「「ハアアッ!」」
鍛え抜かれた肉体がぶつかり合い、闘気と殺気のアロマを噴き出している。
月明かりに照らされるは一組の男女。
女は波紋使いの達人リサリサ。年齢は50歳だが、その美貌は波紋による鍛錬で20歳と変わらぬ姿。
男は吸血鬼の捕食者
ワムウ。通称“柱の男”と呼ばれる存在。
その2人が、このバトルロワイアルという状況下で、奇しくも同じスタートラインにいた。
町の南部に流れる小川が生み出した聖域、エリア【I-6】の小島だ。
「“どこまで”あなた達の思惑通りなのかしら」
「荒木が何者にせよ、我々の目的は変わらん。貴様から赤石を奪い取り、人類を淘汰できればよい」
波紋使いと柱の男――それは決して相容れることのない宿敵の関係。
血で血を洗う戦いの歴史は2000年以上も前にさかのぼる。
リサリサはその末裔の1人であり、柱の男を始めとして多くの吸血鬼を葬った戦士。
ワムウは一万年以上も生き延び、つい最近に二千年ぶりの目覚めを果たした怪物である。
互いは既に見知った関係であり、隙あらばと殺害のチャンスを窺っていた。
例えバトルロワイアルという環境に連れてこられたとしても、それは変わらない。
「私を殺せば、赤石の行方は永遠にわからなくなるわよ」
「見逃したところで手に入るわけでもあるまい……ムゥンッ! 」
体を仰け反らせ、ワムウが高く飛び上がる。
ワムウの身長は常人の軽く3倍! 勢いもスピードもプロレスラーのボディプレスと一線を隔す。
女のリサリサに、彼を受け流すだけの怪力は勿論あるはずがない。
だがリサリサも波紋使いの達人。
柱の男にとって天敵となる波紋エネルギーの保有量は、彼女の弟子の軽く3倍!
「蛇首立髪(スネック・ヘア)ーッ! 」
腰ほどに伸びた彼女の髪が、波紋の力によってみるみる硬度を増してゆく。
そして髪が一本の槍のようにまとまると、髪はワムウの心臓目掛けて突き出した。
だが髪の槍はワムウの体を貫かない。ぴったりと彼の体の表面で止まっている。
「……そろそろ自分のやっていることが無駄と認めるべきだ。このマフラーがある限り、俺の体に波紋が流れることはない」
「じゃあ教えてくれるのかしら。あなたが
ストレイツォのマフラーをどこで手に入れたのか」
「このまま押し潰されるのならば、考えてやってもよい」
「トッポいジョークを聞くために猶予を与えているわけではないッ! 」
髪を大きく躍動させ、リサリサがワムウの体を島の端まではじく。
だが小さな島の両端に立つ2人の距離は、地図で観たイメージよりも遥かにせまい。
リサリサはイラついていた。
ワムウの戦闘力が非常識であるとはいえ、柱の男は波紋さえ直接叩き込んでしまえばこちらのもの。
だがそれができない。
自分の切り札である波紋伝導率100%マフラーと波紋増幅器『エイジャの赤石』がどこかに消えてしまったから。
亡き育ての親ストレイツォが愛用していた波紋遮断率100%のマフラーを、敵であるワムウが持っているから。
明らかな戦力の差があるのだからこの場を一時撤退をするのも止むおえない。
だがそれもできない。
この小島を脱出するためには一度川を渡らなくてはならないし、すぐに身を隠せる建物も周囲にない。
いくら波紋の力で水面を走ることが出来たとしても、簡単に追いつかれてしまうだろう。
