いたイギーは、そのままゆっくりと徐倫の方に歩み寄り、そして何事もなかったかのようにスタンドを消し座り込む。
この無意味とも思える行動は実際にはとても大きな意味を持っていた。徐倫の持つ地図に一点だけ砂粒が残っていたのである。イギーは【愚者】の前足で地図に一瞬だけ触れていたのだ。
「これはッ……!?まさか現在位置を教えてくれたの?」
(だからよォ~これで「違います」な訳ねーっての……やれやれ)
もうキリがない。イギーは考えるのをやめ、尻尾を振って徐倫の機嫌をとることにした。
「有難うワンちゃん。あなた頭イイのねっ!」
そう言って徐倫はイギーの頭や体を撫でる。一方のイギーも何だかんだ言いつつ雄である。先の“谷”の一件もあり、抵抗することもなくいい気分で体を預ける事にしたようだ。
――が、二人はすぐにその行為を中断することになる。イギーの鼻と勘が何か“違和感”を感じたからである。バッと飛びあがるイギーに遅れて立ち上がる徐倫。
そして一瞬の間も開かないうちに風に乗って彼らの耳に聞こえてきたものは―――
「すまねぇっ!誰――てくれ!人――化け物に―――んだ!!まっ、まだ俺―――悪だ!誰でもいい!助けに――」
助けを求める声だった。
* * * *
闇夜を歩き続ける青い髪の男がひとり。レオーネ・アバッキオである。
彼は用心深く“尾行”を続けていた。
“ある時間に、この場所にいた者の再生”を繰り返し繰り返し行う事で
サンタナを見失うことなく確実に追い詰めてゆく。
「余裕ブッこいて歩いてやがる。ムカつく野郎だな。こんな奴に護衛対象を殺されたとは……
こいつはブチのめして……そしてまたブチのめすッ!そうでもしないとこの“傷”は癒せないッ!」
思わず吐き出す罵倒。それはサンタナに向けたものか、それとも任務を遂行できなかった自分自身に向けたものか―――
アバッキオは与えられた任務に対してはそれがどんな内容であれ仲間に、自分自身に失敗を許さなかった。
任務の失敗が死を意味していると言う事もあるが、彼の気高い“誇り”が失敗を許さなかった、いや、許せなかったのである。
つまらないプライドだと言われるかもしれない。過程や方法などどうでもよいと罵られるかもしれない。
だが、何を言われようとアバッキオは自分自身の正義に背く事は出来なかった―――
レオーネ・アバッキオはそういう人間であると言う事を彼自身がよく理解していた。
そして……その“誇り”と“正義”が今、間接的にとは言え任務を失敗した自分自身に重くのしかかる。深い深い“傷”をその“誇り”に負ってしまったのだ。
さらにはトリッシュの“遺言”と、聞いてしまった未来……悩みが思考を埋め尽くし、頭がぼんやりする。
だが―――そんな状況にあってもアバッキオは“任務に忠実な体”を持っていた。
どんな些細な行動も見逃すわけにはいかない、警官時代からそう刷り込まれてきた身体の方が意識を現実に引き戻したのだ。
監視対象であるサンタナは立ち止まりある一点を凝視していた。
とりあえず“一時停止”をしてドカッと腰を下ろす。
【ムーディー・ブルース】は対象の脈拍や呼吸までも把握できるスタンドだが、思考はその管轄外である。その点は自分自身の頭で補う他ない。
これまでの状況と記録から考察を始めるアバッキオ。その目は未だに光を持たないくすんだ色をしていたが、それでも真っすぐにサンタナを見据えている。
「コイツはどうも野生の塊みたいだな――何キロ先を見てるんだか。美味しい御馳走でも見つけたってか?……けッ」
思わず愚痴る。考察とは言ってもそんなのは愚痴るためのこじつけだな、と自嘲した時だった。
「すまねぇっ!誰くぁッハーハァ助けてくれ!―――」
悲鳴が聞こえてくる。機械を通したような声だ。そしてそれは“視線の先”からの声。さらには“人を食う化け物”と言う単語まで。
今までの“観察”とこの“現状”。アバッキオの推測と行動方針はすぐに結論に至った。
