(俺は、昨日までの俺じゃねぇ)

懲罰房棟看守・ウエストウッドは自分の置かれた状況にまんざらでもない様子だった。

来る日も来る日も、社会のゴミのような奴らに囲まれて送る生活。
楽しみといえば贔屓のスポーツチームが勝ち、同僚から巻き上げた賭け金で酒を煽る時ぐらい。
だがそれも、突如身についた「能力」によって一変した。

ここはどこなのか?何故、こんなことをさせるのか?
その疑問は、彼にとってはどうでもいいものだった。
自分が非日常の世界にいるという事実が、彼を高揚させた。

(誰でも構わねぇ……出逢ったやつは全員潰してやる!)


郊外の道を、眼をギラギラさせながら早足で歩く。
(何処からでもかかってこい。俺は無敵だ。俺の『プラネット・ウェイブス』さえあれば―――)

そのとき、不意に上の方から光が射してきた。
周りを見回すと20メートルほど離れた鉄塔の中腹あたりに、鉄骨にもたれかかっている奴がいる。逆光で顔は見えないが…
鉄塔に向かって一歩踏み出すと、
「おい、テメー! それ以上こっちに近づくんじゃねーぞ!」


     ☆     ★     ☆


鉄塔の上から人影をライトで照らすと、サーレーはニヤリとした。
筋肉質の大柄な男。いかにも好戦的なタイプだ。
もう一度、挑発の言葉を投げかける。
「聞こえねーのか、トンチキ! 一歩でも進んでみろ、ぶっ殺すぞ!」
「なんだと!? ふざけやがって……!」

男は顔を紅潮させ、大股でこちらに進んでくる。
(狙い通り!)
鉄塔の真下に来て、登ろうと手をかけた瞬間―――

「今だ! 『クラフトワーク』ッ!」
男の動きがピタリと止まる。
「うおっ、なんだあっ!?」
男の体は完全に『固定』された。


(我ながら完璧な作戦だぜ)

サーレーはあたふたする男を見下し、思わず自画自賛していた。
どこから敵が来ようが、ここに来るには鉄塔を登ってくるしかない。
そして鉄塔に触れれば、『クラフトワーク』で動きを止めることができる。
もっとも「こっちに来い」と言われれば用心して近づこうとしないだろう。
しかし「こっちに来るな」と言われれば……
……ムキになって入ってくる。人間とはそういうものだ。

(かわいそーだが、これで俺は優勝に一歩近づいたってわけだ。
あんたに罪はないが死んでもらうぜ。まぁ、このサーレー様に戦いを挑んだのが間違い……)

     ゴーーーーーーッ……

(……ん?)

どこからか音がする。下から……ではない。では、どこから?
辺りをキョロキョロと見渡すが、何もない。その間にも、音はどんどん大きくなる。

     ゴオオオオオオォォォォッ……

(上からッ!?)
そして、鉄柱ごしに振り返ると……
「うおおおおおっ!?」
轟音をたてながら、紅蓮の火の玉が迫っていた。
すかさず身を屈める。鉄柱を背にしていたので、直撃は免れたが……
「熱っちいいいいイイッ!」
隕石の温度は3000度!鉄柱ごしとはいえ、その熱はモロにサーレーの背中に襲ってくる!

(ま……まずい! くっついて離れねぇ! 『クラフトワーク』解除!)

その途端、隕石は垂直に落下して行く。
それを追うようにして、バランスを崩したサーレーの体も前方に投げ出された。


「やべぇっ! このままじゃ落ちるっ……」
とっさに空中にデイバッグを固定し、それにしがみつく。
そして、近くにあった鉄骨に飛び移った瞬間――

「うおおおおおおおぉっ! な、なんだっ!?」
(引きずり込まれているぞ!? 他にもスタンド使いがいたのかっ――)

次の瞬間。天地が逆転しドスン、と音をたてて体が床にたたきつけられる。
目の前には、黒光りするテーブルが……

「…………ピアノ?」



     ☆     ★     ☆



隕石が衝突し、男が吹っ飛んだ。同時に、ウエストウッドの体も自由になる。
鉄塔から距離を取ろうと、すかさず後ろに飛び退く。

(馬鹿め!)

