10本の指で慎重にコンクリートを触り、意識を地中に集中させる。
廃坑堀が金脈を探すように、盗掘者がピラミッドの中を移動するように、ゆっくりとなぞる。
狙いは地下に埋まる電線ケーブルを探し当てること。
音石明にとって、電気を探すことは命の次に優先したい事項だ。
電気をエネルギーとした彼のスタンド、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の復活には電気が必要不可欠だからだ。

「どういう事だ!? わかるんだが……わからねぇ!」

しかし彼は地面に両手をかざしながら、困惑していた。
この町にはいたるところに電気があるのに“見つからない”。
街灯も明かりも電線もひととおり見つけているのに、その供給元である発電所の位置がわからないのだ。


「確か……電気ってのは電線があるから流れるんだ。で、全ての電気は発電所から流されている。
 だが、あの街灯は電線に繋がっているが、先に……発電所に進めねぇ。行き止まりが出来てるみてーに進めねぇ!
電線に電気は流れているのに、その電線が途中で繋がってない、こんな感覚は初めてだ! 」

電線は発電所から伸びている線路みたいなもの。
だから電線をたどっていけば大元の発電所もわかるし、芋づるで全ての電線経路もわかる。
しかしこの世界は杜王町ではない。荒木の生み出した様々な世界の融合体。
地中ケーブルという技術が存在する世界と、存在しない世界が混ざりあう非現実的な事実。
この町には電線が網羅されていないのに、電気の供給が成立してしまっているのだ。

「電気は流れてるが、街灯程度のボルトじゃ完全復活は出来ねー。
 この途切れた電線に流れつづける電気は本物のようだが……この電線は何か知らんがヤバイ気がする。荒木の罠かもしれねぇ。
 四の五の言ってられねー状況なのはわかってるんだが、このファンタジー電線で死んじまったら意味がねぇよ。
 これまで俺は慢心で何度も敗北してんるんだからな。慌てる乞食は“もらい”が少ねーって言うし。
 電気はホンのちょっぴりだけいただくが、電線に潜って完全回復するのは町を調べるまで止めとこう。
 頭の良い承太郎たちに情報をタレコめば、ちょっぴり俺を信頼するかもしれねぇ……多分」

音石はため息を吐きながら立ち上がり、首をかしげながら散歩を始めた。

「となると、次はバッテリー探しだよなぁ……」


くるくると鏃を揺り動かす探知機を片手に、億泰とオインゴはE-7の駅に向かって歩いていた。
行き先を決めたのはオインゴ。
これまで山道を南下していったとき、矢は何度か東や北を指していたのだが、彼はそれらを出来る限り無視してきた。
それはなぜか? 彼の狙いは他の参加者との遭遇の回避だった。
現在、オインゴは承太郎に変装している。
億泰1人を騙すのに予想以上の気苦労がかかっていたので、彼の心は限界だったのだ。
これ以上余計な仕事は(億泰の知り合いや承太郎の仲間を騙せる自信は多少あるにしても)増やしたくなかったのだ。

「承太郎さん、もうちょっとで駅につくぜぇ~っ。誰か1人はいるといいッスね」
「ああ」
「その矢、スタンドなんスかね。形は俺の兄貴や吉良の親父が持っていた矢にそっくりなんだが……」
「どうだろうな」
「スタンド使いはスタンド使いに惹かれあうし、本物の矢はスタンド使いになれそうな奴を導きそうな気もするし」
「ああ」
「でも、な~んか違うんだよなぁ~」
「どうだろうな」

オインゴは、もう何度目になるかわからない相槌にうんざりしながらも、ぐっと堪える。

(さっきから“ああ、と“どうだろうな”だけで会話が成立しちまってるぜ。何も思わねーのか?
 承太郎のヤツ、普段はここまでツッケンドンな野郎だったのかよ……友達いなさそうだ。
 今にして思うと、やっぱりポルナレフとジョセフにはバレてたのかも……キャラ違いすぎたよな。下調べが甘かった)


「承太郎さん!」
「うおッ!?」
「………………」
「な、なんだ、お、億泰」
「………………矢が駅の方を指してるぜ」
「な、なにィィィ!? 」
「すげえなぁ。あの駅から誰かにいたら、いよいよこの矢は本物だぜ」
「(しまった……ついうっかり目を離したスキに!)ここには80人はいるんだ。矢の反応はそれだけ正確なんだろう」
「調べてもらえませんか?」
「は?」
「いや、だから、スタープラチナで」
「おいおい、俺のスタンドの射程距離は」
「この前聞いたんスけど、承太郎さん昔ノミサイズのスタンドが不意打ちで耳に入るの防いだそうじゃないッスか」
「(おいおい冗談じゃねぇよぉ~~)だからなんだよ」
「いや、気配察知とかすごそうだなーって」
「さ、先に様子を見に行けっていうのか?」
「承太郎さん、いつも肝心なところは自分でやってったじゃないッスか」
「そ、それはたまたまだぜ。俺のスタープラチナはそこまで完璧じゃない。物のはずみだ」
「………………」
「そ、それにだな。こんな状況で迂闊に自分のスタンドを大っぴらに見せるなんてダメだ」
「………………」
「こ、この殺し合いには非スタンド使いもいるんだぞ? 川尻早人のような弱者が隠れて見てるだけかもしれねぇ」
「………………ふーん」
「(何だよそのリアクションはッ!)俺たちの仲間だったら向こうから接触してくるぞ」
「……そりゃそうッスけど」
「(やりィ! 今のはちょっと冴えた反論だぜ)いいからまずは様子を見よう! な!」
「………………」

沈黙。沈黙。沈黙。
時間にしてみれば数秒だが、オインゴはこの時間を恐ろしく長く感じていた。
スタンドを出せば――いや、出す状況に追い込まれてしまえば、間違いなく再起不能にされるに違いないデスロード。


「承太郎さんがどうしてもっつーんなら代わりに俺が行くッス」
「ゲェッ!」

訂正、どの道再起不能にされるに違いないデスレース。

「ま、ま、ま、待てよ。(ヤベェゼ~~~このままじゃ戦闘開始だよなぁ! )」
「……今度は何スか?」
(億泰の野郎を置き去りにしたいところだが、まだアイツのスタンド見てねぇしなぁ。逃げ切れるかどうか……あ!)