罠かもしれない、罠でなくとも何かあるかもしれない。一瞬頭をよぎったその考えを振り払うかのように―――アバッキオはほとんど無意識に声の方向に駆け出していた。
* * * *
「こんな……ッ!いったいここで何が……」
(うっわ……こりゃあひでぇな。どうにも“事後”みたいだが……)
凄惨。
駆け付けた徐倫とイギーの頭によぎった言葉は表現の違いこそあれどその一言に収束した。
二人ともいくつもの修羅場をくぐり、生死のやり取りを通して多少の免疫は出来ていたはずだった。しかし――
胴体に大小の穴が開けられた老人。片足を失った上、アジの開きのように腹を破られた男性――だろうか、それすらも判別しにくい。塵の中に不自然に転がる首輪。いくつもの血痕。それらはどれも真新しく……
流石に二人ともこんなものを見せられて平然としていられるほどタフではなかった。
イギーは思わず後ずさりし、一目散に駆け出そうとする。駆け出そうとする……駆け出すはずだった……駆け出したい……だが、出来なかった。
目の前で徐倫が膝をつき、人目もはばからず泣き出したからである。とは言ってもその泣き声は、声と呼ぶには程遠く嗚咽を漏らすばかりであった。
(そっか。このコ、俺と会った時も泣いてたな……やっぱ、今は人の死に敏感になってんだろうな)
ゆっくりと歩み寄る。だが徐倫はイギーが近づいた事さえも気付いていないようだった。
それほどに、この見ず知らずの人間の死を悲しんでいた。荒木の、ゲームの非道さに怒っていた。自分の不甲斐無さを悔やんでいた……
イギーの目には徐倫の涙がそれらの感情を混ぜ合わせた――しかしとても美しいものに映った。
何も口に出さず目を逸らし辺りを見渡すイギー。せめて今くらいゆっくりと泣かせてやろう、と言う彼なりの優しさだった。
とはいえ、好んで死体に近付くような趣味は持っていない。
行き場の無い視線をどうにかしようと、何気なく左のほうを見やった。
(―――げっ)
男が駆け寄って来ていた。
これがニューヨークの野犬狩りだったら迷わず逃げ出していた……自分の命こそ大事なものはない。危険に首を突っ込むような冒険はしない。そのはずだった。
だがイギーはその後の行動に、自分自身驚く事になる。本能とはかけ離れたその行動―――
気がついたら徐倫を庇うように―――相手を見据えて立ち塞がっていたのだ。
―――――徐倫は、まだ、泣いていた。
* * * *
アバッキオが見たもの。
死体の山は別に問題ではない。ギャングの世界に身を置く以上そんな事でギャーギャーと喚いてはいられない。もちろん、抵抗が無い訳ではないが――
それよりも目を引いたのはその死体の山の少し奥。
立ちはだかる様に身構えている犬に泣きじゃくる女。
直感では“違う”が油断は出来ない―――アバッキオがゆっくりと口を開く。
「おい、てめぇら何故ここにいる?ここで何をしていた?」
……返事がない。
女は声に気が付いていないのか、まだ泣き続けている。犬の方は生意気にもガンを飛ばして来ている。
敵ではないにしてもここまでの扱いを受ければ誰であれ怒りの感情を持つだろう。アバッキオもその例外ではなかった。
「おまえら……ここでやる事がなければとっとと失せな。俺の方はお前らと違って“やる事”があるんだよ」
再度口を開く。二人をを無視して“再生”をすることは不可能ではないが危険すぎる。他人に自分からスタンドを見せる事ほど愚かな事はない。ましてや“再生中”は防御も回避も不可能ときている。
出来るだけ早く行動に移りたかったのだが―――
……やはり、返事はない。
女の方は相変わらず。犬は“空気を読め”と言わんばかりに歩き始め、アバッキオとの距離を詰めてくる。
―――ぷちん
「いいだろう、相手してやるよ、犬っころ」
* * * *
どのくらい涙を流したのだろうか。
徐倫がようやく泣き止み、顔をあげたときに見たものは見ず知らずの男性と対峙する仲間。スタンドは両者とも発現させていない。生身でやりあっていたのだ。