だがそれ以前に、リサリサには川を渡れない理由があった。
「そろそろ死んでもらおう、波紋戦士リサリサ。もはや有無は言わせん」
「……これ“も”あなた達のやり方かしら?」
ワムウが全力で走りながら、前方に立つ標的に照準を合わせる。
そして走り幅跳びの選手のようにジャンプしながら、左右の両手を大きく振りかぶる。
その素振りによって生み出される真空の渦は、全ての物を飲み込む災害だ。
「闘技『神砂嵐』ッッ!」
風の刃がリサリサに襲い掛かる。もはや逃げ場はどこにもない。
最期の最期に、リサリサが見たものは――
(………JOJO…………! )
◇ ◇ ◇
「ひっひっひ! い~ひっひっはっはっはひゃひゃひゃひゃぁ! 」
ワムウとリサリサが戦っていた小島の側のエリア【I-6】で、1人の男が笑っている。
ムカッ腹を引き起こしそうなその下卑さは、説明するまでもない。
男の名は
J・ガイル。両手が右手になっている、救いようの無い殺人鬼だ。
彼がこの町に来て最初に行ったこと。それは暗殺。
とにかく殺す。誰であろうと殺す。DIOの敵になりそうなやつもならなそうな奴も関係ない。
荒木の思惑にあえて乗り、殺戮の限りをつくすことにしたのだ。
(
ホル・ホースや俺の母ちゃんもいるみたいだが……それは会った時に考えればいい)
そして見つけた最初の標的。とても美しい女性だ。
すぐさま彼の偏愛欲望が反応した。こっそり殺した後でじっくり『味見』をする。
幸い彼女の始末は大男がやってくれたので、彼はおこぼれを貰うだけでよかった。
(ま、あのデカブツは自分が殺したと思い込んでるんだろうがなぁ~~実は違うんだなこいつがッ! )
J・ガイルは……ただの人間ではなかった。
リサリサもワムウも知らない、第三の存在――スタンド使いだった。
彼のスタンドの名は『吊られた男』といい、鏡から鏡を自在に移動するスタンドだ。
『吊られた男』が鏡で起こした行動は、現実世界にも反映される。
例えば『吊られた男』が鏡に映った人間を刺し殺せば、刺された人間も死んでしまう。
弱点は『吊られた男』が鏡と鏡を移動する時に無防備になることだが、それだけだ。
(最期に背中から心臓を刺された時の顔、たまんなかったなぁ~)
つまりJ・ガイルは川の水面に『吊られた男』を潜ませて、水面に映るリサリサを攻撃していたのだ。
ワムウには悟られぬように……リサリサだけに恐怖を刷り込ませる。
彼女は自分が水面に近づくと何故か傷つく自分の体に、少なからず恐怖していたに違いない。
その証拠に、リサリサはなかなか水面へ逃亡しようとしなかったのだから。
(さてと、いただくとするか)
J・ガイルは川を泳いで、リサリサの遺体を回収、小島に上陸する。
小島にはもう誰もいない。いるのはJ・ガイルとリサリサのみ。彼を止めるものは誰もいない。
不気味な両手が、リサリサの服を引き千切り――
「貴様、我々の戦いを見ていたな? 」
◇ ◇ ◇
「ひーっ……ひぃーっ……」
J・ガイルは小島にぽつんと立ち尽くし、恐怖していた。
女を殺したと思い込みその場を去ったはずの男。
その男がいつの間にか背後をとり、彼に洗礼を浴びせたからだ。
絶対に超えられない人間と柱の男の力の差を。
(『吊られた男』には気づいてなかったみたいだが……背後をブッ刺しても全く動じなかった!