オインゴは右手に持っていた矢を明後日の方に向け、大げさに走り出す。
まるで何かに引かれているかのように体をギクシャクさせて。

「矢だ! 矢が急に俺を引っ張り出したぞ! 多分駅にいた奴がこっちに気づいて逃げ出したんだ! 」
「既に気づかれてやがったのかッ!? 」
「やれやれだぜ……(よぉ~~っし、これで戦闘+億泰置き去りは防いだぜ! 逃げた先に誰もいませんよーにッ! )」


2人の珍道中はまだまだ続くようだ。


【E-7 駅前の道/1日目 黎明】
【ダブル"O"ブラザーズ】
【虹村億泰】
[スタンド]:『ザ・ハンド』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:健康
[装備]: なし
[道具]: 青酸カリ、支給品一式。(不明支給品残り0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:味方と合流し、荒木、ゲームに乗った人間をブチのめす(特に音石は自分の"手"で仕留めたい)。
1.承太郎さん、やっぱ変なものでも食ったのかあ?
2.なんで重ちーや吉良が生きてるんだ……!?

※オインゴを承太郎だと思っています。暗いので、彼が知っている承太郎よりも若いことに気付いていません。
※ 名簿は4部キャラの分の名前のみ確認しました。ジョセフの名前には気付いていません。
※首輪探知機を「矢に似ているだけで、スタンドが発動するあの矢ではない」と認識しました。

【オインゴ】
[スタンド]:『クヌム神』
[時間軸]:JC21巻 ポルナレフからティッシュを受け取り、走り出した直後
[状態]:承太郎の顔に変身中。胃が痛い。
[装備]: なし
[道具]: エルメェスのパンティ(直に脱いぢゃったやつかは不明)、首輪探知機(※スタンド能力を発動させる矢に似ていますが別物です)、支給品一式。(不明支給品残り0~1)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残れそうに無いが、変身能力を活かしてバトルを避けたい。
1.このまま誰にも見つかりませんよーにッ!
2.とりあえず億泰以外の奴と接触はさける(矢が反応したら、演技でごまかして人のいない方向に逃げる)。
3.億泰のスタンド能力を聞き出したい。(とりあえず戦闘型ではないかと推測)
4.承太郎じゃないってバレたらどうしよう……でもこいつ馬鹿そうだから大丈夫かな……。

※ 名簿を確認しました。
※現在は承太郎の顔ですが、顔さえ知っていれば誰にでも変身できます。スタンドの制限は特にありません。
※億泰の味方、敵対人物の名前を知りました。
※億泰が矢の反応に気がついたのはE-7の「ごみ捨て場」の「て」のあたりです。
 そのままオインゴと一緒に駅前をスルーしました。
※オインゴたちがどこに行くのかは次の書き手さんにお任せします。ただし、E-7の駅には何が何でも寄らないようです。




億泰たちの姿が闇に消えていった後、静寂が戻った駅に男が一人。

「あっ……」

へこへこと猫背になりながら、みっともなく回りを確認すると、ほっと一息。
体中から冷や汗を噴出し、恐怖で体はまだ強張っている。

「ぶっ……」

男にとって虹村億泰は絶対に遭遇してはいけない地雷。
男にとって空条承太郎は絶対に遭遇してはいけない核爆弾。
男にとってその2人に同時に会うことは一切無常の六道地獄。

「ねぇえええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!!」

バッテリー探しに着目していた音石明は、この町の乗り物に目をつけた。
バイク、車、ボート、ラジコン……そして電車。
幸い自分の現在地に近かったので、彼は手始めに駅の調査に向かったのだ。
電車が無くとも駅には電気を使うものも沢山あるのだから。

「し、しばらくはここに隠れてよう。せめて電車が来るまでは」


ギリギリの所で九死に一生を得た彼の運命は……?




【E-7 駅構内/1日目 黎明】
【音石明】
[時間軸]:チリ・ペッパーが海に落ちた直後
[スタンド]:レッド・ホット・チリペッパー(姿形は完全修復。しかし激しく動いたら消滅するレベル→JC34巻の黒ずんだ状態)
[状態]:健康、滅茶苦茶焦っている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]基本行動方針:優勝狙い
1.優勝を狙う(駅を調査、出来れば電車に乗ってみたい)
2.危ねーッ!! とりあえず仲間が欲しい
3.これからもどこかで少しづつ充電したいが、電線に潜ったりパワーを極端に使うのは自粛
4.ミセス・ロビンスンをスタンド使いだと思っています
5.サンタナ怖いよサンタナ
6.電線が所々繋がっていないのに電気が流れているこの町は何なんだッ!? あやしすぎて怖えー!


※バトルロワイアルの会場には電気は通っているようです。
しかし様々な時代の土地が無理やり合体しているために、電線がつながっていなかったりと不思議な状態になっている?
スタンドが電線に潜ったら、どうなるかわかりません。(音石は電線から放電された電気を吸収しただけです)

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キャラを追って読む

42:おかしな2人 オインゴ 78:無題
42:おかしな2人 虹村億泰 78:無題
56:せめて、父親らしく 音石明 71:Trouble is

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最終更新:2008年10月23日 20:27