真っ赤な目を凝らしてよく見ると、目の前のワンちゃんはずっと自分に対して背を向けていた。
それが意味するもの。自分を庇っていたという事実。その身体は傷こそ見当たらないが泥で汚れ、疲弊の色が見えていた。
「ワンちゃん……」
思わず呟く。その一瞬後だった。
長髪の男が放った前蹴りが狙いすましたように目の前の仲間の腹に食い込む。
宙に浮く身体――男が構える左拳。あれを食らったらただでは済まないだろう。
味方を危険に晒して放っておく訳にはいかない。ましてや原因は自分にあるのだ。つまり、彼が追う傷は本来自分が負うべき傷。負わなくて済むはずだった傷。
あの拳を受けたら彼は自分のために命を落とすことになるかも知れない―――
そう思った瞬間、徐倫の身体は彼女自身も信じられないほど速いスピードで地面を駆けていた。スタンドも使わずに。
―――訓練されたボクサーは相手のパンチが超スローモーションで見えるんだっけ?
事故に遭った瞬間って一瞬が何秒にも何分にも感じられるってどこかで聞いたなぁ―――
走りながらそんな場違いな事が徐倫の頭に浮かんでいた。
* * * *
この場にいる者の中にその後の一部始終をはっきりと説明できる人間は誰一人いなかった。
ブチャラティのチームで一番と言われた腕っ節が放った左をもろに受けて崩れ落ちる徐倫。
受けるはずだった攻撃を身体に感じず、そのまま受け身も取れない体勢で地面に叩きつけられたイギー。
思わぬ乱入に拳を止めることもできず茫然と手ごたえのあった拳を見つめることしかできなかったアバッキオ。
だが――奇しくも、と言うべきか――彼らが次の挙動を始めたのはほとんど同時だった。
お互いがお互いを見つめ合う。彼らの間に殺気はもう感じられなかった。
やがて……誰からともなくディパックを拾い上げ、手近な民家への移動を開始した。
ふらふらと、だが確実に三人、いや……二人と一匹はその足を動かし続け、休息の地を得るために―――
* * * *
「さて―――あそこで何があったか話してもらおうか。お前らが全てを話すまでは謝罪はしてやらないぜ」
全員の呼吸が落ちついた頃、真っ先にそう口を開いたのはアバッキオだった。
とは言ってもその会話が成立するまでにはかなりの時間を要した。
状況をより把握しているのはイギーの方だが人語を話すことはできず、一方の徐倫は混乱と恐怖で未だ固く口を閉ざしたままだったからである。
再び沈黙が辺りを支配する―――約十分。痺れを切らしたアバッキオが再度口を開こうとしたところでようやく徐倫がその口を開いた。
「いいわ……私達が見た全てを話すわ。ありのまま、あの場所で起こった事を―――」
全てを話す、とは言ったものの徐倫が状況を説明し終わるのは意外にも早かった。
当然である。“駆け付けた時には既にあの状況だった”という事以外に彼女たちも何も知らなかったのだから。
「……ふーん。そうか」
そして、アバッキオも意外にもあっさりそれを聞き入れたのだ。
「分かってくれて嬉しいわ。ありがとう」
だが、そう感謝する徐倫にアバッキオは冷徹に言葉を返す。
「俺は“お前らが嘘を言っているか確認すること”が出来る。もしお前らが嘘を言っているようなら迷わずブチのめす」
(おいおい、マジで言ってんのかこの―――)
「構わないわ。あなたにはそうする権利がある」
抵抗しようとするイギーを遮るように徐倫が言い切った。これにはさすがのアバッキオも多少の驚きを見せる。
「開き直るのか?」
「いいえ。私は嘘はひとつも言っていない。こんな事に嘘を言う程私の誇りは安っぽいものじゃあない」
誇り。
徐倫が放ったその何気ない一言がアバッキオの胸に深々と突き刺さる。
先程まで泣き喚いていた女と同一人物なのだろうか、と疑いたくなるほど力強い言葉と眼差し。
アバッキオは彼女を見て自分を呪う。
なぜ、こんな女でも確かな誇りを持って行動しているのに、なぜ自分は迷っていたのだろうか―――
自分は先の一件を期に“誇りを持つこと”から逃げようとしていたのではないか……?