何てこった……吸血鬼を超える存在だとぉッ!? そんな奴がこの世には存在したのかよ! しかも……あの野郎! )
柱の男・ワムウがJ・ガイルを発見し、やったことは尋問と命令だった。
『周りに誰かいなかったか?』と。
彼はリサリサが戦闘中に水辺へ移動しなかったことを、疑問に感じていたのだ。
波紋戦士とあらば、自分の有利な環境である場所で陣取るのは当然の摂理。
波紋が川に流れれば、ワムウはマフラーを身に着けているとはいえ迂闊に川に飛び込むことはできないからだ。
それをしなかった理由にワムウが気がついたのは、彼が神砂嵐をリサリサに放った後。
神砂嵐を避けようと川へジャンプしたリサリサの背中から血が吹き出した瞬間だった。
ワムウは水辺に映る『吊られた男』を――彼女を殺した物の姿を見たのだ。
J・ガイルにとって幸運だったのは、ワムウがスタンドの存在を知らなかったこと。
ワムウは『吊られた男』が魂のビジョンではなく、すばしっこい狩人にしか見えなかったのだ。
J・ガイルにとって不運だったのは、ワムウとリサリサの決闘を邪魔してしまったこと。
計らずともリサリサは水辺に気を取られ全力を出せず、また勝敗の決着も横槍に終わってしまった。
性根の腐ったフーリガンをワムウが見逃すはずはない。
――貴様はこれから川でこのワムウの決闘を邪魔したものを探し出し、見つけ次第私に報告しろ。
面倒ならば始末しても一向に構わん。いいか、包帯を巻いた男だ。
……なに、心配はいらん。困った時はこのワムウを呼べ。力を貸してやろう。
こうしてJ・ガイルは――ワムウのカリスマにあっさりと平伏してしまった。
DIOのような多大なカリスマを持つ人間に、彼は思いのほか弱かったのだ。
逃げようと思っても逃げられなかった。
圧倒的に上回っているそのカリスマに、J・ガイルは跪くしかなかった。
(こいつは俺様にとってラッキーなのかアンラッキーなのか……ま、人を殺すのには変わらないんだけどなァァァ!!)
【I-6 川の中腹にある小島・1日目 深夜】
【J・ガイル】
[時間軸]:ジョースター一行をホル・ホースと一緒に襲撃する直前
[能力]:『吊られた男』※射程距離などの制限の度合いは不明。
[状態]:健康
[装備]:小型ボート(五部でブチャラティ達がフーゴと別れた時に乗っていた物)
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2個
[思考・状況]
1.うひひひひひひ!!
2.川を移動して適当に人を殺す。
3.ワムウには自分のスタンドのことは黙っておく。
[備考]
※支給品の1つがボートであること以外に、どこまで持ち物の確認をしているのかは次の書き手氏にお任せます。
※小型ボートの燃料には限りがあるので海を渡りきることはかなり難しいかもしれません。
※ワムウとは情報交換はしていません。リサリサとの決闘を邪魔した者(吊られた男)の討伐の命令しか受けていません。
◇ ◇ ◇
「どういうことだ? 」
小島で吼えるJ・ガイルから数百メートル離れた小道。
ひとしきり自分の持ち物を確認したワムウは、首をかしげていた。
それもそのはずである。
名簿には死んだはずの
エシディシやシーザーが記載。
地図には季節感を無視した地形が組み合わさっている。
そして紙から道具が飛び出すという奇術。
何もかもがワムウの頭を混乱させるものばかりだったからだ。
(荒木……素性はわからぬが、中々の食わせ者のようだ)
ワムウは自分に支給されていた目の前の生物――
ミセス・ロビンスン愛馬『エル・コンドル・パサ』に手をかざす。
(……追々調べてゆけばよいか。
まずは
カーズ様との合流、そして波紋戦士を始めとした我々に楯突く人間の全滅が当面の目標だ)
ワムウは颯爽とエル・コンドル・パサに飛び乗ると、手綱を振って馬を進ませた。
彼が巻き起こす波乱という名の嵐は、まだ止みそうにない。
【I-5 小道・1日目 深夜】
【ワムウ】
[時間軸]:ジョセフとの戦車戦のちょっと前
[流法]:風
[状態]:健康 『エル・コンドル・パサ』に乗馬。
[装備]:ストレイツォのマフラー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~3個(リサリサの分)
[思考・状況]基本行動方針:人類殲滅、特に波紋戦士とその一族
1.わからないことだらけなので、調査してみる。
2.逆らうもの、波紋戦士は問答無用で殺す。
3.リサリサとの決闘の邪魔をしたものを必ず始末する。
【リサリサ(エリザベス・ジョースター)死亡】
【残り 80人】
[備考]
※リサリサの死体はI-6の小島にあります。
※リサリサの参戦時期はジョセフが赤石を取りにホテルから退却した直後でした。
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リサリサ(エリザベス・ジョースター) |
|
ワムウ |
55:自業自得 |
J・ガイル |
55:自業自得 |
最終更新:2010年03月09日 15:45