ネチっこい笑いを浮かべた口で叫んだ。

「次は直撃だーーーッ! 『プラネ…」


その刹那。
一筋の光が風を裂き、闇を斬り……


「うごおぉォォッ!?」

――ウエストウッドの肉と骨をえぐった。
鋭い痛みが走り、思わず後ろにのけぞる。

それは、サーレーの「懐中電灯」だった。
サーレーはウエストウッドを固定したとき、すぐに攻撃準備に移った。
ウエストウッドの脳天に狙いを定め、手に持った懐中電灯にトン、トン、と力を込める。
ところが思わぬ反撃にあい、弾道がブレてしまったというわけだ。
致命傷を避けたことは、ウエストウッドにとっては幸運だったのだが……


「……き、きっさまあああぁっ! 調子に乗りやがって!」

ウエストウッドの怒りが頂点に達するのには充分だった。
次の攻撃に移ろうと、立ち上がって敵の位置を確認するが……

「!? い、いない!?」

男の姿は、影も形も無くなっていた。
耳を澄ませても、物音一つしない。

「バ、バカにしやがって! どこに隠れた!!」

ウエストウッドの怒りが爆発する。
それに同調するかのように、再び空の彼方から隕石が飛来する。

「雑魚があああっ!! この俺にっ!!」

   バアアアアァン!

派手な音をたてて鉄塔にぶつかる。支柱の1本がへし折れる。

「盾つくというのかっ!! ふざけるなああっ!!」

   ドゴオオオオォン!

もう一つ!傾いた鉄塔に再び衝撃が走り、別の支柱があらぬ方向に曲がった。
バランスを失った鉄塔は、ぎしぎしと音をたて――

「俺が最強だああああああああぁぁっ!」

   グアアァッシャ ̄ ̄ ̄ ̄Z__ン!

鉄塔は半分のところで、無惨にも折れてしまった。

なおも怒りがおさまらず、しばらくハァハァと息を荒げていた。
ようやく落ち着きを取り戻し、さっきの男が周りにいないのを改めて確認する。

「クソッ……覚えてやがれ」

自分のデイバッグを拾い、どこに行こうかと思案しかけた時――

   ガガガガガガガガガガ……

その音に反応する。あれは…銃声?

「……やってるようだな。面白ぇじゃねえか」

迷わず、その音のした方に歩を進めることにした。



     ☆     ★     ☆



その数十分後。
鉄塔の折れた箇所の1メートルほど下から、サーレーが顔を出した。
(……あいつ、もういなくなったかな?)

人の気配がないのを確認し、完全に姿を現す。

「うへぇ……あの肉ダルマ、派手にやったなぁ…」

辺りの惨状を見渡し、思わず感想を口にしてしまった。何が起こったのかは容易に想像できる。
背中には先の戦いで負った火傷の痛みが走る。うっ、と呻きが漏れた。
チクショウ、あいつ今からでも追いかけて……いやいや、待て。
サーレーは幽霊部屋の中で考えたことを思い出す。


(あの男、あれだけ派手な能力を持ってることだし、他の参加者も集まってくるだろう。
 そんなところにノコノコ出て行ってやられちまったらシャレにならん)

(俺の目標はあくまで優勝することだ。
 あのアラキとか言う男が俺に何をしたのかは分からない。しかし優勝すれば元の世界に帰してやるとも言った。
 だったら難しく考えることはない、優勝してカプリ島に帰ればいい。
 どうやらこのゲーム、ブチャラティ達も参加しているらしいしな……誰かが始末してくれればなおのことだ)


以上のことを踏まえた結果……サーレーの出した結論はこうだ。
すなわち、「人が減るまで待とう」ということ。

(他の奴らが勝手に殺し合って、疲れたところにとどめをさす。
 そうだ。何もわざわざ俺が出ていく必要はねぇじゃねえか……)


(にしても、まさかこんな所に部屋があるなんて、誰も思わないだろうな)

サーレーは再び部屋に入った。さっき開いた支給品が床に散乱している。
サーレーの支給品はベッド、コミックス、シャンパン。
ついさっきまでは「こんなもので戦えるか!」と憤慨していたのだが、なかなか気の利いた差し入れに思えてきた。
すぐに靴を脱いでベッドに体を投げ出す。

(なかなか高級なベッドじゃねぇか……組織の幹部になれば、毎日こんな暮らしができるのか。
 まぁ、そう遠くはない未来だがな!)