そんな思いが脳裏を駆ける。
「………すまなかった。とりあえずお前らを信用しよう――レオーネ・アバッキオだ」
ギャングと言えど任務の遂行中は“仕事人”である。仕事に関係ない人間を傷つける事は“プロ”として恥ずべきことだ。
それを自己への戒めとし、素直に謝罪するアバッキオ。それを聞いた徐倫の顔は見る見るうちに笑顔に変わっていく。
「ありがとう。私は空条徐倫。ジョリーンと呼んで。そしてこの子は―――」
アバッキオの手を半ば強引に握りそう強く口にしたのだが語尾に詰まる。徐倫はまだイギーの名を知らなかったのだから。
「おいおい……相方の名前も知らないで一緒に行動してたのか」
そういうアバッキオを手で制し徐倫は冷静に名簿を地面に置く。
「お願いワンちゃん、名前も知らないでいたことは謝るわ……だからもう一度“あれ”を見せてくれない?」
軽く手を合わせ上目遣いでイギーを見る徐倫。年頃の男性が見たら十人が十人とも発狂しそうな“おねがい”の表情である。
(おいおい……人にもの頼む態度じゃねーだろ。まぁ――これで“だが断る”って訳にもいかねぇわな。とは言っても……)
返答を渋るイギー。別に答えたくない訳ではない。だが、答える術を持ち合わせていないのだ。
相手の発言を理解することは出来ても自分の発言を理解してもらうのは困難であるという事をイギーはよく知っている。
(まぁこればっかりは“愚者”使っても説明できねーし、あんまり人前で鳴くの嫌いなんだけど仕方ないか……)
そう自分に言い聞かせてイギーが鳴く。その声は普通のボストンテリア犬のイメージからは到底想像出来ない鳴き声。
徐倫は一瞬その声の意味を聞き返そうとしたが、すぐに思い返して名簿に目を通し、一つの名前を指さしてこう言った。
「―――イギーね。やっぱり頭いいわこの子」
「だが俺には懐こうとしないな」
(あんだけケリ入れられた奴にそうそう懐けるかってんだッ!)
それぞれの思考と会話が入り混じる中、ふっと思い出したように徐倫が話し出した。
「と言うか……私達お互いの情報を全然知らないのね。あなた―――アバッキオ、って呼ぶわよ?アバッキオが今まで見てきたものの情報も知りたいし」
「良いだろう……だがスタンドについてはタブーだ。お前らが勝手に話す分には構わないが、俺はスタンドの話をする事は自分の弱点を教える事だと思っているからな」
もっともな意見だ。“フェアにいこう”と言う考え方もあるが、このゲームでは疑う事が鉄則だという事くらい徐倫の頭でも理解出来る。
「いいわ。間違ってはいない意見だし。でも、もしもの時にはスタンドを使ってくれるんでしょうね?」
思った事を素直に伝える。アバッキオを既に守るべき仲間だと認識している徐倫は同時に“自分が彼らを守らなければならない”と心に決めていた。
空条承太郎の娘として他人を、仲間を見殺しにするような事は出来ない。父もきっとそうするだろう―――そう考えての事だった。
しかしそれにも当然限界はある。イギーのスタンドは先ほど見たがアバッキオのものはまだ確認していない。スタンドの存在は知っているようだが実際はどうなのだろうという疑問は少なからずあったのだ。
「もしもの時が来ない事を祈りたいな」
そうアバッキオが流す。どうやら本当にタブーにしたいようだ。彼の今までの生き方がそうさせているのだろう。徐倫も深く問いただすことはせずに話を切り替えた。
「じゃあ、まずは支給品のチェックからかしら。あなたずいぶん持ってるみたいだし」
言いながら視線をアバッキオの脇に置かれたデイパックへ向ける。
「先に断っとくが他人のものを拾っただけだ。俺が殺してブン盗ってきた訳じゃあないからな」
言葉の意味を察したアバッキオがそう前置きをする。徐倫もアバッキオの言っている事に嘘はないと感じていた。
根拠はない。だがこの人は悪い人ではない。他人を信用する理由なんてそんなもので十分だと思う。そして、口を開く。
「そうね、あなたはそんな目をしていないし。血のにおいとかもしないし……ね、イギー?」
イギーにも話題を振る。イギーは相変わらずアバッキオを警戒していたがそれでもちゃんと話し合いには参加しているようでコクリと頷いた。
「いちいち順番に開けていたらキリがない。全部ぶちまけて必要なものだけまとめればいいだろう」
両者の納得を得た所でアバッキオがそう切り出した。
「そうね。その辺の指揮はあなたに任せようかしら」
年上だし―――そう続けようとして、やめた。いくら緊迫感は減ったと言えどそこまでの冗談を言い合うほどではない、と思う。
イギーも渋々と言った感じではあるが抵抗はしていないようだ。ふてくされているイギーの頭をそっとなでてやる徐倫。
その間にもアバッキオは全員分の支給品を床に並べていく。
「さて、と。これで全部だ。共通しているのはこのへんの食糧やら何やらか。その他はこっちだな」
荷物を整理したアバッキオがそう言って徐倫とイギーの注意を床に向けさせた。
そこに並べられたものは―――
歪な形をした鉄製のボールが二つ。
“死が二人を分かつまで”とメモ書きが添えられたデザインの違う指輪が一つずつ。
恐らくアメリカ大陸を書き表したであろう古ぼけた地図。
ボーリングのピンをあしらった爪切り。
テレビゲームの中でしか見ないような鉤爪のついた手袋が一組。
缶ビールが二本に共通支給品であるペンとは異なるデザインのそれ。そして“知ってるか?缶ビールの一気飲みの方法”と書かれたメモ。
重さの感じない不思議な拳銃。
少々古臭いデザインだが、とても美しいドレス。
メーカーのマークだろうか、表面に十字架が刻まれた折りたたみナイフ。
“ガラスのシャワーだッ!”と乱暴に書かれ、折り畳まれている紙。紙の内側にはガラスの破片が映っている。
狩りの時にでも使うのだろうか、鋭い歯のついたモリ。
―――以上だった。
「これは……どう解釈するべきだ?」
アバッキオが口を開く。その声は支給されたものに落胆してか若干重い。一方の徐倫は知り合いの所有物を発見したことで否が応でもテンションが上がる。
「武器にならなくはない、ってものばかりね。でもこの拳銃の持ち主を私は知ってるわ。この地にいるのかしら?いてほしくないけれど……」
「拳銃使いなら俺にも一人心当たりがある。この場にいるかは知らんが……名簿も見ておくか」
そう、まだお互いデイパックを開けてもいなかった。つまり参加者がどのような顔ぶれかも知らなかったのだ。
二人と一匹で1つの名簿を囲む。そして……全員の表情が険しくなる。お互い、知り合いが何人も参加させられているようだった。
誰も口を開く事はなかったが――しばらく後、徐倫とアバッキオが手分けして支給されたものを食糧、武器、その他、と三つの分類に分ける作業に取り掛かる。
イギーはと言うと……すっかり疲れたのか、それとも面倒なのか、床に伏せて眠っているようだった。
「じゃあ食料は必要最低限にまとめて……これでいいかしら」
一通りの作業を終え、肩を回しながらそう話す徐倫に対しアバッキオはその先をすでに考えていたようだ。
「そうしたら次の行動方針だ」
「何か考えがあるみたいね」
「俺は先の“現場”に行こうと思っている」
徐倫の問いに即答するアバッキオ。そしてその内容は徐倫を緊張させるには十分だった。
叫び声をあげたり掴みかかるような事はしなかったものの、若干の動揺を見せ、そして問う。
「……まっとうな理由がなければ反対するわよ」
だがその質問にもアバッキオは即答する。