     ☆     ★     ☆


さらに遅れること数十分――
一人の男が暗闇の中を疾走していた。

「ハァ、ハァ……」

男の名は、岸辺露伴

何故、彼は走っているのか?
愛する人を守りに行くため?
まだ見ぬ殺人鬼の影に脅えて?
血に飢えた己の欲望を満たすため?
いや、そうではない。

「ハァハァ……この杜王町に隕石が落ちるなんて……
 こいつはすごい体験だッ!いいマンガの題材になるぞッ!」

野次馬根性!漫画家の好奇心が、露伴を行動させた!


視界が開けてくる。そこには見事なまでに破壊された鉄塔の姿があった。

「すごいな……鉄筋ってここまで曲がるものなのか」

懐中電灯を取り出し、さっそく辺りの調査を始めた。
裏側に廻ると、そこにはまだブスブスと音を立てる赤い光を放つ石が落ちていた。

「おお、これは! なるほど、隕石はこんな形をしているのか……
 こんど星を描くときは、一風変わったリアルな絵を描けるぞ!」

興奮も覚めやらぬうちに、いそいそとバッグから紙と鉛筆を取り出す。

(しかし、同時に3つも隕石が落ちてくるなんて……これもスタンド能力か……?)

考え事をしながらも、目にも止まらぬスピードで隕石と鉄塔のスケッチを終える。
そしてその場を立ち去ろうとしたとき 、何か固い感触が靴の裏に伝わる。

「むっ?」

足元を照らすと、自分が持っているのと同じ懐中電灯の破片が転がっていた。

(しかもこの赤いのは……血?)

思わず辺りを見回す。よく見ると、自分のものではない足跡があった。
誰かいたのか?この場に……


(と、なればだ。ここで起こったことを『見てない』と考える方がおかしい。
 目の前に隕石が落ちてきた瞬間の心理……興味深い! 是非とも取材しなくては!)


露伴は足跡を追って駆けだした。
が、数メートル行ったところで立ち止まり、隕石の方を振り返る。

(あの隕石、誰か取ったりしないよな?
 持って帰りたいが、今はまだ触れそうもないし……ここにはまた来るとするか。)

向きなおり、再び闇の中へと消えて行った。





【D-2 鉄塔の傍/1日目 深夜】

【岸辺露伴】
[スタンド]:ヘブンズ・ドアー
[時間軸]:四部終了後
[状態]:健康、ハイテンション
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3
[思考・状況]
1.足跡の主に『取材』する(もちろんヘブンズ・ドアーで)
2.あとで隕石を回収しに来よう

[備考]
※まだ名簿・地図・不明支給品を確認していません。


【D-2 郊外の道/1日目 深夜】

ヴィヴィアーノ・ウエストウッド
[スタンド]:プラネット・ウェイブス
[時間軸]:徐倫戦直後
[状態]:左肩骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3
[思考・状況]
1.音のした方(C-2)へ向かう
2.出会った人間は迷わず殺す
[備考]
※支給品を一切確認していません。
※自分の能力については理解しています。
※D-2にある鉄塔が破壊され、破壊音が周り一帯に響きました。
 どこまで響いたかはほかの書き手さんにお任せしますが、少なくとも隕石の光はMAP全域から視認可能です。


【D-2 幽霊部屋/1日目 深夜】

【サーレー】
[スタンド]:クラフトワーク
[時間軸]:ミスタ戦直後
[状態]:背中に軽い火傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(懐中電灯以外)、ベッド、『ピンクダークの少年』3部までセット、高級シャンパン
[思考・状況]
1.しばらくここで待機する。
2.優勝してポルポの遺産を奪う
[備考]
※幽霊部屋の中にも荒木の放送は聞こえてきます。
※D-2が禁止エリアになった時は、幽霊部屋もその例外ではありません。

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岸辺露伴 65:流星飛行 キラッ☆~feat.岸辺露伴~
サーレー 54:鉄塔から出たら負けかなと思ってる
ヴィヴィアーノ・ウエストウッド 65:流星飛行 キラッ☆~feat.岸辺露伴~

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最終更新:2008年08月19日 19:19