「俺の“探していた奴”がどうなったか知りたい」
「……それだけ?」
「お前と同じだ。そんなくだらない事に嘘を言うほど俺の誇りは安くない」
自分の放った言葉をそのまま返されて少々照れくさい気分になる。
そして最初からそれを目的にしていたかのような迷いのなさ。その姿に兄のように慕っていたエルメェスを思わせる。
その事が徐倫の考え方を少しだけ変えさせた。もっとも、徐倫はエルメェスがもうこの地を去ってしまった事を知る由もないが――
「いいわ。それなら同行するつもり」
アバッキオは同行と言う単語を聞いて少々渋ったような表情を見せたが、徐倫の真っ直ぐな眼差しに負けて頷く。
「そこに行けば支給品の追加も手に入るしな」
第二の目的とも言ってよいその内容にも徐倫は驚愕を隠せない。
「死者の持ち物を拝借する気なの?」
若干の憤りを含ませて、それでも怒りを押し殺し……そう尋ねる。一方のアバッキオはそれを意に介さず、
「もちろんだ」
と即答した。
「気にくわないわね……」
考え方に共感した相手の異様な発言と行動方針に若干混乱する徐倫。そんな徐倫を諭すようにアバッキオが話し出す。
「だが、その支給品の中に今後の行動のきっかけになるものがあるかもしれない、とは考えられないか?
新たなる情報や武器を手に入れ、それをさらに“先”へ進める、と言う事は間違っているのか?」
なんとも的確な意見である。徐倫は反論できなかった。いや、その言葉を聞いて反論することは間違っていると感じたのだ。
「―――いいえ」
「なら文句は言わない事だな」
若干ぶっきらぼうに答えられて、次の質問をするまでに少々の間が開く。
「それで……すぐに行動するの?」
「まさか。俺たちも疲労があるし先の拡声器で他の連中が集まる可能性がある」
「じゃあいつ行動を開始するの?このままおびえて行動しなければ何も始まらない」
To Be Continued ...
【E-6南東の民家/1日目 黎明】
【誇り高き者たち】
【レオーネ・アバッキオ】
【時間軸】:トリッシュ護衛任務を受けた後。ナランチャが
ホルマジオの襲撃を受ける前。
【状態】:健康。呆然(少し落ち着いた)
【装備】:なし
【道具】:ランダム支給品の入ったデイパック(ランダム支給品に関しては後述)
【思考・状況】
基本行動方針:トリッシュの仇を討つ。それ以外のことは仲間と合流してから考える。
1:“現場”で何があったか知りたい。出来れば自分の手でサンタナを倒してトリッシュの仇を討ちたいが……
2:現場から支給品、リプレイともに出来るだけの情報を集めたい。
3:1,2の行動をする予定だがとりあえず休息。
4:
エシディシ、
ワムウ、
カーズにも警戒。ただし、近距離パワー型スタンドのラッシュは効きそうにないので、上の4名に対する対抗策を模索する。
5:チームの仲間、あるいは、組織のメンバーの誰かと合流して協力を要請する。
6:サルディニア島で自分が死んだ? ボス=
ディアボロを倒した? ボスに警戒?!何のことだ?! (とりあえず置いておく)
※名簿に目を通しました。
※サンタナの名前と容姿、『露骨な肋骨』『憎き肉片』の2つの技の概要を知っています。
※参戦時期の関係上、まだディアボロを敵と認識していません。
※トリッシュの遺言を聞き若干混乱しています。
【空条徐倫】
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】:健康。アバッキオに殴られた腹が少し痛い(戦闘、生活には支障皆無)。人の死に少々敏感(今は落ち着いている)
【装備】 :なし
【道具】 :食糧類の入ったデイパック(残り5人分)
【思考・状況】
基本行動方針:打倒荒木!
1:これ以上自分のような境遇の人を決して出さない。
2:次の行動まではとりあえず休息。
3:アバッキオとともに“現場”に行き情報収集はするつもり。
4:あいつ(空条承太郎)、他の協力者を捜す。
5:仲間たちが参加しているなんて……
※名簿に目を通しました。
【イギー】
【時間軸】:エジプト到着後、ペット・ショップ戦前
【状態】:健康。アバッキオに蹴られた所と落下の衝撃で少々痛い(戦闘、生活には支障皆無)。疲労が少々。
【装備】:なし
【道具】:地図、その他共通支給品の入ったデイパック
【思考・状況】
基本行動方針:とりあえずこいつらに付き合うとするか
1:とりあえず休息をとる。
2:二人についていく。ただしアバッキオは警戒(疑っていると言うより蹴られたから、と言う理由です)
3:承太郎たちも参加してるのか……
※空条承太郎と空条徐倫の関係はほとんど気にしていません。気付いてないかも?
※名簿に目を通しました。
※不明支給品について※
1.歪な形をした鉄製のボールが二つ
…レッキングボール2個。出典はSBR。もとはサンタナの支給品。
2.“死が二人を分かつまで”とメモ書きが添えられたデザインの違う指輪が一つずつ。
…死の結婚指輪。ワムウ、エシディシ両名のもの。解毒剤のピアスが誰かに支給されたかは不明。出典は2部。もとはアバッキオの支給品。
3.恐らくアメリカ大陸を書き表したであろう古ぼけた地図。
…アリマタヤのヨセフの地図。この地は杜王町なので関係ない。出典はSBR。もとはイギーの支給品。
4.ボーリングのピンをあしらった爪切り。
…ボーリングの爪切り。今どき無いダサいもの。出典は4部。もとはサンタナの支給品。
5.テレビゲームの中でしか見ないような鉤爪のついた手袋が一組。
…
ワンチェンがジョナサンを襲撃した時につけていた武器。出典は1部。もとはトリッシュの支給品。
6.缶ビールが二本に共通支給品であるペンとは異なるデザインのそれ。そして“知ってるか?缶ビールの一気飲みの方法”と書かれたメモ。
…2本と言うのは3部で承太郎が飲んでいたものとSBRで大統領が飲んでいたもので銘柄が違う。ペンはSBRのもの。出典は3部&SBR。もとは徐倫の支給品。
7.重さを感じない不思議な拳銃。
…拳銃の幽霊。弾丸(の幽霊)はとりあえず銃にフル装填されているがその他に予備があるかは不明。出典は6部。もとはトリッシュの支給品。
8.少々古臭いデザインだが、とても美しいドレス。
…ディオの母親が来ていたドレス。ディオの父がディオに売らせたもの。出典は1部。もとはアバッキオの支給品。
9.メーカーのマークだろうか、表面に十字架が刻まれた折りたたみナイフ。
…透明の赤ちゃんを見つけるためにジョセフが自分の手首を切った時に使用したもの。出典は4部。もとはトリッシュの支給品。
10.“ガラスのシャワーだッ!”と乱暴に書かれ、折り畳まれている紙。紙の内側にはガラスの破片が映っている。
…ジャンケン小僧が自分の運を試すためにやったもの。紙(エニグマの紙)を開くとシャワーが出る(当然一度きり)。出典は4部。もとはイギーの支給品。
11.狩りの時にでも使うのだろうか、鋭い歯のついたモリ。
…C-MOON戦の際、承太郎&エルメェスが移動に使ったもの。出典は6部。もとは徐倫の支給品。
不明支給品はこれ以上はありません。全部開けました。
支給品は【食糧の入ったデイパック】【地図など情報交換用のもの及び共通支給品が入ったデイパック】【上記の不明支給品の入ったデイパック】
の3つです。食糧は全部(5人分)を一つのデイパックに詰め込んでいます(水も入ってます)。共通支給品も全員分を一つにまとめています。
空になったデイパック2つは放置していく予定です。
また、便宜上道具欄に一つ一つ割り振りましたが現在は民家内にまとめておいてあるので【共用している】という感じです。
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最終更新:2010年10月12日 11:42